第十六話:しゅっぱつ
朝。どこかへと出かけるには良い感じの快晴。
そんな青空の下。
いつもと変わらない茅葺き屋根の古民家。生け垣に囲まれた家。迷家。
そこから元気よく匁と銭が出てくる姿が見える。
そんな匁だが今日は普段着ている青い着物ではなく、短パンに半袖というスタイルで背中には青い子供用のリュックを背負っている。
銭は普段通りの服装であるが。
そんな二人の後ろ。開いたままの戸の奥には静かに、涼しげな表情で立つ紅白の姿。
二人はそんな紅白の方へと振り返る。
「それじゃあ、紅白。いってきまーす!」
「行ってくるでしゅもん!」
「はい。家主様、銭様。行ってらっしゃいませ」
元気に言う二人に対して、静かに礼儀正しく頭を下げる紅白。
二人はそんな紅白に「お土産買ってくるね」と紅白にぶんぶん手を振り、迷家を後にする。
元気に迷家を出た二人。
なのだが、出発してすぐに紅白がいないという事に少し寂しさを感じつつも二人は紅白にはお休みして貰わないとと気持ちを切り替え駅に行くために進んでいく。
そうして匁と銭が駅のある霧の町に行く為にまずは村の中心へと辿り着く。
と、村の者達はいつものように匁に話しかけてくるのだが普段と違う格好の匁に当然質問してくる。
「これからお外行くの!」
「でしゅもん。旅行に行くんでしゅもん」
そう答えた匁とそれに続く銭。
村の者はその言葉を聞いてそうなのかと納得した様子だが、「家主さん、使用人さんは一緒じゃないのですか?」とそう問いかける。
それに対して匁と銭は、少し寂しそうに、
「紅白はね、お休みだからお家でお留守番なの」
「でしゅもん。一緒だとお休みにならないんでしゅもん」
その返答に納得したような、しかしどこか気まずさを感じてか「そうなんですね」と返答をしつつ、楽しんできて下さいと匁と銭に行ってらっしゃいと言う。
匁と銭は家を出た時のように話しかけてきた者達に元気に行ってきますと返答して霧の町に向けて歩き出した。
そうして、
「匁ちゃん! 銭ちゃん!」
「ぽぽぽぽぽ!」
村の端。霧がまるで壁のようにはだかり、先が見えないる場所。そこは霧の町に入る場所。
その前には立ち塞がるように立つ二人の姿がある。
一人は、鳥の足のような手をした着物の女性。もう一人は白ワンピ姿の大きな女性。
「あれ? 梅、八千代。どうしたの?」
「でしゅもん。どうしたんでしゅもん?」
小首を傾げる匁と銭。
その突然の不意打ちに悶絶しそうになる梅と八千代。
だが、彼女達は何か強い意志を持っている様子で、完全に悶絶状態になるのを踏みとどまり、ゆっくりと梅が口を開く。
「も、匁ちゃん、銭ちゃん。聞いたよ。お外に行くんだってね。でもね、お外は危ないんだ。だから、行かせるわけには行かないよ!」
「ぽぽぽぽ!」
意志強く、行かせまいと宣言する二人。
それに対して匁は口を開く。
「えー? 大丈夫だよ。だって、えんりも優丸もいるもん」
「でしゅもん」
「それでもね」
「それにね、皆にお土産買うんだー!」
「でしゅもん! お土産買うんでしゅもん!」
その無邪気な言葉を元気に発する二人の眩しさに、ワクワクしている感じの表情に、この顔が曇ってしまうと思い揺らぎそうになる梅。
だが、今日は心を鬼にすると勝手に誓い、彼女はここにいる。その意志は強かった。
「っ、で、でもねぇ。何かあってからじゃ遅いんだよ?」
「ぽぽ! ぽぽぽぽっぽぽぽぽぽぽぽ!」
梅の言葉に首を縦に振り、強く同意する八千代。
ただ八千代は、梅が言うのとは何か違うような気もするのだが。
しかし同意してくれる八千代にアンタはよく分かってると、八千代の方を見やる梅。対して八千代も梅に勿論と言わんばかりにアイコンタクトを送る。
そうして、
「そういう事だから、それでも、もし行くのであれば、―――私達を倒していくんだね」
「ぽぽ!」
そう言い立ちはだかる梅と八千代。
対するは二人の目の前に立つ、匁と銭の姿。ではなく、山之治とアンネルの姿。
その事に一瞬思考が止まり、固まる二人。
しばらくして、梅が口を開く。
「あ、あれ? 匁ちゃんと銭ちゃんは?」
「ぽぽ?」
「……駅、行ッタ」
「私達は霧の町前見送りに来ただけだけど?」
淡々と答える二人の回答に、「そんな」と力なく崩れる梅と慌てて寄り添う八千代。
そんな事が繰り広げられている後ろ。霧の町。
濃霧で先が見えないそこを匁と銭は進んでいた。
「りょー、全然周りが見えないでしゅもん」
「そうだよー。だから、はぐれないでね」
「分かったでしゅもん」
銭は返答し、並んで進む二人。
そうしてしばらく進んでいくと、二人の耳には次第に踏切の音が聞こえ、進む度に音は大きくなっていく。
「あとちょっとで駅だね」
「そうなんでしゅもん?」
「うん」
進みながら匁がそう返すと、二人の視界の先。霧の中に大きな建物の影が見え、そうしてそこに向かって進むと、次第にその前に立つ人影が。
その人影を見て匁は見つけたと言わんばかりに走り出し、銭も浮きながらその後を追う。
そうして駆け寄った二人の視線の先には、キャリーバッグを持ったえんりの姿と普段着ているような甚平ではなく、普通の現代的な服装に身を包んだ優丸の姿が映る。
「来たよー!」
「来たでしゅもん!」
匁と銭は元気に走り寄りながらそう言うと、気付いたえんりは二人に「待ってたぜ」と笑顔で答え、隣にいる優丸も「おはようございます」と二人に声をかける。
「んじゃ、二人も来た事だし出発するかー!」
「そうだね。匁様、銭さん。行きましょう」
「うん!」
「行くでしゅもん!」
こうして四人は濃霧に囲まれている駅の中へと入っていく。
といってもそこは小さな駅のような構造で、灯りが点滅している発券機一台と、人が対応する窓口のような改札がある程度の駅。
その改札だが、そこには誰もおらず、改札の内部は薄暗く少し寂れている様子が窺える。
匁達はその改札を通り過ぎ、すぐ目の前にあるホームに立つ。
すると、霧の中。線路の向こうから突然灯りが見え、走行音が聞こえてくる。
そうして、音が大きくなるにつれて霧の中から、所々塗装が剥げ、所々錆びている電車が現れ、匁達の前で豪快で不快な金属同士の擦れる音を奏で停車する。
停まった電車に対して匁と銭は目を輝かせ、隣に立つ二人に来たねとワクワクした様子で話しかける。
それに来ましたねと返答する優丸。同時にガコンという音と共に昇降口の戸が開く。
四人はその電車へと乗り込むと、四人の目には少し寂れているものの比較的綺麗な座席と時々点滅する天井に付けられた灯りが車内を明るく、そして若干薄暗く照らす。
四人はそんな電車の中に入り、並んで席へと座る。
すると同時に発車のベルが鳴り、再度ガコンという重たいような音と共に戸が動き、閉まる。
そうして電車はギギギというような重々しい始動の音を奏で、駅を出発する。
出発してからは普段の電車と変わりなく軽快な音と共に走る電車。
その車窓から、銭と匁は外の風景を見ている。
だが、見えるのは濃霧で覆われた世界で、時折霧の中に影が見えたり、葉のついた木の枝が見えるというくらいである。
それでも良いのか匁と銭は過ぎていく影や枝を顔を動かし追っている。
すると、匁と銭の見ていた車窓が突然真っ暗になる。
どうやらトンネルに入ったようだ。
「そろそろ外に抜けるみたいだ。そこでだ銭」
「なんでしゅもん?」
不意に声をかけられ首を傾げる銭。
それにえんりは続ける。
「村の外の駅に着くから、降りたらあんまり騒ぐなよ? 普通の人間には見えないからこそお前に話しかけてるの見られたら不審がられるからな」
「りょー、分かったでしゅもん」
「よし、良い返事だ」
えんりがそう言って親指をあげるのとほぼ同時。
電車は暗いトンネルを抜け、光が溢れる場所と現れ二重の停車音を鳴らし停まる。
そこは人々が行き交う駅。
車窓から駅の様子を見た匁は人が多くいる事に凄ーいと目を輝かせる。
「そんじゃ、この駅から迎えに来てもらう手はずになってるから行こうぜ。うちのスタッフに会う前に優丸の外の協力者だっけ? そいつと合流しないといけないしな」
「そうだね。向こうも丁度、駅に着いたみたいだし」
そうしてえんりは頭に上げていたサングラスを下ろし、四人は電車を降り駅に降り立つ。
そこは街の中心にあるような大きさの駅で、売店の他に、構内に入るとお菓子などのお土産屋があるような駅である。
匁と銭は香ってくるお菓子の甘い匂いに視線をお店に向けながら、優丸とえんりの後をついて行く。
四人はそんな構内を通り過ぎ駅の外へ。
そこにはバスのロータリーやタクシー乗り場が見える場所。
と、外に出た四人の方へ向かってくる者が一人。
十五、六といった年齢の少女。
「神様! お久しぶりです! お出かけに呼んでくれるなんて凄く嬉しいです!」
彼女は皆の、優丸の前にやって来ると目を輝かせて頭を下げる。
そんな彼女の言葉に「神様?」と首を傾げる残りの面々。
対して優丸は呆れたような、困ったような様子でその少女へ口を開く。
「いや、あのですね。明理さん。ここで神様はやめましょう。というかいつも言ってますけど僕は神様ではないですし」
「何を言ってるんですか! あの日、神社で怪物に襲われそうになった私を助けてくれたんですから神様ですよ」
明理という名の少女は目を輝かせ力強く思い出を語る。
そんな彼女の様子になんとも言えない様な顔をする優丸。その優丸にえんりがイタズラっぽい笑みを浮かべ脇腹を突く。
「優丸~、お前も隅に置けないな。このこの~」
「優丸、神様なの?」
「りょー、神様でしゅもん?」
突かれながら匁と銭の問いに「違いますよ」と答える優丸。
そんなえんりに突かれてる優丸におずおずとした様子で明理が問いかけてくる。
「ところで神様、こちらの人達は? ま、まさか、神様の奥さんとお子さん達ですか!?」
「違います」
明理の言葉に即答できっぱりと否定する優丸。
その発現に横で笑うえんり。そして、
「明理ちゃんだっけか。良いな。凄く面白いぜ」
と、そんなえんりの声に明理は小首を傾げ、そして、
「この声、アヤカシスターズの蛇虎えんりにそっくり……」
「ま、そっくりというか、―――本人だしな」
言いサングラスを取ってイタズラっぽく笑うえんり。
そうして目の前に現れた蛇虎えんりに、思いも寄らない事に目をぱちくりさせて数秒間停止する明理。
そして、「えぇ!?」と驚き一歩下がる彼女。
その反応にえんりは良い反応だと笑う。と、明理は優丸の方へと向き、
「凄いですね神様! アイドルと知り合いなんですか!?」
「神様じゃないです。ですけど、まあ、知り合いというか」
「幼馴染みだぜ!」
「えぇええ!?」
途中で割り込んできたえんりの言葉にまた驚く明理。
「ちょっと、あんた!」
「うお!?」
不意に後方からやって来た衝撃で前のめりになるえんり。
そのえんりが横を見やると、そこにはえんりと肩を組むようにして同じ様に前屈みになっている黒く長い髪の、サングラスをかけた少女の姿。
少女はえんりに対して小声で声を発する。
「何やってんのよ! 全く!」
「あれ? ミア。どうしたんだ? お前、今日仕事じゃ」
「ええ、予定ではあったわよ。けど、無くなったわ。明日も明後日も」
「ん? なんかあったのか?」
「メインキャストが他の撮影で怪我しちゃって、それでまあ色々あったっぽくて急遽中止になったらしいわ。それで、私もあんたの方へ駆り出されたの」
「ほーん」
「とりあえず、ほら、マネ待たせてるんだから連れてきた人達も連れて行くわよ」
「あ、そうだな」
そう言って皆の方へと向き直るえんり。だが、そこには優丸と凄いと目を輝かせている表情の明理の姿だけで匁と銭の、二人の姿が無かった。
どこに行ったのかと辺りを見ると、二人は近くの自販機の前で立っているのが見える。
そこへ近付くえんり。
「何してんだ匁、銭」
「ここにね、銭のお友達いたの」
「でしゅもん。ここにいたでしゅもん。お話してたら一緒に来るらしいでしゅもん」
そう銭が言うと、まるでその声に反応したかのように銭の周りをキラキラと光が舞う。
えんりはそれにあまり関心無さそうに「そうか」と返すと、とりあえず車に行くぞと二人に言い、二人はえんりに返事をして後をついて行く。
そうして先頭を歩くミアの案内で皆は待機しているワンボックスカーの元へと辿り着く。
するとドアが開き、そこにはスーツ姿の女性が一人。
「ミア、迎えに行ってくれてありがとう。それじゃあ、時間も無いので、えんりとボランティアスタッフのお友達の方々も乗って下さい」
スーツ姿の女性の言葉に「おう」とえんりは答えると、後ろを振り返り匁と銭に最初に乗るように指示を出す。
匁と銭はそれに元気に返事をして、スーツ姿の女性にお願いしますと頭を下げ車に乗り、それにスーツの女性は「はい。よろしくね」と匁と銭を通すのだが、どことなく視線は匁だけに向いているといった様子である。
次に乗り込むのは優丸と明理。
と、女性は優丸に「優丸君、いつもありがとね」と声をかけ優丸も友人の頼みですからと返答する。
そうして全員が車に乗り込み、えんりが車に乗り込もうとした時、女性がえんりに耳打ちをした。
「ねえ、えんり。あの子の傍に何かいる?」
女性が指さす方向。それは、先に乗車した匁の方。
するとえんりは待ってましたとばかりに返答する。
「ああ。いるぞ。凄ぇのが」
にししと笑うえんりに少し訝しげに見やる女性だが、まあいいかと溜息を一つつく。
そうして全員が乗り込むとワンボックスカーは出発する。
匁と銭はその車窓から見える景色に目を輝かせ見ている。
そんな二人の隣では優丸と、目を輝かせている明理の姿。
その明理が見ている先。向かいあってるその先には、
「いやー、それにしてもミアが来てくれるなんて心強いぜ。けどよ、仕事なくなったんなら休みでよかったんじゃねーか?」
「仕方無いでしょ。社長から言われたんだから」
「ふーん」
「それよりも、そんなに股開かない!」
座席にドカッと座りおっさんの如く大きく座るえんりに対して注意するミア。
それをいつもの様子とばかりに横目で見ながらスルーするスーツの女性。
そんな者達を乗せてワンボックスカーは進んでいく。
しばらく外の流れていく景色を興味津々に見ていた匁と銭。
高速道路に入ってからもしばらく外を眺めている二人だったが、飽きたのか匁は視線を車内へと戻す。 と、そんな匁に優丸が声をかける。
「匁様、飲み物とかどうですか?」
「あ、欲しー!」
答えた匁に優丸は、今準備しますねと返答し持っていた鞄からコップと飲み物を取り出し、注ぐと渡す。
匁はそれを「ありがとう」と受け取りごくごくと。
「これ美味しー!」
目を輝かせ優丸へと報告する匁に優しげに笑みを浮かべる優丸。
「お口に合ったようで何よりです」
「優丸ー、銭も欲しいでしゅもん」
と、匁が飲んでいるのを見て欲しくなったようで優丸の前に飛んでせがむ銭。
それに待って下さいねと返し、同様にコップに注ぎ手渡すと、銭は「ありがとうでしゅもん」とそれを両手で受け取り、匁の隣に座ると両手で持ったコップを口に当てて飲んでいく。
「神様神様!」
二人の様子を見ていた優丸だが、不意に明理から声をかけられてそちらを見やる。
「だから神様じゃ無いですって。それより、なんでしょうか?」
「なんでその匁君ですっけ? その子のこと匁様って呼んでるんですか?」
首を傾げ聞いてくる明理。
「あー、その事ですか」
「そりゃあ、俺様達の住んでるところの凄ぇ奴だからだよ」
突然会話に割り込み、まるで自分のことのように自慢して言うえんり。
「そうなんですか? あ、そうですよね。神様が様付けで呼んでる相手ですもんね」
不思議そうに声を出した明理だが、何かに急に納得してうんうんと頷いた。
それに対してえんりは笑顔でそうそうと頷く。と、そういえばと話題を変える。
「それにしても優丸が神様ってよく分からないんだけどよ。そこら辺詳しく教えてくれねぇか?」
えんりの言葉に明理は「へ?」と一瞬、間の抜けたような表情を見せるが、すぐに表情が変わり、目を輝かせ「お話ししましょう!」と元気に返答する。
「まずはそうですね。始めに私語りなんですが、実はですね。私霊感があるんです!」
「おう。知ってるぜ」
「え?」
衝撃的な事を言ったと思った明理だったのだが、えんりに即答されて出鼻を挫かれる。
だがそれは、優丸とえんりが幼馴染みだからどこかで話をして聞いていたからだと思いそれなら仕方無いと―――、
「お前、美味そうだもんな」
「そうね」
えんりと同意するミアのその言葉に、目が点になる明理。
そして美味しそうって何と頭の中でぐるぐる考えるものの、何故か別の方向へと捉えてしまい赤面する明理。
「でも、ま。優丸の友達だから食わねえけどな」
「そうね。昔ならいざ知らず、今なんて食べ物いっぱいあるからね。だけど、まあ、それはそれとして私達からしたら貴女が上物である事には変わりないけれど」
えんりに続き涼しい顔で明理を見つつ言うミア。
それに対して先に思った解釈とは明らかに違う二人の言動に冗談だよねと思いつつ、二人の目を見て感じる寒気に完全に思考が止まる明理。
だが、普通の人間である二人がなんでこんな事を言うのかとも思う明理。
すると、優丸が口を挟んだ。
「あの、すみません。明理さんにはえんりの正体も、ミアさんのも言ってないのであまり怖がらせないで頂けると」
「え? 言ってないのかよ!」
「あ、うん」
「てっきり言ってるもんだと思ったわ。ごめんな明理ちゃん」
「ごめんなさいね。私も悪乗りしてしまったわ」
明理に対して謝る二人。
それに対して「あ、いえ」と返答するも先程の勢いが完全に削ぎ落ちてしまっている明理。
「全く、本音が絡んでるから私まで寒くなったわよ」
そう言い腕を擦るマネージャーに対し二人は、マネージャーは普通の人よりは美味そうに見えるけど明理程では無いと言って、またマネージャーに注意を受ける。
「ねえねえ、優丸が神様なのの続きはー?」
「でしゅもん。続き教えて欲しいでしゅもん!」
と、そんな中。怖さと寒気で意気消沈している明理に声をかける匁と銭。
二人に話しかけられてビクッとする明理だが、二人の方を見ると不思議と感じていた恐怖感が無くなり、では続きをと話し始める。
「あれは私が小学生の時、霊感が強くて幽霊が見えていた私は―――」
そうして明理の説明が始まる。
要約すると、幽霊が見えるためにからかわれてある日、お化けが出るという噂のある廃神社に無理矢理連れて行かされ、そこで怖い化物に襲われて皆が逃げる中、化物が明理の方へと来て転んでしまい、神社の神様に助けてと祈った際に優丸が現れて助けてくれたのだという。
「それ以来、神様は否定してますけど、私の中では救ってくれた神様なんです!」
「そうなんだ!」
「りょー! 凄いでしゅもん!」
力強く締めくくる明理に感嘆の言葉を漏らし、拍手をする匁と銭。
「それで今はその神社で私、神様のために高校生しながら巫女さんやってるんですよ」
「凄ーい!」
「凄いでしゅもん!」
凄いと言われ少し照れ気味に微笑む明理。
それに対してえんりに責任取れよとイタズラっぽく迫られる優丸。
「ところで、その神社ってどこにあるの?」
と、ミアがそう問いかける。
「八射鬼神社って検索して頂ければ出ますよ」
「八射鬼神社ねぇ。聞いた事無いけれど」
ミアは手に持ったスマホで検索してみることに。すると、
「あったわ」
「お、見して見して」
そう言いミアのスマホに映る概要欄に目を通すえんり。
書かれていたのは、地名と場所。そして神社の歴史について。
「へぇー、ここに神社ねぇ。それにえーと、この神社は、その昔、この地にあった町に鬼が現れ、暴れ、町を滅ぼしそこを根城にした鬼が突然消えた時に、また鬼が現れ暴れられないようにという願いを込めて近隣の村人達でその鬼を祀り建てられた神社ぁ??」
言い、意外そうな顔でしかしイタズラっぽい表情で優丸を見やるえんり。
そうして、
「おいおい、優丸ぅ。これお前の神社じゃん」
そう言って茶化しに掛かるえんりだが、優丸は完全に知らなかった様子で信じられないといったような表情をしている。
と、そこにかかる一つの声。それは小首を傾げた匁の言葉。
「なんでそれ優丸の神社なのー?」
「ほら、匁と二人で優丸説得しに行った時の場所だぜここ」
そうえんりが言うと、匁は思い出したように「あ!」と声を出して、
「じゃあ、優丸、神様だー!」
匁は目を輝かせて優丸へ興奮した様子で話しかける。
それにやっぱり神様じゃないですかと目を輝かせる明理と、凄いと目を輝かせる銭。
この三人にどうしようと困った様子を見せる優丸。
そんな賑やかな面々を乗せたワンボックスカーは、帷が降りる頃に目的地へと辿り着くのであった。
その頃、紅白はというと、
―――家主様達、楽しんでいるでしょうか。
そう考えながら小さな風鈴の音だけが響く迷家の縁側に座り夜空へと変わる空を眺めていた。




