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暗闇の怪物  作者: 朝露ココア
4章 征伐
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8. アサマシキモノ

 強者の気配を肌で感じる。

 ホワイトさんとジーラさんに向かった女。

 あいつも強いが、目の前のアサマという男はさらに強い。


 肌に緊迫した刺激が走る。

 間合いまであと少し。

 ソウルさんとリラも警戒しているのか、中々手を出さない。


「どうしたよ、少年少女たち。こないのか?」


 指をくいくいと動かし、アサマは露骨に挑発する。

 そうだ……時間がない。


 俺たちの目的は迅速な制圧。

 ここで足踏みしているわけにはいかないんだ。


「俺が補助をする。リラ、ソウルさん」

「……うん。任せて」


 最前線はソウルさん。

 彼女は短剣を携えてアサマの間合いに入った。


 視線をリラに送る。

 時刻は夜、十全に力を発揮できるはずだ。

 リラも問題ないと頷いた。


「じゃ、いくぜ!」


 動く。

 戦場の始まりはいつも忙しない。


 初手、アサマは懐から黒い球を取り出し投擲。

 ソウルさん目掛けてまっすぐにホーミングした。


 同時にソウルさんも動く。

 構えていたナイフを投擲。球に衝突させる。

 ナイフは球を貫通し、背後のアサマまで迫った。


「っ……!」


 駆けた熱風。

 あの球は爆弾か……!


 影を瞬時に展開。

 三人を守るように靄を張りつけた。

 拡散する黒煙、先の景色は見通せない。


 だけど俺には暗闇の『目』がある。


「上だ!」


「了解」


 爆弾を貫通したナイフはアサマに届かず。

 瞬時に跳躍したアサマは、大剣を抜き放ち上方に飛んでいた。


 狙いはソウルさん。

 脳天へと振り下ろす。


 俺の合図を受けたリラは風のように疾走。

 目にも止まらぬ速さでソウルさんの眼前へ。

 アサマの大剣を片腕で受け止めた。


「おぉっ……!? なんだいお嬢ちゃん、馬鹿力だね!」


「ありがとう。おっさんはひ弱ね」


 リラは蹴りをアサマの腹に叩き込む。

 だが、アサマは華麗に身をよじって回避。

 足を回転させた勢いに乗せ、大剣をリラへ振り抜いた。


 屈む。

 リラの頭上を抜けた大剣は基地の壁を叩き割る。


 ――見える。

 入隊したばかりは見えなかったリラの動き。

 だが、今の俺ならば目で追える!

 少なくともレヴハルト少尉とユタの戦いよりはついていける!


暗闇(ブラインド)


 影の針をアサマの後退地点を予想して展開。

 予想どおり奴は後退したが、その先で大剣を足場にして針を躱す。


 さらに追撃だ。

 追い縋るように影の針をどんどんアサマへ伸ばしていく。


「っはぁ!」


 再び球の投擲。

 今度は白色の球だ。

 リラが咄嗟に叫ぶ。


「目!」


 ――め。

 その単語だけで、俺たちは意図を理解した。


 俺とソウルさんは同時に瞳を閉じる。

 瞼を貫通するように迸る白光。

 閃光弾か。


「巧みな連携だ。お前さんたち、いい仲間じゃねえの」


 嬉しくない称賛の声を浴びつつ、俺は目を開ける。

 戦場には似つかわしくない笑顔。

 アサマは子どもの成長を見守るような微笑みを浮かべていた。


 ……ムカつく奴だな。

 でも実力は本物だ。

 アバドンの特徴として、魔導の看破に長けているという点がある。


 今だって閃光弾で影を消されたし、ソウルさんの貫通もすぐに見切られた。

 俺の魔導が影を根源にしているとすぐに悟ったのは、アサマだけではない。

 今まで戦った多くのアバドンがそうだ。

 恐らく魔導使い相手の訓練を積んでいるのだろう。


「…………」


 向こうのホワイトさんとジーラさんは継戦中。

 早々にこの厄介な手合いを片づけないと。


 ソウルさんが片手を背に回し、俺たちに合図を送った。

 踵を二回を鳴らし、了解の返事をする。


 ソウルさんはナイフを抜く。

 一本、二本……計六本。

 両手に小サイズの刃を装填したソウルさんに、アサマは目を丸くした。


「お? 面白そうだなぁ、おい」


 油断なく構えるアサマ。

 魔導の戦略は無限大。

 一度見せた手は通用しないような相手でも、勝機はある。


 駆ける。俺は左回り。

 リラはその場に待機。

 ソウルさんはアサマから距離を取る。


貫通(ペネトレイト)――」


 さて、俺がアサマの立場だったらどうする?

 目の前の相手が警戒すべき行動を取っていて。

 そして背後の一名は回り込むように駆け出し、もう一名は静止。


 俺なら……そうだな。

 一番警戒するのは、たぶん。


「俺だろ?」


「……!」


 正面の露骨な攻撃はブラフ。

 本命が回り込んでいる奴の可能性を考慮する。

 もちろん、全員を警戒した上での話だ。


 アサマは俺が接近すると、すぐに反応を示した。

 瞬間、影を足裏に射出して飛ぶ。

 単純に距離を取って逃げる。

 攻撃するつもりなんてないからな。

 俺の方角へ投擲された爆弾は空振り、床と天井を破壊。


歪曲射(ベンド)


 計六本の刃が放たれる。

 最初は直線状に飛ぶかと思われた。

 だが、ナイフが途上で勢いを失ったように落下。


 狙いは……アサマの足元。

 それぞれのタイミングで落下したナイフ。

 手前、中間、奥。

 アサマを取り囲むように突き刺さる。


「おっ、と……!」


 一拍遅れて、影がソウルさんの背後より。

 飛び出したリラが接近戦をアサマへ仕掛けた。

 予想外の行動により足元を崩されたアサマ。


 そこにリラの猛攻が加わる。

 純粋な暴力だ。

 目にも止まらぬ速度で繰り出される、拳と足。


「っ……」


 さしものアサマも額に冷や汗を滲ませる。

 リラの猛攻は止まらず。

 彼女の拳撃が大剣の刃を砕く。


 俺の追撃は……無理だな。

 あの速度の交戦じゃ、リラに攻撃が当たる可能性もある。

 目で追えてはいるが、迂闊に手を出すのは危険だ。

 補助の役割に徹しろ。


「いい、いいねぇ……!

 お嬢さん、もっと全力で来な!」


「舐めてる? 殺すわよ」


「そりゃ殺すか、殺されるかだろ!

 俺たちは敵なんだからなぁ!」


 刃こぼれした大剣をアサマは思いきりぶん回す。

 リラは軽々と回避したが、予想外だったのがその後のアサマの行動。

 奴は――そのまま大剣を投げた。


「!?」

「ソウルさん!」


 投擲先は静観していたソウルさんの方角。

 彼女は慌てて飛び退いたが……


「くっ……!」


 刃ではなく、柄の部分が直撃する。

 ソウルさんは吹っ飛び、壁に強く打ちつけられる。


 ……マズい!

 アサマはどこからか取り出したショートソードに武器を切り替えている。

 交戦するリラたちの横をすり抜け、ソウルさんの下へ。


「大丈夫ですか!?」

「ぃ……ごめん……リラさんをお願い」


 よかった、息はある。

 ソウルさんは意識を手放した。


 ひとまず命は助かったが、すぐに医療軍に診てもらわないと。

 そのためにも……この戦いを片づける。




 安堵したのも束の間。

 今度はリラがこちらに吹っ飛んできた。


「うおっ!」


 咄嗟に靄でリラを受け止める。

 彼女は口から吐血し、片膝をついた。


「実はおっちゃん、デカい武器よりもちんまい武器のが得意でね。ガラじゃないって言われて、普段はデカい武器を使ってるんだけどな。本命は隠しておくもんだろ?」


 嘘だろ……完全な状態のリラでも後れを取るのか!?

 だとしたら、俺が勝てる相手じゃ……


「……いや」


 勝てるか勝てないかじゃない。

 殺すか、殺されるかなんだから。

 選択肢はないだろ。


「リラ、戦えるか?」


「っ……ごめん」


「わかった。回復次第、助力を頼む」


 ここは俺の役目だ。

 リラもソウルさんも動けないのなら、俺が戦う。

 応援が来る可能性だってあるし、リラの回復を待つのも悪くない。


「なんだい、次は坊ちゃんが相手か? 先に女子二人を戦わせるたぁ、中々やるねえ」


「化石みたいな価値観だな。皇帝軍、イージャ上等兵だ。

 陛下に反旗を翻す不届き者、ここで処分する」


「処分、ねぇ……できるもんならやってみな!」


 目標は二つ。

 アサマを殺すか、時間を稼ぐか。

 戦況によって目標は切り替える。


 視覚、聴覚起動。

 身体に魔導を通す。

 最近はこの行程も慣れてきた。


「はいよっ!」


 アサマが動く。

 対面している直線状では動きを追いにくい。

 故に、側方から暗闇を介して視る。


 地を蹴り、突き出された剣身。

 暗闇を介した視覚と神経までの連絡ラグを考えろ。

 俺の身に迫る前に回避する。


「チッ……!」


 若干腕を掠めたが問題ない。

 飛び距離を取って影針を射出。

 アサマは慣れたのか、針を側方に回避した。


 そう、影針の弱点は動きが直線的なこと。

 曲げることができないのだ。


 この攻撃じゃ制することは難しい。

 なら、別の手段で仕留めるしかないだろう。

 あくまで針は接近の牽制に使え。


 再び針を伸ばす。

 だが……


「!?」


 アサマは側方に飛ばなかった。

 針を……足場にしている!?


「うっ……!」


 驚き停滞した俺に、アサマは鋭くドロップキックをかます。

 俺の影には質量を持たせることができる。

 だからこそ威力も充分にあったが……利用されるなんて……


「俺はな、何十年も戦場に身を置いてるんだよ。たかだか数か月、数年訓練しただけの若僧には負けられねぇ。悪の組織アバドンとして、ずっと皇帝軍を殺し続けた極悪人だぜ?」


 ショートソードを担いでアサマが迫ってくる。

 身体が動か……いや、動け!

 足に激痛が走るも、立ち上がる。


 大丈夫。

 影で身体機能は補助できる。

 骨折したとしても戦い続けられるのが俺の強みなんだから。


 自分に影を思い切り叩きつけ、後方へ。

 一気に距離を取る。

 アサマの間合いに入った瞬間、俺の身体は千切りだ。


「まだ立つかい。何が坊ちゃんをそこまで駆り立てる?」


「殺されるとわかってて、抵抗しない奴がいるかよ」


「ほーん……じゃ、この場は見逃すと言ったら?

 坊ちゃんは退いてくれるのか?」


 見逃す、か。

 その言葉の真偽はわからない。

 だが、リラとソウルさんの負傷。

 そして俺とアサマの戦闘力の差を考えれば……退くのが軍人として正しい選択だ。



「退かない。俺はお前を殺す」


「ほらな? 殺されるかどうかじゃない。坊ちゃんは、それ以外の理由で戦ってんだよ」


「そうだ。争いをなくす、それが俺の戦う理由。お前たちアバドンが存在する限り、俺は戦う」


 無駄口を叩いてくれるのは助かる。

 応援が来る可能性、二人が回復する可能性も高まるのだから。


「バイアス。洗脳。固定観念。ま、譲れないってやつか。

 いいさ、ここまできたら矯正不可能だろう。若いのを殺すのは気が進まねぇな……」


 瞬間、アサマの纏う雰囲気が変わる。

 ――本気で俺を殺す気だ。


 強者のオーラは殺気に呑まれ。

 ただ俺を殺すことを目的とした獣が前にいる。

 隙なく構えられたショートソードは殺意の証明。


 ならば、俺も殺す気で。

 格上だとしても同じ人間だ。

 命があるなら殺せるさ。


「あばよ、若僧」


 一瞬。

 アサマが目にも止まらぬ速さで動く。


 残像を伴った軌跡。

 俺が普通の感覚を持つ人間なら、一瞬で心臓を貫かれていた。


「俺は戦うよ」


 だが、俺には拡張する視覚と聴覚。

 そして強者を前にしても臆さぬ意志があった。

 怯みの停滞なく、思考の淀みなし。


 紙一重。細切れの視界を捉える。

 回り込む。

 距離を取ってばかりじゃ敵わない。


「はっ!」


 影針を腕に宿し刺突を繰り出す。

 予想外の攻撃か、アサマは強引な体勢で突きを防御。

 そうだ、お前も死ぬのが怖いんだろ?


 次いで足。

 影で質量を増した足を払う。

 距離を取ったのは俺ではなく、アサマの方だった。


 攻勢を崩すな。

 達人を相手に機を逃してはいけない。


暗闇(ブラインド)──闇壁(フィールド)


 戦闘中も周囲の環境を見逃さなかった。

 俺は今、左右を壁に挟まれた通路のような場所にいる。

 立ち昇った闇の壁は俺とアサマの間に横たわる。


「……」


 アサマは壁の裏の俺を見透かせない。

 だが、俺は暗闇を介して一方的に監視できる。


 だから、奴が突っ込んで来るタイミングもわかる。

 俺は人影に手を入れた。


「……月弓」


 休暇中に練習した術、影への収納。

 父から譲り受けた月弓を駆使する。

 まだ月弓くらいのサイズしか収納できないが……いずれはもっと質量の大きな物を入れられるようにしたい。

 例えば、人とかな。


「……」


 息を呑み、待つ。

 矢を番えてひたすらに待つ。


 瞳を閉じた視界の先、アサマは警戒して闇の壁を見つめていた。

 奴が壁を破ろうとした瞬間が好機だ。

 心臓に風穴を開けてやる。


「…………」


 待つ。

 待って、待って……



 アサマが動いた。

 閃光弾……!

 まだ残っていたのか。


 いや、いい。

 これでいいんだ。


 アサマは閃光弾を投擲。

 フラッシュが闇を払う。

 光は相手への視界妨害と同時に、自身の視界も阻害する。


「――死ね」


 暗闇の視界は掻き消えた。

 だが、アサマが俺の居場所を認識するのはコンマ一秒後。

 俺はそれ以前に奴の居場所を把握している。


 矢を放つ。

 奴の居場所を確かめることもなく、そこにいると確信して。


「ぁ……マジ、かよ……」


 すとん。

 何かを落としこんだように。

 パズルのピースを嵌め込んだような感覚。


 黒き矢は深々とアサマの胸元に刺さり。

 奴は前のめりに倒れ込んだ。

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