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暗闇の怪物  作者: 朝露ココア
4章 征伐
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7. 白き壁

 ホワイトの眼前に立ったアバドンの女。

 コードネームを『スラッシュ』という。


 名は体を表す。

 斬撃(スラッシュ)の名に恥じぬ威力を、両手に携えたナイフから繰り出す。


 問答無用。

 スラッシュは勢いよく地面を蹴り、ホワイト目がけてナイフを振り下ろした。


「……」


 一切の動用を見せず、ホワイトは光盾を展開。

 斬撃を防いだホワイトはスラッシュから目を逸らさない。


 回り込もうとステップを踏んだスラッシュ。

 しかし、彼女の側方に光の障壁が立ち上がっていく。

 まるで迷路でも作るかのように、スラッシュの周囲に壁が。


「ジーラ」


「あいよ」


 阿吽の呼吸で、ホワイトとジーラは連携を見せた。

 二人の共闘歴は長い。

 もはや戦場に言葉が必要ないほどに。


 ジーラの魔導『灼熱(フレイム)

 燃え盛る炎が、数枚の光盾の間に流し込まれる。


「チッ……!」


 スラッシュは後退。

 光の盾を蹴り、身軽に跳躍しつつ。

 ホワイトはスラッシュの逃げ場を塞ぐように光盾を作り出す。


 スラッシュもまた、目にも止まらぬ速度で回避。

 ホワイトとジーラの攻撃を華麗に躱していた。


「オイラの炎はね、ただの炎じゃないよ」


 スラッシュの動きは常人とはかけ離れたものだった。

 一般人が束になっても敵わない難敵だ。


 しかし、ホワイトとジーラは専門家。

 これまでにアバドンという化け物を幾度となく屠ってきた。

 スラッシュの動きも想定済みだ。


「馬鹿な……!?」


 空中で身を翻したスラッシュ。

 彼女の視界に飛び込んだのは、地上から壁を伝って迫る炎。

 そう、ジーラの『灼熱』は流動する。


 彼女は咄嗟に天井を蹴り、床に着地。

 地面にいれば光盾で行動を阻害され、空中に逃げれば炎が追い縋る。

 やはり魔導使いは厄介なことこの上ない。


(白髪の女……無闇に盾を使ってこないな)


 仮面の下でスラッシュは思案する。

 制限がなければ、盾を何重にも使用してくるはずだ。

 そうすれば防御も行動阻害も盤石になる。


 スラッシュはこれまでの戦いを思い返す。

 ホワイトが一度に使用した光盾の枚数は――


(三枚が限度、か)


 ならば対処のしようはある。

 少なくとも攻撃からの防御に一枚は使うだろう。

 ならば、二枚の光盾の阻害を計算に入れて動けばいい。


 そしてジーラの炎を突破し、どちらかを落とす。

 一名を殺せば勝率は格段に上がる。


「ジーラ、作戦四番ね」


「うえ、マジ? その作戦、オイラ好きじゃないんだけどなぁ……」


 二人が作戦を立てたと同時、スラッシュも目標に向けて動き出していた。

 目標は『誘導』だ。


 ロビーの中央あたりに、吊り下げ式の照明がある。

 あの真下にどちらかを誘導して落とす。


 スラッシュの得意技はナイフの投擲。

 ナイフで支えを断って照明を落とすことも容易い。

 もしもホワイトが照明の落下を防いだとしても、光盾の消費枚数を増やせる。

 その時点でスラッシュの勝ちは決まったようなものだ。


「……」


 スラッシュが前方へ駆ける。

 同時、ホワイトが光盾を構えた。

 ジーラはホワイトの真後ろに下がる。


 おそらく、何らかの作戦のフォーメーション。

 相手の動きにも注意しつつ、スラッシュは照明の下に相手を誘導する。



 光盾を回り込もうと、スラッシュはステップ。

 先程と同じように側方に壁が現れたが……再度回り込む。

 回り込むたびに壁が消えては現れ、消えては現れ。


 無限にホワイトとの距離は縮まらない。

 だが、これでいい。

 確実にホワイトを照明の下へ誘導できている。


(あの炎使いは……なぜ攻撃してこない?)


 背後のジーラは炎を発さず、何かを準備しているようだ。

 彼の動きも常に見ておく必要がある。


「……」


 ナイフを振り回し、ステップを踏み、壁を迂回し。

 何度もホワイトへ接近を試みるスラッシュ。

 これは相当に守りが固い。


 だが、まもなく。

 右足、左足と……ホワイトの足が後退している。

 もうすぐ照明の真下に彼女を誘導できるのだ。


 スラッシュは攻め続け、やがて目標地点への到達を確認。

 ホワイトが照明の下へ、そして自分は照明を斜め四十五度から見上げられる地点へ。


「はっ!」


 ナイフでホワイトを攻撃すると見せかけ、投擲したのは照明を支えるワイヤー。

 スラッシュの技量は達人。

 寸分たがわぬ軌道を描き、鋭利な刃がワイヤーを断ち切る。


「――!」


 ホワイトは咄嗟に上を見上げる。

 まばゆい照明の光が目に入った。


 ――誘導されていた。

 ワイヤーの切れた照明がゆっくりと落下してくる。

 咄嗟に上方に盾を展開。

 重い衝撃が光の盾にぶつかる。


 視界を前方に戻したとき、スラッシュの姿は消えていた。

 足音、背後より。


「もらった」


 背後、煌めくナイフ。

 ホワイトの判断は早かった。

 光盾の展開が間に合い、なんとか致命を防ぐ。


 しかし頭上の盾を消すわけにはいかず。


(二枚では防ぎ切れまい……!)


 瞬間的に回り込んだスラッシュ。

 先程から何度も盾を展開されており、サイズや展開までの速度は学習済み。

 だからこそ言えた。


 ホワイトの命はもらった、と。

 全力で身体を励起させ、スラッシュは移動。

 二枚の盾では防ぎ切れないスピードで動く。


 やがて、盾の間隙を縫って突破。

 合計三枚の盾が展開された状態で、ホワイトの喉元に到達した。

 ――取った。



 ホワイトの白い首筋に刃を突き立てる。

 刹那、


「っ!?」


 ナイフの刃は弾かれた。

 首元に鱗のように張り付いた光。


 驚きに目を見開くスラッシュ。

 そんな彼女の腕を、ホワイトががっちりと掴む。


「最初から全力は見せないよ。

 アバドンはみな勘違いするんだ。光盾の枚数には限界があるってね。

 魔導はそんな柔なものじゃない」


 そう、ホワイトは最初から意図して三枚のみの盾を使っていた。

 本当は十枚でも二十枚でも展開できるにもかかわらず。


 初手で本質を曝け出さない。

 これが今までの戦闘で培った技能である。


 瞬間、二人の周囲を無数の光盾が包み込んだ。


「照明落とすって、すごいことするねー!」

 じゃ、今度は炎を上からズドンっ!」


 上方から朗らかな声が響く。

 圧倒的な熱気が肌を撫で、スラッシュは見上げた。


 勢いよくうねり、迫る灼熱。

 周囲は光の盾に囲まれ逃げられず、腕はホワイトにホールドされている。


「ま、待て! そんなことをすればお前も……!」


「悪いね。私の心配は無用だよ」


 味方ごと焼き殺すつもりか、とスラッシュは言おうとした。

 しかし口を噤む。


 ホワイトの全身は光で覆われていた。

 先程、首を光で守っていたように。

 スラッシュはその光景を見た瞬間、耐えがたい理不尽を感じた。


(こんなの、無敵じゃないか……!

 どうやって倒せと……)


 正確に言えば、ホワイトは無敵ではない。

 超強力な一撃を受ければ盾は壊れるし、毒などは貫通する。

 しかし魔導を持たぬスラッシュにそんな芸当ができるわけもなく。



 魔導が使えない自分は、どこまで行っても一般人なのだと。

 世界の格差をひしひしと感じて。


「く……そぉおおおおおっ!」


 熱に焼き焦がされ、命を落とした。

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