第23話
視線移動しなくて良くなった!!
そう気づいた私は鼻歌を歌いながら廊下の天井を移動する。目を少し瞑っても普通に歩いているときのように進みたい方向へ進んでいる。わざわざ眼球を動かして方向転換しなくていいのだ。
「イヤッホー!!」
嬉しい、嬉しい嬉しい嬉しい〜!!!!
これからは間違ってセルフジェットコースターにならなくて済む!!
るんるんしているとチャイムが鳴り響いた。休憩時間の合図だ。
ぞろぞろと教室から生徒が出てくるのを横目に、私はリディアのクラスへと向かう。
リディアのクラスにたどり着くと、どうやらリディアも教室から出てきていたようで廊下でグレースと談笑していた。
「あ……」
私に気がついてリディアがグレースに目配せする。グレースもそれで私に気がついてにこりと微笑んだ。
「ちょっとだけ外に出ましょうか」
「ええ、そうね」
二人はそう言って廊下を歩いていく。その際リディアがこちらを見たので、ついてこいという意味だと理解した私は二人についていくことにしたのだった。
◇◇◇◇◇◇
色とりどりの花々が咲く中庭に出てきた。二人は壁沿いのベンチに座り私が壁につくのを待っていてくれる
「なんだか嬉しそうね?」
「えへへ、聞いてくださいよ〜」
私の表情にリディアが不思議そうに聞いてきたので私は聞いてほしかったこの感動をニヤケ顔のまま伝えた。
「視線移動をしなくなった?」
「そうなんですよ!今までは見る方向で壁を上下左右していたんですけど、それをしなくても進みたい方向へ進めるようになったんです」
「上下左右?」
すかさずグレースが突っ込んでくる。以前のお茶会の時に腕を出してくれと言われたのもあって多分今回も見てみたいと言うに違いない。
流石にやりたくない私はスルーした。だって酔っちゃうからね!
「これで移動が快適になります!酔わなくてすみますし眼球痛くない」
「あなた移動するときずっと痛かったの?」
リディアが少し心配そうに聞いてくる。本当優しいんだよな〜!!悪役令嬢なんてこんな優しい人に相応しくない役割だな全く!と心で思いつつリディアには大丈夫だと伝えた。
それから今日リディアが学園に行ってからのことを伝えることにした。グレースもいるしなにか光の粒について知っているかもしれない。
「光の粒たちに導かれて教会へ?」
「はい、それでまぁ……色々あってなんか体が楽になったんですよね」
まるでゲームの回復スポットみたいだったなと思い出しながら伝える。流石に石像の顔に私の顔を出したとは言えなかった。
「…………」
「…………」
二人はなにやら考え込んでしまった。そういえばあの像は誰なのだろうか?
ふと気になった私は二人に教会に祀られているのが誰なのかを聞いた。
「アナベル様ね。最初に神から魔法を賜った人間とされていて、周りの人間に魔法の発現の仕方、そして使い方を教えたとされているわ。その後功績を神に認められ、女神となりその後も民から慕われていたわ」
とても美しく聡明な人だったと言い伝えられているようで、リディアは目をキラキラさせながらそのアナベルについて語った。童話で有名な話だそうでリディアは昔からアナベルの童話が大好きだったのだとグレースが教えてくれる。
「そして最初の聖女とも言われているわね。あなたの知ってる物語に記載はなかったの?」
……最初の聖女!?
「えっ!いや……あったような……うーん」
今聞き捨てならない言葉が聞こえた。最初の聖女……なぜ教会に行ったときにすぐにわからなかったんだろう?予想できたはずなのに……
ファンブックではリゼに光魔法を発現させたのは最初の聖女とされている存在のおかげだと書いてあった。
ゲームの攻略キャラを全てクリアするとまた新たに攻略キャラが一人増えるというのは憶えている。誰ともトゥルーエンドを迎えない状態で学園を卒業後、みんなが力を合わせて魔物と戦うシーンがあるらしいのだが、その際に最初の聖女が出てくるのだ。
まぁ私はアルベルトのみの攻略だったし、今の話もファンブックと姉から聞いた話なので正直あんまり覚えてない。ゲームの中で名前出てたっけ……?
「なかったの?この世界について語るのであれば最も重要な存在だと思うのだけれど」
「私の記憶の問題かもです……すみません」
リディアは大好きな女神様が私の知ってるストーリーにないのだと思ったようで不満そうだ。ただ単純に私がゲームを全然攻略してなかっただけだと思います。すみません……。
「それにしても、光の粒に導かれたというのが謎ね。わたくしはてっきり目に傷がついて、光の反射で光の粒のようなものが見えているのではと思っていたけど……」
「導かれたのなら違うのでしょうねぇ。しかも体?が楽になったのでしょう?」
グレースが私に体があるのかと確認するようにちらっとこちらを見たが、私も自身の体については疑問なのでその視線に困ったように笑ってやり過ごす。
「グレースは何か光の粒たちについて知らないの?」
「そうね……」
グレースはふむ、と顎に手を当てて少しの間考え込んだあと、真剣な表情でこちらを見やった
「ねぇ美那さん、それって精霊だったりしないかしら?」
「えっ精霊?」
本来であれば主人公のリゼについている光の精霊のことだろうか。確かにゲームでは光の粒のように描かれていたが喋ったりしていたはずだ。でも私の前では誰も声を出さなかった。……出さなかったのではなく私が聞こえなかったとか?
「精霊だとしても、今まで一度も見えていなかったのになんで突然……」
「鼻や腕が出てきたときみたいに音はしなかったの?」
「いえ、してないです」
私の体に何か起こる際に音が鳴ることについてグレースには伝えていなかった為か、私とリディアの話にグレースは不思議そうにしている。
「あなた本当なんなの?」
「それは私が一番知りたいですね……」
3人同時にため息をつく。そして顔を合わせて苦笑した。
「本当、おかしいわよね」
「私は面白くて楽しいけれど」
「人をおもちゃみたいな言い方しないでくださいよ」
そんなやり取りをしつつ笑い合う。また何か分かれば情報共有するということと、リゼの家に明日以降行くことを話したあと、チャイムが鳴るからと二人は教室へ戻っていった。二人を見送り、私はブラブラと壁を行き来する。
……精霊、精霊かぁ……。自分の身に何が起こってるのかちゃんと整理して理解しないといけないな〜
そう思った私は一息つくと、まず音がなるときはどういうときか、また自分の身に何が起こるのかを思い出すことにした。
まず最初に音が聴こえたときは鼻が出てきた。その後に腕が出てきたはずだ。腕のときは最初は片腕で、その後音が聞こえて両腕が生えた。
「まだ二回ぐらいしか聴いてないはずだから、現状音が聴こえたときに起こるのは体が出てくるときだよね」
そして今回のように今まで見えなかったものが見えるようになったとき、これは特に音もなく突然だったな。
「変わったことがあったとき何考えてたかな……」
私はうーんと唸りつつ記憶を引っ張りだす。
まず、鼻のときはリディアの幸せを願ったような記憶がある。
では腕のときは?片腕のときは……念じたら体出せそうと思ってやったんだよね、その後リディアが私の姿を見て笑ってそれを可愛いって思ったときに音が鳴ったような気がする。
「どっちもリディア関係だな……」
それで、精霊?は今日目が覚めたら突然見えるようになったから、昨日は何を考えてたんだっけな……
昨日はグレースの家でお茶会だった。そのときに話した内容は──
「リディアの結婚について……それからヴァンは精霊が見えるって話をしたな」
──つまり、リディアの幸せを願うとレベルアップ?しているということだろうか。
そして精霊が見えたのはヴァンの話を聞いて私が精霊という存在を思い出したからとか……?
「……なんか、リディアの幸せを願ったらレベルアップとかは知りたくなかったかも」
今後何かにつけてリディアのことを思ったらこれでレベルアップできて自身の体も出てくる〜なんて思考になってしまいそうだ。それはもう今までのような純粋な好意じゃなくなる。
「はぁ……」
まぁまだ確証はないし!そう思いつつ私は複雑な気持ちになってしまうのだった
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