4 中三時代、つまり今年の六月
貴子さんはテニス部に入っていたが、そちらの部活は辞めてしまって。そして私が所属している文芸部に入ってきた。夏になってからは三年生の先輩も部活には来なくなって、二年生の私が次期部長として、部室の鍵を預かる立場となった。お陰で私と妹の貴子ちゃんは、鍵を掛けた部室で二人きり、仲良く過ごす事が多くなったものである。
私は相変わらず、同級生や下級生の子を勉強会に誘い続けていて。その度に貴子ちゃんは寂しそうな顔をしていたけれど、私に抗議した事は一度も無かった。そう私が上下関係を叩き込んだのだが、私は私で、何故か以前ほどは勉強会を楽しめなくなってきていた。
そして時は流れて今年、私と貴子ちゃんは三年生となっている。『立つ鳥、跡を濁さず』ではないけれど、私は勉強会に誘う子を限定し始めた。
「私にも勉強を教えて!」と頼んでくる子が多くなりすぎたというのも、原因の一つではある。そういう子には、学校で(あくまでも普通に)勉強を教えている。週末の勉強会は、変わらずベッドの上で楽しんでいて、そこに招待する生徒は文芸部の後輩だけになった。
人間関係が多くなりすぎると、トラブルの原因になりかねない。私のように性愛が絡めば、そのリスクは上昇するだろう。私は基本的に、女の子達をセックスの対象としか見ていなくて、だから相手から「好きです!」などと告白されても断り続けていた。性愛の、精神的な愛の部分を私は与えてあげられなかったから。
つまり中学卒業が間近になって、私は人間関係の整理を始めたのだ。自分で言うのも何だけど、こんな爛れた生活というか性活が、いつまでも続く訳が無い。最上級生にして学力も神童扱いされている私は、もはや校内で一種のカリスマとなっていた。皆が遠巻きに私を見つめて、そして近づきたがる。私の低身長も、「却って神秘性を感じさせる」のだと貴子ちゃんは言っていた。
注目を浴び続ける学校生活に、私は疲れ始めていたのだろう。そんな私の傍に、まるでアイドルを守るマネージャーのように、貴子ちゃんは居続けていた。三年生のクラスでも私と貴子ちゃんは一緒になっていて、私に近づきたがる子達を彼女は適当に処理してくれた。
文芸部の後輩を週末の勉強会に誘う事で、私は学校生活でのストレスを発散させていた。文芸部に居るのは全部で五人だ。三年生が私と貴子ちゃんで、後輩が三人である。その三人の後輩達を一人一人、私は濃密に可愛がった。私には一つのアイデアがあって、それを実現するためにも、後輩への指導は念入りなものになっていった。
季節は六月となった。ゴールデンウィークが過ぎて、オミクロン株の感染者数も全国的に減ってきている。私は親の許しを得て、これまでは一人ずつしか招待できなかった勉強部屋に週末、ついに文芸部の全員を入れる事ができた。つまり私、三人の後輩、そして貴子ちゃんである。
勉強部屋のベッドは女の子が五人乗れる物で、やっと役割を十全に果たす事ができる訳だ。そのベッドの上に、私は白い下着を付けた状態で横たわっている。そして私を見下ろすのは、貴子ちゃんと三人の後輩達だ。皆、私のリクエストに従って、白以外のカラフルな下着に身を包んでいる。一人一人が皆、違う色である。
百合の花は、私は白百合が特に好きだけれど、花の色は様々なのだ。美しい花に囲まれたような光景を、私はベッドの上で存分に楽しむ。まだ彼女達は動かず、私の指示を待っている。
これまで私は常に、ベッドでは女の子達の上になって、マウントを取っていた。肉食獣が草食獣を食む姿とは、そういうものである。快楽を与え続けて、女の子という花が咲き乱れる姿を観察するのが私は大好きだった。しかし、それから私には少しの変化があった。
たぶん私は、上の立場に居続ける事に飽きてきたのだろう。他の女の子と仲良くする事で、私の妹となった貴子ちゃんに寂しそうな顔をさせる事が嫌になってきたのかも知れない。する時は、貴子ちゃんも混ぜてあげたい。そう思うようになった。
「うん。じゃあ、ベッドに上がってきて……」
そう私が、妹達に指示を出す。私の声も昂りのせいで、かすれているのを自覚した。
見る度に思うのだが、女の子は一人一人、個性が違う。私と同い年にして妹である貴子ちゃんの目には、他の誰にも負けない、私に対する執着心の強さが見える。その瞳は今、潤んでいる。もう私にも、彼女は私を愛しているのだと理解ができた。
三人の後輩の内、二人は二年生だ。一つ年下の世代である彼女達には、私には無い淫靡さがあった。私が持っているのは所詮、技術だけである。眦だけで、同性も異性も篭絡できる才能が二人にはあって、その才能を開花させたのは私なのかも知れなかった。
後輩の残りである一年生の子には、ひたむきな情熱があった。文芸部に入ったばかりなのだが、私が教える技術は既に習得されてしまったと言っていい。貴子ちゃんも含めた文芸部の妹達は、これまで散々、私にベッドや部室で嬲られてきた。そんな妹達に、私は今日、復讐の機会を与える。
「さぁ、こっちに来て……これまで私が、貴女達にしてきた事を良く思い出して……」
仰向けで動かないまま、私は妹達を挑発する。ベッドに膝立ちである彼女達の呼吸が、獣のように荒くなる音を私は楽しんだ。
「いいわ、お預けの時間は終わり。これまで教えてきた技術で、私を存分に虐めて……」
これまで何でも計画通りに行ってきた私は今、状況をコントロールする事を止めた。私は下になって、妹達から、嬲られてみたかったのだ。大きなベッドの上で、小さな私が転がされる姿は、さぞ背徳的だろうと他人事のように私は思った。
「はい、お姉さま……」
四人の妹達が、忠実に私の願いを遂行する。信じられないくらい高い波が来て、私の身体と意識は揉まれて流されていった。