第21話
グレースとリディアとお茶をして私がどういう経緯でリディアと一緒にいるかをグレースに話した。グレースは興味深そうに、この世界が私が物語で読んだものとほぼ一緒なことやリディアの破滅エンドのことを聞いていた。
そして私はリディアに伝えてなかった目的を伝えることにした。
「あなたがわたくしに協力する理由?」
「はい、伝えていなかったなと思って」
「そういえばそうね……なぜ不思議に思わなかったのかしら」
リディアは首を傾げる。グレースはなにやら考え込んでいるようで何も言わない。
「私、物語で一番好きだった人が殿下なんです。好きと言っても恋愛とかじゃなくて推し……憧れ?見てるだけで幸せというか、なんならリディアさんとくっついてほしかったというか」
「んなっ!」
「だからリディアさんには破滅してほしくないんです。」
私の言葉に赤面するリディア。推しという言葉は伝わらないだろうから言い換えたけど、私の言いたいことが変に伝わってないといいな……。
「美那さんはリディアにアルベルト殿下と結婚してほしいってことよね?」
ずっと黙っていたグレースが確認するように私に問う。私はそれに肯定する。
「はい」
「今の所婚約が解消されるわけでもないし、皇帝陛下もリディアのことを気に入っていると聞いているし結婚しないなんてことはないと思うけれど……」
「でも、リゼがいます」
現状、物語のリゼとこの世界のリゼはもうほぼ別人と言ってしまっていいほど性格が違う。だから心配なんてしなくてもいいと思いたいが、本当にこの世界が物語の中なのであれば物語通りにことが進むような強制力がないとは言えない。
そのことを伝えるとグレースも納得してくれた。
「念には念をってことね、それはわかったわ……。──ねぇ美那さん、一つ確認していいかしら」
「はい、なんでしょう?」
グレースは真剣な表情で私を見て、問いかける。
・・・・・・・
「あなたは、殿下とリディアが結婚すれば満足なのね?」
グレースの言葉に私は固まった。以前の私なら肯定したかもしれない。でも、妙に引っかかる言い方をしたのは──
「いいえ、リディアさんが幸せでなければ満足しません」
「!」
私のはっきりとした言葉にリディアが驚いたように私を見る。
「では、リディアが幸せなら殿下と結婚しなくてもいい?」
「ちょっとグレース!」
リディアが何を聞いているんだとグレースに反論しようとしたが、グレースがリディアに待つように手で制す。
私はグレースの言葉にどう答えるか詰まってしまっていた。気持ち的には推し同士仲良く結婚してほしい。でもリディアがアルベルトと結婚して、その後幸せじゃなかったら?
私はリディアの今のアルベルトの気持ちを知っている。最初あったときのあの辛そうな表情を見たのだ……もしも、結婚したとしてもリディアがあんな表情をしていたら?
以前の私ならリディアとアルベルトが結婚しないエンドは嫌だと言っただろう。でも、今はリディアがあんな表情をするなら──
「はい、いいです。最優先はリディアさんの幸せです」
「あなた……」
私の言葉にリディアは戸惑ったような表情をしている。グレースは真剣な表情から一変、ニコニコと笑顔になり拍手しだした。
「合格!もしもリディアと殿下の結婚以外許さないなんて言われてたら私美那さんの顔面刺しちゃってたわ〜!」
そう言ってどこに隠し持ってたのか果物ナイフをスッと取り出してテーブルの上に置くグレース。
「こわっっっ!!!?」
「気になったらできるだけ突き詰めたいのよね〜」とのんびりと話すグレースにリディアもドン引きしている。
いつの間に死亡フラグ立ってたんだ!?いやもう死んでるとは思うんだけど、幽霊だとは思うんだけど!それでも怖いし嫌だわ!!
「グレース、あなた何考えてたの!?」
「私も美那さんとは仲良くしたいわよ?でもね、あまりにも最初から異常なほど警戒心がわかなかったものだから何かあると思ってただけなの」
「へっ?」
グレースの言葉に私はキョトンとする。リディアは何が言いたいのかわかるようで複雑そうな顔で口を閉じた。
「だって、普通に美那さんの存在っておかしいでしょう?壁に顔があって、意思疎通ができて。しかもあのリディアが心を許している。しかもあってから数日しか経ってないっていうじゃない」
「魔法でリディアを洗脳してると思ったの」とグレースは言う。どうやらグレース自身も私の見た目に関しては面白いとは思っていたが自身が奇怪な存在に全くと言っていいほど警戒心が沸かないことを不思議に思い、魔法をかけられたのではないかと考えたのだそうだ。
「でも、別に体調が悪くなったりもしていないし一応自分の体に魔法がかけられてないかも調べてみたけど一切なかったから不思議でね?まぁ今日のお茶会で試してみようかなーって」
それで私の話を聞いて、私の狙いがわかったところでどういうつもりでリディアといるのかを確認したのか……。それでもじゃない?顔面にナイフは嫌だよ
「えーっと……嘘とは思わないんですね?」
「嘘だったらまずその言葉が出ないでしょうに」
そう言ってクスクスと笑いながらグレースは人の嘘を見抜くのが得意なんだと話してくれた。どうやって見抜いているかは教えてくれなかったが、多分表情とかだろう。
情報収集能力も高くて、人の嘘が見抜けるってすごく強いし頼りになるな
「あ、とある人物について知りたいことがあるんですが」
私はすっかり忘れていたヴァンのことをグレースに聞くことにした。ヴァンの昔からの人柄や、何か人には見えないようなものが見えているなどの噂話があるかどうか
「ヴァンは元平民ね、昔から割と気安い性格だったと認識しているわ」
「それはわたくしも同じ認識よ。貴族に対して全く物怖じしないし、昔から殿下のお気に入りだったわ」
「しかも面倒くさがりなのに仕事が早いの」とリディアがため息をつきながら言う。面倒くさがりなのに仕事が早いってグレンとキャラ被ってるくない……?
「面倒くさいというのは口だけよ?事実自分から行動して色々こなしてくれてたりするから」
グレースによるとヴァンはそもそも後回しにして後々面倒事が起きるのが嫌なタイプらしく、面倒くさいと言いつつもささっとやってくれるのだそうだ。グレンはすべてを後回しにしたいタイプの面倒くさがりだったはずなのでキャラは被ってなかった。
うーん、面倒くさがりにも種類があるのか……。
「人ならざるものと話しているという噂も聞いたことあるわね。誰もいないところで誰かと話していたのを見たことがあると言ってる方はいたわ」
「わたくしは実際見たことあるわよ。殿下が言うにはヴァンは精霊が見えるんですって」
「精霊……?」
精霊って確かストーリーにも光の精霊がいたな……。平民の頃リゼはその人柄から慕われてこそいたが、友人という友人はいなかった。
その寂しさを埋めてくれたのが光の精霊だったと書いてあったのを憶えている。
……あれ?待てよ。じゃあなんで、前見たときリゼの周りには光の精霊がいなかったんだろう。
ゲームの中でもずっと側にいたわけではなかったけど、魔法を使うときにはいたような……
「なんの精霊かしら?本当にいるのね」
「さあ、そこまでは聞いてないわ。高次元な存在なのでしょうね、殿下も見えないと言っていたわ」
「ヴァンに直接聞かないの?」
「嫌がるし、はぐらかされたわ」
私が思考している間に二人の会話が進んでいく。
ヴァンは自分が精霊が見えるということを隠したいのか……、今リディアによってバラされたけども。
「この話、秘密でお願いね」
「情報は貴重だもの。勝手に漏らしたりしないわよ〜」
「殿下とヴァンを敵に回したら怖いもの」と口に手を当てて微笑むグレース。
──リディアはもしかしたらグレースだから話したのかもしれない。
「ヴァンのその噂を聞くってことは、ヴァンは美那さんのことが見えていたの?」
「えっ!い、いや……どうなんでしょう」
予想つくことだとはわかっていたがいきなり核心を突かれると心臓に悪いな……。
リディアも私の話から予想していたのか何も言わずこちらを見ている。
「見えているような素振りを見せたということ?」
「はい、多分……特に反応もないので気のせいかもしれないんですけど」
「そう……精霊が見えているって話なら見えてるかもしれないわね」
私この世界で精霊扱いになってるってこと?精霊ならもう少し可愛くしてほしいんだけど
「美那さん、ヴァンに声かけてみたら?」
「えぇ……」
「未来の皇妃のことだもの。協力してくれるかもよ?」
「それはどうかしら」
グレースの言葉にリディアは首を振る。リディアによると恐らくヴァンはリディアのことを良く思っておらず、別の人間が皇妃になるなら喜ぶのではないかと言う。
「どうしてそう思うんですか?」
「……わたくしがリゼの噂を流したりしたの忘れたの?それに平民差別だってしてきた」
「あー、なるほど」
前半の噂を流したことについては結局事実だから嫌う理由になるのかと思ったけれど、差別をしているというのなら嫌われもするだろうなと私は納得した。
「でも今は別に差別してるわけじゃないでしょうに」
「今はね。能力がある人間に階級が関係ないのはわかったけれど……でも差別した事実は変わらないし、実際まだ心のどこかで平民のくせにって思ってるところはあるわ」
「リゼ・ホワイトに対してだってそういう態度を取ったもの」とリディアは言う。
今はできる限り関わらないようにしているからそういう態度をしていないだけで、関わったらまたしてしまうかもしれないのだ。
ヴァンに協力してもらえるか微妙なところだし、そもそもヴァンが私を受け入れれるかもわからない。
その日はヴァンのことは保留としてお茶会はお開きになったのだった。
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