5. 攻撃作戦
一週間後。
休息を十分に取った俺は、大会議室に招集される。
会議室には一週間ぶりに顔を合わせるリラがいた。
彼女は銀髪をなびかせて振り返る。
「久しぶりだな。よく休めたか?」
「いいえ。この一週間、忙しかったわ。
用事が立て込んでいてね。
きみはアホほど休めたようでよかったわね」
この嫌味、最近は安心感を覚えてきたまである。
リラや軍の人と顔を合わせたのは一週間ぶりなのに、久々に会った気がした。
休暇中、ホルスト元帥は休まず働こうとしていたらしい。
本当に苦労人だな……さすがに見かねたルチアノさんが、途中から仕事を引き継いでホルスト元帥を強制帰還させたとか。
大会議室には軍内の人がほとんど来ていた。
全体に向けた大規模作戦の説明……か。
「おおよそ集まったようだな。それでは説明を開始する」
ホルスト元帥が壇上に立つと、会議室が静まる。
元帥の顔から少し疲労が消えていた。
ルチアノさんが仕事を引き継いでくれたおかげだろう。
「結論から言おう。
今回の作戦は『アバドン本拠地への攻撃』だ」
「……!」
思わず身体が強張った。
同様に隣のリラも反応を見せている。
俺の悲願。
叶えるべき願い、意志の根本だ。
「諸君らも知っての通り、アバドンは皇帝軍の基地へ襲撃した。前代未聞の事態だ。今までは皇帝陛下の慈悲により、アバドンの悪行は看過されてきた。
しかし、基地への攻撃があったとなっては話は別。威光に泥を塗る者は許されん。陛下はアバドンの粛清を望まれた。勅令である」
よかった……さすがに陛下も黙認はしないみたいだ。
これで何もリアクションがないようなら、アバドンはますます調子に乗る。
これが大規模作戦か。
今回ばかりは俺も本気でやってやる。
休暇中も怠けてたわけじゃない。
新たに魔導を拡張させ、技だって習得したんだ。
「班分けは今から伝える。
今回の作戦は、ルチアノ元帥の対外敵軍、司雅元帥の魔導医療軍と共同で行う。部隊自体は混交しないが、共同作戦を念頭に置いて行動するように」
魔導医療軍がいるのは心強いな。
大怪我したときに治せるのは安心できる。
こほん、と。
ホルスト元帥は咳払いした。
「さて、ここからが大事な話なのだが……」
元帥のバックスクリーンに映し出されたのは、地図のようなもの。
右下には『アバドン本拠地見取り図』と書かれてある。
「作戦の決行は、今夜だ。
これより班分けを説明する。アバドン本拠地の地図を参照し、それぞれの班の動きを説明しよう。すでに本拠地の構成員、装備などはすべて調べてある。
現在、対外敵軍と魔導医療軍も会議を行っているが……すべての会議室に通信のジャミングが入っている。
――この意味はわかるな?」
えっと、ちょっと待て。
どういうことだ?
弾幕のように言い放たれたホルスト元帥の言葉。
ひとつずつ整理してみよう。
まず、作戦の決行は今夜。
まだ全員戻ってきていないのに、かなり早い決行だ。
そしてアバドン拠点の情報は筒抜け。
さすが皇帝軍といったところか。
最後に、他の軍も同様の説明を受けていて。
かつ通信がジャミングされている。
試しに携帯を見てみると『圏外』の字が飛び込んだ。
「……内通者よ」
隣のリラが呟いた。
……そうか。合点がいった。
元帥たちは軍にアバドンの内通者がいると断定してるのか。
速攻戦を仕掛けるのも、通信をジャミングしているのも、すべて内通者対策か。
皇帝軍がアバドンを襲撃しようとしていることを、伝えさせないための措置だ。
元帥たちの判断はおそらく正しい。
作戦まで時間を空ければ、アバドンに逃げられるだけだ。
「班員の組み分けはこの通り。
以下、各班の作戦を説明する」
俺の班員はリラ、ソウルさん、ホワイトさん、ジーラさん。
全員と面識があるのは悪くない。
日頃からよく付き合ってる人たちだし、連携も取れるはず。
作戦の内容は至ってシンプル。
指定箇所から突入し、殲滅するだけ。
俺たちの班はかなり前線に配置された。
それだけ期待されているということだろう。
俺もリラも、かなり戦えるようになってきた自覚はある。
何としても戦果を挙げてやる。
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会議後、さっそく俺たちは装甲車に乗り込んだ。
……『視線』を感じる。
透視や観測の魔導持ちが、内通者らしき人物がいないか見張っているのだ。
三つの軍が動くので、かなり大規模な移動になっている。
それでもアバドンが逃げるのは難しいだろう。
先んじて転移系の魔導持ちが拠点を監視しているからな。
揺れる装甲車の中で、俺は肩を強張らせて緊張していた。
「ドキドキするねー! みんな、死なないことを最優先にがんばろう!」
ジーラさんが溌剌とした態度でガッツポーズする。
全然緊張しているように見えないんだが……
「急な任務発令に驚いたね。私たちもそれなりに長いが、こんな事態は初めてだ。作戦をより円滑にするため、この時間で話し合っておくのが、有効な時間の使い方だろうね」
ホワイトさんはジーラさんを無視して地図を広げた。
この二人の雰囲気にはもう慣れている。
入隊翌日にアバドンと交戦して、ジーラさんとホワイトさんには助けてもらった。
それからはしきりに訓練に付き合ってもらって、魔導も互いによく把握している。
班員の俺たちは地図を囲んで覗き込む。
ホワイトさんのすらりとした指が地図の上を滑る。
「私たちが突入するのはここ。敵の配置はイージャの魔導を使って把握してもらうよ。私の魔導で盾を展開しつつ突入し、一方的に奇襲を仕掛けたい。
魔導医療軍がいるので、死にさえしなければ怪我はしても構わないね。あとは爆発物など、罠の警戒が必要だ。緊急防御の手段は持っておきたい」
緊急防御か……急所を靄で覆っておこうかな。
まだ全身を常に覆っておくのはキツい。精神が保たない。
ホワイトさんの魔導『聖守護』は防御特化。
殲滅はリラ、ソウルさん、ジーラさんに任せれば大丈夫だろう。
俺は拡張感覚での補助がメインになるかな。
時刻は深夜。
俺の魔導は全開で使えるし、リラも活動できる。
作戦を綿密に立てていると、ソウルさんが提案した。
「イージャさんとジーラは離した方がよさそう。
影の魔導って、炎の光源でも使えなくなるよね?」
「はい。とにかく光のない場所が必要です。
ジーラさんの炎もそうですし、ホワイトさんの光盾も少し苦手かと」
「そっか。それじゃあジーラとホワイトにはいつも通り連携してもらって、私とイージャさん、リラさんの三人で固まって動こう」
「了解です。リラもいいか?」
「ええ。まあ、アバドンの一般団員ごときに苦戦はしないけれど」
相変わらずの余裕。
しかし、慢心はしていないだろう。
リラは決して弱みを見せない性格ってだけだ。
ソウルさんは班員に忠告する。
「緊急事態に陥ったときは、ホルスト元帥かブランカ元帥に連絡するように。他の上官に連絡してもいいけど、内通者の可能性もあるからね。
いちばん信頼できるのは元帥だから」
ホルスト元帥は信頼できる。
でもブランカ元帥はなあ……あんまり信頼してない。
あの人……挨拶しても、何を話しかけても無視するし。
無地の仮面も相まって不気味の一言に尽きる。
ロスト元帥の前例もあるから、本当はいい人の可能性もあるけど。
「そうだねー。オイラさ、内通者が誰なのかわかんないや。
ホワイトは怪しそうな人とか知ってる?」
「治安維持軍の人は、みんな信頼しているよ。内通者がいるとしたら他の軍じゃないかな。これまで、みなアバドンと死闘を繰り広げてきたわけだしね」
たしかに、治安維持軍はアバドンとメインで戦っている。
内通者がいるとしたら、そいつは同胞を平気で殺していることになる。
アバドンならあり得ない話じゃないけどな。
奴らは倫理観が狂っている。
少なくとも、班員の四人は安全だ。
完全に信じて背中を預けられる。
『聞こえるか。まもなく敵地に到達する。
総員、戦闘準備を整えよ』
通信が入った。
よし、準備は万端だ。
俺の願いの第一歩……アバドンの根絶。
何としても任務を遂行してみせる。




