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暗闇の怪物  作者: 朝露ココア
4章 征伐
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6. 手負いの獣

 アバドン本拠地。

 帝都ネオアビスから離れた都市、ダリドに位置していた。


 これといった観光名所もない小さな村落で、ひっそりと居を構える。

 地下には大きな空間施設が広がっているが、表立っては長閑な村だ。



 深夜。アバドン幹部のレナスは眠りに就こうとしていた。

 悪の組織でも規則正しい生活を。

 ふかふかの枕に頭を乗せた瞬間のこと。


 安息は破られることになる。


「バロンのお嬢! 大変だ!」


 血相を変えた様子で部下が駆けつける。

 基本的なアバドンの黒い制服に、背中には巨大な刀を担いでいる。

 彼の名はアサマ。

 アバドンでも慕われる任侠である。


「どしたろん」


「皇帝軍が接近中! かなりの数だぜ……!

 奴ら、確実に俺らを潰しにきやがった!」


「ほーん。規模は?」


「師団に匹敵する。まともにやりあえば、まず勝ち目はねえ」


「まじか……なんで斥候から情報がこなかったろんね……」


 皇帝軍には潜伏させているスパイが何名かいる。

 しかし、こちらの本拠地に襲撃があるなど聞かされていない。


 本拠地に滞在している構成員は百名ほど。

 個々が相当な戦闘力を持つとはいえ、皇帝軍の三軍連合には敵わない。

 それに、非戦闘員も抱えている。


「撤退しろん。とはいえ……逃がすのは難しいかも」


 レナスは地図を眺める。

 皇帝軍は東方より接近中。

 西方には世界の果てである『光壁』があり、後退不可能。


 ならば北方か南方へ逃げるべきだが……


「隠し通路はどうろん? 使えそ?」


「干渉の野郎に確認させたが、見張りがいる。転移も封じられてる。

 どうやらこっちの施設や地形は筒抜けらしいな。完全に先手を取られているみたいだ。向こうは完封するつもりだぜ」


「退路なし、か……」


 普段は楽観的なレナスも、さすがに頭を抱えた。

 状況はかなり逼迫している。

 一人でも多く生かすために、何をすべきか。


 彼女はしばし悩んだ末、結論を下す。

 長考している時間はない。

 博打だとしても策を打たねば。


「おーけー。隠し通路を強引に切り拓くろん。

 ユタには離脱を手伝ってもらって、ニズ支部に本拠地を移すろん。

 とりあえずユタと通信班に連絡しておいて」


「……お嬢はどうすんだよ」


「ろんは残る。アバドンはみんな大切な家族ろん。命を賭けても守り抜く。一番持久戦が得意なろんが残らないで、誰が戦うというのか」


「あーあー、出たよ。お嬢の無謀、嫌いじゃねえ。

 俺だって残るぜ。ナドリスの坊ちゃんに戦闘は我慢してもらって、少しでも多くの人材を逃がすことに専念してもらおう。

 ……よし、通信送ったぜ。すでに一部の団員は離脱に向けて動いてる」


 皇帝軍が到着するまで残り二十分ほど。

 その時間でどれだけの人材が逃がせるか。


「残るのはろんと、アサマと……希望者で。

 まあ、こうなったらしゃーない。

 『眷属』を使うろん。もちろん牢屋に突っ込んでる人も解放して、徹底抗戦の構えで」


「なっ……!?

 でもよ、そんなことしたら本格的にアバドンの討滅が始まっちまう」


「もう始まってるろん。やるからにはそれしかない」


「ま、それもそうだな。ははははっ!

 うし、『心の鍵』はニコのお嬢が預けてくれたんだっけか?」


「ろん。半人の起動用に預けてもらったろん。

 ま、人間には戻せないけどね」


 レナスは首に提げてある銀色の鍵に触れた。

 とげとげとした装飾がついている、不気味な形状の鍵だ。

 今回の戦いではこれが重要な兵器となる。


「まずは皇帝軍を本拠地の中に引き込むろん。

 そしたらろんが権能を使って、本拠地を世界から切り離す。

 あとは……天星刃を持ってない軍を一方的に蹂躙するだけろん」


「いいねえ。ただ、問題は……」


「うむ。皇帝軍が眷属を有していることすら知っていた場合……アバドンに勝ち目はないろん。ま、逃げる時間さえ稼げればそれでいい。

 アサマは残る馬鹿どもに作戦を伝えに行くろん」


「あいよ! 結構な人数が残って戦うことを希望するだろうけどな。

 ……まあ、ナドリスの坊ちゃんは説得して逃げてもらわなきゃならんが。あの人の説得が一番大変そうだなあ……」


「ユタはああ見えて分別はあるろん。たぶん。

 家族のためなら戦闘すら捨てる戦闘狂……それがあいつだろん」


「了解。そんじゃ、行ってくる」


 アサマは駆け足で命令を出しに行った。

 レナスはため息をつき、外を眺める。


 遠方、広がる光の数々。

 それらは本拠地目指してまっすぐ向かってきている。

 あの光すべてが皇帝軍……勝ち目は薄い。


 だが、彼女は戦う。

 愛する者たちを守るために。


 ---


「ホルスト元帥、攻撃準備整いました」


「了解。ブランカ元帥とルチアノ元帥、司雅元帥に合図を」


「はっ!」


 アバドンの本拠地は完全に包囲された。

 東方と北方に治安維持軍、南方に対外敵軍と魔導医療軍。

 西方に逃げれば光壁があり、逃げ場はない。


 隠し通路があることも事前に把握している。

 通路入り口に設置していた監視人は撃破され、数名のアバドンの逃避が確認された。

 しかし、今回の目的は本拠地の破壊。

 数名に逃げられたところで問題はない。追跡も出している。


「敵の動きは……今のところ何もないようだな。

 ビジャ、C3地点からの攻撃準備は整ったか」


『はい。問題ありません。いつでも行動可能です』


 すべての部隊の突入準備は整った。

 包囲の体制を崩さず、精鋭を本拠地内へ送り込む。

 もちろんホルストも突入する。


 包囲の指揮はルチアノと司雅に任せておけば問題ない。


「全軍、聞こえるか。これより突入を開始する。

 健闘を祈る。各自、陛下のために全力を尽くせ。

 ――攻撃開始」


 淡々と作戦の開始を告げ、ホルストは剣を構えた。

 剣身は夜闇の中でまばゆい輝きを放つ。


 ---


『――攻撃開始』


「イージャさん、お願い」


 ホルスト元帥の号令とともに、ソウルさんが合図を出す。

 俺たちはあらかじめ定められていた箇所へ突入を試みた。


 アバドンの本拠地は地下にある。

 山腹にある地下通路の入り口から、俺たちは突入することになる。


「………」


 まずは敵影の捜索。

 瞳を閉じる。

 暗闇を視覚と聴覚に変換し、半径40メートル以内の敵を探る。


「いません。少なくとも半径40メートル以内には」


「……いない? それは妙だね」


 ホワイトさんが首を傾げる。

 皇帝軍に包囲されていながらも、入り口の防備を固めていないとは。

 この侵入口は捨てたのか?


「俺の感知も万能じゃありません。転移系の魔導持ちがいるかもしれない。

 でも、転移は皇帝軍によって封じられてるんでしたね。

 ……爆弾などの罠がある可能性も」


「そうだね。皆、下がって。

 私が最前線に立つ」


 ホワイトさんの指示に従い、俺は後方に下がる。

 光の盾が魔導によって創出。

 これで入り口を開けた瞬間に爆弾が炸裂……なんてことがあっても安心だ。


「それでは、突入開始」


 ホワイトさんが勢いよく扉を開け放つ。

 光盾には何も衝撃がぶつかることなく、内部通路は静かだった。


「……このまま進もう」


 ソウルさんの合図により、じりじりと中へ進み出す。

 ホワイトさんは盾を解除せず、常に警戒しながら進んで行った。


 ……もぬけの殻、か?

 まさか全員に逃げられた?

 だが、離脱経路はすべて軍が塞いでいたはずだ。


 まあいいさ。

 今回の目的はあくまで本拠地の破壊。

 それだけでアバドン側にとっては大きな損失になる。


「分かれ道に出たようだ」


 事前に頭に叩き込んでおいた経路と同じ。

 ここで二つに道が分かれて、右に進むと地下二階に行ける。

 すでにホルスト元帥の班は地下四階まで降り始めているはず。


 ホワイトさんは地下二階の様子を確認しつつ、俺に指示を出す。


「作戦通り、二階へ。警戒を怠らないように。

 イージャ、外の通信班と連絡を取って」


「はい。……あれ?」


 軍用の通信機を取り出したが、つながらない。

 すでにジャミングは解除されているはずだけど。


「すみません、俺の通信機つながらないみたいです。

 みなさんはどうですか?」


「んー……オイラも駄目だ。こりゃアバドンに通信を遮断されたか?」


「むむ。私もだ。どうしようか」


 別に通信がつながらなくても、作戦の遂行は可能。

 でも緊急時にまずいことになる。


「仕方ない。進もう」


 ソウルさんは作戦の続行を提案した。

 俺も同意見だ。

 通信がつながらないくらいで、撤退するわけにはいかない。


 みなも同意見なようで、無言で頷いた。

 ホワイトさんの盾に守られながら進行を続ける。

 やがて目的地である地下二階のロビーに到着した。


 俺たちは主に地下二階の鎮圧を行う予定だったが……あまりに敵影がない。

 だが、幸いにも敵は向こうから接近してくる。



「よお、待ってたぜ。皇帝軍の皆さん。

 ――残念だけどな、お前らはここで終わりだぜ」


 二名のアバドンと接敵。

 奴らは逃げも隠れもせず、堂々とした足取りでやってきた。


 一名は巨大な刀を担いだ黒髪の男。

 傲岸不遜な態度で、仮面の裏ではニヤニヤと笑っているのだろう。

 声色でなんとなく察せられた。


 もう一名は細見の女。

 両手にはナイフを持っている。

 女は男の陰に隠れ、静かに佇んでいた。


 ホワイトさんは接敵した瞬間に抜刀。


「お出ましか。逃げられると思わないでほしいな」


「そりゃこっちのセリフだぜ?

 俺たちもお前らも……この拠点から出られないし、応援も来ない」


「……どういうことだ?」


「その通りの意味だよ。

 入り口も出口も消えたんだ。俺たちの幹部の権能でな……領域を世界から切り離しちまう。

 つまり、まあ……俺もお前らも。死ぬしかねえな?」


 世界から領域を切り離す……?

 そんなことが可能なのか?


 だが、そんなことをすればアバドンの連中も逃げられない。

 通信が遮断されていたのもそのせいか。

 ホワイトさんはあくまで負けじと啖呵を飛ばす。


「好都合だ。その幹部とやらを倒せばいいんだろう?」


「お前ら如きに倒せれば、な。さて……やろうや」


 男が刀を抜いた瞬間、ソウルさんが叫ぶ。


「散開!」


 合図に従って、班員は距離を取った。

 俺、リラ、ソウルさんの三人。ホワイトさん、ジーラさんの二人。

 あらかじめ決めていた組み分けだ。

 魔導の相性を相談した結果こうなった。


「スラッシュ、お前は白い女と茶髪の男をやれ。

 三人の方は俺がやる」


「了解」


 スラッシュと呼ばれた女は、ホワイトさんとジーラさんの方に向かった。

 ならば俺たちの相手はこの男か。


「コードネーム、アサマ。

 お前たちを殺す男の名だ。覚えとけよ」


 いや。覚えはしないさ。

 そんな名前、明日には忘れてやる。

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