第16話
「あなたの状態、本当にどうなっているの?」
「私にもわかりません……」
私に腕が生えてツボっていたリディアは、腕が壁に吸い込まれるように戻った(消えた?)ことにより笑いは収まったようで、まじまじと腕が消えた壁を眺めている。
「鼻のときもいきなりだったわよね?何か兆候とかなかったの?」
「えぇ……そういえば音が聴こえた気がします。」
「音?」
私はリディアに鼻のときもそうだが「ティロリン」という機械音、スマホとかの通知音みたいな音がなったことを説明した。
ただ、この世界にスマホなどはないので似たような音を例えることができず、結局口頭で音を伝えるしかなかった。
「片腕が出たときもその音は聴こえたの?」
「聴こえなかったと思います。どのタイミングで聴こえるかもわからないですね」
二人してうーん、と考え込む。本当に何なのだろうか?ゲームのキャラに私みたいなのは出た記憶ないしな……。そもそもの話だが私はこの世界をゲームだと知っているが、リディア達にはここがゲームや物語の中なんて思えないだろうな。実際に生きて暮らしているのだから。
キャラクター達が生きて、ゲームの通り行動せず動いているのであればここはゲームの中じゃないのではないか……?
ふと、私はそんな考えに至った。
リディアもゲームのときと違いだいぶ性格がよく見えるし、アルベルトも話を聞いた限りではゲームのときと違う。それにリゼもゲーム通りに行かないと言っていた。
それなら、本当にこの世界は──
「考えても分かりそうにないわね。あなたがとりあえず普通じゃないってことしかわからないわ。」
リディアの声にハッと意識が浮上する。
「普通じゃない……」
「どこからどう見てもそうでしょう?例えあなたが、その……ゆ、幽霊だったとしても色々とおかしいじゃない」
「幽霊なんていないけど、もしもいたとしてもこんな愉快な幽霊いてたまりますか」とリディアは言う。
幽霊……普通じゃない……その言葉がぐるぐると脳内で回り続ける。
どこか夢だと思っていたこの世界が夢でも何でもなかったとしたら、私は本当に死んでしまっているのだろうか?死んでいたら……姉はどうなっているのだろうか。
そう考えると吐きそうになった。考えたくない、考えたくない。
「ちょっと、大丈夫?ぼーっとしちゃってどうしたのよ?」
リディアが私の顔を覗き込む。
そうだ、今は私のことは置いておこう。まずはリディアのことを優先しなければ。
「だ、大丈夫です!あっそうだ、今日わかったこととか色々と説明してなかったですね」
私が無理やり話題を変えたことに不思議そうにしつつもリディアはそれを追求しなかった。
リディアは時計を確認して「聞きたいけれど、このあとディナーを頂くからその後に聞くわ」と言って淡い水色のドレスを持って部屋を出ていってしまったのだった。
◇◇◇◇◇◇
暫くしてリディアが部屋に戻ってきたので今日あったことをある程度説明した。
リゼがおそらく転生者で物語の性格と全く違うことや私が見えないこと。それからグレンとリゼが会っていて、グレンがリゼの誘いを断ったことも伝えた。
「ふーん……リゼ・ホワイトは物語のリゼ・ホワイトとは別人で、物語通りに事をすすめるように奔走しているってことね」
「そうですね、上手く行ってないようですけど」
「それにしてもあのグレン様を誘うって中々度胸があるというか……ま、それもグレースを口実にしてるのだから断られて当然ね」
「どういうことですか?」
私の問いにリディアはグレンが大の女嫌いで、しかも自分に近づく人間はグレースと仲がいいと装って近づいてくる人もいたのだと教えてくれた。そのため、グレースから仲が良いと聞かない限り基本的には跳ね除けてるそう。
「それは……兄妹揃って大変ですね」
「本当にね。どうしてもお近づきになりたい人達が悪知恵を働かせて、グレースの名前を利用したのが余計に嫌だったみたいよ」
ゲームのストーリではどうだったのだろうか?姉から聞いたのはデートイベントがあることやグレンの性格ぐらいだったので、どうやってリゼがグレンを誘い出したかは詳しく知らない。
もしかしたら現状と私の知ってるストーリーはここでも違うのかもしれない。
「それにしても、あなたの言うこの世界が物語ならなぜリゼ・ホワイトは物語通りに行かないのかしらね?」
「さぁ……?私みたいなイレギュラーが出てきて何か狂わしちゃったりしたのかもですね」
半分冗談のつもりでそう言って私は苦笑する。それに対しリディアはニヤリと笑った。
「それならありがたいことこの上ないわね。私の破滅がなくなるかもしれないってことじゃない」
確かにリディアの言うとおりだ。私の存在のおかげでリディアが破滅せず、幸せに暮らしてくれたら嬉しいのだが……
「ま、破滅回避への対策を立てられるならそれに越したことはないわ。現に殿下はあの女に優しいから」
リディアは肩を竦め、ため息をついた。
ふと、そういえばアルベルトの性格はどうなのだろうか?と私は思った。
一度見かけてからはあまり見ていないし、話しているところも見ていないのでゲーム通りなのかわからない。
ゲームでのアルベルトは誰にでも優しくて賢くて、けれど王太子という責任やその肩書による周りの態度に疲弊している人物でもあった。
だからこそ、主人公のリゼが王太子としてではなく、ただのアルベルトとして接したからこそ仲良くなったはずだが……
「王太子殿下はどのような方なのですか?」
「誰に対しても優しい方よ。頭も良くて要領もいいわ」
私の質問にリディアは物語との相違がないか確認したいことを察してくれたようで、一度頷いて教えてくれた。
「けれど、基本一人が好きな方ね。人が沢山いるところや一日中人が側にいるのは好きじゃないみたい」
「そうなんですか」
そういや、リディアと初めてあったときの頃もリゼと引き離そうとしたけどアルベルトがくっつかれるのが好きじゃないからやめたって言ってたな……。
でも一人が好きという設定なんてあっただろうか?周りの自身への対応に不満は持っていたようだが、一人が好きとは書いていなかった気がする。
「あなたの知ってる物語とは違う?」
「概ねあっています。一人が好きというのは知らなかったですけど、私が見落としてたのかも」
リディアは「そう」と答えたあと物思いにふけっているようだった。
……ん?ずっと人がそばにいるのは好きじゃない……?
そこで私は思い出した。一人ずっとアルベルトの側にいるキャラがいたはずだ。
名前は、なんだったか……確かアルベルトの従者だったはず。生徒会などでも補佐を努めていたような──
「生徒会!」
「きゃっ!?何よ急に大きな声を出して!」
そうだ、なんで忘れてたんだろう。このゲームは生徒会に攻略対象が集中していて、リゼも成績の良さで生徒会に入ったはず。それでイベントも発生していたりした。
本来ならこの生徒会の仕事をしているときにある程度攻略対象からの好感度が上がったはず。
なのに、リゼは思い通りに行ってないといっていた。
「リディアさん!生徒会のメンバーって誰ですか!」
私は勢い良くリディアに問うのだった。
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