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第十五話:きせい

晴れ渡る空。

もうすぐ夏が来ようとしているのが分かる程に気温が高くなっているこの頃。


匁と銭は扇風機の前で楽しそうに「あー」と声を出して遊んでいる。

最初は暑くなってきたなと河兵衛が話した事で、匁が扇風機を持ってきたのが始まり。

初めて見る扇風機が気になり銭が問いかけて説明を受けながらふと扇風機の方を見て声を発したら、返ってくる声がおかしくなり、この事を匁に報告して、そうなるよと匁がお手本を見せてから始まった遊び。

それを河兵衛達にお茶を出し、少し離れた位置で正座しただ見やる紅白。と、縁側に座り何が楽しいのかと思いながらそんな二人を見やる河兵衛と、そんな二人の様子に微笑む流香の姿がある。


なにも変わらない、少し変わってるただの日常。

平和な空間を過ぎる風が風鈴を動かす昼下がり。


と、縁側にいる者達の耳に音が聞こえる。

玄関の戸が開く音が。それに続いて、


「すみません。匁様いますか?」


優丸(来客)の声。


「あ、優丸だ!」


その声に反応し、いの一番に玄関に向かう匁。と、今一緒に遊んでいた相手が動いた為に一緒に動き、後をついて行く銭。

二人が玄関につくとそこには、いつものように顔半分が髪で隠れ、見える方の目の下に隈のある顔をした根暗そうな少年、優丸が玄関に立っている姿。

匁は訪ねてきた優丸に笑顔で首を傾げる。


「今日、何か用事ー?」

「用事というかですね」

「よっ! 匁」


少し言いよどんだ優丸の後ろから、頭にサングラスを上げ、ひょこっと顔を出し気さくに気楽に片手を上げる一人の少女。


挿絵(By みてみん)


それに一瞬キョトンとする匁だが、次第に目を輝かせる。


「あー! えんりだー!」

「おう、えんりちゃんだぜ!」


匁に対してポーズを決めるえんりという少女。

そんな現場に遅れて、縁側にいた残りの面子がやって来る。

と、河兵衛がえんりへと声をかける。


「お、珍しいな。えんり帰って来たのか」

「ああ、帰って来たぜ。一時的にだけどな」


えんりはそう言ったあと俺様忙しいからと付け加える。

それに対してそうかそうかと笑う河兵衛。


「にしても、俺様がいない間に知らねぇ奴等が増えてんな」


えんりは河兵衛から視線を外すと流香、紅白、そして銭へと視線を向ける。


「申し遅れてすみません。えんり様。私はここで使用人をさせて頂いております紅白と申します」


と、そんなえんりに紅白は丁寧に頭を下げる。

えんりはそれを聞いて「え?」と首を傾げ、


「匁、お前。使用人なんて雇ったのかよ!」


驚き匁に問いかけるえんり。対し、匁は「そうだよ-」と平然と答える。

それに更に信じられないといったような表情で紅白と匁を交互に見やるえんり。

そうして、


「いやぁ、ようやく我等が家主も使用人を迎え入れたかー」


匁の肩をポンポンと叩き嬉しそうに発言する。

と、そんなえんりにふと流香が声をかける。


「えっと、えんりさんって人間?」

「人間でしゅもん?」


流香に連なり銭も問いかける。

と、えんりは二人の方へと顔を上げた。


「ん? そう見えるか?」

「見えるも何も」

「どう見ても人間でしゅもん」


言い迷う流香の続きを補う形で銭が言うと、えんりは「ふぅん」と声を出し、


「なら、俺様の変化(へんげ)もなかなかなもんだな」


ニヤリと微笑む。

それを受け、人間だと思っていた二人は違うんだという表情をし、紅白は表情は変えないものの違うのかと心の中で思う。


「ところでえんりはいつまでいるの?」


と、ここで匁が首を傾げてえんりに問いかける。


「ん? あー、仕事の都合でいれても明日までなんだよな」


えんりは言って真面目な顔で匁をジッと見やる。

それにどうしたのかと頭に『?』を浮かべる匁。


「ま、それよりちょっと色々話したい事もあるからよ中に入っても良いか? 土産もあるしさ」


と、えんりは切り替えとばりに声を出し、お店のロゴが書かれている紙袋を見せる。

それに匁は元気に頷き、先程皆が集まっていた居間へとやって来る。

そうして紙袋を紅白に手渡し紅白はそれを受け取ると、別の部屋へ置きに行く。


「いやー、しかし変わらねぇな。ここは」


居間に置かれたちゃぶ台の前に座り、部屋の中を見渡しそう言うえんり。

そうして丁度戻ってきた紅白は手にお盆を持っておりそこに乗ってるお茶を皆へと配る。


「それよりよ、えんり。何か相談事か?」


えんりへ、縁側に座った河兵衛が問いかける。

それに振り向くえんり。


「流石は(かわ)っち! 鋭いじゃん!」


先程とは違う声色で瞳をうるうるさせて言葉を発するえんり。

それにぶるっと震える河兵衛。


「おい。秋穂の真似すんじゃねぇ。ぞわっとする」

「えー、河っちノリ悪ーい」

「おい」

「なはは。まあ、おふざけはここくらいにして。実はよ、匁にお願いがあってきたんだ」

「僕に?」

「ああ。明後日の仕事でよ、ちょっと遠征があるんだが、行く先に関して気になる事を聞いてよ」

「気になる事ー?」

「そう。今回行くのは最近って言っても三ヶ月くらい前か。オープンしたホテルで、俺様はホテル側のオープンと宣伝を兼ねてのライブに出るために行くんだ」


言い、えんりは鞄から一枚のポスターを取り出す。

そこには『遅ればせながら! オープン記念ライブ開催』の文字と様々なアーティスト。そして、『今話題のアイドル蛇虎(へびとら)えんりも登場!』とひらひらの衣装に身を包んだえんりの写真と共に書かれている。


「けど、そこのホテル、結構前にあった災害の時に津波の被害があったけど、お祓いや地鎮祭もしてるし、それ以外に立地や土地は別に(いわ)くはねぇんだ。が、どうも出来たばかりなのに経営が上手くいってないみたいで、更に怪事件が起きてるらしくてな」

「妖怪絡みか?」


河兵衛の言葉に「ああ」と頷くえんり。


「行ってみないと分かんねーけど、一つ確信はある。どっちも聞いた話なんだが、この間行ったライブ会場近くに海はねえんだが、何故か海の妖怪(やつ)がいてよ。話し聞いたら住処である今回行くホテル近くの海に本来いないはずの妖怪がいて追い払われるからここにいるって言っててよ。あと、ホテルじゃ誰もいないのに物音がしたり、カメラが勝手に動いたり、逆に急に消えたりっていう現象が起きているらしいし、人によっちゃ走り去る何者かの足を見たって聞いたんだ。だからその妖怪達をどうにかしたいって思ってな。そのホテルもその地域の災害被害復興も視野に入れて出来た物って聞いてるし」

「なるほどー」


えんりの話にうんうんと声を出す匁。

と、そこへ横から声が入る。


「それなら僕に話してくれれば、匁様の手を煩わせなくても」


それは優丸。

優丸は眠そうにも見える目をえんりに向ける。

対してえんりは頭を掻き、


「いや、そうなんだけど。なんつーか、匁に頼った方が良いって直感で思ったからよ。それにお前も―――」

「良いんじゃねぇか?」


と、そこへ口を挟む河兵衛。

それに皆の視線が向かう。

河兵衛はそれを気にせずに続ける。


「事件云々は置いといて」

「いや、事件云々は置かないでほしーんだけど」

「いや、まず聞け」

「おう」

「優丸に仕事全部押しつけても良いから匁も一回外に行って来りゃ良いんじゃねーか? 新しく出来たホテルなんて行く機会も無いだろうし。それに、えんりのライブ見れるから良いと思うぜ? お前ずっと言ってただろ? えんりが人間達のアイドルになってから歌ってるえんりが見たい見たいって」


そう言う河兵衛の言葉に頷く匁。そんな匁の様子に意外だなと思うえんり。

と、河兵衛は続ける。


「それにだ。紅白に休む日あげてねぇだろお前」


河兵衛の言葉に首を傾げる匁。と、紅白。

そんな様子の二人に呆れたようななんとも言えない様な表情をしたあと説明するために河兵衛は口を開く。


「普通はよ、紅白は使用人として『働いてる』んだから休日くらいあげるもんなんだぞ」

「そうなの?」

「ああ、だからその一環として匁がホテルに行ってる間、紅白には迷家(ここ)に残って休んでもらうって事をした方が良いと思ってな」

「ええー! なんでー!」


そう言う河兵衛に匁は驚き声を出す。

何故ならば、


「紅白と一緒に行って一緒にわはーってしたいー!」

「お前な。休日だっつっても、主と一緒だと紅白も気になって休むに休めないだろ。勤蔵丸を見てみろ。あいつも千苑と一緒だから休み無く働いてる。その場面、見た事あるだろ?」


河兵衛のその言葉に紅白と初めて行ったときのことが蘇り、雷を受けたような衝撃を受ける匁。


「確かに!」

「と言うわけだ。だから、紅白に休んで貰うために匁は行ってこい。あと、銭も」

「りょ? 何ででしゅもん?」


不意打ちで飛んできた言葉に首を傾げる銭。

それに河兵衛は付け足す。


「銭は外を結構見てきただろうが、電車とか乗った事無いだろ?」

「ないでしゅもん」

「なら体験するのも良いんじゃないかって思ってな。今後のためにも。それと、新しく出来たホテルだし、海も見れる。楽しい旅行になると思うぞ」

「りょ?」


河兵衛の言葉に楽しい旅行を想像する銭。

そうして、


「銭も行くでしゅもん!」


目を輝かせてフンスと気合いを入れ行く事を決定する。


「つーわけだから、えんり。よろしくな」

「よろしくでしゅもん」

「いや、まあ、良いけどよ。こいつ、なんの妖怪なんだ?」

「銭は金霊でしゅもん」

「へぇ、金霊ねぇ。……金霊ぁ!?」


銭の言葉に驚くえんり。

だが、すぐに表情は驚いたような表情から感心したような表情に変わる


「人型の金霊なんて見たことねーけど、こんな感じなんだな」


ジーッと見て、観察するえんり。

対して銭はエッヘンとでもいうように自慢気に腰に手を当てている。


「まあ、とりあえず行くって事で色々進めておくからよ。出発は明日だから、外で泊まる準備しておいてくれよな」


観察を終えたえんりは匁達にそう告げる。

それにはーいと返答する匁と銭。

と、そこで何かを思い出したように「ああ、そうだ」とえんりは匁達の方へ再度視線を向ける。


「ところで銭って人間に見えるのか?」

「りょ?」


えんりの言葉に首を傾げる銭。

と、代わりという感じで河兵衛が口を開く。


「んー、多分見えないと思うぞ。結構霊感のある奴ならまだしも、少しある程度なら何かいるかな程度だろうな」

「そうか。なら、参加者は二人で良いか」

「二人?」


その言葉に疑問を投げかけたのは優丸。

それに、えんりは「おう」と声を出し、


「お前にも来てもらうからよ」


イタズラっぽく微笑む。


「でも、匁様に行ってもらうって話じゃ?」

「何言ってんだ。河兵衛は勘づいてたけど、最初からお前は行くの確定だからよ」

「え? なんで?」

「いや、なんでって。もしかしたら海にいる奴とかホテルにいる奴は居場所に何かあって困ってる妖怪で村に避難させてやれる奴かもしれないだろ」


えんりのその言葉に成る程と声を漏らす優丸。


「あ、そうだ。もう一人も良いかな?」

「ん? もう一人? まあ、一人くらい大丈夫だろうけど誰連れて行くんだ?」

「えっと、その人。外にいる人だから。多分、途中で合流できるとは思うけど」

「そうか。なら、そういつも合わせて三人だな。了解」


えんりはそう言ってスマホを取り出すと画面をタップする。


「えんり、何それ?」


と、早速匁がえんりの持つ板に興味を示した。


「ああ、これか? これはスマホだ。外の通信機器だな。色々出来るが、まあ、持ち運びできる電話って覚えりゃ良い」

「ほえー、そーなんだ」

「りょー、匁スマホ知らないんでしゅもん?」

「うん。僕、お外あんまり行かないもん」

「りょー」

「ま、とりあえずこれで行く事は決まったんだし、明日寝坊とかしないようにちゃんと準備して寝るんだぞ」

「はーい」

「分かってるでしゅもん」


二人の元気な返事を聞き、お手本のような返事をする二人に半分心配しながらも、それじゃあ私は村の料亭で飯でも食ってゆっくりして英気を養うからと優丸と共に迷家を後にする。

その後は解散の流れになり、匁と銭は準備をすると自室へと向かう。

二人を居間から見送った紅白はふうと息をつき、空を見やる。


明日から家主様達は旅行に行くのかと考え、突然発生した(いとま)をどう過ごそうかと考え―――


「紅白ー!」

「紅白来てでしゅもん!」


―――ようとして、遠く(匁の自室)から聞こえる声に返事をし、立ち上がり向かうのであった。

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