表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暗闇の怪物  作者: 朝露ココア
2章 外敵迎撃戦
14/47

4. 潜む怪物

 『迎撃戦』の作戦について講義を受けた。

 俺たち新兵は補助に回り、外敵の掃討は先輩に任せる方針らしい。

 三人一組の班で行動し、緻密な連携が求められる。

 俺は同じ学科を受けるクラスメイトと組むことになったのだが……


「なんで俺がお前と同じ班なんだ!」


「こっちのセリフだ! クソ、ユーリと同じ班って……」


 例のふざけた野郎と同じ班になってしまった。

 最悪だ。連携なんて取れるわけがない。

 嘆願してなんとか再編してもらえないだろうか……


「ま、まあまあ……二人とも。決まってしまったんだから仕方ないよ。

 少しでも協力できるようにがんばろう!」


 唯一の救いは同じ班になったレブロ。

 レブロは俺とユーリ、二人と交流がある。


 ユーリと直接的に絡みたくないので、レブロを介して行動しよう。

 練兵場で言い合う俺とユーリを見て、周囲の訓練兵は距離を取っていた。

 ユーリは舐めた口調で言う。


「ま、いいさ。俺の役目は後方支援。適当に物資を運んだりしてればいいだろ」


「お前な……! そんな簡単な話じゃねえだろ! 俺たちが怠ければ、先輩方の装備が不足する。そしたら先輩方の命が危なくなる! わかってんのか!?」


「はあ? そんならイージャ、お前が真面目に働けよ。クラスに一人はいるよな、お前みたいな奴。上っ面だけクソ真面目で、実績と能力が伴ってない見かけ倒し。

 内申はいいけど学力は低いタイプだろ、お前」


「お前は他人にレッテル貼りする典型的な男だな。他人の価値を下げて、自分の価値を上げようとするクソ野郎。ユーリみたいな人間は必ず組織を腐らせる」


「テメエ……」


 ユーリが鋭い目つきで俺を睨む。

 前みたいに魔導でぶっ飛ばしてやろうか?


「あーもう! 君たちさあ、少しは仲良くしようよ!」


 レブロが間に割って入る。

 彼がいなければ一触即発の状況だ。


「いいかな、二人とも。人にはそれぞれ個性がある。

 イージャは魔導に目覚めてるし、何事にも真剣に取り組む。ユーリは周囲の人をよく見てるし、皆を引っ張る力がある。お互いの悪いところを見るんじゃなくて、良いところを見ようよ」


 ユーリが周囲の人をよく見てるって?

 ……そういえば、あいつは訓練兵たちのリーダーというか、ムードメーカー的な存在だったな。

 けど俺を引っ張る力はないみたいだな。


 レブロの言葉を聞いて少しは冷静さを取り戻したのか、ユーリは声のトーンを落として話す。


「……でもよ。イージャは魔導に選ばれただけじゃねえか。

 運がいいだけで、優遇されて最初から階級持ちだ。俺は気に食わねえよ」


「その『選ばれた』って言い方、俺は好きじゃないな。魔導は強い意志力によって現出するものだ。俺には明確な意志がある」


「……意志? なんだそりゃ。魔導って目覚める基準があるのか?」


 こいつ……まさか魔導について何も知らないのか?

 俺も皇帝軍に入るまでは『軍の人たちが使う超能力』としか考えてなかったけど。


「知らないのかよ。感情を強く揺れ動かした時、あるいは強い決意を持った時。魔導は目覚めるんだ。

 俺の場合は……親友がアバドンに殺された。その瞬間に思ったんだ、『この世から争いを無くさなきゃならない』って。それが俺の意志で、原動力、そして魔導の源。

 俺は絶対に抗争の禍根を断つ。皇帝軍として秩序に満ちた世界を実現する」


 語っているうちに、語気が強くなっていた。

 無意識にあの日のことを思い出して。


 熱く語る俺を見て、ユーリとレブロは目を丸くしている。

 少し恥ずかしいな。


「……ま、まあ。そういう強い意志がなければ、魔導に目覚めることは絶対にない。お前ら訓練兵がやってる……魔導訓練だっけ? あれ意味あるのか?」


「それは……僕たち訓練兵の中で、魔導に目覚めた者はいない。みんな段々と訓練も適当になって、疑問を感じ始めていたところだ。まさか魔導にそんな原理があるなんて……」


「チッ。俺も知らなかったぜ。ただ運がいいだけじゃなかったんだな」


 無知は争いを生む。

 互いを理解しなければ歩み寄れない。


 ユーリは『イージャは運がいいだけの男』と認識していたが、俺の説明で認識が変わった。

 俺もまた相手が誤解を抱いていたのだと理解できた。

 おもむろにユーリは手を差しのべた。


「まあ、悪かったよ。そんな過去があって……さっきのお前の話には、とんでもない熱があった。手打ちといこうや」


「そうだな。迎撃戦で命を預け合う身だ。円滑な交流をしよう」


「よ、よし! 二人とも仲良く!」


 手を握り返す。

 俺たちの和解を見て、周囲の訓練兵は囃し立てていた。

 ……こいつらが一番邪魔だな。


「ま、でも俺の姿勢は変わらないぜ。サボれるならサボる」


 俺は握った手を離し、ユーリの頬を殴った。

 その後大喧嘩になったのは言うまでもない。


 ---


 月明かりの下、鍛錬を積む。


「甘いな。ドヴェルグの攻撃速度は今の一撃よりも速い」


 ホルスト元帥の突きを受けて、猛烈な勢いで転がった。

 とんでもなく速い。

 そして容赦がない。


「もう一度……お願いします!」


 立ち上がる。

 再び元帥が木剣を突き出す。


 眼前に靄を展開するが、気づけば靄を破って木剣の先端が。

 これがドヴェルグの触手ならば腹を貫かれて死んでいる。


「君の靄は有効な防御手段だ。靄の中に入った物体は速度を急激に落とし、避けるための時間が生まれる。上手いこと攻撃を靄に取り込むことができれば、かなり有利に戦える」


「どうしたら……相手の攻撃を見切れるようになるんでしょうか?」


「ふむ……私の場合は、魔導を体内に『組み込んだ』な。

 そうすることで怪物……いや、失敬。超人のような力を得た」


「体内に組み込む? どういうことですか?」


 魔導はすでに体の一部のように機能している。

 いまいちイメージがつかめない。


「以前、魔導を腕に喩えたな。だが魔導は単一ではない。

 腕であると同時に、目であり、耳である。イージャは腕として魔導を機能させているだろう」


 こくりと頷いた。

 影の針は腕で殴る代わりに。

 黒い靄は腕で守る代わりに。


 たしかに腕として機能している。

 それと速度強化や空中での補助としても使っているから、足とも言える。


「その暗闇を介して、周囲の様子を見ることはできるか? 音や気配を感知することはできるか? 例えば……そうだな。君のような空間に作用する能力は、自分の感覚を『拡大させる』ことが多いな。

 月下、広がる夜闇。これを君の感覚として支配下に置くことは?」


 ホルスト元帥は俺のすべてを見透かしたようだった。

 今までに似たような魔導使いを見てきたのだろう。


 暗闇を支配下に置く、か。

 俺の魔導は人影から発動するが、厳密に言えば『触れている影』から発動する。

 今のように夜であれば、影がつながっている場所のどこにでも攻撃を仕掛けられる。


 試しに、かなり離れた場所に針を出してみた。


「攻撃は遠くに飛ばせます。ただ、感覚を広げるのは……どうすれば」


「瞳を閉じろ」


「はい」


「光を失った状況。照明が落ちるなどのハプニングがあったとしよう。

 眼前に敵が……そうだな、アバドンが現れた。君はどうする?」


 イメージする。

 あの憎たらしい仮面と黒服。


 奴らが……ナイフを持って目の前にいるのを感じる。

 俺を殺そうとしている。

 けど見えない。

 見えないから、為すすべなく殺される。


 この幻影を前にして、俺はひどく不快感を覚えた。

 そうだ、俺は。こいつらが嫌いだ。



 "消さなければならない"



 心の底から思う。

 ずっと思ってたんだ。



「俺の……道を阻むな」



 ――瞬間、脳に焼けるような痛みが走った。

 過剰な処理。信号のやり取り。

 一気に拡大した情報量、感覚。


 俺はいつしか……自分を見ていた。

 周囲に広がる暗闇から視界を飛ばし、自分とホルスト元帥を俯瞰して見ていた。

 人の像を、風音を、疎ましい電灯の光を。

 すべてを感じ取れる。


「……見えました。すべて」


 瞳を開いて報告する。

 ホルスト元帥の眉がわずかに動いた。


「何? すべてが見えたとは……どういうことだ?」


「ええと、闇を介して人の姿、音、光の位置などが見えて。自分の姿を客観して見ることもできるようになりました」


「驚いたな。凄まじい才能だ。

 君はよほど……意志が強いようだな。君ならば、あるいは……元帥を超え得るかもしれない」


「そ、そんなことは」


 ホルスト元帥の言葉に謙遜したが、本音を言えば嬉しかった。

 自分に才能があるってこと。

 元帥に認められたこと。

 そして……この魔導を使って、争いを無くすという目的に近づいたこと。


 もっと力を伸ばす。

 犠牲になる人を少しでも減らすために。


「では、その力を使ってみるか。自分を俯瞰して見れるならば、攻撃が自分に届くタイミングも測りやすくなる。次は私の攻撃を止めてみせろ」


「はい!」


 迎撃戦まで時間がない。

 ホルスト元帥の技を盗むつもりで強くなろう。


 ---


 鍛錬後、ホルストは執務室で書類に目を通していた。

 イージャとリラはこれから仕事に向かうところだ。


「閣下。イージャさんの様子はどうですか?」


 イージャの指導を担当するソウルが尋ねる。

 彼女は日頃からホルストの執務の補佐を行っていた。


 ホルストはペンを止めて考え込む。


「彼の成長は目覚ましい。よほど意志が強いようだな」


「……! それはよかったですね!」


 ソウルの声には喜びの色が混じっていた。

 しかし、ホルストの顔色は優れない。


「……どうだろうか。彼は強すぎるんだ」


「強すぎる?」


「意志力は目的へ邁進するための力となる。一方で、己を縛る枷にもなり得る。

 私はイージャの底に……怪物が棲んでいる気がしてならないのだ」


 ホルストは自分の仲間を想起する。

 世界(ノアティルス)を支配する九の元帥。

 彼らは強大すぎる意志力に懊悩する節があった。


 ただ一人、自分だけは。

 ホルストだけは。

 その限りではないように思う。


 彼には怪物ではないとの自覚がある。


 ――人はその感情を『劣等感』と呼んだ。


「強すぎる意志は魔導を……奇跡を肥大化させ、やがて使い手すらも食い潰す。彼らの末期はいつも悲惨なものになる。イージャの開花は素晴らしいが、それが行き過ぎないことを祈るよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ