第24話
「美那さん、ホワイトさんのお屋敷に行くと言っていたけれど大丈夫かしら?」
壁とグレースと三人で話した後、教室へ向かう途中でグレースがポツリとこぼす。
「──まぁ色々気になるところはあるけれど……あの女にはあの子が見えないからなんとかなるでしょう」
わたくしはそう返事をする。ただグレースが心配する理由もよく分かるのだ。
リゼ・ホワイトにはあの子が見えない。けれどそれ以外の人間はどうなのだろうか?あの子はヴァンが自分のことを見えているかもしれないと話していたし、実際ヴァンについては見えていてもおかしくないとも思う。
あの子は本当に不思議だ。少し放っておくと鼻が生えたり腕が生えたり……そして恐らく精霊が見えるようになったと話していたし、移動だって最初から壁を伝う以外に念じて指定した場所に移動できる。
(しかも今日は精霊に連れられて教会に行ったと言っていたし……)
こんなことが研究好きな者たちや悪逆非道な連中に見つかりでもしたら恰好の餌食だ
「ホワイト男爵の評判ってあまりよくなかったわよね」
「ええ、簡単に言えば欲に忠実な人よ」
「…………」
グレースの言葉に口を閉ざす。男爵が精霊を見える人だとは聞いたことはないけれど……大丈夫よね……?
わたくしが考え込む姿をグレースは小さく微笑んで眺めていた。
◇◇◇◇◇◇
色々考えて疲れたしまった私、壁こと安藤美那は癒やされるために生徒会室に来ていた。
私の視線の先にはアルベルトがいる。
はぁ〜〜〜〜ッ今日も今日とて麗しい!!相変わらずのキラキラエフェクトだ。目が潰れてしまうんじゃないかと錯覚する。
そして声もいい。万病に効く(私調べ)
そしてなんと今日は生徒会役員勢揃いだ。
今まで見かけてこなかったセルジオにマリー、そしてグレンにヴァンが各々業務に当たっていた。
今まではヴァンのことが気になってあまり生徒会室に長居しなかったのだけど、なんとなく吹っ切れた私は本棚に隠れずに生徒会室の天井から全員を眺めていた。
セルジオは聞いていたとおりの人物で喋り方や表情もお硬い。先程はアルベルトとなにやらやり取りをしていたが、今はテキパキと自身の業務を行っているようでほぼ無言だ。
マリーは終始柔らかい表情を浮かべており、生徒会の取り組みについて丁寧に書き連ねている。
(この二人が将来何事もなければ結婚するのか……お硬い系イケメンとふわふわ系美女……推せる)
なんて口に出していってしまったらもしかしたらヴァンに聞こえるかもしれないので、心の中にとどめておく。
生徒会室の天井に出てきたとき、ヴァンは私に気づいておらずアルベルト達にお茶を出していた。その後天井にいる私に気づき、ぎょっとして体を跳ねさせていた。
そりゃ怖いわな……天井にじっと見つめてくる顔があったらな……
ちょっと申し訳なく思う。
それから、久々に見たグレンはというとため息をつきながら自身の業務に当たっていた。ため息をつく姿まで艷やかだな……。
「はい、言われてた書類は終わったよ」
「ありがとうグレン」
「──少し休む。ヴァン、茶を入れてくれないか」
「はいはーい」
グレンから渡された書類をチェックするアルベルト。ひゅ〜!どの角度から見てもかっこよくて麗しいなこの男!
グレンは応接室に移動してソファに座る。ヴァンがお茶を用意してその前においた。
こくりこくりとお茶を飲んでいる間喉仏が動く。うーん……流石図書室の君、喉仏まで美しい。すべてが艷やかで見ていたら鼻血が出そう。
「それで?」
唐突にグレンが口を開く。
「先程からお前は何に気を取られているんだ?
ヴァン」
「えっ俺ですか?」
グレンの言葉に驚いたようにヴァンが声を上げる。というか、ヴァンってアルベルト以外にも返事とか気安いんだな〜
「仕事に支障は出てないようだが、先程から周りを気にしているみたいだけど」
「それは僕も思っていた。なにかあったかい?」
グレンの言葉に同調してアルベルトもヴァンに尋ねる
「いや、ええと……」
視線を彷徨わせて、頬をかくヴァン。
その時だった。ヴァンの側に黒い光の粒がふわふわと近寄ってきた。
(虫……?あ、違う今朝見た光の粒たちかな)
じっとその姿を見つめていると、ヴァンの周りで小さく跳ねたりくるくる回ったりする黒い光の粒たち。その様子を見てヴァンが少し安堵したような表情になる。
「いえ、気のせいだったみたいです」
そう言ってニコリと笑う。その様子にグレンとアルベルトは少しお互いを見合ったあと「そうか」と返事をしていた。
……何今の、この三人そんなにお互いのこと理解し合ってるのかってくらい自然なアイコンタクトだった!ちょっとテンション上がってしまう。
二人は多分ヴァンの表情を見て、今深く聞こうとしてもヴァンは絶対答えないとかそういうことを思ったんだろう。
アルベルトが小さく頷いてグレンがそれに同調するように頷いていた。
ヴァンは緊急性があれば、グレンはともかくアルベルトには絶対伝えるもんね、従者だし。ヴァンにとってアルベルトは超大事な人だもんな……ファンブックで見たぞ!そしてグレンはグレンでアルベルトのことめちゃめちゃ信頼してるもんな……仲のいい友人だし何を思ってるかすぐわかるってか、最高だよここは楽園だった!!
テンションが上がって心の中ではしゃいでいたのだが、マリーとセルジオのことを忘れていた。
慌ててそちらを見ると二人は三人の様子を少し気にしていたようだが、問題ないと判断したのか二人で何やら話をしている。
「セルジオ様、こちら完成したのですが確認していただいてもよろしいでしょうか?」
「ああ、もちろん」
そう言ってマリーは先程自身が書いていた生徒会新聞……だろうか?それをセルジオに渡していた。
(…………えっ距離近くない?)
二人で会話をしつつ確認をしているようだが、思った以上に距離が近い。パーソナルスペースって知ってる?
確認が終わったのかセルジオがマリーに書類を返す。そのときに距離の近さに気づいたのか、固まった。
「セルジオ様?」
「いっ、いや!なんでもない!」
セルジオは慌てて少し離れ、人差し指で眼鏡の位置を調整している。顔が赤い。
その姿を見て、マリーはキョトンとした表情をしていたがすぐに表情を柔らげた。
カ〜〜ッめちゃめちゃ推せる!!なにこれ可愛い!!えっリゼの出番なくない?この二人でいいよもう邪魔してこないで見守らせてほしい!!!!
あまりの尊さに私は顔をくしゃりと歪めて悶える。その姿を見ていたヴァンが若干引いたような表情をしていたのに気づきもしなかったのだった。
◇◇◇◇◇◇
生徒会室から癒やし成分ならぬ幸福成分を得た私はリゼの後をつけていた。
リゼは今日も今日とて猫を被っているようで、モブの男子生徒にまでモテていた。声をかけられるたびにゲーム通りの柔らかく可愛らしい表情で対応していた。だが、その一方男子生徒もおらず女子生徒しか周りにいないときは特に愛想を振りまくこともなく突っかかられたら嫌味を返していた。
清々しいほどの猫かぶりだ。
「こういう悪役漫画にいたなぁ……」
なんて思いつつリゼの行動を観察する。
どうやら以前後をつけたときと状況はさほど変わらないようで、攻略対象たちとはうまく行っていないようだ。なんなら悪化しているようにも見えた。
「……クソッなんでよ!全然イベントが発生しなくなった……何を間違ったの?」
リゼは一人悪態をつくと開いていたノートのページを何度かめくり、また小さくブツブツと言っている。
そういえば、前は好感度が上がらないって言ってたけどどうやって好感度を確認しているのだろうか?ゲームでは攻略対象の上に好感度のゲージが見えていたけど……リゼはゲームと変わらずそのように見えるのだろうか?
リゼの視界をジャックできたら見えるのかな〜、でもそんなことできないよな…………。
「…………よもや?」
念じればどこにでも行けるこの顔。もしかして……できたりするのでは??
「試してみるか!」
──リゼの視界を私にも視れるように
いつものように強く念じてみる。だが特に何か感覚が変わるわけでもなく、出来ていなさそうだなと感じた。なので目を開こうとしたのだが──
『ど……てう……く………いの』
『あ……ほん………イライラする!』
『ほん……あく……む……つく』
『あたしは主人公な……えない』
「うぇっぷ」
急に強いノイズが聞こえた。しかも今のは全部リゼの声ではなかったか
「耳がキーンってする……耳ないけど」
しかも頭までクラクラしてきた……酔った感覚に似ている。
「視界はジャックできてないし、なんか聞こえたけど全部聞き取れなかったし……」
しかも目を開いた先にはリゼはもういなかった。体調も急に悪くなってしまった私は慣れないことはするもんじゃないんだなとため息をつきながら、少し休めるところに移動するのだった。
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