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悪役令嬢plus壁  作者: 緤 めぐみ
12/31

第12話 『壁は新たな能力を発揮する』

 

 そんなこんなで早速図書室に来ました。壁こと安藤美那です。


 といっても図書室、めちゃめちゃ広すぎて図書室というより図書館だ。2階建てでだいぶ先まで本棚が並んでいる。


 グレンは確かお気に入りの場所があっていつもそこで本を読んだり居眠りしたりしていたはずだ。

一人を好んでいる設定のキャラクターだったので恐らく静かで人があまり来なさそうな所にいるだろう。……それなら奥だろうな。


 そう思った私はいつものごとく壁を移動する。


 しばらく進んでいくと本棚の影になってほとんど人がこなさそうな位置を見つけた。影と言っても日の光が入ってきていて然程暗くない。


 壁を伝い本棚の影を覗くとそこにはふかふかで座り心地の良さそうなソファに腰掛け、頬杖をついて眠るグレンがいた。


 ビンゴ〜!!というか、えっ寝てるのにすごい色気を感じる……フェロンもやべぇ。 現実で色気を感じる人なんて私は出会ったことないぞ……。っていうかちょっと待って?日の光がちょうどグレンの顔半分を照らしていて陽の光が当たっていない部分との色彩が良い。光と影が素晴らしく絵画かな?と思った絵画のことわかんないけど。 これ人間じゃない、妖精かもしれない。



 なんてことを私はテンションが上がって自分でも何を言っているのかわからない言葉の羅列を高速で脳内に流す。


 そうやって真正面からガン見していたからか、グレンがゆっくりと目を開きこちらを見た。見たといっても目はあってないのだが。


「……?」


 グレンは私が見えていないようで、何か気配を感じるのかキョロキョロ周りを見渡す仕草をする。やや寝ぼけ眼だ。


 うーん、寝ぼけてるのかな色気すごいのに可愛らしい〜!!可愛いと色気って両立できるんだな……。


 ふとグレンが窓の外に何かを見つけたのか、じっと見ている。 気になった私は窓の外側の壁に移動することにした。


 外側の壁に移動すると、少し離れた先にある渡り廊下にリディアとグレースがいた。

談笑しながら歩いているようでこちらには気がついていない。


 先程いた図書室側の壁に戻りグレンを見るとまだ外を眺めているようだった。若干表情が柔らかく見える。


 それを見た私は一人声を出さずに悶ていた。


 お兄ちゃんだ!お兄ちゃんをしている!こういう兄妹の感じめっちゃ好きです。ゲーム中でもグレースとグレンのやり取りはあったけど、そこまで多くなかったしまさか生で見られるなんて……最高です。


 手はないがグレンに向かって私は手を合わせるのだった。





 グレンを生で見れて満足した私はまだ学園の中にいた。リゼの家に再度行けるか試そうとも思ったが、数日前のリディアの部屋のときみたいに然程私がほしい情報は手に入らないだろうと思ったからだ。それならばリゼをつけて今日の空き教室であったように情報を収集できたらいい。

 そのように考えて私は教室からリゼを見ていたのだが……──


「なんでここにいるの」


 現在、私の目の前にはリディアがいた。


 リゼを観察しようと思いリディアたちのクラスの教室前にある壁から、教室の中の天井へ移動した所をどうやらリディアはバッチリ見ていたらしい。


 流石にリディアが天井に顔を向けることはなかったが、廊下のところの壁にいるときには既にリディアに見つかっていたようだ。私はリディアがこちらを見ていなかったのでバレてないと思ってました。


 そして今は休み時間、校舎裏でリディアに怒られている。


「あの女の家に行くと言っていたけれど、気が変わったのかしら?人に見つかったらどうするつもりと再三言ったわよね」


「ごめんなさい……」


「あなたの行動を咎めたくはないけど、人の多いところで無闇矢鱈に行動するのはやめなさい。見つかって攻撃でもされたらどうするの?魔法なら霧散できるのかもしれないけれど、魔法でなければ対処できないでしょう?」


 リディアの言う通りで、私は今のところ目潰しなどされたことがないからわからないが、恐らく物理攻撃は避けられないと思う。


 だが、仕方がないものは仕方がないのだ。手も脚もない私は人の多いところで話を聞いて情報収集する他ない。


 私はリディアの心配するような言葉に申し訳なさと嬉しさを感じつつも反論する。


「仰るとおりなんですけど、でも人が多いところに行かないと私は情報収集が難しいんですよ……」


「だからといって──」


「誰と話してるの?リディア」


 突如別の声が話に割って入ってきた。リディアが慌てて振り向くと、そこにいたのはグレースだった。


「グレース!」


「昨日も壁を見て睨んでいたり、今日も何気なくあなたを見たら一瞬行動に違和感があったから何かあったのかと思ってあなたのことずっと見ていたのだけど」


 グレースはそう言いながら私の方を見る。そして首を傾げる仕草をした。


「壁に向かって話してるの?魔法具を使っているようにも見えないし……」


「これは……その」


 グレースは私のことが見えないようで、不思議そうにリディアのことを見つめている。

リディアはどう返したらいいものか悩んでいるようだ。

 ちなみに、魔法具はこの世界にある便利道具である。ゲーム内の持ち物の中にもそういう類があったが今のところ私はそういうものを持ってないし見かけていない。


「話の内容からしていつもの嫌がらせでも計画中だった?流石に刺客を送るつもりではないわよね?もしそうなら、なんとも浅はかなことね」


「違うわよ」


 グレースの言葉にムッとして言い換えすリディア。その表情もいいな〜!なんて脳天気に思っているとリディアがこっちを睨んできた。


「グレースが見えてないからって自分は関係ありませんっていう顔をしているわね」


「いやいや、そんなつもりは」


「グレース……信じられないと思うかもしれないけれど、聞いてくれる?」


 私が否定しようとしたのを完全無視してリディアはグレースの様子を窺う。グレースはこくりと頷き


「もちろんよ。面白いことなら喜んで」


そうニッコリ笑うのだった。






 リディアはグレースに私のことを説明した。といっても壁に顔がありそれが喋るというのと知り合ったのは数日前ということ、昨日光魔法が霧散したのも私が原因だということを伝えた。



「壁に顔?何も見えないけれど」


 不思議そうに壁に手をついて私の顔を見つけ出そうとしているグレース。私はグレースに壁ドンをされているような状態になっていた。


 めっちゃ近い。近すぎてキスできちゃいそうな距離だ。私女なのに鼓動が高鳴ってしまうな〜!!それにいい香りする。さすがフェロモン兄妹の妹だ……。


 なんて思いながらグレースをガン見していると、リディアがドン引きしたような表情で「それ以上近づくと唇が当たるわよ……」と警告した。


「あら、そんなに近い距離にいたのね。見えないからわからないわ」


 そう言って笑いながらスッと壁から体を離すグレース。けれど視点はずっと壁に向いている。



「どうにかして見れないの?」


「そんなこと言われても無理よ。今の所見えるのはわたくしだけだもの」


 リディアはため息をついて首を振る。グレースはどうしても私を見てみたいようで「ペンキかけてみる?顔が浮き出るかも」と言っている。やめてくれ。


 立ち話はなんだから、と近くの壁沿いに置いてあるベンチに二人は座る。私はその二人の間に移動した。



「それにしても面白いわね〜。壁が喋ってしかもあのリディアと仲良くなっているなんて」


「別に仲がいいとかじゃないわよ」


「えっ傷ついたので訂正してください」



 「仲良くなれたと思ったのに」とリディアに言い返すとリディアが嫌そうな顔をした。


「図々しいにもほどがあるわよ」と言われてしまった。悲しい。


 グレースはリディアの声しか聞こえていなかったはずだが、なんとなく会話を察したのか面白そうにリディアを見ている。


「今のところ本当にリディアだけしか壁の顔は見えないの?というかお名前はなんて言うのかしら?」


「美那です!」


「聞こえてないわよお馬鹿。……美那という名前よ」



 私の声が聞こえないグレースのためにリディアが私の名前を伝えてくれた。グレースはニコリと笑って「よろしくね、美那さん」と言ってくれた。


 キャラに名前を呼ばれるってなんか……すごいな。笑いかけてもらえるのもそうだが、このなんとも胸がムズムズするような気持ちと変な高揚感がある。


 一人自分の気持ちに整理をつけようとしているとリディアが思い出したように声をかけてきた。



「そういえばあなた、壁からキャンバスにも移動できるんだからその要領でグレースにも姿を見せれないの?」


 私はその言葉になんとも言えない声を出す。移動とはまた訳が違うからどうなるかはわからないし……と考えていると、リディアが「やるだけやってみたら」というのでやってみることにした。


「えーっと、グレースさんが私のことを見えるようになりますように……?」


 目を閉じて念じてみる。そして目を開くとグレースが驚愕した表情で仰け反っていた。



「えっ」


 これは成功したのでは──と喜ぼうとしたのだが



「すごく、気持ち悪いわね……」



 とても静かに、ゆっくりと咀嚼するような喋り方でグレースに罵倒されるのだった。




2024/1/5 加筆修正

お読みいただきありがとうございます



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