表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暗闇の怪物  作者: 朝露ココア
3章 基地襲撃事件
32/47

10. 急襲

 ユタが地を蹴ると同時、レヴハルト少尉もまた動いた。

 ――速すぎる!


 ちらりと像が動く。

 直後には、ユタの拳と少尉の刀が拮抗していた。


「やるねえ」


「そちらこそ、見事なお点前」


 ひとつ会話を交わした後、再び二人が消える。

 俺の眼前で巡る暴風。

 鳴り響く死合の音色。


 激しい戦闘……俺は何もできない。

 俺に命じられた任務はただひとつ。

 この場から動かないこと。


「…………」


 煩悶の中で、ホルスト元帥の言葉を思い出す。

 攻撃を見切れるようになったきっかけ。

 それは『魔導を体内に組み込む』ことだという。


 あの恐るべき二人も、魔導を体内に組み込んでいるのか?

 だからあんなに超人的な動きが許されている?


 それなら俺も……


「おっと……!」


 一際大きな音が響くと同時、ユタが踵で地面を削りながら後退する。

 レヴハルト少尉は刀を振り抜いていた。


 どちらが優勢なのだろうか。


「テメエ、名前なんだっけ?」


「レヴハルト・シルバミネ。これから死ぬ相手に名乗っても意味はないけどね」


「なんでそんなにつえーのに、少尉なんだ? おかしくね?」


「理由くらい察せられるだろう。汚れ仕事を任される者はいつも、簡単に捨てられる立場にあるのさ」


 手を止めて、二人は間合いを取っている。


「じゃあよ、アバドンに来ねーか?

 アバドンなら好待遇でいいぜ。おれとも毎日戦えるしな!」


「悪くない話だ。アバドンに内側から潜入できる機会をくれるとは」


「それによ、テメエ魔導使い(アルマ)じゃねえだろ?

 ――つーか人間じゃねえだろ。動いてるだけの死体か?」


「……さて。今は関係ない話かな。

 君はおしゃべりが好きなようだね。俺にアドバンテージを与えてくれて感謝するよ。そろそろ前哨戦は終わりにしようか」


 瞬間、俺の背筋が凍った。

 身の毛もよだつ殺気がレヴハルト少尉から溢れている。


 どうやらユタは地雷を踏み抜いたらしい。

 でも、人間じゃないってどういう……


「シルバミネ第八秘奥──」


 シルバミネ少尉はゆっくりと足摺りして、刀を下げた。

 だらりと下げられた腕。


 ユタは奇妙な行動に眉を顰める。

 異常な殺気。対して気力のない脱力姿勢。

 俺は唾を飲んでその光景を眺めていた。


「――『天中殺』」


 ぼそり。

 レヴハルト少尉が俯いたまま呟く。


 瞬間的に動いたわけではない。

 刀を振るったわけでもない。

 一切の「動」を見せず。


「う……おおぉっ!?

 やっべええぇーっ!?」


 くるりくるり。ユタの腕が舞っていた。

 鮮血と共に両腕が夜闇に飛ぶ。

 今のは……レヴハルト少尉が斬った、のか?


(まなこ)、忌の刃にて誅を下す」


「がっ……!?」


 次いで目。

 ユタの両目がはじけ飛ぶ。

 これもまた一閃を食らったように、横一文字に斬られていた。


 何が起こっている?

 少尉は動いてないのに、相手を斬っているのか!?


「いいねぇ……だけどよ。

 おれの権能は――」


 ユタがニヤリと笑う。

 異常な痛苦を物ともせずに。


 そうだ……!

 奴の能力は、



「破壊と再生。知っているとも。

 故に、君にとって体の破壊は大した問題ではない。

 俺以外の前ではね」


 レヴハルト少尉は刀を振りかざし、ユタの胸元に突き刺した。

 その直後。ユタの口元から笑みが消える。


「は……? なんだこれ、再生できねぇ……」


「其方が『破壊と創造』を司るならば、此方は『生と死』を。

 似通った二項だが、本質は決定的に異なる。生とはこれ即ち、創造に拠るもの。君の創造を打ち止めした。相性が悪かったようだね」


「か……かかかっ! ああ、そうかよ……おもしれーや!

 何も見えねぇ、動かせねぇ! けど最高に楽しいぜ!」


 これは……勝ったか。

 さすがに再生を禁じられれば、ユタといえども対抗手段はないだろう。

 あのバケモノを容易に沈めるとは……



「――動くな」


 ふと、レヴハルト少尉の手が止まった。

 俺の背後から響いた声。

 聞いたことのない少女の声だった。


 待て……何か、俺の後頭部に当たっている。

 これは。


「なん、だ……?」


「レヴハルト少尉。こいつの命が惜しくば、その手を止めろん。

 やっぱりユタ一人じゃダメだったろんね」


 俺が……人質に取られているのか?

 レヴハルト少尉は、俺の方角をじっと見ていた。


「君は?」


「原罪人レナス・バロン。

 まあ、そのアホのヘルプに来たというわけろん」


「おお、レナス! 遅かったじゃねーか!

 今回ばかりはおれも死ぬかと思ったぜー!」


 俺は振り向けない。

 状況的に、振り向いたら撃ち殺される。

 後ろのアバドンの姿はわからないが、原罪人という時点でヤバいやつだ。


 とりあえず、伝えるべきことを伝えねば。


「レヴハルト少尉、俺のことはどうでもいいです。

 ユタを殺してください」


「ああ。君には悪いが、元からそのつもりだよ。

 俺が危惧しているのはそこではない。レナスとやら……君が人質に取っているのはイージャだけではなく、この基地全体の人間か?」


 どういう意味だ……?


「察しがよくて助かろん。

 基地全体に爆弾置いてる。ユタを渡すことを交換条件に、爆弾は起爆しないろん」


 全体に爆弾が……!?

 そんなの回避不可能じゃないか!


 たとえユタを要求通り渡しても、アバドンが約束を守るわけがない。

 少尉も同じことを考えたのか、レナスに問い詰めた。


「こちらが提示するのは『ユタ・ナドリスの引き渡し』

 そちらが要求するのは『爆弾の起爆放棄』

 悪くない条件だが、君が約束を守る確証がない」


「守るろん。

 ろんは嘘つかない。薄汚いあんたらと違って、誠実な人間ろん」


「いや、証拠を出せと言っているんだが……」


 奇妙な沈黙が続く。

 俺はどうするべきだ?

 また無力なのか?


 せめて後ろの奴に壊乱(コラプション)が使えれば。

 レヴハルト少尉も、レナスも深く思考を巡らせているのだろう。

 睨み合いの時が続いた。


 やがて結論を出したのか、レヴハルト少尉がため息をつく。

 そして顔を上げた。


「……いいだろう。ユタ・ナドリスの身柄を、」


 彼の声を遮って。

 またもや乱入の音が聞こえた。



 ――ドドドドドッ!!



 眩いフラッシュと共に、閃光が駆け巡る。

 閃光は俺の後頭部を掠め、瞬時にレナスが空中へ飛んだ。


 俺はその隙に転がってレヴハルト少尉の下へ駆ける。


「うっそろん!? 誰!?」


 響く駆動音。

 一輪のバイクが戦場を過ぎ去り、また急カーブして戻ってくる。


 繰り手はヘルメットを被った男。

 名を――ロスト・ワール。


「間に合ったか。遅れたな。

 爆弾は全て俺が解除した」


「ロスト元帥……!」


 正直、俺の嫌いな人だ。

 でも今ばかりは助かった。


 ロスト元帥は負傷したユタとレナスを交互に見据える。

 一方、レヴハルト少尉は俺を庇うように前へ出ていた。

 俺たちとレナスの間に割って入ったロスト元帥は、顔も向けずに告げる。


「……何をしている。早く退け。

 この二名は俺が相手をする」


 元帥ならばアバドンの幹部だろうと粉砕できる。

 それほどまでに元帥は傑物揃いなのだ。


 レヴハルト少尉はしばし悩んでいたようだが、俺に語りかける。


「チッ、動けるか?」


「は、はい……大丈夫です!」


「退くよ。警戒を怠るな」


 そう言って、少尉は俺の背中を押した。

 あくまでアバドンの連中からは目を背けず。


 去り際、俺はロスト元帥に言葉を送る。


「ご武運を!」


 ロスト元帥は親指を立てて応答した。

 声の代わりにバイクのエンジンを鳴らして。


「……邪魔をしてくれる」


 レヴハルト少尉は愚痴を吐き捨てながら走る。

 だが、ロスト元帥の支援がある。


 レナスは倒され、ユタも力尽きるだろう。

 手柄を自分のものにしたいレヴハルト少尉の気持ちはわかるが、ここで二人の原罪人を仕留めてもらった方が確実だ。


「おーい!」


 ロスト元帥たちの姿が見えなくなるほど走ると、遠くから手を振って走ってくる人がいた。

 あいつは……ユーリ!?

 レーダー施設から動くなって言ったのに。


「イージャ、お前どこにいたんだよ!?

 中央に行ってもお前が来てないって言うから……」


「すまん、アバドンと交戦になってしまった。

 でも、もう大丈夫だ。ロスト元帥が来てくれた」


「……! よし、もう心配ねーな!

 俺の仕事終わりー!」


 元帥が来たと聞いた瞬間、ユーリは警戒を解いた。

 こいつ……本当にアホだな。

 まだアバドンが潜んでいるかもしれないだろ。


 それに、まだ処理しきれていない爆弾があるかもしれない。


「レヴハルト少尉。爆弾があることを知っていたんですか?」


 俺はしばらく無言だった少尉に尋ねる。


「ああ。アバドンが襲撃してきた後に、奴らの不審な動きを見て気づいた。

 だが、起爆はされないようだね。処理したとか言っていたが……」


「まだ残ってる可能性もありますよね。

 報告した方がいいかと」


「…………そうだね。一度、本部へ戻る。

 君も来るといい。俺の刀で応急処置したとはいえ、まだ骨に異常があるかもしれない。医療班に診てもらった方が確実だろう」


 確かに……まだ腕と足が痛む気がする。

 それに、戦闘の疲労がヤバい。

 魔導を酷使したせいか、今にもぶっ倒れそうだ。


 というか、もう限界……かも……


「おい、イージャ!?

 大丈夫か!?」


 ユーリの声が聞こえた。

 俺の意識は沈んでいく。


 そして――暗闇に閉ざされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ