第11話 『我欲に走る』
リディアは結果的にリゼの家の場所を教えてくれた。魔法学園から西の方にあるらしい。家の特徴も教えてくれたのだ。
私が教えてもらえて喜んでいる最中、ずっとリディアは難しい顔をしていた。根が真面目なんだろう。ゲームでは人を使ってあれこれしていたが、今目の前にいるリディアはこういう形で人(というより壁だが)を利用することがあまり好きじゃないのかもしれない。
全く悪役令嬢らしからぬ人だ。
その日はリディアの部屋で休ませてもらい、翌日私は早速行動に出るのだった。
「って言ってもこの世界の地理とか全くわかんないし、とりあえず昨日出れた場所から行きますか〜!」
そう言って訪れたのは教会である。今回は昨日の罰当たりを避けるため天井にいる。罰を避けれているかは不明だが。
昨日の教会の中で壁が移動できなかったのが少し気になっていたので確認しに来たのだ。
今日も人がまばらにいるが、みんな祀られているものの方を向いて祈っている。
その人たちを後ろから見ている状態になろうと思い、移動を試みる。
すると難なく移動できた。
あれ?昨日はどこかに引っかかってたとかなのかな……。
床や横の壁を移動できるかも試してみたが、やはり難なくできる。うーん……昨日のはなんだったんだろう。
私は一先ず昨日は引っかかったとかだろうと思うことにして、リゼの家へ向かうことにした。
リディアから聞いたリゼの家の特徴を想像し、移動するよう念じる。そして目を開くとリゼの家について……はいなかった。
「えっなんで?」
そこは見るからに学校の教室だった。空き教室だろうか?今は誰もいない。外からは人の声がする。
「失敗した?いつも上手く行ってたのに……」
想像が足りなかったのだろうか?そういやリゼの家の外観はゲームをプレイしているときには出てはこなかったな。
リディアのは邸宅の内観はたまたま知れただけだし、学園はそもそもストーリーの舞台だからよくゲームの中で見たものだ。
そんなことを考えつつどうしようかと思っていたところ、ガラッと教室の扉が開いた。
「!」
いきなり扉が開いたことに驚いているとリゼが入ってきた。
リゼは苛ついているのか独りブツブツと何かを言っている。
「どうしてこんなに好感度が上がらないの?全部のイベントは欠かさずこなしてる筈なのに……」
リゼは椅子に座り、胸ポケットから取り出した小さなノートを開いて何かを確認している。
「このイベントもやったし、ちゃんとリディアも嫌味や嫌がらせをしてきてた……。そういえば昨日は特になかった気がするけど何か企んでる最中なのかも」
「次にリディア関係でなにかしらあったっけ……」そう言いながらリゼはページをめくっていく。
私は内容が気になりリゼがいる真上の天井まで移動したが、ノートの内容はよく見えない。
「──グレンのイベントでリディアがしゃしゃり出て来るはず。で、グレースはそれを見てるだけ……か」
「あっ!思い出した!」
私がそういった瞬間リゼは上体をお越し方腕をぐっと天井に伸ばす。私は慌てて口をつぐみ様子を窺うが、どうやら私の声が聞こえて上体を起こしたわけではなく、ただ伸びをしたようだった。
「ん〜、グレースとは仲良くなったほうがグレンとの好感度も上がるんだよね……声は何度もかけてるけど流石クールビューティーって感じで全然相手にされてないしなぁ」
なんて言いつつまたノートと向かい合ってしまった。
リゼには私が見えない……?声も……?それともわざと聞こえないふりとか……だとしてもなんで?
私は引き続きリゼの行動を見ていたが、リゼは時計を見て「やば!」と声を出し、慌てて教室から出ていってしまったのだった。
✽
私はリゼが教室を出たあとも空き教室にいた。
リゼが私のことを見えなかったのかどうなのかが気になるところではあるが、転生者ということは確定だろう。見える見えないの問題は一旦保留にすることにした。
それより今は別のことで頭がいっぱいだ。
──そう、先程リゼがこぼしたグレンという名前だ。
グレースが誰かの妹であるということは覚えていたが、名前を聴いて思い出した。グレースはグレンの妹だったのだ。
姉が言っていた内容を思い出すと、グレンは設定では魔法学園2年生で過去のトラウマのせいで大の女嫌いだったはずだ。
平気な女性は母親と妹のグレース、そして昔からよく遊んでいたリディアだけ。
見た目はグレースととても似ており黒髪で目元が涼やか、左目の下に泣きぼくろがあったはず。
「兄妹揃ってたしか泣きぼくろあったよね……」
ファンの間ではフェロモン兄妹と言われていた。
別に魔法がフェロモン云々ではないのだが、見た目が艷やかな二人だったので姉が尋常じゃないテンションで紹介してくれていたのを思い出す。
グレンは確かアルベルトとも仲が良かったはずだ。
アルベルトの友人候補として小さい頃に出会い、本好きのグレンにアルベルトがよくおすすめを聞いては感想を言い合っていたとか……。
ただ、グレンはサボり魔で授業をよくサボっては図書室にいたらしい。初めて主人公と出会うのも図書室だ。「図書室の君」とかあだ名つけられてた気がする。
私はちょっとだけ今後の予定を考えて……
「よし、「図書室の君」見に行ってみるか!!」
と、我欲に走ったのだった。
2024/1/5 加筆修正
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