表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暗闇の怪物  作者: 朝露ココア
1章 怪物の目覚め
3/47

3. 入隊

『次のニュースです。昨日、サラシティ市庁舎に対し、反政府組織アバドンの襲撃がありました。この事件により七名が死亡、十一名が重軽傷を負いました。皇帝軍は十五分後にアバドンを鎮圧し、アバドンの主犯はすべて自害、および逃走しているとのことです。逃走した犯人の行方に関して……』


 あの事件から一週間後。


 雨音まじりに、いつものニュースを聞いていた。

 真っ暗な部屋の中。

 俺はソファに沈んでぼーっとしている。


 今までは他人事で、ただのニュースだったんだ。

 だけどあの事件から、他人事とは思えなくなった。


 争いは絶えない。

 平和な世の中だと思い込んでいただけなんだ。


「……」


 ふと携帯が鳴った。

 ハピから電話だ。だけど出ない。


 あの事件以来、俺は何度もハピやザガリスから電話を受けている。

 もう放っておいてくれよ。

 俺は皇帝軍に入る。それだけを伝えて、もう話していない。



 学校はやめた。

 バイトもやめた。

 父親にも話をつけた。


 あとは軍に入るだけだ。

 毎年行われている入隊式は、数日後に迫っている。

 ホルスト元帥からの紹介状と徽章を見せれば、試験もなく合格できるそうだ。

 皇帝軍は人手不足らしいからな。


「……」


 けど、どうしてだろう。

 今さら軍に入るのが怖くなったのかな。

 俺もまた……あの日みた光景のように。

 アバドンに頭を撃ち抜かれて死ぬんじゃないだろうか。


 あの時、俺に迷いはなかった。

 トワコの仇を討つために、争いをなくすために。

 皇帝軍に入る決意はたしかにあった。


「――暗闇(ブラインド)


 手から靄を出してみる。

 あの日、惨劇とともに目覚めた魔導。


 魔導の使い方は本能的にわかる。

 手足の使い方をわざわざ考えないように、魔導の使い方も考えない。

 身体の器官がひとつ増えたような感覚だ。


 出した闇を、自分の瞼の上に乗せてみる。

 暗い。目を開けても、閉じても何も見えない。


「こんな力、」


 欲しくなかった。

 そう言うのは傲慢だろうか。

 たぶん、この魔導に目覚めてなければ……俺はあの男に撃たれて死んでいた。

 魔導で時間を稼いだからこそ、ホルスト元帥が来るまで耐えられた。


 だけど、そうじゃない。

 ……そうじゃないんだ。


 俺は。

 こんな力に目覚めず、ずっと四人で。


「っ!」


 思わず闇を払いのける。

 力任せに振るった腕が、机の上のペットボトルを薙ぎ倒した。


 ……何やってるんだ、俺は。

 どれだけ後悔してもトワコは戻ってこない。

 魂に刻まれた恐怖は二度と拭えない。


 立ち上がり、壁にかけてあるハンガーを手に取る。

 純白の制服。胸元には銅色の徽章。


 あの後、入隊届を出すとすぐにホルスト元帥から郵便があった。

 制服が届いたんだ。

 添えられた手紙には、改めてトワコを助けてやれなかった謝罪が書いてあった。

 本当にお人好しだと思う。


「やるしかないだろ」


 進むしかない。

 後戻りする道は断ったんだ。

 俺はもう学生じゃない。



 軍人だ。


 ---



 そして、入隊当日。

 俺は身だしなみを整える。


 鏡に映った自分の姿を見て思う。


「似合ってねえなぁ……」


 白い制服に対して、黒髪と黒瞳。

 これがまずミスマッチ。

 ザガリスのような輝かしいオーラがあるわけでもない。


 胸元にきらめく銅色の徽章の方が、俺よりも輝いてる。

 鏡の前で苦笑いして荷物をチェックした。


「お、もう行くのかい?

 ……しかし、立派な服だね」


 リビングからやってきた父親が驚いていた。

 俺は養子で、血のつながりはないんだけど。

 ここまで育ててくれて感謝してる。


「しばらく家には帰って来れないと思う」


「大丈夫。何かあったら連絡するんだよ」


「あいよ。行ってきます!」


 少しだけ元気を取り戻した。

 あれから考えたんだ。

 俺は何をするべきなのか。


 俺は、争いを止めるべきだ。

 皇帝軍に入り、アバドンとの抗争の根本を断ってやる。

 二度と俺たちのような被害に遭う人を出さないために。


 恐怖はもちろんあるけど。

 それ以上に怒りが強い。


「……え」


 決意を胸に玄関を開けると、そこには驚くべき光景があった。

 皇帝軍の制服を着た人が立っている。


 だけど、その二人は俺の見慣れた顔をしていた。


「どうして……」


 ザガリスとハピ。

 二人が皇帝軍の制服を着ている。

 ……正直、意味がわからない。


「どうして、だって? 野暮なことは聞くなよ。俺たちだってトワコの仇を討ちたい。ただそれだけだ」


「イージャくん、何回連絡しても返答がないんだから。私たちが入隊申請をしたこと、何度も伝えようとしたんだよ?」


 俺は困惑していた。

 友人たちが一緒に来てくれ喜びよりも、困惑の気持ちが勝る。


「お前ら学校は?」


「もちろんやめたよ。当たり前だろ?」


 将来のこととか、色々不安になる。

 それに皇帝に所属するということは、命を賭けて敵と戦うということ。

 単純に友人たちの命が心配でもあった。


 俺には魔導もあるし、覚悟だってできている。

 でも、二人は……


「ねえ、イージャくん。私ね、トワコちゃんが殺されて……本当に悔しい。心の底から、あいつらに復讐してやりたいって思う。この想いは止められないよ。たとえイージャくんでも、ザガリスくんでも。

 ……アバドンは滅ぼすべきだって」


 復讐か。

 たしかに、俺だって復讐したい。

 アバドンの凶行を止めたい。


 だけど、本当にそれだけなのかな。

 俺がここまで強い執念を抱く理由は。


 けど、二人にもしっかりと覚悟があることがわかった。

 それなら俺も何も口出しできない。


「そうか。正直な、不安でもあるけど……嬉しいよ。お前らがいてくれれば、俺はとりあえず安心できる」


 孤独で新天地に向かうのかと思ってたけど、思いがけない事態になった。

 少しは楽しい思い出も作れそうだな。


 ---


 電車に揺られること二時間。

 到着だ。


 駅から出ると、圧巻の光景が広がっている。

 天まで聳え立つ巨大な城……魔導皇城(ティアキャッスル)


 帝都ネオアビスの中央に立つ、世界を睥睨する城だ。

 あれが皇帝軍の本拠地。かなりデカいな。


 アレが今日から職場となる。

 皇帝の絶対的な権威を示すように、あの城はどこまでも広い。

 総面積は約30000エーカー、すなわち120平方キロメートルほど。

 世界一広大な敷地を有する。


「すっごーい! はじめて都会に来た!!」


 ハピがはしゃいでいる。

 城の周囲には、魔導を使って建造された高層ビルや研究機関が立ち並ぶ。

 どの建築物をとっても、俺らの故郷の庁舎よりデカい。


 なんというか……独特の雰囲気だ。

 重苦しいというか、吸い寄せられるというか。

 形容しがたい重圧と覇気が漂っている。

 鉛色の空に浮かぶ羊雲が、やけに不気味に見えた。


「迷わないようにしないとな。イージャ、ハピが迷子にならないように見ててくれよ」


「そうだな。あいつは昔から勝手に出歩くからな……」


 まっすぐ城に向かおう。

 俺はハピを注視しつつ、ザガリスの後に続いて行った。



 城の入り口は、人であふれていた。

 全員が入隊するわけじゃないんだろう。

 徽章をつけた皇帝軍の人たちが、若者の列を整理していた。


 キョロキョロと周囲を見渡していると、俺の肩に手が置かれた。


「ちょっと君、少し列の整理手伝って」


「え、俺?」


 話しかけてきたのは銀色の徽章をつけた軍人。

 えーっと……この色は何の階級だっけ?


「うん。もしかして他の仕事ある?」


「え、えっと……俺、入隊しに来たんですけど」


「ん……? ああ、既覚者(きかくしゃ)か。

 ややこしいから、入隊式が終わるまで銅色の徽章は外しといてもらえる? ごめんね」


 そう言うと、軍人は去って行った。

 何だったんだ?


「そういえばイージャくん、徽章持ってるんだよね。私たちは貰ってないんだけど」


「そうなのか? これはホルスト元帥に貰ったやつだ」


「すでに魔導に覚醒している人は、訓練兵を免除されて最初から二等兵の資格を持ってるらしいな。俺も詳しく知らないけど」


 ザガリスの言葉に納得する。

 俺はもう魔導に目覚めてたから、徽章を渡されたのか。

 たしかに、これだと正規の兵と間違われそうだな。

 ポケットにしまっておこう。




 列に並ぶと、しばらくして城の中に案内された。

 大広間の椅子にはたくさんの人が座っていた。俺たちも順に座る。


 今回の入隊者は約二百人らしい。

 例年とそこまで変わらない数字だ。

 全員が着席し、数分が経つ。


『静粛に』


 ふと、心地よい低音が耳を打った。

 ざわめきが一瞬で収まる。


 壇上に見えるのは……水色の髪を束ねた男性。

 あの服装はホルスト元帥と同じ。

 彼も元帥なのだろう。名前はわからない。


『これより、皇帝陛下より御言葉を賜る。

 一同、傾聴せよ』


 元帥が壇から降りる。

 数秒後。


 ――来る。

 それは素人の俺にもわかるほど、圧倒的なオーラだった。

 俺がこの都市に来て感じた独特な雰囲気と、まったく同質のもの。


 足音を響かせて歩いてきた……偉大なる人物。

 外見は少女のようだが、内に秘めたる力は尋常ではない。


 空色の長髪をなびかせ、壇の上に立つ。

 薔薇色の瞳で席を見渡した。

 一瞬、目が合ったような気がする。


『我が名はアビスソレイユ。

 この世界(ノアティルス)を束ね、貴君らを導く皇帝である』


 皇帝陛下……名を『アビスソレイユ』

 直接的に名前を口に出すことは不敬とされている。

 世界すべてを統一し、九の元帥と皇帝軍を麾下に置く絶対君主。


 こうしてお目にかかれる日がくるとは。

 アバドンは馬鹿だ。

 あの絶対的な現人神に敵うわけがない。


 今、こうして言葉を聞いているだけでも……重圧に倒れそうになるほどだ。

 横のザガリスも全身を強張らせている。


『貴君らは、その志、その魂を我がために奉じ、泰平のために捧げるものとした。覚悟を讃え、そして受け入れよう。我が名の下に、意志を為せ』


 それだけを告げると、皇帝陛下は口を閉ざして去って行った。

 瞬間、重圧が解ける。


 ……息苦しさが消えた。

 目の前に立ったり、会話したらどうなってしまうんだろうか。

 とりあえず気絶はするだろうな。


 正直、話はあまり聞いてなかった。

 意訳すれば『がんばれ』ってことだろう。


「それでは、これより魔導受贈の儀に移る。入隊者は別の会場に移動するように」


 元帥が案内を促し、俺たちは別の会場に移動した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ