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暗闇の怪物  作者: 朝露ココア
1章 怪物の目覚め
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5. 期待の重圧

 持参してきた荷物を部屋に運ぶ。

 割り当てられた寮は、新兵用の寮ではないらしい。


 ホルスト元帥が管理する第二等兵寮。

 その隅っこに俺の部屋があった。

 寮の部屋は二人一組になっている。


 ただし、ひとつ問題が。


「なんでぼくとイージャの部屋が同じなのかしら」


「知らねえよ……普通は男女で分けるもんだろ」


 曰く、部屋に空きがないとのこと。

 だとしても別の組み合わせにできそうなものだが。

 何か別の狙いがあるのか?


 リラはスーツケースを放り投げて、はぁとため息を吐いた。


「言っておくけど、ぼくが美少女だからといって変なことをしないでよね。怪しい動きをしたらすぐに報告させてもらうわ」


「誰がお前なんかに手を出すかよ」


「ハッ……だといいけれど」


 さっそく険悪な雰囲気が漂っている。

 このリラとかいう女、性格悪いんじゃないか?


 なんか腹立つな。

 何か言い返してやろうと考えていると、向こうから口を開いてきた。


「でも、これからそれなりの付き合いになりそうだし。関係を悪くするのはよくないわ。お互いを信頼していきましょう」


「お、おう……そうだな。よろしく」


 意外と大人な対応をされた。

 いや、俺が子どもすぎるのか?


 さて、この後すぐに招集がかかっている。

 

「で、次は寮を出て右にある……練兵場に向かうのか」


「ええ。お昼の前に、所属に関する話があるのね。行きましょう」


 所属か……軍隊の組織関係はわからないけど、とにかくアバドンに関わる仕事がしたい。

 ホルスト元帥も俺の意は汲んでくれているはずだ。


 部屋を出て、寮の廊下を歩く。

 無言のまま歩くのも気まずいので話題を出そう。


「なあ、リラはどうして皇帝軍になろうとしたんだ?」


「ん? 敵を倒すためよ」


「敵ってのは……アバドン? 外敵?」


 外敵というのは、皇帝軍が駆除している怪物のことだ。

 情報規制が敷かれていて、一般人には外敵がどんな存在なのか周知されていない。

 これからの学科で外敵についても習うだろう。


「どちらとも言えないわ。ぼくはとにかく、与えられた役割を果たすだけ」


「社畜精神の塊みたいな人間だな」


「そういうきみは? どうして皇帝軍に?」


 リラから聞かれて、少し嫌な記憶を思い出す。

 トワコが殺された瞬間がフラッシュバックしてしまった。

 俺が無意識にした質問も、もしかしたらリラに嫌な記憶を思い出させたかもしれない。


 この質問をしたことを後悔した。

 少し考えてから、濁して返答する。


「俺はまあ……争いをなくしたいと思った。争う必要がないのに、この世界では何度も抗争が起こっている。それを止めたいと思う」


 あながち嘘でもない。

 アバドンと皇帝軍、両者の抗争の原因を断つ。

 それが目的なのだから。


「そう。理想論ね」


「辛辣だなぁ……自分でも無茶なのはわかってるけど。動き出さないと、何も始まらないだろ」


「一理あるわ。何事も行動を起こさなければ始まらない……本当に、その通りね」


 リラも魔導を持つ以上、胸に秘めた信念があるはず。

 互いの内心に踏み入るような質問は控えるべきか。

 無難な話題にしよう。


「す、好きな食べ物は?」


「いきなり何の質問よ。えーと……ヘマトゲン」


「ヘマ……? なんだそれ。俺はオムライス。たまご料理全般が好きだ」


「お子様な味覚だこと」


「はあ? 全国のたまご料理好きに謝れよ。

 そういうお前が好きな……ヘマなんちゃらはさぞかし高尚な食べ物なんだろうな。まさかお菓子とかじゃないだろうな?」


「チ、チョコレートだけど……健康にいいのよ。でも牛の血を固めたお菓子だから、子ども受けは悪いみたいね」


「牛の血!? お前、どんな味覚してるんだよ……」



 だらだらと雑談して歩いていると、練兵場に到着した。

 人がいない、がらんどうだ。吹き抜けのデカい空間。

 壁には剣や槍、銃などの武器が立てかけられている。


 中にぽつりと一名、軍服を着た人が佇んでいるだけ。

 その人は俺たちを待っていたのか、こちらに手招きした。


「あなたたちが新人の二等兵さん? イージャさんと、リラさんだよね?」


「はい。イージャ・キルシャです!」

「……リラ・ルキスです」


 俺たちを招いた軍人は、ボーイッシュな女性だった。

 金色の髪はベリーショートで、笑顔が印象的だ。


 胸元には銅色の徽章。

 俺らと同じ色だけど、星の数が違う。

 三ツ星だから……上等兵だっだと思う。


「私は上等兵のソウル・カロー。ああ、変な響きの名前だとよく言われるんだ。あなたたちの教育係になったから、よろしくね」


「は、はい! よろしくお願いします!」


「二人のためだけに教育係なんて……人員が足りなさそうですね」


 リラは首を傾げる。

 たしかに。

 二人ごとに教育係をつけてたら、人材不足になるだろう。


「二人は今期入隊の新兵の中で、唯一の魔導持ちでしょ? 当然のことながら期待されてるし、専門の指導員だってつくよ。他の新兵はまとめて教官が指導するけど」


 そうか。

 あまり快くないけど、既覚者は優遇されているんだったな。


「ま、当然よね。ぼくたちはエリート中なエリートなわけだし」


 他の新兵に対して引け目を感じている俺。

 一方でふんぞり返るリラ。

 やはり彼女とは気が合いそうにない。


「今、他の二百人近い新兵たちは『魔導受贈の儀』を行っている最中。皇帝陛下が真夜中まで魔導を授ける儀に専心なさっている。私たちもがんばらないとね」


「二百人もいるんだから、そりゃ夜までかかるでしょうね……」


 ザガリスとハピは、もう魔導を授かったのだろうか。

 どんな魔導なのかな。


 さて、ソウルさんが俺たちに説明を開始する。


「ホルスト元帥からもう聞いてると思うけど、私たちは主に治安維持を目的として動いている。『アバドン』や『リリスフィス』といった反政府組織の鎮圧、ならびに紛争の解決……あとはパトロールとか、消防とか。

 イージャさんと、リラさんの所属は『治安維持軍第27師団16部隊』。めんどくさいけど覚えてね」


 俺は急いで所属部隊をメモする。

 メモしなくても手帳に書いてあるわよ、とリラに呆れられた。


「今後の予定だけど、二人にはしばらくは安全な任務を行ってもらうよ。既覚者は魔導訓練が免除されるけど、学科は免除されないからね。学科だけは他の新兵と同じように受けてもらう。学科を受けてる間は忙しくなるだろうし、簡単な任務からで。

 というわけで……ふふっ。本題に入ろうか!」


 ソウルさんは不気味に笑うと、練兵場の端から土嚢を持ってきた。

 本題とは。


「その土嚢、何に使うんですか?」


「もちろん『魔導測定』だよ! いやあ、あなたたちの魔導を見せてもらいたいな。期待の新人さん?」


 またもやプレッシャーがかけられる。

 俺もリラの魔導は気になっていたところだ。

 この機会に盗み見ておくか。


 ソウルさんはどんな魔導を使うんだろう。

 俺と同じ疑問をリラは抱いたようで、質問してくれた。


「ソウルさんはどのような魔導を使われるのですか?」


「私の魔導は【貫通(ペネトレイト)

 実践するから見ててね」


 ソウルさんは土嚢を前に置き、少し距離を取る。

 木剣を拾い上げて投擲の構えを取った。


「えいっ!」


 すると、先が丸められた木剣が土嚢を貫く。

 勢いよく砂煙が噴出した。


 なるほど……貫通能力か。

 どんな物でも武器に出来るのは便利そうだな。


「ご覧の通り。木製の壁くらいまでなら、どんな武器でも貫通できるんだ。それ以上堅い物となると……武器次第かな。私の魔導は自分で目覚めさせたものじゃないから、あんまり強力じゃないね。しかもこの領域に至るまで一年以上かかったし……」


 アレでも強力とは呼べないのか。

 かなり便利な能力だと思うけど。


 確かに時間はかかるみたいだ。

 俺は魔導を得てすぐに扱えた。

 しかし陛下から魔導を授かった人は、扱えるまでにかなりの時間を要するらしい。


「じゃ、まずはリラさんから見せてもらおうかな? 魔導で土嚢を攻撃してみて」


「…………」


 ソウルさんが引っ張り出した土嚢を前に、リラは動かない。

 じっと土嚢を見つめている。

 どうかしたのか?


「私の魔導、陽が出てるとほとんど使えないんです」


 リラは吹き抜けの天井を見て告白した。

 そんな魔導があるのか……たしかに今は陽が照っている。


 つまり、それって昼間は仕事できないってことか?


「あ、そうなんだ。そんな魔導はじめて聞いたよ。じゃあ……あの日陰とかはどう?」


 ソウルさんは陰になっている部分を指し示した。

 そんな単純なものだろうか。

 夜じゃないと使えないのでは?


「あー……ギリギリ出力できるわ。最低限ですけど」


「お、いいよ! とりあえず見せてみて!」


 リラは日陰に土嚢を引っ張る。

 そして深呼吸した。

 特に視覚的な変化は見えないが……


「「!?」」


 一瞬の出来事だ。

 俺とソウルさんは同時に肩を震わせた。


 リラの姿がブレたかと思うと、土嚢が八つ裂きにされている。

 ……なんだこれ。


「ぼくの魔導は【天無姫(ソラナキヒメ)

 陽の当たらない場所だと、大幅に身体強化ができるの。逆に言うと昼間はほんとに怠いわね。長時間、陽に当たってたら気絶するわ、します」


 え、これで最低限?

 規格外すぎるだろ……俺の暗闇(ブラインド)が泣いてるぞ。


「い、今の瞬間移動みたいなのは……めちゃくちゃ速く動いたってことなんだね? そ、そうか……やっぱり自分で覚醒させた魔導はすごいなあ……」


 ソウルさんが遠い目をしていた。

 そういえば、ホルスト元帥も目にも止まらぬ速さで動いてたな。


「じゃ、じゃあ次はイージャさん。お願い」


「えっと……俺はリラみたいな動きはできないんですけど……」


 自分でも暗闇(ブラインド)の全容は掴めていない。

 なんか黒い靄を出せて、影の針が出せる。

 これが能力のすべてだったら、少し悲しくなる。


「まず、この靄。これに破壊力はありません。目に張り付けると何も見えなくなります。また、銃弾を撃たれた時に靄を展開したんですけど……靄の中で銃弾がすごく遅くなりました」


「ふむふむ。かなり妨害に便利そうだね。視覚妨害に、結界的な効果……」


「で、次に影の針」


 俺は右手に闇を収縮させ、一気に前方へ放った。

 影が太い針となって地面から飛び出し、土嚢を貫く。

 この針の強度は自在に変えられる。

 今は木製くらいの強度で調整中だ。


 貫通を目視して針を破壊する。

 針を構成していた影は地面に溶け、俺の人影に吸い込まれていった。


 ソウルさんもリラも、俺の魔導を興味深そうに見ていた。


「おー、すごい破壊力! これが攻撃用かな?」


「はい。今のところ、この二つしか使えません」


「魔導は進化するからね。意志に応じて際限なく強化されるし、応用次第でいくらでも可能性を秘めている。特に天然の魔導使いは、かなり伸びしろがあるらしいから。二人ともまだまだ伸びるんじゃないかな?」


 天然の魔導使い、か。

 じゃあ皇帝陛下に賜った人は、養殖の魔導使いになるのか?


「オーケー。とりあえず二人の能力は把握したから、報告書にまとめておくね。今日の予定はこれでおしまい。他の訓練兵はまだ『魔導受贈の儀』の最中だから、邪魔しないようにね。あ、お昼は食堂で食べられるから。オススメは煮込みスープかな! デザートはどれも美味しいよ!

 それじゃ、またねー」


「はい、ありがとうございました!」


 ソウルさんはそう言うと、練兵場から急ぎ足で去って行った。

 もう昼か。たしかに腹が減ってる。


「腹減ったな。食堂行ってみるか」


「……ふっ、イージャはどうせオムライス」


「馬鹿にしてんのかお前」

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