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暗闇の怪物  作者: 朝露ココア
3章 基地襲撃事件
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6. インビジブル

「一日目、異状認めず。輸送作戦は滞りなく遂行……っと」


 報告書に記載し、本日の任務は終了。

 翌日も任務がある。


 他の四人が寮へ戻る中、俺は報告書を中央に書きに行っていた。

 俺たちに割り当てられた寮は、本部の寮と比較したらかなり狭い。

 まあ仕方ないだろう。

 ユーリは文句を言っていたが、明後日になれば帰れる。


 しかし、皇帝軍の人手不足も深刻だな。

 俺たちのような新兵をこんな辺境の輸送作戦に動員するとは。

 しかも管轄外の軍事だ。


「終わったか。お疲れさま」


「レヴハルト少尉……! お疲れさまです!」


 背後から声がかかり、急いで敬礼する。

 レヴハルト少尉は報告書を確認して頷いた。


「何も問題はなかったかな?」


「はい、滞りなく任務は遂行されました!

 そして……ユーリ二等兵の失言、お許しください」


 あいつの分まで俺が頭を下げて謝罪する。

 このあと謝りに行こうと思っていたが、ちょうど少尉が来てくれた。


「別にいいよ。ああいう怠惰な獣は変わらないさ。

 それよりも君、名前は?」


「はっ! イージャ・キルシャです!」


「ああ、やっぱり。イージャ上等兵か。

 ミラ元帥が言ってた人だね」


 俺のことを知っている?

 もしかして……例の件で有名人になってしまったか?


「それは……ロスト元帥に逆らったことで知られているのでしょうか」


「うん。ミラ元帥がおもしろそうに語っていた。

 君のような大馬鹿者、一周回って俺は好きだよ」


「恥ずかしい……すでに噂が広がっているとは」


「いや、あんまり広まってないよ。俺はミラ元帥の側近をしてるから聞いただけで。ほとんどの人は君の蛮行を知らないんじゃないかな」


 そうなのか。安心した。

 でも、側近……?

 レヴハルト少尉はそんなに元帥に近い存在なのか?


「側近ということは、ミラ元帥も近くに?」


「いや。彼女は城にいる。

 今回の任務は俺としても謎でね……本来は側近の俺が、ただの警備に回されている。人手不足とは言っても、他に動かす人員がいるだろう。君も不自然な人の流れを感じただろう?

 何か別の目的がありそうだ」


「別の目的、とは?」


 レヴハルト少尉は首に手を当てて考え込んだ。

 少し話すのを躊躇っているようだ。


「隠していても仕方ないか。

 俺は普段、暗殺の仕事をしている。人殺しの手腕を買われてミラ元帥の側近になった。階級を少尉に留めているのも、行動の幅を広げるためだ。

 だから今回は……人を殺す必要があるんじゃないかな」


「え……人を殺す必要……」


「元帥たちの関係性は一枚岩じゃない。ミラ元帥が俺にまで説明していないということは、かなり監視の目を気にしているな。遠見や盗聴の魔導を警戒しているんだろう。

 治安維持軍が噛んでいるとなると、今回はホルスト元帥の手引きか……?」


 レヴハルト少尉は何を言っているんだろう?

 俺じゃ全く理解できない。

 だが、並々ならぬ雰囲気は感じ取れた。


「要するに、不穏分子が基地内に潜んでいる。今日は何も起こらなかったようだが、明日は特に注意してくれ。俺も個人的に怪しい箇所を探っているが、まだ掴めている情報はない」


「わ、わかりました。俺の仲間にも共有しておいた方がいいですかね」


「やめておけ。信用できない。

 気を抜かず警備を行うように、とだけ伝えておくといい。緊急時はあまり皇城からの応援をアテにせず、自分たちの力で戦い抜くことだね」


 静かに頷いた。

 残念なことに、俺は頭が回らない。

 難しい策略は上官に任せておくべきだろう。


 それと、気になっていることが一つある。

 どうしても尋ねたかった。


「あの、ひとつお尋ねしても?」


「うん」


「レヴハルト少尉は暗殺をしているとのことですが……それはアバドンを殺すこともあるのですか?」


「あまり詳しくは言えないけど、それは君たちの仕事だ。俺の仕事は……身内を斬ること、情報を集めること。接敵すればアバドンもリリスフィスも殺すけどね」


 どうしてそんなことを。

 仲間を殺す必要がどうしてある?


 そりゃ、反抗的な態度を取る人もいるだろう。先日の俺みたいに。

 でも殺すまでしなくても。


「目に見えるモノがすべてじゃない。君が信じている『あの人』だって、もしかしたら陛下に牙を剥く者かもしれない。俺は確たる証拠を集め、反乱分子を消しているだけだよ」


「……」


「まあ、そういう汚い仕事は君の管轄じゃない。明日の警備に集中してくれ」


 そう告げてレヴハルト少尉は出て行った。

 馬鹿正直に生きる俺にとって、彼の姿勢は解せないものだ。

 だけど彼なりの信念は感じ取った。


 上官命令だ。

 明日の警備に全力で取り掛かろう。


 何か抗争が起きそうな場合……そうだな。

 他の四人を守る手段を考えておくか。


 ---


「明日の警備について、少し変更がある」


 その夜。

 俺はみんなを集めて打ち合わせを行った。


 哨戒ルートを示した地図を広げ、指先でなぞる。


「今日は二人と三人に分けて行動したが、明日はこのルートを五人で回ろうと思う」


 危険があるのなら、できるだけ固まった方がいい。

 みんなを守る手段といえば、俺が傍にいることくらいしか思いつかなかった。


 ベスリーが首を傾げる。


「でも、なんで五人で動くの?」


「そうだな……ユーリとリラがサボってないか心配だし。

 何より、緊急時のことを考えたら集団で行動した方がいいだろ」


 俺の意見にリラが不服を申し出た。


「ぼく、仕事だけはちゃんとするわよ。それに分かれた方が多くの場所を守れるでしょう?」


「それはそうだな。でも、人命を守る観点からすれば人は多い方がいい。物資の安全を取るか、人の安全を取るかの話だ。

 それにお前、今日ユーリとベスリーを置いて逃げただろ。話は聞いてるぞ」


「…………」


 そう言うと彼女は押し黙った。

 二人を置いて、ふらふらどっかに行ったらしい。

 なにが『仕事はちゃんとする』だよ。


「ところでお前らさ、異状なしって報告は受けたけど。少しでも変なところとかなかったか?」


 みんなは今日の出来事を思い出すように考え込んだ。

 ユーリが発言する。


「そうだな……輸送係員の子がかわいかったぜ」


「お前は黙ってろ」


「なんだよ。イージャもかわいい子とか興味あるだろ?」


 これが公私混同の代表例と言ってもいいな。

 せめて俺の目の届かないところでふざけてくれ。


 続いて、ダイトが思いついたように発言する。


「……そういえば、一箇所だけ開かない倉庫があった」


「開かない倉庫……ああ、あそこか。中を確認しようとしても開かなかったんだよな。倉庫は全部開いてるって話だったけど」


 倉庫整理でもしているのかと思ってスルーしていた。

 これ、報告案件だな……レヴハルト少尉にすぐ連絡しよう。


「ちょっと待っててくれ」


 俺は軍用携帯を持って部屋の外に出る。

 そこに不審者が潜んでいるかも。

 俺としたことが迂闊だったな。

 あの時は侵入者がいるなんて思いもしてなかったから……つい油断してしまった。



 簡潔に情報を伝達する。

 レヴハルト少尉は『今すぐ確認に向かう。ありがとう』とだけ告げて電話を切った。

 よし、これで安心だな。


 部屋に戻ると、またユーリとベスリーが何かを言い合ってる。

 なんかアレだな。日常風景になりつつあるな。


 俺が温かい目で見守っていると、リラが話しかけてきた。


「イージャ。何を電話していたの?」


「いや、他愛もないことだよ。一箇所、倉庫の確認を忘れたとだけ」


「そう。……あの二人、本当にうるさいわ。

 どうしたら黙ってくれるのかしら」


「黙らせようとすると、ますますうるさくなる。コツとしてはユーリじゃなくてベスリーを注意するといい。ベスリーは良識があって、引き下がってくれるからな」


「上司も楽じゃないのね……」


 正直、リラに制御できるとは思えない。

 その点についても、ユーリとベスリーを彼女と行動させたのは失敗だったな。


 明日はきっと大丈夫。

 俺も油断しない。

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