第15話
「ふぁ〜……よく寝たー!」
私は学園からリディアの部屋に戻って眠ったのだが、起きたらもうすぐリディアが帰ってくる時間になっていた。
「もうこんな時間か。えっと、情報整理しないとな」
リディアに伝えることもあるし、とりあえず今日得た情報を整理する。
まずリゼは転生者であり、私が見えないこと。また、リゼはおそらく逆ハーレムエンドを目指しているがそれがうまく行っていないということ。
「性格はゲームのリゼと全然違うかったなぁ……」
思い通りにならないとすぐに怒るタイプに見えた。これじゃまるで悪役令嬢まんまだ。
最初、リディアがリゼが自分たちには態度が悪いと言っていたのをあまり信じられなかったのだが今回のことで納得した。
それからグレンとグレース。グレンはゲーム通り性格はクールなようだ。女嫌いという感じはそこまで観察していないのでそこがゲーム通りなのかはわからないけど、リゼにはとりあえず冷たかったな。
「グレースとリディアを眺めているときは優しい表情をしていたから、ゲーム通りグレースとリディアは平気ってことかな」
そして私自身について、念じれば人に姿を見せれるかもしれないということはわかった。まだ試したのがグレースだけなので確証はないから、リディアにも相談して姿を見せてもいい人を見つけてもいいかもしれない。
「っていっても、今この壁の状態で姿見せてもいい人っていないか……」
怖がられるだけだもんな。そう思ってから私はハッとする。
念じれば姿を見せられるなら、私の体も壁じゃなく人として出せるのではないか──
「思い立ったが吉日!よし、やるぞー!!」
フンッ!!と思いっきり力んで念じようとした瞬間、ガチャッと扉が開いた。
「……何をしているの?顔が酷いことになっているけど。」
「それただの悪口ですよね!?」
「せっかく気合入れたのに!」そうギャーギャー騒ぐ私にリディアは鬱陶しそうな顔をしていた。私の扱い酷くない?
「……念じれば姿を見せれるなら、体だって出せるんじゃないかって思ったんですよ」
「ああ、なるほど。それならそうと早く仰いな」
「いきなり悪口言ってきたのそっちなのに!?」
リディアは私が念じて姿を変わるところを見たいようで、「着替えてこようと思ったんだけど……」と何かを考える素振りをする。
「もし、壁から出れたとして全裸ってことはないわよね?」
「あっそれは考えてなかった!服ちゃんと来てるイメージでやります!」
私の反応にリディアはため息をついて、サイズが合うかはわからないが念の為服を持ってくると言って部屋を出ていってしまった。
「というか、そもそも体出せたとして人に見えるのかな?」
見えないんだったらさほど問題ないように感じるが、見えたら私警備兵とかに追い出されたりしないよね……?
「いや、周りの人が私のこと見えなくても、服だけ見えるってなったらそれはそれで恐怖だろうな……」
なんて、まだ試せていないのにうんうん悩んでいるとリディアが着替え終わったようで、部屋に戻ってきた。その腕には淡い水色のドレスを抱えている。
「服はここにかけておくわ。もしも体が出せたならそれに着替えてわたくしに言いなさい。わたくしは後ろを向いておくから」
そう言いながらリディアはソファの背にドレスをかけて、後ろを向いたまま本を読み始めてしまった。
姿が変わるところは見たいのに、私が真っ裸の可能性を考えて後ろを向いてくれるんだなぁ、服も持ってきてくれたし……。もしかしたら人の体を見るのに抵抗があるからなのかもしれないけど、それでもなんだか優しさを感じてしまう。
「よし……!」
私は気合を入れると息を深く吸って吐く。自分の体と服をイメージして強く念じて……
更に念じて念じて……、瞼をそっと開いてみる。
「……………」
簡潔に言うと体は思ったように出せなかった。そう簡単にうまく行くものではないのはなんとなくわかっていたがこれは、あまりにも……
「惨くない?」
「はぁ?」
私の声にリディアが何事かと振り返る。そして私の惨状を見て吹き出した。
私の状態はそれはもう酷かった。体は思ったように出せなかった。出せなかったのだ。──出せたのは片腕だけだった。
「ゲホッ!ゴホッ!」
「咽ました!?大丈夫ですか!」
リディアが咳き込む。私は慌てて声をかけるが、声をかけると同時に一緒に片腕がぐるぐるした。ぐるぐると言っても壁にぶつかるので上下に振るだけなのだが。
「やめっ……その状態で動かないでっ!!ゲホッ」
「体があれば駆け寄りたかったんですけど、駆け寄れない代わりに腕がバタバタしました……」
「代わりに腕がバタバタすることないでしょ!!」
「不可抗力です!!」
その後も二人でギャーギャー無意味な言い合いをしていたのだが、ふと二人見合ったまま動きが止まる。
「………………」
「………………」
プハッと吹き出したのはほぼ同時だった。私もリディアも口を開けて笑いあう。
「アハハハッ……なんで、腕だけ……っ!」
「ンハハッ!!わかんなっ……アハハッ!しかも片腕だけ!」
おそらくこの笑い声がリディアの部屋の外に漏れていたのなら皆して不思議に思ったのではないだろうか。リディアがこんなに笑うところを見たのは初めてだった。
「腕……っ、腕出たままなの?それで移動できるの?」
「このまま移動したらそれはそれで怖すぎじゃないですか!?ちょ、やってみます?」
「やらなくていいやらなくていい!」
またも笑い声を上げるリディア。目の縁に涙が溜まっている。
笑うリディアめちゃくちゃ可愛いな〜!!こうやって会話できるのもすごく楽しい。
悪役令嬢だなんだと、破滅エンドなんてなくなってこうやってずっと笑ってくれたらいいのに。
そう思ったときだった。
ティロリン、と以前も聞いたことがあるような音が聞こえた。
「ブハッ」
リディアが私を見て突っ伏してしまった。令嬢らしからぬ仕草だが何が起こった──
「はっ!?両腕!?」
「アハハハハッ!!」
先程まで片腕だけだった腕が、両腕になっていた。なんでだよ!!
「こんなのもう、もうポケットにモンスターの真似じゃん!!」
某ゲームのモンスターそっくりになってしまった私はわぁんと泣いた。それに対しリディアはずっと笑っている。ツボに入ったようで、笑いが止まらず苦しそうだ。
「も、意味分かんない……っ」
「私にもわかんないです」
えっ、ていうかこれどうすんの?腕バタバタしながら壁移動するってこと?いやいやホラーだしもう見た目完全なるクリーチャーなんだよな。
「頼む〜!腕よ今はいらないから戻って〜!!」
そう叫んだ瞬間両腕がにゅっと壁の中に吸い込まれるように消えた。
「………………」
「………………」
私とリディアは二人でその光景を見て絶句する。戻った……?
「……壁の中に死体でも入ってるってこと?」
「んなわけあるかーーいッッ!!」
思わず大声でツッコんでしまうほど自分の状態が謎すぎて、ほとほと困る私であった。
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