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暗闇の怪物  作者: 朝露ココア
3章 基地襲撃事件
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5. 不穏

 配属された基地はそれなりに広い。

 俺はダイトと一緒に指示されたルートを回っていた。


 特に異状はない。


「ユーリと一緒になると、本当に困ることが多いよな……」


「……ああ」


 基本的に俺らの空間は静かだ。

 二人とも積極的に喋る性格じゃない。

 どちらかと言えば俺の方が喋るけど。


 遠くでは荷物が航空機に積み込まれている光景が見えた。


「しかし、なんで同期の五人で任務なんだろうな? ダイトは知ってるか?」


「元帥が決定したと……噂を聞いた。理由は知らない」


 まあ、上の考えてることなんてわからないよな。

 同期の絆を深めさせよう……とかが理由だろう。


 俺としても気軽に仕事できる仲間は欲しい。

 だが、ユーリだけはお断りしたいところ。


「……よし。ここまで来たら折り返しだな。

 特に問題はないよな?」


 ダイトは頷いた。

 異常事態なんて普通は起こらないもんだ。

 たしかに楽な仕事ではあるな。


 でも、俺は皇帝軍に警備したくて入ったわけじゃない。

 アバドンとの争いを撲滅するために入ったんだ。


「ところでさ。ダイトはどうして皇帝軍に?」


「……子どものころは警察官になるのが夢だった」


 ゆっくりとした口調で、ダイトは語る。


「だが……悪人から人を守るには、警察官になるよりも軍人になる方が……いいと思った。自分の手で戦って人を守りたい。それが理由だ」


「へえ。俺と似た感じだな」


「……そうなのか?」


「俺も争いを止めることが目的だよ。

 秩序ある世界を実現するために、俺は皇帝軍に入った。一緒にがんばろう」


 力を合わせれば、さらに大きな目的を見据えられる。

 つい先日、ホルスト元帥とルチアノさんを見た時からだった。

 俺も切磋琢磨する仲間が欲しいと思っていたところだ。


 他人を拒絶するリラはどうだろうか。

 なんだかんだで仲良くなっている気はするけど……あいつはとにかく、やる気が感じられない。

 魔導に目覚めたから皇帝軍に入った、みたいな姿勢を感じる。


 どんな人だって長所と短所があるだろう。

 気長に付き合ってみるか。


 ---


(……だる。帰りたい。しんどい。

 早くこの仕事辞めたいわ……)


 一方そのころ、リラは萎えていた。

 昼間の任務というだけで嫌になるのに、加えて二人を監視する必要があった。


 眼前ではユーリとベスリーが喧嘩している。


「他のみんなにも迷惑かかってる!

 ユーリは自分をまともに見せる努力が足りないよ!」


「はあ? 努力は自分がするもんじゃない。他人にさせるもんだ。正直者が馬鹿を見るって言葉知ってるか?」


「あ、あんたね……昔は素直でかわいかったのに!

 なんでこんなクズになっちゃったの?」


 警備どころではない。

 二人は言い合いに熱中して仕事を怠っていた。

 他の軍人に見られたらマズい。


「きみたち、うるさい。上官の前で職務怠慢とはいい度胸ね」


「あっ、ごめんなさい……!」


「リラさん、俺はちゃんと仕事しようとしてたぜ?

 ベスリーが話しかけてくるのが悪いんだ」


 イージャとダイトの組とは異なり、こちらの雰囲気は険悪。

 おそらくリラとベスリーの二人なら普通の雰囲気になっていただろう。


 呆れてリラは視線を逸らした。


「……」


 現在、三人は基地の北東部にいる。

 輸送用の航空機は南東から来るので、ここの警備はそこまで重要ではない。

 重要な箇所はもっと階級が上の人々に任せられている。


 ユーリとベスリーが喧嘩していても、特に問題はなさそうだ。

 それどころか二人きりにして放置してもいいだろう。

 どうせここに上官は来ない。


「二人とも。ぼくはちょっと別のルートに行くから。

 ここは任せてもいい?」


「え、リラさん!?」


「おう、大丈夫だ! 気をつけてな!」


 ユーリは監視の目がなくなることに喜び、リラを送り出す。

 ベスリーは困惑していたがリラの知ったことではない。


 彼女は先程視線を向けた先へ歩き出す。

 少し遠くには作業している軍人と……自販機があった。

 リラは異様に喉が渇いていたのだ。


 ---


「どうすりゃいいんかねー。本当にじれったいぜ」


 基地の陰で、アバドンの男……ユタは欠伸をした。

 茶髪のツンツンした髪をかき上げて天を仰ぐ。


 イージャたちが来ると同時。基地にアバドンが潜入していた。

 厳しい警備の目を掻い潜り、いとも容易く。


 退屈そうに身体を動かすユタを見て、傍の少女が笑う。


「本当に堪え性がないろんね。指令があるまで待つろん。時間が来たら存分に暴れさせてやるの。

 ……でも、思ったより動きづらいろんね」


 ろんろん喧しいのは、ユタと共に行動するレナスという黒髪の少女。

 彼女は望遠鏡で基地の様子を観察していた。


「動きづれえって、アレか?

 大将がいるからか?」


「んにゃ。(とき)大将はそこまで危険じゃないろん。いや、もちヤバい部類ではあるけど。皇城からの本隊もリーダーが遅れさせてくれるはずだし、輸送の妨害だけならノープロブレム。

 ただ、ろんたちが撤退するとなると問題があろん」


「どーいう意味だよ。邪魔もんがいるなら全部ぶっ殺せばいーだろ」


 ユタのあまりの短絡的な思考に、レナスは嘆息した。


「ばーかーろん。ろんたちが注意しなきゃならんのは、あのレヴハルトとかいう化け物ろん。あいつ、少尉のくせに大将よりヤバい。辰大将が霞んでるろん」


「お!? そんな面白そうなやつが!?」


 立ち上がろうとする戦闘狂のユタを制止する。

 レナスはこの馬鹿を見るのに精一杯だった。

 戦闘面では頼りになるが、作戦面では事故要因。


「ユタが暴れて、ろんが破壊工作するろん。他のメンバーは誘導に使って、あと……姫も来てるみたいろん。あいつにもサポートしてもらうよう、こっそり伝えておくろーん」


 ニヤニヤとレナスは笑った。

 彼女もまた戦闘狂ではないが、一種の狂人であった。


 アバドンは普遍的に狂っている。

 この世界(ノアティルス)の人命を奪うことに抵抗がない。

 これから起こる紛糾を、今か今かと待ち侘びていた。

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