第十九話:おてつだい
朝。
登った日の光が部屋に入り込んでくる頃、駐車場からは見えなかったがホテルの横にはイベント用に造られたのであろうスペースがあり、昨日のうちに組まれたセットに大人達が機材や色々な物を取り付けたりしている。
その中には優丸の姿もあり、一緒に作業を手伝っている姿が見える。
そしてそして、その中には、
「ねえねえ、僕も何かお手伝いしたーい!」
「でしゅもん! したいでしゅもん!」
皆の働きを見てお手伝いしたくなったらしく匁と銭が仕事は無いかと作業中の大人達に話しかけていた。
だが、匁の見た目は子供であるため重い機材などを運んでいる現在で手伝えるようなことはほぼ無い。
それに軽い物であったとしても、精密機器であるため子供に触らせる事はしないのが普通であるため当然の如く、「今は頼めることは無いな」とあしらわれてしまう。
当然、銭の姿や声は人間の大人達には認識出来ていないため匁の声しか聞こえてはいないが。
だが、そんな匁達を邪魔だと思う者はおらずその様子を微笑ましく見ているのだが。
「匁様、銭さん。借りてきたので手伝えることができるまでこちらで座ってお待ち下さい」
持ってきたキャンプチェアを広げ、座るように優丸が声をかけてくる。
匁は「分かった-」とそこに座り大人しく銭と共に作業を見る事に。
だが、見ている内にまた何かお手伝いしたくなってくる匁と銭。だが、呼ばれないためずっと見ているだけなのだが。
「匁君、これどうぞ」
うずうずしていると横から声と共に個包されたお菓子が匁の視界に入ってくる。
匁は声の主の方へと視線を向けると、そこにいたのは匁に視線を合わせる形でしゃがんでいるえんり達のマネージャーの姿。
昨日の夕飯の時の様なラフな格好では無く、最初に会った時のようなビシッとしたスーツに身を包んでいる。
「いいの?」
「ええ」
「わーい! ありがとうございます!」
元気にお礼を言うとそのお菓子を受け取る匁。
「どういたしまして。それと、……―――そこにいるのよね?」
マネージャーは匁の横。
微かに淡く光っている所に声をかけると、その光が少し動くのが確認出来た。
そこへ「あなたもどうぞ」と匁と同じ物を渡すと、手に持った個包装のお菓子を何かが掴んだ感覚と共に引かれた感覚がして指を離すと、そのお菓子は空中に浮かび数回上下に動いたかと思うと包装が剥がされ中のお菓子が露呈する。
その様子に確かにそこに何かがいるのだろうと確信するマネージャーだが、淡い光にしか見えずに何が、どの様な姿の者がいるのかは分かっていない。
「銭、食べる時はちゃんと座るんだよ」
と、匁がその光がある場所に話しかけるとお菓子を手にしているであろう光は小刻みに上下したもののふと止まった様子が見える。
すると匁がその光に、膝の上に来るように言うと光はふよふよと匁の膝の辺りに降りた。
まあ、銭が匁の膝の上に座っただけなのだが、銭の姿をはっきりと認識出来ていなマネージャーにはそう見えているのである。
「美味しいね」
「でしゅもん! 美味しいでしゅもん!」
匁と顔を合わせながらニコニコと食べる二人。
マネージャーには銭の声は聞こえていないのだが、光に話しかけている匁の様子に不気味に感じることは無く、何か少しほっこりした気分になり、普段のキリッとした表情から頬が緩みかけながらただ匁がお菓子を食べている様子を見ているマネージャー。
「匁様、ただいま戻りました。って、マネージャーさん、おはようございます」
そんなところへ戻ってきた優丸はマネージャーに気付き声をかけるのだが、先程の頬が緩んだマネージャーは瞬時に普段通りのキリッとした表情になり優丸へ挨拶を返す。
「ところでこんな時間にマネージャーさんがここに来るなんて、何かあったんですか?」
「色々あったわよ。急に新人入れるわ、今日のイベントに参加させると言うわ。色々とね。ま、一部始終を知ってるとは思うけれど」
溜息交じりに額に指を押し当て愚痴をこぼすマネージャーに、優丸は苦笑いを返す。
「えんりったら『今の俺様達には運がついてるから大丈夫だ』なんて言って、昨日加入させた新人をいきなり参加させるなんて本当にもう。社長もえんりの提案だから二つ返事でオーケーしちゃうしで、まあ、それで、急遽今日のイベントスタッフの人達に人数が増えることとかを話そうと思ってね」
「なんというか、すみません。村の者がご迷惑おかけして」
「貴方のせいじゃないから謝らないで。でもまあ、急遽だから少し貴方にも動いて貰わないといけないかもしれないから、それはは覚えて置いて」
「分かりました。その時またお話し下さい」
「ええ。それにしても優丸君、えんりと違ってしっかり者で助かるわ。出来ればボランティアスタッフじゃなくて正式なスタッフとして事務所に来ないかしら?」
「ありがとうございます。ですけど、僕には外せない重要な仕事が御座いますので」
「そう。そのいつも言う『重要な仕事』がなんなのか分からないけど、無くなったら一考してくれたら助かるわ」
「……考えておきます」
優丸のいつも通りの明らかに断る前提の返答を聞き、溜息交じりに「良い返事待ってるわ」といつものように続けるマネージャー。
「ねえねえ、僕もお手伝いするー!」
「でしゅもん! 銭もお手伝いするでしゅもん!」
その横からお手伝い意欲の溜まっていた匁と銭が席を立ちマネージャーへと言葉をかけた。
勿論、銭の声は聞こえていないが。
「ええ、匁君にもお手伝いが必要になったらお願いするわね。あと、そちらの金霊の銭さんにも」
「はーい!」
「頑張るでしゅもん!」
マネージャーのあまり本気では無い返答に、両手を挙げて体全体でやる気を表す匁と銭。
まあ、マネージャーには銭は見えてもいないし声も聞こえていないのだが。なのにどうして銭にもそう声をかけたのかと言えば、昨日の夜にどんな感じの子なのかをえんりから聞いていたためである。
「それじゃあ私は行ってくるから、何かあったら優丸君のスマホに連絡するから指示した場所に来て頂戴ね」
「分かりました」
優丸がそう返事をするとマネージャーはその場を去って行く。
その様子を優丸と匁は見送る。と、
「あれ? 優丸。その出てるのなーに?」
匁が横に立つ優丸のポケットからのぞく艶々した紙を指さした。
「え? ああ、これですか?」
「うん。それ」
「実は今日のイベント、明理さんが事前にチケットを取っていたらしくてですね、必要なくなったからと渡されまして、正直言うと僕もあまり要らないんですけどね」
「そうなんだー。あ、えんり映ってる!」
「でしゅもん! えんり映ってるでしゅもん!」
見せられたチケットに映るえんりの姿を見つけ目を輝かせる二人。
それを見た優丸は欲しければどうぞと四枚のチケットを出すと、匁は欲しい欲しいとその四枚全てを受け取った。
どうして四枚もあるのかと言えば、明理がペアチケットを間違えて二つ購入してしまったからであるのだが。
「それで、匁様、銭さん。これから朝食に行きませんか?」
「行くー!」
「行くでしゅもん!」
優丸の発言に両手を挙げて答える二人。
そうして三人が食堂へ向かう。
と、その途中で昨夕、匁と銭が力を分け与えた少女が廊下に設置されたベンチに座って外を見ているのを見つけて匁と銭は挨拶をしつつ話しに行く。
その様子を優丸は見つつ、ふと何かを思い出した。
「すみません匁様。ちょっと離れますので少し待っててもらっても良いですか?」
「どこか行くのー?」
「ええ、ちょっと明理さんに声を―――」
「神様ー!」
優丸が言いかけたとき、そう言いながら優丸の方に走ってくる人物が。
明理である。
彼女が来たことに噂をすればと平然と見ていた優丸だが、彼女は普段よりも近い目前で停止したことに驚く。
と、彼女は優丸に抗議をする様な表情を向けた。
「酷いですよ! 皆いないし、なんで起こしてくれなかったんですか!」
そう言って優丸に詰め寄る明理。
優丸はその勢いに押されつつも言い訳を述べる。
「ステージ準備だったのでまだ良いかと思いまして」
「それでも起こして下さいよー!」
明理は優丸の肩を掴んでガクガクと揺らした。
それから数分後。
「今日のイベント楽しみですね!」
「うん!」
「楽しみでしゅもん!」
気分が落ち着いたようで明理は匁と銭にそう話ながら昨夕同様バイキング形式の朝食を摂る。
そんな楽しそうに食事をする三人を見つつ、優丸はスケジュールに目を通した。
スケジュール的に見ればえんり達の最初の出番は午前の部のお昼前という結構遅めの時間。
多分それまでに最終確認とかするんだろうなと思いつつ流れのシュミレーションを行っていると、ポケットに振動を感じた。
優丸はその振動を発している物。スマホを取り出し画面を見やる。
画面に出ているのはマネージャーさんという文字。
「はい。優丸です」
『あ、優丸君。今、大丈夫?』
「はい。大丈夫です」
『そう、それならお願いがあるんだけど、近くのコンビニで三人分の飲み物とか買ってきてくれないかしら? いつもので良いって言ってるからよろしく』
「分かりました。すぐに行ってきます」
『お願いね。お金は、一回こっちに来て―――』
「立て替えで大丈夫ですよ」
『そう? ならちょっと悪いけどそれでお願いするわね』
「はい。任せて下さい」
会話を終え電話を切る優丸。
「皆さん、すみません。ちょっと今マネージャーさんから仕事の依頼が来たので行って来ま―――」
そこまで言って優丸は気付く。この情報を伝えてしまえばこの三人は行くと言い始めるのではと。
だが、その思考になるのは遅すぎた訳で。
「あ! 僕も行くー!」
「銭も行くでしゅもん!」
「神様、私も行きますよ!」
やる気満々に答える三人。
その様子にやっちゃったと思う優丸だが、でもこう言えば大丈夫だろうと言葉を発する。
「いえ、簡単な買い物ですので、匁様達はゆっくり朝食を摂っていて下さい」
そうして優丸は席を立った。
それから数分後。
「着いたー!」
「着いたでしゅもん!」
「着きましたね」
結経引き下がらない三人に優丸は折れ、共にコンビニへと来ていた。
優丸は今回買う物を三人に告げ、飲み物売り場へと向かう。
「匁様もお菓子とか欲しいものあればカゴに入れて下さいね。銭さんも明理さんも」
「はーい!」
「分かったでしゅもん!」
「神様、良いんですか! ありがとうございます!」
その言葉に元気に手を上げて返答する三人。そして早速別行動に移る明理と銭だが、その二人とどこかに行こうとはせず優丸の傍にいて優丸が必要な物をカゴに入れていく様子を見ている匁。
そうして買い物を済ませ四人はホテルへと戻ってくる。
「それじゃあ、飲み物届けてくるので皆さんはお部屋で待ってて下さい」
優丸は明理と銭がカゴに入れた物を詰めた袋を明理へと渡しつつ、三人にそう告げる。
「僕持って行きたーい!」
「銭も持って行きたいでしゅもん!」
のだが、優丸に元気に持って行く役割に立候補する二人。
それにいつも通り断りを入れる優丸だが、明理がそこへ割り込む。
「持って行きたいって言ってるんですし良いんじゃないですか? 神様にとって特別な方なんでしょうけど匁様は家主という立場から離れてここにお手伝いに来てるんですから。その意気込みを卑下にするのは可哀想ですよ」
家主という立場と意味がいまいち分かっていない明理だがそれらしくそう言うと、優丸はその言葉に少し考えつつ明理と、やる気と期待で優丸を見やる匁の方を見て、溜息をつく。
「分かりました。それじゃあ、匁様、銭さん。これ届けて下さいね」
「はーい!」
「分かったでしゅもん!」
任されたことにやる気を見せる二人は優丸から荷物を受け取りいざ出発。
するのだが、すぐに匁が歩くのをやめてしまった。
それにどうしたのかと優丸が見ていると、二人が振り返る。
「ねえ、優丸。これどこに持っていけばいいの?」
「りょ! そういえばえんり達がいる場所分からないでしゅもん」
「……」
二人は優丸に教えられた通りにホテルの中を動き『アヤカシスターズ様控え室』と書かれた大きな白い扉の前へ。
匁がその扉をノックすると、ガチャリと扉が開く。
「優丸君、ありがと―――……」
顔を覗かせたマネージャーはそう言うのだが、目の前にいるのは予想していた優丸の姿。では無く、匁と傍らに淡い光にしか見えない銭の姿。
それに一瞬止まりつつも、マネージャーは声を発する。
「あら、あなた達。何かしら?」
「飲み物持ってきたの!」
匁が元気にそう言うとマネージャーは「そう」と答えて荷物を受け取る。
するとその後ろからひょこっとアヤカシスターズとロゴの入ったTシャツを着たえんりが覗く。
「お! 匁と銭が届けてくれたのか。サンキューな。良かったら入っていけよ」
「良いのー?」
「良いんでしゅもん?」
「おう。折角来たんだしよ」
えんりが笑顔でそう言うと、マネージャーもどうぞと二人を通した。
二人が言われるまま中に入ると姿見の前で響子とミアがフリの最終確認をしているところだった。
だが、そんな事よりも。
「あー! これえんりが着てるのだー!」
「でしゅもん! 写真に写ってたのでしゅもん!」
二人は控え室にかけてあるえんりのステージ衣装を見て目を輝かせる。
「おう。今日はこれ着てステージに立つからよ。楽しみにしててくれよな」
「うん!」
「楽しみでしゅもん!」
「あなた達いらっしゃい」
と、三人の元にミアが寄ってきて声をかける。
それと響子も一緒にやって来る。そんな響子だが、昨日会ったときとは違い手が普通の人のものとなっている。それ以外変わりはないのだが。
「うう、緊張しますー。本来驚かす妖怪だから人前に立つ事なんて無いから更に……」
「大丈夫大丈夫。逆にそう言う初々しさが良い味出すときもあるんだしよ」
「そうね。それに、昨日の今日、というかほぼ一夜漬けなのに変化の方法からフリ、歌詞まで覚えられてるんだし、物覚え凄く良いんだから大丈夫よ。自信持ちなさい」
「そう、ですかね?」
「ええ」
「大丈夫だって、な!」
「うん。大丈夫だよ!」
「でしゅもん。大丈夫でしゅもん」
「ほら、うちの匁もそう言ってんだから大丈夫だよ」
不安げな響子にそう告げる四人。
だが、当然と言えば当然で匁と銭の言葉はあまり響子に響いてはいないのだが。
「あら、しまった。飲み物以外に頼む物あったんだったわ」
そんな声が聞こえて皆が振り向くとマネージャーが袋を見ながらそんな事を言っている姿が。
当然そんな事を聞いたら、
「あ、じゃあ僕買ってくるー!」
「銭も行くでしゅもん!」
匁と銭がマネージャーにそう話しかける。
「あら、良いの?」
「うん!」
「でしゅもん!」
「それじゃあお願いするわね」
マネージャーはそう言うと匁に必要な物を告げる。
と、その横からひょっこりとミアが口を挟んだ。
「行くならついでに軽食で、サンドウィッチとか頼むわ」
「はーい」
「分かったでしゅもん」
「あ、私もお腹空きました」
その横からひょっこりと響子も要求を述べる。
「じゃあ、買ってくるー!」
「買ってくるでしゅもん!」
やる気満々にそう答え、匁と銭はマネージャーからお金を貰い控え室を後にする。
そうして二人が出て行くと、
「おいおい、うちの匁にそんなに頼むなってー」
えんりが若干ふざけた様子だがどこか苦笑い気味に三人へそう話しかけた。
「何かダメなんですか?」
「いや、ダメじゃねーけど」
「何よ。言いたいことあるならはっきり言いなさいよ。えんりらしくないわね。それにスタッフとして連れてきたのはえんりでしょ?」
「いや、うーん。まあ、そうだけどよ。うーん、まっ、良っか」
そんな気になるような言い回しで、歯切れの悪いような感じでイタズラっぽく自身を納得させるように発言するえんりに首を傾げる響子だが、ミアとマネージャーはいつものやつかと反応はしない。
するとドアがノックされマネージャーが対応するために扉を開ける。
「買ってきたよー!」
「買ってきたでしゅもん!」
「え?」
マネージャーの目に映るのは、さっき出て行ったばかりの二人の姿。
数分も経っていないのに手に袋を持ってここにいる二人にマネージャーの頭の理解が追いついていない。
「おう。二人ともありがとな」
そんな固まっているマネージャーに代わり、えんりが二人から物とお釣りを預かった。
「そんじゃ、二人とも集合かかるまで優丸と一緒に待っててくれよな」
「うん」
「分かったでしゅもん」
えんりの言葉に二人は答えると、ばいばいとえんりに手を振り控え室を後にする。
「え? えーっと?」
「いくら何でも早すぎないかしら?」
「おう、スゲーだろ? うちの匁」
困惑する妖怪二人にえんりは自慢気に満面の笑みで答えた。
場所は変わりホテルの一室。
優丸がドアの開いた音に気付き向かうと、そこには匁と銭の姿。
「匁様、銭さん。ありがとうございました」
頭を下げる。と、二人はそれぞれ楽しかったと満足気に報告する。
するとスマホが鳴り、すみませんと優丸はポケットから取り出し画面を見やる。
そこにはマネージャーさんからのスタッフ・ボランティアスタッフの招集の文字。
「匁様、銭さん、明理さん、スタッフの招集がかかったので行ってきますね」
優丸がそう言うと、三人は返事をして―――、
「部屋でゆっくりして良かったんですけど、なんで皆さん来たんですか?」
「え? だって神様、私達ボランティアスタッフとして来たんですよ?」
「そうだよ!」
「でしゅもん」
招集場所に着いたとき、いつの間に着いてきていたのか他の三人も一緒に到着していた。
それに関して声をかけた優丸だが逆に不思議そうに返答される。
だが、来てしまったならもう戻って下さいというのもアレだと思い、四人でえんりのマネージャーのいる元へ。
そこには優丸達以外に、正式な他のスタッフ達も揃っていた。
「それじゃあ、スタッフの皆はいつも通りお願いします。それとボランティアスタッフの四人は裏で色々お仕事頼むわね」
「はーい!」
「分かったでしゅもん!」
マネージャーの言葉に元気に返事をする匁と銭。
そんな匁の姿に他のスタッフの人達が微笑ましく思ったようで「フフッ」と笑う声が聞こえる。
「それじゃあ、皆さん。今日は頑張っていきましょう」
こうして匁達はイベントのために動く。
といっても匁と銭はそんなにする事も無いため、イベントの様子を見てて良いとマネージャーから言われ、言われたとおりにステージの様子が見える端に立っていた。
そんな匁と銭の目にはミュージシャンの演奏や歌、それに合わせて盛り上がる観客の様子が映り、それに目を輝かせる。
「凄ーい。紅白にも見せたかったねー」
「でしゅもん。紅白にも見せたかったでしゅもん」
「紅白さんですか?」
話している二人の元にひょこっと口が挟まれる。
振り返ると、そこには二人と同じく仕事が無いためにやって来た明理の姿。
「うん。紅白。お家でお留守番してるの」
「でしゅもん。紅白、お家でお留守番でしゅもん。一緒に見たかったでしゅもん」
「そうなんですか。それでその紅白さんと言うのは? どういった方なんですか?」
「えっとね、使用人ー」
「でしゅもん。お家で匁の使用人してるんでしゅもん」
「匁様の使用人さん、ですかー」
そう返しつつ明理が思い浮かべるのはメイド服姿の人。
その人物が物腰柔らかそうに匁や銭に対応している場面や、家事などをしつつ匁や銭にウフフと対応している姿を想像し、途中から自身を投影し、羨ましさと憧れを抱き顔を緩ませた。
「良いですね使用人さん。羨ましいです」
明理のその言葉に「でも、お留守番なの」と言う匁と「でしゅもん」とシュンとする銭。
急に落ち込む二人にあわあわとする明理だが、同時にそんなに大好きなんだというのを感じた。
「じゃあ、匁様、銭さん。その使用人さんにお土産とか買って行ったら良いんですよ。そうすれば、帰ったときに使用人さんも喜んでくれますよ」
「喜んでくれる?」
「りょ?」
明理の言葉に顔を上げる二人。
その二人の頭の中にはお土産を渡して「ありがとうございます」と満面の柔和な笑顔で受け取る紅白の表情が浮かぶ。
まあ、実際にはそんな表情になるような事は無いのだが、妄想し想像したことへの期待でやる気になった二人。
「僕、お土産買ってくる!」
「でしゅもん!」
元気にそう言うと匁と銭は明理にそう告げ、お土産屋のあるホテルの方へと向かって行った。
それを見た明理は思う。
イベントグッズの物販の方じゃ無いんだ、と。