5. 不穏
配属された基地はそれなりに広い。
俺はダイトと一緒に指示されたルートを回っていた。
特に異状はない。
「ユーリと一緒になると、本当に困ることが多いよな……」
「……ああ」
基本的に俺らの空間は静かだ。
二人とも積極的に喋る性格じゃない。
どちらかと言えば俺の方が喋るけど。
遠くでは荷物が航空機に積み込まれている光景が見えた。
「しかし、なんで同期の五人で任務なんだろうな? ダイトは知ってるか?」
「元帥が決定したと……噂を聞いた。理由は知らない」
まあ、上の考えてることなんてわからないよな。
同期の絆を深めさせよう……とかが理由だろう。
俺としても気軽に仕事できる仲間は欲しい。
だが、ユーリだけはお断りしたいところ。
「……よし。ここまで来たら折り返しだな。
特に問題はないよな?」
ダイトは頷いた。
異常事態なんて普通は起こらないもんだ。
たしかに楽な仕事ではあるな。
でも、俺は皇帝軍に警備したくて入ったわけじゃない。
アバドンとの争いを撲滅するために入ったんだ。
「ところでさ。ダイトはどうして皇帝軍に?」
「……子どものころは警察官になるのが夢だった」
ゆっくりとした口調で、ダイトは語る。
「だが……悪人から人を守るには、警察官になるよりも軍人になる方が……いいと思った。自分の手で戦って人を守りたい。それが理由だ」
「へえ。俺と似た感じだな」
「……そうなのか?」
「俺も争いを止めることが目的だよ。
秩序ある世界を実現するために、俺は皇帝軍に入った。一緒にがんばろう」
力を合わせれば、さらに大きな目的を見据えられる。
つい先日、ホルスト元帥とルチアノさんを見た時からだった。
俺も切磋琢磨する仲間が欲しいと思っていたところだ。
他人を拒絶するリラはどうだろうか。
なんだかんだで仲良くなっている気はするけど……あいつはとにかく、やる気が感じられない。
魔導に目覚めたから皇帝軍に入った、みたいな姿勢を感じる。
どんな人だって長所と短所があるだろう。
気長に付き合ってみるか。
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(……だる。帰りたい。しんどい。
早くこの仕事辞めたいわ……)
一方そのころ、リラは萎えていた。
昼間の任務というだけで嫌になるのに、加えて二人を監視する必要があった。
眼前ではユーリとベスリーが喧嘩している。
「他のみんなにも迷惑かかってる!
ユーリは自分をまともに見せる努力が足りないよ!」
「はあ? 努力は自分がするもんじゃない。他人にさせるもんだ。正直者が馬鹿を見るって言葉知ってるか?」
「あ、あんたね……昔は素直でかわいかったのに!
なんでこんなクズになっちゃったの?」
警備どころではない。
二人は言い合いに熱中して仕事を怠っていた。
他の軍人に見られたらマズい。
「きみたち、うるさい。上官の前で職務怠慢とはいい度胸ね」
「あっ、ごめんなさい……!」
「リラさん、俺はちゃんと仕事しようとしてたぜ?
ベスリーが話しかけてくるのが悪いんだ」
イージャとダイトの組とは異なり、こちらの雰囲気は険悪。
おそらくリラとベスリーの二人なら普通の雰囲気になっていただろう。
呆れてリラは視線を逸らした。
「……」
現在、三人は基地の北東部にいる。
輸送用の航空機は南東から来るので、ここの警備はそこまで重要ではない。
重要な箇所はもっと階級が上の人々に任せられている。
ユーリとベスリーが喧嘩していても、特に問題はなさそうだ。
それどころか二人きりにして放置してもいいだろう。
どうせここに上官は来ない。
「二人とも。ぼくはちょっと別のルートに行くから。
ここは任せてもいい?」
「え、リラさん!?」
「おう、大丈夫だ! 気をつけてな!」
ユーリは監視の目がなくなることに喜び、リラを送り出す。
ベスリーは困惑していたがリラの知ったことではない。
彼女は先程視線を向けた先へ歩き出す。
少し遠くには作業している軍人と……自販機があった。
リラは異様に喉が渇いていたのだ。
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「どうすりゃいいんかねー。本当にじれったいぜ」
基地の陰で、アバドンの男……ユタは欠伸をした。
茶髪のツンツンした髪をかき上げて天を仰ぐ。
イージャたちが来ると同時。基地にアバドンが潜入していた。
厳しい警備の目を掻い潜り、いとも容易く。
退屈そうに身体を動かすユタを見て、傍の少女が笑う。
「本当に堪え性がないろんね。指令があるまで待つろん。時間が来たら存分に暴れさせてやるの。
……でも、思ったより動きづらいろんね」
ろんろん喧しいのは、ユタと共に行動するレナスという黒髪の少女。
彼女は望遠鏡で基地の様子を観察していた。
「動きづれえって、アレか?
大将がいるからか?」
「んにゃ。辰大将はそこまで危険じゃないろん。いや、もちヤバい部類ではあるけど。皇城からの本隊もリーダーが遅れさせてくれるはずだし、輸送の妨害だけならノープロブレム。
ただ、ろんたちが撤退するとなると問題があろん」
「どーいう意味だよ。邪魔もんがいるなら全部ぶっ殺せばいーだろ」
ユタのあまりの短絡的な思考に、レナスは嘆息した。
「ばーかーろん。ろんたちが注意しなきゃならんのは、あのレヴハルトとかいう化け物ろん。あいつ、少尉のくせに大将よりヤバい。辰大将が霞んでるろん」
「お!? そんな面白そうなやつが!?」
立ち上がろうとする戦闘狂のユタを制止する。
レナスはこの馬鹿を見るのに精一杯だった。
戦闘面では頼りになるが、作戦面では事故要因。
「ユタが暴れて、ろんが破壊工作するろん。他のメンバーは誘導に使って、あと……姫も来てるみたいろん。あいつにもサポートしてもらうよう、こっそり伝えておくろーん」
ニヤニヤとレナスは笑った。
彼女もまた戦闘狂ではないが、一種の狂人であった。
アバドンは普遍的に狂っている。
この世界の人命を奪うことに抵抗がない。
これから起こる紛糾を、今か今かと待ち侘びていた。




