第10話 『壁、計画を立てる』
リディアにそれはもう怒られた。2時間もだ。
やれ、何故言うとおりにしなかったのかだ わたくしの部屋以外の場所も行き来できることを何故言わなかっただ、他の人にも見えたかもしれない。見えていたらどうするだの 魔法が当たっていたら怪我をしていたかもしれないだの……最後は私の心配してくれているな、優しいんだ。好き。
といっても2時間もかかったのは私が茶々を入れたからでもある。
別の場所を行き来できたのか、という話になった際にこれで私を倒そうとしても全世界の壁という壁を破壊しなければ私は倒せないですね!なんて言ってしまったからだ。リディアの本気の「は?」という言葉を聞いた。説教の中で一番怖かった。
そして今はリディアが学校の宿題や勉強などを終わらせて一息入れているところである。
「ふぅ……あなたに説教をしたおかげで色々と遅くなってしまったわ」
「いやはや申し訳ない」
リディアは疲れたように言う。その言葉に私はたははと力なく笑った。2時間も説教されるなんて今まで味わったことがなかったのでなんだかこちらまで疲れてしまった。
「──それで、先程別の場所にも移動できると言っていたけれど」
リディアは昨日と違い、椅子は持ってこずローテーブルに小さいキャンバスとキャンバススタンドをセットする。そして近くのソファに腰掛けた。
「本棚にも移動できたのよね?だったらこれに移動はできるの?」
そう言って小さいキャンバスを指さした。
「多分できると思います」
私はいつも通り念じて移動する。もう壁以外でもどこでも行けるな私。
目を開くとなんとも言えなそうな顔のリディアが見えた。
「顔を移動して出てくるときってどんな感じなのかと思ったら……、ぼんやり浮きでてくる感じなのね……ちょっと気持ち悪いわ」
「移動しろって言ったのそっちのくせに酷くないですか?」
「感想を述べたまでよ」
コホンとリディアが咳払いする。そしてまた私の方を見てこっちのほうが喋りやすいわねと言ったのだ。私と対話するために用意してくれたということか。優しい……。
「それにこっちのほうが誰か来ても誤魔化しやすいからいいわ」
スッとリディアがキャンバスの近くにおいていた筆を持つ。絵と対話してるシチュエーションってことですか??
「これなら何か喋っていても絵を描くのに悩んで独り言を言っていたと言えるでしょ」
それちょっと無理あるような、ないような……。私のためではなかったらしい。ちょっと残念。
「ずっと気になっていたのだけど、あなたはいつから私の部屋にいたの?」
「ニ日前ですね。目が覚めたらここにいました」
話題が変わりリディアの質問に答える。これに関してもリディアは若干引いたような表情を見せる。
「ずっとわたくしのことを見ていたの」
「いやいや!一昨日は部屋に誰もいないときでした。夢かと思って眠ったんです。なのでリディアさんの部屋ということにも気づいていませんでした」
だからそんな引かないで!とちょっと焦りながら言う。リディアは疑わしげにこちらを見ているが小さくため息をつくと再び口を開いた。
「今日、リゼ・ホワイトの光魔法を霧散させていたわね。光魔法は珍しい上に強力な魔法よ……どうして霧散できたのかしら」
問いかけるというよりは考え込むようにリディアは言う。
光と闇属性は珍しいというのは知ってたがそうか、珍しくて強い魔法なのか、と再認識する。確かにそんな設定あった気がする。忘れていた。
「情報が少なすぎるわね……かと言って情報通のグレースに聞いたらどうしてそんなことを聞くのか根掘り葉掘り納得するまで聞かれるでしょうし……」
うーんと悩みこむリディア。グレースそんなに根掘り葉掘り聞くのか。気になることはとことん知りたいタイプなのかな?私はリディアの根掘り葉掘り聞かれて慌てる姿を少し見てみたいと思ってしまうのだった。
「そういえば、一応確認なんですけど……今日のその魔法霧散騒ぎで壁を見た人たちの中に、私が見えた人っていました?」
「正直わからないわね。顔が見えた、とは聞こえなかったけれど」
「うーん、私が見えるのってやっぱりリディアさんだけなんですかね……」
この家を散策したとき、使用人達は私が見えていなかった。護衛兵も視線は感じたのだろうか、あたりを見回しはしていたが私と目が合うことも、なかったし……。
「油断は禁物よ。なぜわたくしに見えたのかは謎だけれど……リゼ・ホワイトには気をつけたほうがいいかもしれないわね。あなたの言っていた物語の主人公なんだし」
光属性という特別な魔法も使えるしね、とうんざりしたようにに語るリディア。
確かにリディアの言うとおりなのだが……私は気になったことを確認してみた。
「あの後リゼはどんな様子だったんですか?」
「どうも何もいつも通りね。また失敗したと笑って謝罪にもならない謝罪をして……殿下のところに走り寄って行ったわ」
そして殿下と楽しそうに話してたわね。そう言うとリディアは目を伏せてしまった。
リディアの様子に胸が痛くなりつつも、その様子じゃリゼは私が全く見えなかったのだろうと思った。
もし何か言っていたのであればリゼが壁に顔があったなどとアルベルトに言うだろう。だがリディアが話す限りそんな様子はないようだし、なにより私が見たときは目が合わなかった。
……もし本当にリゼが私のことが見えないなら、私張り込みしてもバレないんじゃない?
ふとそんな考えがよぎった私はすぐさまリディアにリゼの住所を聞く。できれば地図か……学園からどの方向なのかでも聞けたらいいと思った。
「なぜそんなことを聞くの。……まさかあなた」
「そのまさかです!ちょっとどんな感じなのか様子見たいんですよね」
リゼが転生者なら他のキャラの攻略も知っているだろう。知らなかったとしても何か弱みが握れたらいい。
リディアは私がやろうとしていることをすぐ理解できたようで、首を振る。
「駄目よ。もしも突然見えたらどうするの。それに下手をしたら大事になりかねない。それこそわたくしが送った刺客だとか言われたら溜まったもんじゃないわね」
「仰るとおりですけど……、何もしないよりはいいでしょう。それに私はあなたの力になりたいんです」
「なにを……」
リディアは私の言葉に驚いたのか、言葉を詰まらせる。
「あなたの味方になりたいったでしょう。信じなくてもいいです。私が勝手にするだけなので」
「だから場所を教えてください」私はそう言ってリディアに笑いかける。
リディアはなんだか困ったような、怒ったような、複雑な表情をしていた。
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