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暗闇の怪物  作者: 朝露ココア
4章 征伐
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5. 攻撃作戦

 一週間後。

 休息を十分に取った俺は、大会議室に招集される。


 会議室には一週間ぶりに顔を合わせるリラがいた。

 彼女は銀髪をなびかせて振り返る。


「久しぶりだな。よく休めたか?」


「いいえ。この一週間、忙しかったわ。

 用事が立て込んでいてね。

 きみはアホほど休めたようでよかったわね」


 この嫌味、最近は安心感を覚えてきたまである。


 リラや軍の人と顔を合わせたのは一週間ぶりなのに、久々に会った気がした。

 休暇中、ホルスト元帥は休まず働こうとしていたらしい。

 本当に苦労人だな……さすがに見かねたルチアノさんが、途中から仕事を引き継いでホルスト元帥を強制帰還させたとか。


 大会議室には軍内の人がほとんど来ていた。

 全体に向けた大規模作戦の説明……か。


「おおよそ集まったようだな。それでは説明を開始する」


 ホルスト元帥が壇上に立つと、会議室が静まる。

 元帥の顔から少し疲労が消えていた。

 ルチアノさんが仕事を引き継いでくれたおかげだろう。


「結論から言おう。

 今回の作戦は『アバドン本拠地への攻撃』だ」


「……!」


 思わず身体が強張った。

 同様に隣のリラも反応を見せている。


 俺の悲願。

 叶えるべき願い、意志の根本だ。


「諸君らも知っての通り、アバドンは皇帝軍の基地へ襲撃した。前代未聞の事態だ。今までは皇帝陛下の慈悲により、アバドンの悪行は看過されてきた。

 しかし、基地への攻撃があったとなっては話は別。威光に泥を塗る者は許されん。陛下はアバドンの粛清を望まれた。勅令である」


 よかった……さすがに陛下も黙認はしないみたいだ。

 これで何もリアクションがないようなら、アバドンはますます調子に乗る。


 これが大規模作戦か。

 今回ばかりは俺も本気でやってやる。


 休暇中も怠けてたわけじゃない。

 新たに魔導を拡張させ、技だって習得したんだ。


「班分けは今から伝える。

 今回の作戦は、ルチアノ元帥の対外敵軍、司雅元帥の魔導医療軍と共同で行う。部隊自体は混交しないが、共同作戦を念頭に置いて行動するように」


 魔導医療軍がいるのは心強いな。

 大怪我したときに治せるのは安心できる。


 こほん、と。

 ホルスト元帥は咳払いした。


「さて、ここからが大事な話なのだが……」


 元帥のバックスクリーンに映し出されたのは、地図のようなもの。

 右下には『アバドン本拠地見取り図』と書かれてある。


「作戦の決行は、今夜だ。

 これより班分けを説明する。アバドン本拠地の地図を参照し、それぞれの班の動きを説明しよう。すでに本拠地の構成員、装備などはすべて調べてある。

 現在、対外敵軍と魔導医療軍も会議を行っているが……すべての会議室に通信のジャミングが入っている。

 ――この意味はわかるな?」


 えっと、ちょっと待て。

 どういうことだ?

 弾幕のように言い放たれたホルスト元帥の言葉。

 ひとつずつ整理してみよう。


 まず、作戦の決行は今夜。

 まだ全員戻ってきていないのに、かなり早い決行だ。


 そしてアバドン拠点の情報は筒抜け。

 さすが皇帝軍といったところか。


 最後に、他の軍も同様の説明を受けていて。

 かつ通信がジャミングされている。

 試しに携帯を見てみると『圏外』の字が飛び込んだ。


「……内通者よ」


 隣のリラが呟いた。

 ……そうか。合点がいった。


 元帥たちは軍にアバドンの内通者がいると断定してるのか。

 速攻戦を仕掛けるのも、通信をジャミングしているのも、すべて内通者対策か。

 皇帝軍がアバドンを襲撃しようとしていることを、伝えさせないための措置だ。


 元帥たちの判断はおそらく正しい。

 作戦まで時間を空ければ、アバドンに逃げられるだけだ。


「班員の組み分けはこの通り。

 以下、各班の作戦を説明する」


 俺の班員はリラ、ソウルさん、ホワイトさん、ジーラさん。

 全員と面識があるのは悪くない。

 日頃からよく付き合ってる人たちだし、連携も取れるはず。


 作戦の内容は至ってシンプル。

 指定箇所から突入し、殲滅するだけ。


 俺たちの班はかなり前線に配置された。

 それだけ期待されているということだろう。

 俺もリラも、かなり戦えるようになってきた自覚はある。

 何としても戦果を挙げてやる。


 ---


 会議後、さっそく俺たちは装甲車に乗り込んだ。

 ……『視線』を感じる。

 透視や観測の魔導持ちが、内通者らしき人物がいないか見張っているのだ。


 三つの軍が動くので、かなり大規模な移動になっている。

 それでもアバドンが逃げるのは難しいだろう。

 先んじて転移系の魔導持ちが拠点を監視しているからな。


 揺れる装甲車の中で、俺は肩を強張らせて緊張していた。


「ドキドキするねー! みんな、死なないことを最優先にがんばろう!」


 ジーラさんが溌剌とした態度でガッツポーズする。

 全然緊張しているように見えないんだが……


「急な任務発令に驚いたね。私たちもそれなりに長いが、こんな事態は初めてだ。作戦をより円滑にするため、この時間で話し合っておくのが、有効な時間の使い方だろうね」


 ホワイトさんはジーラさんを無視して地図を広げた。

 この二人の雰囲気にはもう慣れている。

 入隊翌日にアバドンと交戦して、ジーラさんとホワイトさんには助けてもらった。

 それからはしきりに訓練に付き合ってもらって、魔導も互いによく把握している。


 班員の俺たちは地図を囲んで覗き込む。

 ホワイトさんのすらりとした指が地図の上を滑る。


「私たちが突入するのはここ。敵の配置はイージャの魔導を使って把握してもらうよ。私の魔導で盾を展開しつつ突入し、一方的に奇襲を仕掛けたい。

 魔導医療軍がいるので、死にさえしなければ怪我はしても構わないね。あとは爆発物など、罠の警戒が必要だ。緊急防御の手段は持っておきたい」


 緊急防御か……急所を靄で覆っておこうかな。

 まだ全身を常に覆っておくのはキツい。精神が保たない。


 ホワイトさんの魔導『聖守護(パラディン)』は防御特化。

 殲滅はリラ、ソウルさん、ジーラさんに任せれば大丈夫だろう。

 俺は拡張感覚での補助がメインになるかな。


 時刻は深夜。

 俺の魔導は全開で使えるし、リラも活動できる。


 作戦を綿密に立てていると、ソウルさんが提案した。


「イージャさんとジーラは離した方がよさそう。

 影の魔導って、炎の光源でも使えなくなるよね?」


「はい。とにかく光のない場所が必要です。

 ジーラさんの炎もそうですし、ホワイトさんの光盾も少し苦手かと」


「そっか。それじゃあジーラとホワイトにはいつも通り連携してもらって、私とイージャさん、リラさんの三人で固まって動こう」


「了解です。リラもいいか?」


「ええ。まあ、アバドンの一般団員ごときに苦戦はしないけれど」


 相変わらずの余裕。

 しかし、慢心はしていないだろう。

 リラは決して弱みを見せない性格ってだけだ。


 ソウルさんは班員に忠告する。


「緊急事態に陥ったときは、ホルスト元帥かブランカ元帥に連絡するように。他の上官に連絡してもいいけど、内通者の可能性もあるからね。

 いちばん信頼できるのは元帥だから」


 ホルスト元帥は信頼できる。

 でもブランカ元帥はなあ……あんまり信頼してない。


 あの人……挨拶しても、何を話しかけても無視するし。

 無地の仮面も相まって不気味の一言に尽きる。

 ロスト元帥の前例もあるから、本当はいい人の可能性もあるけど。


「そうだねー。オイラさ、内通者が誰なのかわかんないや。

 ホワイトは怪しそうな人とか知ってる?」


「治安維持軍の人は、みんな信頼しているよ。内通者がいるとしたら他の軍じゃないかな。これまで、みなアバドンと死闘を繰り広げてきたわけだしね」


 たしかに、治安維持軍はアバドンとメインで戦っている。

 内通者がいるとしたら、そいつは同胞を平気で殺していることになる。

 アバドンならあり得ない話じゃないけどな。

 奴らは倫理観が狂っている。


 少なくとも、班員の四人は安全だ。

 完全に信じて背中を預けられる。


『聞こえるか。まもなく敵地に到達する。

 総員、戦闘準備を整えよ』


 通信が入った。

 よし、準備は万端だ。


 俺の願いの第一歩……アバドンの根絶。

 何としても任務を遂行してみせる。

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