猫の憂鬱
高校生の暇つぶしです。とっても短い。
いくら歩けど辿り着かない。原因については、ほとんど分かっている。きっと、いや確実に、あの鼠に騙されたのだ。全く、他の者を蹴落としてまで一番を渇望するなど、人と成り下がるようではないか。醜い。
もう随分時もたった。今更戻ることなど、考えもしない。今戻ったって、十二匹の内に入れるわけは無い。せいぜい、十六匹目くらいが相当な時間であろう。
仕方ない。こっちにはあまり来ていなかったことだし、散歩という名目で歩くことにしよう。ここまで、道はわかりやすかった。帰れなくなる心配もない。
今、猫は山吹色の雲の上に腰をおろしている。来た道は座っている猫から見て、右斜め前程である。神々しく、人が見れば大きな感動を与えるような景色は、それでも、猫の憂鬱を取り除くことは出来なかった。猫は、座り込みながら、何かから逃げていた。猫は足の疲労を感じていない。そこまで長い距離を歩いたわけではないのである。その事実が、猫を座らせていた。
その時、ある熱気がちょうど左の胴体から猫を包んだ。暖気は寒気に被さる時、雨を降らす。確かに猫の心には、雨が降っていた。そして、猫の気分は雨のように落ちていく。そのあと雨は、地面に染み、伏流に加わり、海に出る。そして、かき混ぜられ、水面を見上げるようになれば、深く、深くまで落ちていくのみである。
体の向きを変え、熱気の中心を見ようとすれば、そこには5つほど影があるように見えた。宴だ。自慢話と、酒の匂いが溢れている。早朝だと言うのに、夜まで持ちそうなほどには活気があった。その宴会場との温度差は、猫の心をさらにかき混ぜた。
陰を極めた猫の耳に、自慢話など入ってきやしない。また目を上げてそちらを見れば、影が一つ増えている。馬のようだ。馬は歓迎され、さらに熱を増す宴会場を前に、猫は反転した。
猫は、何かが上から迫ってくるのを感じ、それを下に見たのであった。「そうだ。あれに選ばれてしまえば、きっと忙しくなるに違いない。私は、あの鼠が忙しくしている間も、自由なのだ。なぜそんな自らを追い詰めるようなものに熱狂的になっていたのか。くだらない。」
僅かな可能性を嫌い、戻ろうともせず、自分を正当化し、気だるそうに雲をわたる猫の姿は、まるで、人と成り下がったようである。