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暗闇の怪物  作者: 朝露ココア
3章 基地襲撃事件
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4. 警備任務

 もそもそと食堂でオムライスを食っていた。

 今日の食堂は人が多い。

 というのも、時間が昼だからだ。


 隣にはめちゃくりゃ怠そうなリラ。


 今日の任務は昼間に行われる。

 仕事で一番しんどいのは、こうやって生活リズムを調節すること。

 夜勤からいきなり昼勤に切り替わるのはキツい。


「よお、リラさん! ……とイージャ」


 気さくに俺たちの前に座った男。

 ユーリ・ベオン。

 こいつは治安維持軍に配属されてしまったようで。


「なあリラさん。イージャといてもつまんないだろ?

 俺と一緒に食事でもどうかな?」


「f――」


 なんかリラが言ってはいけない言葉を呟いた気がする。

 聞こえないくらい小声だったけど。


 新兵の中で治安維持軍に入ったのは、俺含めて五人。

 迎撃戦であんなに死んでいなければ、もっと人が来てたんだろうな。

 そんな新兵五人で任務に当たることになった。


「うるさい人間は嫌いなのよ。失せろ」


「辛辣だねえ。綺麗なバラには棘があるってね……」


 迎撃戦で覚悟を決めたと思ったんだが、ユーリの態度は軟派なまま。

 女性には片っ端から声をかけてるし、仕事はあまりやる気がなさそうだ。


 まあ、深層心理で変わった部分があるのは気づいてるけどな。

 少なくとも表層的には変わっていない。

 風紀が乱れる。


「あ、いたいた。ちょっとユーリ、またリラさんに迷惑かけてる!?」


「げ。来んなよ」


 だが、ストッパーもいる。

 桃色の髪をポニーテールでまとめた少女。


 名前はベスリー・ティアン。

 曰く、ユーリの幼なじみというか……小学校が同じだったとか。

 俺たちの同期でもある。


「仮にもリラさんとイージャさんは上官! 迷惑かけちゃダメー!」


「人が何をしようが勝手だろ……」


 彼女がユーリの暴走をしきりに止めている。

 おかげでユーリの態度はそこまで問題になっていなかった。


 普段は強気なユーリも、ベスリーの前では萎縮する。

 ベスリーが言うには、昔のユーリはかなり弱気な男だったらしい。

 その過去を知られているから大人しくなるのだろうか。


「…………」


 その後ろで、二人の様子を眺めるガタイのいい男がいた。

 彼が最後の同期、名をダイト・ラディン。

 短めにそろえた水色の髪。丸い猫のような金瞳。


 ダイトは困ったようにユーリとベスリーの言い合いを眺めていた。

 寡黙な性格だけど、たぶんいい人。


 俺が学科でペンを忘れた時に貸してくれた。

 あと、わからないところを聞いて教えてもらったこともある。


「これで全員揃ったか」


 この五人で任務だ。

 色々と心配になるが……何とかなるだろう。


 俺たちは夜勤だから、交友関係がほとんど広がらない。

 こうして同期と仕事をすることも貴重な機会だ。

 気合を入れてがんばろう。


 ---


 今回の任務は警備。

 レーダー施設、および燃料保管庫を守ることになる。


 大きな物資の輸送があるようだ。

 俺たち五人は、城から街ふたつほど離れた基地に到着した。


「なーんで俺たちが警備なんてしなきゃなんねえんだよ。治安維持軍と警備軍は別物だろ?」


「人手不足だ。仕方ない」


 ユーリの愚痴に適当に答える。

 俺だってアバドンに関連する任務をしたい。

 でも、望むことばかりできる仕事なんてない。


 到着した俺たちを出迎えたのは、紫色で三ツ星の徽章をつけた女性。

 旗袍(チーパオ)のような制服。

 八部元帥の軍だったかな。


「みなさん、よく来てくださいました。

 私はこの基地を管理する(とき)大将です。お忙しい中、私たちの仕事に協力してくれてありがとうございます」


 俺たちは一斉に敬礼する。

 大将なのにやたらと腰が低い。


「みなさんには規定のルートを巡回し、異常がないかをチェックしてもらいます。単純な警備のお仕事ですが、大量の兵器を輸送するので責任は大きいです。しっかりと自覚を持って警備に当たってくださいね。今日と明日の二日間、警備に協力してもらいます。

 仕事の詳細は四番拠点にいるレヴハルト少尉に聞くように。それでは失礼します」


 笑顔ながらも大将の言葉はシビアだった。

 簡単な仕事でも油断するなと言っているのだ。


 大将が去った後、最初に口を開いたのはベスリーだった。


「あの辰大将って人、勇祈中将と付き合ってるらしいよー」


「どうでもいい情報すぎる……」


 ユーリは呆れていた。

 俺も他人の恋愛感情に興味はない。

 しかも、よく知らない他軍の二人だし。


「お前ら、雑談してないで行くぞ。

 えっと……何番の拠点に行くんだっけ」


「…………四番」


「ああ、そうだ。ありがとなダイト」


 さっそくアホをかました俺に、ダイトが助言をしてくれる。

 普段は無口だけど、こういう時はやはり頼りになる。

 彼は人の話を集中して聞いているのだろう。


 一応俺とリラが上等兵で、他三名が二等兵。

 統率は俺たちの役目だ。

 リラは全くやる気がなさそうだけど。




 というわけで、四番拠点にやってきた。

 プレハブ小屋のような建物に通され、座って待つこと数分。


「待たせたね」


 二人の男性が入ってきた。

 一人は少尉、もう一人は一等兵。


 制服は黒を基調としたもの。

 ゴシック調で丈の長いコートを着ている。

 ミラ元帥が管轄する軍の制服だ。



 俺たちが立ちあがって敬礼すると、少尉は座るように促した。

 雪のように白い髪、血のように紅い瞳。

 見た目は若いな。もしかしたら俺よりも年少かもしれない。


 ……というかすごいイケメンだな。

 この顔立ち、どこの地方の出身だろう?

 見たこともない雰囲気を纏っている。


 彼は俺たちの前に座り、一等兵は少尉の後ろに立って控えていた。


「はじめまして、俺はレヴハルト。

 この場を預かる指揮官だ。君たちのような優秀な人を迎えられて光栄に思う」


 柔らかい笑顔でレヴハルト少尉は言った。

 なんか、あまり上官という感じがしないな。

 愛想がいいし、見た目も若いし。


「今回の仕事は警備だ。サルでもできる仕事だから、優秀な君たちなら失敗しないと思う。哨戒ルートはこの地図を見てくれ。輸送機を外部の手から保護し、侵入者を排除すること。装備は武器科から受け取ってくれ。

 ……ここまで質問は?」


 ユーリが手を上げた。

 おい、変な質問するなよ?


「これは楽に終わる仕事ですか?」


 この馬鹿野郎……!?


「興味深い質問だね。ただ突っ立っているだけでお金がもらえる、楽な仕事だよ。

 命の保証はできないけどね。君のように仕事を効率的に終わらせようとする人は、将来出世するだろう。有能に違いないし、名前を覚えておこうか。名前は?」


「はい、ユーリ・ベオンです!」


「把握した。ユーリ・ベオン。

 優秀な人材として上に報告しておこう。君は有能そうだし、俺が助ける必要もなさそうだ」


 ユーリは喜悦の表情を浮かべている。

 一方、俺たちは頭を抱えた。

 これは後で始末書ものだな。


 レヴハルト少尉は明らかにユーリを軽蔑して話している。

 ……が、当人は気づいていない。

 ヘラヘラしやがって……


「他に質問はないかな?

 ……大丈夫そうだね。活躍を期待しているよ」


 最初に会ったときと違い、レヴハルト少尉の目は笑っていなかった。

 どこか寒気のする声色だ。


 少尉が部下を連れて去った後、ベスリーが怒鳴った。


「ユーリ!! あんた何言ってんの!?」

 

「ん? どうした、みんな。そんな青褪めた顔で俺を見て。

 イケメンすぎて見惚れたか?」


「違うって! あんた、マジで……」


 駄目だコイツ。

 救いようがない。


「ベスリー、もう諦めろ。少尉には後で俺が謝罪を入れておく。それはそれとして、ユーリは始末書を書かなきゃいけないかもな」


 ロスト元帥に逆らった手前、俺もあまり強く糾弾できない。

 上官に失礼な態度を取ったという意味では、俺も同じだから。


「イージャ……また迷惑かけてごめんね。ユーリはさぁ、上司の前で『仕事を楽に終わらせたい』なんて言う?

 適当に仕事してますって宣言してるようなもんだよ」


 ベスリーの問いに、ユーリは鼻をほじって答えた。


「仕事は楽に終わらせるべきだろ。その方がストレスも少ないし、他の仕事に時間も回せる。おまけに給料もたくさんもらえる。

 楽に終わらせた結果、なにか欠陥があっても俺の責任じゃない。トラブルを引き起こした原因が悪い。もちろん明らかに俺に非があるときは謝罪するけどな。この基地に侵入者とかがいたとしても、悪いのは侵入した奴だろ?」


 ここまできたら、もう矯正できなくね?

 こいつには期待しない方がいいんだろうか。

 一緒に迎撃戦を生き延びた仲間なんだけどな……


 ユーリを糾弾するのはベスリーだけだった。

 リラは気だるげに座っているし、ダイトはいつも通り話さない。

 内心ではどう思っているんだろうか。


「と、とにかく行くぞ。任務開始だ」


 とりあえず任務は真面目に遂行しなければ。

 ユーリの失態の分まで俺が取り返そう。

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