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暗闇の怪物  作者: 朝露ココア
4章 征伐
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2. 元帥会議

「これより、元帥会議を始める」


 ケレス元帥の一声により、会議の開始が宣言された。

 皇帝アビスソレイユの周囲に集うは九名の元帥。


 ある者は緊迫した表情で。

 ある者は欠伸をして。

 またある者は無表情で。


 一同を見渡した皇帝は口を開く。


「ホルスト、説明を」


「はっ。先日、ソウメル基地に反政府組織アバドンの襲撃がありました。死者は四十名近く確認されており、被害は極めて大きいものとなりました。

 また、アバドンが基地へ襲撃を仕掛けるのは初めてのこと。基地の警護にあたった兵士の話では、陛下の反応を窺うための襲撃とのことです。

 本会議にて、対応の指針を決めたいと思います」


 ホルストの説明を聞き、真っ先に手を上げた男がいた。

 裾の長い緑色の着物を纏い、茶髪の髪をだらりと下げている。

 筋肉質の偉丈夫。威風に満ちた態度。


 八部(はぶ)元帥である。


「対応も何もよ。喧嘩を売られたなら買えばいいじゃねえか!

 落花情あれども流水意なし……アバドンと講和の道はねえ。過去の事件から知れたことだろう? さっさとぶっ潰しゃいいさ!」


 豪放豪胆、恐れを知らぬ元帥が八部である。

 これまでも幾度となく軍の脅威を退けてきた。


 彼の忌憚のない意見に、ルチアノは嘆息する。


「それではアバドンの思う壺かと思いますが。皇帝軍に攻撃を仕掛けさせるために、アバドンは襲撃してきたのでしょう?」


「かははははっ! 誘われてるなら、相手の策略ごと叩き潰してやろうじゃねぇか!」


「はあ……」


 冷静沈着なルチアノと、猪突猛進する八部は反りが合わない。


 頭を抱えるルチアノを見て、隣に座る元帥が口を開いた。

 桃色の髪をひとつにまとめた少女。

 きらきらと光る紫紺の瞳をホルストに向けた。


 名をロベリー・ファーレ。

 主に広報を担当する元帥である。


「今回の事件では『原罪人』も出てきたんでしょ?

 向こうも全面戦争の構え……ってこと!?」


 ロベリーの問いに、ホルストが答える。


「わからない。現れた原罪人は三名。

 ユタ・ナドリス、レナス・バロン、そしてもう一名は不明。

 名前と顔が知れただけでも大きな収穫だが……以降は表だって攻撃してくるかもしれないな。そうなれば被害はますます大きくなる」


「こわーい! 泣いちゃうよね!」


「泣いているだけではどうにもならない。

 大切なのはどう対処し、被害を減らすかだ」


「わぁ……!」


 ロベリーはホルストの言葉に感銘を受けて瞳を潤ませた。

 彼女は常に他人を全力で肯定し、感動する。

 非常に感受性の豊かな少女だが、演技ではないかと訝しむ者もいる。


 元帥会議で主に喋るのはこの四人。

 加えて司雅元帥も積極的に発言するが、今日は静かだった。


「死者四十名……ね。

 僕がその現場にいれば……」


 司雅が悔やむのは、己の不自由さ。

 あらゆる生命を活性化させる奇跡の魔導を持つ彼は、なかなか皇城から離れることができない。

 皇帝や元帥にもしものことがあった時、彼の治癒能力が必要だからだ。


 今回の事件でも基地に向かうことは許されなかった。

 ゆえに気落ちし、口数も少なくなっている。


 会議の停滞を悟ったのか、皇帝の傍に控えるケレスが促す。


「そうだね……ロストはどう思う?

 今回の襲撃に立ち会ったのだろう?」


 ケレスに尋ねられたロストは顔を上げた。

 ヘルメット越しに彼は悩まし気に唸る。


「ああ……原罪人は手強かった。元帥でも単騎で挑むのは危険性がある。

 そもそもアバドンの基地を知らんのだから、報復のしようもないが」


 ロストの言葉に対し、元帥の反応は様々。

 八部とミラは興味深そうに視線を向け。

 ホルストとルチアノは怪訝に眉を顰め。

 ロベリーと司雅は恐怖に顔をひきつらせた。


 そして、始まりからずっと沈黙していた仮面の女。

 ブランカ元帥が声を上げた。


「――アバドンの拠点は一箇所、把握している。

 そうだろう、ホルスト」


「ああ。治安維持軍はすでに敵の本拠地、一箇所を掴んでいる。

 規模が不明なゆえ、手出しはしていないが」


 つまり、アバドンへの攻撃自体はいつでも可能。

 もちろんアバドン側も皇帝軍の攻撃は警戒しているだろう。


「お、いいねえ。ホルスト、その拠点とやらを教えろや!

 鉄は熱いうちに打てってね」


 八部はやはり攻め込む姿勢らしい。

 これ見よがし刀を金打(きんちょう)する彼をよそに、ホルストは咳払いした。


「……陛下。いかがなさいますか」


「ふむ……我ら皇帝軍の威信にかけて、此度の事態は見過ごせぬ。

 ブランカの挙げた拠点について調べ上げよ。

 アバドンを……粛清する」


 皇帝は淡々と宣言した。

 彼女の意見は絶対。


 九名の元帥はみな一様に拝聴し、命令を承知した。


 ---


 会議後。

 部屋にはホルスト、ブランカ、ルチアノ、ロベリーが残った。


 ルチアノが気だるげな表情で呟く。


「まさか私たちがアバドンの拠点へ攻め入るとは……

 ああ、頭痛が痛い。やるからには最高のベストを尽くしますが。

 きっと後で後悔しますよ、アバドンは危険ですから」


「ルチアノ、混乱しすぎて言葉遣いがおかしくなっているようだ。主に戦うのは我ら治安維持軍。君はおそらく戦場には出ないだろう」


「どうでしょうね。今回はかなり大きな作戦になりそうなんで。

 ブランカ元帥はどう思われますか?」


「……」


 ルチアノに聞かれても、ブランカは答えなかった。

 他の面子は黙して返答を待つ。

 彼女が返答に時間をかけるのは、元帥の誰もが知っていた。


「特に問題はないと思う。そもそも、拠点をひとつ潰したところでアバドンにとって痛手となるのか……疑わしいね」


 ブランカは言いきり、ぴしゃりと口を閉ざした。


「なるほど。まあ、陛下の勅命ですから全力で遂行しましょう」


「あのあのっ! わたしは何すればいいの……?」


 真剣に話し合う三人に、なかなかロベリーはついていけなかった。

 彼女の仕事はあくまで広報、およびプロパガンダ。

 戦場での出番はあまりない。


「ロベリーはまあ……いつも通り、お仕事をお願いします。

 あ、暇だったら治安維持軍のお手伝いでもしてあげてください」


「え゛え゛ぇ゛ぇ゛っ!?

 それってさぁ雑用って、コトですか!?」


「雑用も大事な任務だ。君が力を貸してくれれば、犠牲者が減るかもしれない」


「あ、そっかぁ! がんばろうやっ!」


 ロベリーはホルストとルチアノの言葉に納得し、軽い足取りで去って行った。

 なぜあの少女が元帥なのか、ルチアノは未だに理解していない。

 ただの元気で口調のおかしい少女に見える。


「……さて。それではさっそく密偵を出すか。

 まずはアバドンの情報収集から。発覚している拠点の規模、構成員、地形……ミラ元帥の軍に頼んだ方がよさそうだな」


「そうですね。これまで一切の戦意を見せなかった陛下が動いた……これは大きな変化でしょう。さて、吉と出るか凶と出るか」


「凶を吉に変えるのが我らの仕事。全力で臨むぞ」


「相変わらず真面目で結構。

 それではホルスト、ブランカ元帥。健闘を祈ります」


 ルチアノは不安を胸に敬礼した。

 ホルストとブランカ。彼女はどちらも別の意味で信頼している。


 だからこそ、この上なく不安が残っていたのだ。

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