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暗闇の怪物  作者: 朝露ココア
3章 基地襲撃事件
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8. 煽ろん

 レーダー施設へ到着。

 俺は暗闇の視覚を使い、内部に二名のアバドンが潜んでいることを把握。


 先程ホルスト元帥と連絡を取った。

 現在、基地に派兵しているところだそうだ。


 少し持ちこたえれば応援が来る。


「突入は俺とリラで行う。そうだな……上の窓から奇襲を仕掛けたい。

 レーダー施設は防衛しやすく、正面からの突入はマズい。そもそも、なんでレーダー施設が制圧されてるんだって話だが」


 施設の警備は何をやってたんだ。

 そう思って暗闇の目を探らせると……


 警備員の死体が転がっている光景を盗み見た。

 ……クソ。


 俺はダイトに視線を送る。


「ダイト、頼めるか?」


「ああ」


 ダイトは地面に手を当て、コンクリートの地面を盛り上がらせる。

 これが彼の魔導。

 地形を変化させることができる便利な魔導だ。


 隆起した地面を足がかりにして、俺とリラは施設の上に。

 窓をこっそりと解錠する。


 暗闇でアバドンの位置は捉えている。

 あとは奇襲を成功させればいい。


「さっきは出番がなかったが、作戦Bだ。いけるな?」


「もちろん。一瞬で終わらせるわ。

 アバドンは二名で間違いないのね? マスクを被ってる?」


「ああ。見ればすぐにわかる。行くぞ」


 陽は落ちつつある。しかしまだ夕陽が煩わしい。

 リラの魔導は使えるだろうが、思うようには動けないだろう。


 だから、『作戦Blind』を使う。


「――暗闇(ブラインド)


 窓から飛び降りると同時、俺は周囲を闇で閉ざした。

 遮光。


 光のない世界を作り出す。


「なんだ……!?」

「ぐわぁああっ!」


 瞬間、断末魔が響く。

 すさまじい突風と共に、暗闇の中で何かが暴れている。

 かすかに見えるのは赤い残光。


 およそ二十メートル近く離れたアバドンの両名。

 彼らは数秒も満たないうちに事切れた。


「終わったわよ」


「お疲れ」


 暗闇を解除。

 光が射しこむと、リラが鬱陶しそうに目を細めた。


 血を垂れ流して二名のアバドンが死んでいる。

 何に殺されたのかすらわからないまま、死を迎えたのだろう。


 リラの魔導【天無姫(ソラナキヒメ)

 ……改めてすごい魔導だ。

 制限付きとはいえ、ここまで力を発揮するとは。


「レーダーはまだ破壊されていないようだな。この施設は防衛に強い。しばらくはここで待機するのが得策だろう」


「入ってきていいわよ」


 入り口の扉を開けて、三人を迎え入れる。

 ユーリとベスリーは広がる血の匂いに顔を顰めた。


「おいおい、ここで待機しろって正気か?」


「死にたいなら外に出てもいいぞ」


「……わかったよ」


 とりあえず死体は一箇所にまとめておくか。

 皇帝軍とアバドンの死体を分け、俺は影で死体を運搬した。


 皇帝軍の死体に直接触れるのは嫌ってわけじゃない。

 むしろこの手で弔ってやりたいけど……感染症の危険もある。


 俺が死体を片づけている間、リラが指示を出す。


「入り口は施錠しておくこと。さっき見せたように、この施設は上部からの侵入に弱いわ。窓は塞いでおきましょう。

 外部から内部の様子を覗き見れないように、念入りにね」


 背の高いダイトを中心に、各所へバリケードのようなものが設置されていく。

 内部がどうなっているかわからなければ、迂闊にアバドンも手を出せないだろう。


 一通り防衛を整えると、ベスリーが疑問を発した。


「でもさ、あたしたちだけ籠ってていいのかな? 中央は大勢のアバドンに襲撃されているんでしょ? 応援に行った方がいいかも」


「ぼくたちが応援に行っても焼け石に水というものよ。中央には辰大将がいるのだから、皇城からの応援が来るまで耐久できるでしょう」


 二人の話を聞いてて思う。

 昨日、レヴハルト少尉が言っていたことを思い出したんだ。

 『緊急時には皇城からの応援をアテにせず、自分たちの力で戦え抜け』

 ……と語っていたように記憶している。


 だが、先程ホルスト元帥は応援を向かわせていると言っていた。

 予定通りなら、あと十分もすれば応援がくるはず。


 だが……どうにも少尉の発言が引っ掛かる。

 俺たちはどうするべきなんだ?


「……みんな。この施設で待っててくれ。

 俺は中央に行ってくる」


「は? イージャ、ぼくはさっき中央に行く必要はないと言ったはずよ。死地に飛び込んで何の意味があるの?」


「いや、応援に行くわけじゃない。現状を確認しに行くだけだ。

 ちゃんと皇城からの応援が来ているのか……確認したい」


 ユーリが首を傾げた。


「……はあ? どういう意味だよ。

 さっきホルスト元帥も応援を送ってるって言ってたじゃねえか」


「それはそうなんだけど……俺は全てを信じているわけじゃない。少し腑に落ちない点があるんだ。確認が取れたら、すぐにここに戻ってくる。

 心配はいらないよ」


「……つまり、イージャはこう言いたいのね?

 『ホルスト元帥が嘘を吐いている可能性がある』と」


 リラは訝しむように問うた。

 みんなの目には猜疑が浮かんでいる。


 そりゃそうだ。

 ホルスト元帥を疑うなんて正気じゃない。

 付き合いの長い元帥とレヴハルト少尉、どちらを信じるかと言われれば……俺はホルスト元帥を信じるだろう。


「違う。ホルスト元帥は嘘を吐いていない。

 ただ……元帥が一枚岩じゃないってのも知ってる。色々とごたごたがあって、派兵が遅れている可能性も否めない。あくまで勘だよ。

 じゃ、行ってくる」


 俺は急ぎ足で施設を出た。

 本当に無駄な交戦をするつもりはない。


 昨日のレヴハルト少尉の発言。

 そしてここまで基地にアバドンが潜入している異常事態。


 ……正直、こう思ってるんだ。



 軍の中にスパイがいるんじゃないか、と。



 ---


 わけのわからないセリフを吐いて、イージャは出て行ってしまった。

 他の四人は、彼を止めることができなかった。

 彼には自分たちが見えていない何かが見えている気がしたから。


「ちょ、ちょっとどうするの!?」


 ベスリーが狼狽する。

 一方でリラは落ち着いた声色で言い聞かせる。


「イージャの言うように待つのが正解でしょう。彼がどこで何の情報を得たのかは知らないけど、好きにさせればいいわ」


 正直、リラとしても思うところはあった。

 しかし今は冷静に振る舞わなければならない。


 ダイトはしばらく何かを悩んでいたようだった。

 沈黙が続いたのち、口を開く。


「……やっぱりイージャが心配だ」


 彼の言葉にユーリがハッと顔を上げる。

 その一言を誰かが言い出すのを待っていたのだ。


「そうだよな! よし、俺がイージャを追う。

 お前らはここで待機な」


「……ちょっと」


「リラさん、大丈夫だ。道中でアバドンに遭遇したら、単独での戦闘は避ける。逃げ足には自信があるんだぜ? 衝撃で自分を飛ばして逃げる技も覚えたしな!」


「いや、きみの心配はしていないんだけど……はあ。

 わかったわ。すぐに中央に現状の確認を取り、戻ってきなさい。きみが死んでも自己責任でお願いね」


「縁起の悪いこと言わないでくれよ! じゃ、行ってくるぜ!」


 ユーリは本心ではイージャをかなり心配していた。

 自分でも多少はイージャの補助になれるだろう。

 そう考え、彼は施設の外へ駆け出した。


 まだそこまで距離は離れていないはずだ。

 衝撃を活用しつつ走れば間に合うだろう。


「……結局、二人と三人で分かれることになっちゃった」


「まあ、いいでしょう。ぼくとしても少数の方がやりやすいし。

 窓の外、人がいないかどうか警戒しててね」


 リラはユーリの背を見送り、二人に指示を出した。


 ---


 次々とアバドンが飛び出す。

 レヴハルト少尉の言葉は間違いではなかった。

 この基地には五十名以上のアバドンが潜んでいたのだ。


「痴れ者たちよ……退きなさい!」


 戦場の只中で、荒れ狂う嵐が一つ。

 皇帝軍大将、(とき)


 津波が巻き起こり、アバドンの団員が呑み込まれていく。

 あまりの威力に皇帝軍の人々も後退していた。


 彼女に接近できる者は一人もおらず。

 目にも止まらぬ速さで動く彼女に、さしものアバドンも戦慄している。

 まさに獅子奮迅の働きを見せていた。


「クソ……あの大将、バケモンだぞ!」

「落ち着け! 俺たちの狙いは基地へ攻撃を仕掛けること。ついでに物資も簒奪できれば上々だ。いたずらに命を落とすことはない」


 今こうしている間にも、皇城は慌ただしい雰囲気に包まれているだろう。

 アバドンの目的は半ば達成されているのだ。


「はい、おつかろーん。

 ろん参上。皆の者おつかれー」


 突如、中空に少女が飛び出した。

 アバドンの制服を着ているものの、トレードマークのマスクは被っていない。

 艶やかな黒髪をひとつにまとめ、宝石のような紫瞳で戦場を見下ろしている。


 彼女の姿を見た瞬間、アバドンたちは一斉に下がった。


「レナスさん! 撤退ですか!?」


「ろん。そこのサークル入って、任務完ろん。

 残りの皇帝軍はろんがやっとくよん」


 レナスが手をかざすと、地面に赤いサークルが現れる。

 アバドンの団員たちは次々とその中に飛び込んで行った。


 皇帝軍の者が逃がすまいと追撃に迫る。

 しかし、白色の炎が立ち昇り前進を阻害した。

 アバドンのみが炎をすり抜け、次々と離脱していく。


 突然現れた少女。

 辰大将は警戒心を引き上げて尋ねる。


「何者ですか、貴女は」


「え、見てわかろん? アバドンのお偉いさんだよ。

 名前はレナス・バロン。

 ――アバドンの原罪人、『術』の継承者だろん」


「原罪人……!」


 その言葉を聞いた瞬間、辰の全身が強張る。

 アバドンを支配する五人の幹部。

 彼らを『原罪人』と呼ぶ。


 表舞台には滅多に顔を出さない、超危険人物。

 悪名ばかりが独り歩きし、皇帝軍でも有名な存在だった。


「うーん……あれ、あの白髪の少尉いないんだ。じゃあ余裕ろん。

 元帥どころか大将なんて、雑魚ろんね雑魚」


「ほう……皇帝軍を愚弄しますか。いいでしょう、悪名高き原罪人よ。今ここで貴女を倒してみせます」


「皇帝軍を愚弄してるんじゃないろん。弱そうなあんたを限定して愚弄してろん。公権力の批判じゃなくて、個人への誹謗中傷。

 ……あ、ごめん。これ煽りだったろんね」


 刹那、津波が巻き起こる。

 レナスはふわふわと浮きながら欠伸をした。

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