第25話
人があまりおらず、空気が美味しく、目に優しい。そんな場所を探してふらついているとちょうど中庭の奥の方に条件を満たす場所があった。
「はぁ〜……いいところ見つけたな……」
もうすぐ午後の授業もすべて終わるので早めにリディアの家に戻らねばならないのだが、なんだかとても眠たい。体調も先程の視界ジャック失敗のせいなのか、悪かった。
「ちょっとだけならいいよね、どうせチャイムで起きるだろうし……」
私は誰に言い訳するでもなくそう呟いてそっと瞼を閉じた。
◇◇◇◇◇◇
『疲れてる、疲れてる!』
『教会に行かないとしんどいよ』
『起きたら早く今日みたいに教会に行ってね、じゃないと──』
……夢の中で小さい何かが話しているような気がしたが私は眠くて眠くて、目を覚ますことができなかった。
「……な!ここ……んでしょう!」
「……ん」
聞き慣れた声がする。慌てているようだけど私はまだ眠たいし、どうせ他の人には私は見えないからいいかとぼやっとした頭で思いつつもう一度眠ろうとしたときだった。
「美那!いたら返事をしなさい!」
「うぁっ!?はい!!」
近距離から聞こえるリディアの声で咄嗟に返事をしてしまった。目の前には少し驚いたような表情をするリディアがいた。
「っあなた!!はぁ……もしかして、こんな所で眠っていたの?」
「えっ、あ……」
あたりを見回すと、もう空は深い青紫色ですぐに夜だとわかる。場所は私が眠った場所から離れておらず中庭の奥の方だった。
「えっ!?もう夜ですか!?」
私が眠ったのは夕方頃だった。こんな空色になるまで眠っていたのか、ちょっと眠ろうと思っただけなのにやらかした……。
リディアは深いため息をつくと小さく「良かった」と呟いた。
改めてリディアを見ると、慌てて探していたのか、汗だくで息も荒い。まさかそんなに心配させたとは……
「す、すみません……でもどうしてここが?」
私は眠ると顔が消えると以前リディアが言っていた。なんでここに私がいるとわかったんだろう?
「それは……、はぁ……家に帰ってから話しましょう。忘れ物をしたと言って無理に出てきたのよ」
リディアの言葉に従い、私達は馬車でブランチェット邸に戻るのだった。
◇◇◇◇◇◇
ブランチェット邸につきリディアが就寝の準備を終わらせたあと、いつものようにソファに座り私はミニキャンバスに顔を出した。
「あなたがいる場所がどうしてわかったか、という話だったわね」
「はい」
「……見えたのよ、わたくしにも」
……見えた?なにがだろう?疑問はすぐにリディアの口から得られた。
「わたくしにも、精霊が」
「えっ!?」
リディアにも精霊が見えた!?今朝は見えないと言っていたのに……?というか精霊ってあの光の粒たちでいいんだよね?ヴァンの側にもいたし……
「見えた、といっても一瞬だけどね。」
そう前置きをしてリディアは私が眠っている間何が起きたか話し始める。
家に帰り、いつものように自身の部屋で私の名前を呼んだらしい。普段ならすぐに返事があるし、なんなら呼ばなくても目につくところに顔があるのに今日は何度呼んでも返事はなく、顔を見つけられなかったと。
だからリゼの家に行ったのではと思ったが、それは今日私が明日以降向かうことを話していたので、自分に一言もなく急に予定を変更するとは思えなかったそうだ。
「もしかしたら何かに巻き込まれたのではないかと思ったの」
「すみません……」
私はリディアの言葉に想像以上に心配をかけてしまったのだと申し訳なくなり再度謝った。
それでリディアは私を探そうと思ったのだが如何せんどう探したものか悩んだそうだ。
そりゃそうだよね、リディアとグレースそしてヴァンにしか私のことが見えていないし、そもそもヴァンとは協力関係でもない。しかも壁だけではなく本棚なども探さなければならない。それ以外にも理由はあるが通常の人探しより大変なのは明白だった。
「そんなときだったの、光の粒が一瞬見えた気がしてあたりを見回していたら……髪を引っ張られてね」
──髪を!?
精霊たちなんてことしてるんだ、尊いリディアのお御髪に……と衝撃で打ち震えているとリディアはなにか勘違いしたのか大したことないと話した。
「痛くはなかったわよ。軽く摘まれているような感じで何度も何度も摘まれては離されて、その繰り返しだったからもしかしてと思って」
なにかしら合図がある方向へ歩いていくと、とある資料の前で止まったらしい。
「それでその資料を見るとうちの学園のことが記載されていて、学園の文字が一瞬光ったのよ」
それでリディアが「学園?学園にまだいるってこと?」と一人ポツリとこぼすと肯定するようにまた髪の毛を摘まれたそうだ。
「それで慌てて学園に向かったら、また光の粒が見えて……まるであなたのところに導いてくれるように中庭の奥へ向かっていったの」
なるほど、それで私の居場所がわかったのか。
「はぁ……本当に何もなくてよかったわ」
リディアは頭を少し抱えるようにして安堵した声を出す。こんなにも心配してもらえるほどの関係になれたということだろうか、私は申し訳無さの中に嬉しさを感じていた。そしてふと気づく。
「あれ?そういえば名前──……」
目を覚ます前リディアが私の名前を呼んでくれていたような……、もしそうなら初めてではなかろうか
「で、あなたはわたくしにこれだけの心配をかけておいてこれで終わると思ってるのかしら」
「ひぇ」
先程の心配ムードから打って変わってお叱りムードとなったリディアに、私は長い長い説教を受ける羽目になったのだった。
◇◇◇◇◇◇
次の日の朝、私は目が覚めて体がまだだるい事に気がついた。動くことも億劫だ。
「体が重い……」
体無いけど、というのは置いておいて……そういえば昨日、リディアの声が聞こえる前に何かを聞いた気がする。なんだったかな……
「うーん……あ、そうだ」
教会に行けって言われていた気がする。回復スポットみたいだし行ってみようかな。
「その後何か言っていたような気がするけど、全然思い出せないや」
思い出せないってことは大したことじゃなかったってことで、一旦考えるのをやめた私はリディアが学園に行ったあと教会へ向かう。
「おお……」
教会についた私はその光景を見て思わず声が漏れてしまった。
目の前には光の粒たちがそれはもう大量にいて、眩しいったらありゃしない。しかも私の存在に気づいた粒たちがこちらにやってきて囲まれた。
「なになになになに」
私は慌てて離れようと思ったが、朝よりも体が重く動きが鈍くなっていたためなす術なく囲まれて、覆われる。
「眩し──んぁ?」
あまりの眩しさに瞼をぎゅっと瞑ったのだがすぐに光の粒たちが離れていった気配を感じ、瞼を開く。
それで自分がいる場所がどこなのか気づいたのだが──
「いやまた顔!!」
罰当たりだよこれは!!と叫びそうになった。またこの像、確かアナベルだったか──の信者達が見下ろせる場所にいた。要はアナベル像の顔部分である。
早く離れなきゃと思った私は念じて移動しようとしたが、まさかのできない。
「あれ?なんで?」
集中できていないとか?何度か試してみるもやはり移動はできず失敗に終わる。
……こうなったらせめて顔だけは見えないようにと瞼を閉じて自身を無にする。恐らく信者の人たちは私が見えていないが、気持ちの問題だ。
私が微動だにしない間、周りにはふよふよと光の粒たちと、黒い粒たちも少なからず漂っていたのだった。
──暫くして、なんだか体が軽くなってきたことに気づいた私は閉じていた瞼を開く。
相変わらずの景色なのだが、何やら違うものが見える。
「光の線?」
信者たちから薄い光の線のようなものが像へと伸びていた。
「なんかよくわからないけど綺麗〜って……は!?」
私は慌てて視線を下にやる。信者たちから出てる光が像の胸元に集まっている。
今私は像の顔の部分に顔を出しているというちょっと奇妙な状態なのでまるで私の体に光が集まってきているようにも見える。
「なに……?パワーもらってる感じ?えっもしかして、私女神だったの?っんなわけ!…いたぁ!?」
自分が女神だったのか、いやそんなはず……でも成り代わりとかは小説でよく読んでいたからもしかして?と一人パニックになっているといきなり頭を叩かれた。
「えっ?なんで頭叩かれ……」
やや上に視線を向けると光の粒の1匹が勢い良く飛んでいる。何やら怒っているようにも見える。
「あ……勘違いするなってこと?」
それに同意するように縦に飛ぶ光の粒。なんだぁ〜良かった、女神じゃないんだ!
「いや、良くないな……まじで私一体何なんだ……?」
謎が深まるばかりだ。ため息をついた私はこれもリディアに報告しなくてはと今度こそ移動するのだった。
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