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第十二話:ようじ

 本日も晴れ渡る昼下がり。

 通り抜ける風が風鈴を揺らし、心地よい音が聞こえる縁側。

 (もんめ)(せん)はそこでお腹に布をかけ、仰向けになり気持ちよさそうに寝息を立てている。

 そんな二人の隣には紅白(べにしろ)が座りながら、二人の寝息を聞きつつこれからの予定の事を考え庭を眺める。


 予定といっても、神社に行く前に姑獲鳥屋(うぶめや)に行って銭の服の新調を行い、それから神社に向かうというだけなのだが、あの神(白面)のいる神社には行きたくはない紅白だが、使用人である以上、主の行く先々には付き添い、従わなくてはと心を引き締める。


 と、視界の隅で何かが動いたような気がして匁と銭のどちらかが起きたのかと、寝ている二人を見やる紅白。

 だが、そこには相も変わらず穏やかに寝息を立てている二人がいる。一つ、変わった事と言えば、匁の顔を全身で、最早締め付ける勢いで銭が抱きついているくらいである。

 普通であればそこで匁が起きると思うのだが、一向に起きる気配は無く二人は寝息を立てている。


「あの、銭様。起きて下さい」


 一瞬どうしようか迷った紅白だったが、とりあえず匁は起こさないように配慮しつつ、銭に起きて貰おうと彼女を揺する。だが、銭は顔を(しか)めるだけで起きる気配は無い。

 それどころか、配慮したつもりでも銭は匁の顔にくっついてる訳で、


「んもー? もももお、もももももー?」


 顔に貼り付く銭を揺すられた程度であるのにも関わらず起こすつもりのなかった主が起きてしまい、くぐもった声で紅白に問いかける。


 ―――問いかけているというのは分かるのだが、紅白の方を見やる匁の顔は銭により完全に覆われており、発せられた声は密着している銭を通してであり、なんと言っているのか分からない。

 分からないものの、とりあえず


「申し訳ありません家主様」

「りょー、どうかしたでしゅもん?」


 と、そんな紅白の謝罪で起きたようで銭は匁の顔にしっかりつかまりつつも、片手で目を擦り紅白へ振り返る。

 そんなタイミングで起きた銭になんとも言えない様な気持ちになる紅白。

 と、銭は自身がつかまってるものが動いた事で視線をそこへと移す。

 移るのは当然、匁の頭。


「匁、朝もだったでしゅもん。何してるでしゅもん?」

「さあー? 起きたらこうなってた」

「りょー、それは不思議でしゅもん」

「そうだねー」


 そんな二人のやり取りになんと言ったものかと思う紅白だが、何か言う前に匁がせっかく起きたしと、三人はとりあえず最初の目的である姑獲鳥屋に行く事に。


 元気に歩く匁とその後ろを浮いてついて行く銭。一歩後ろをついて行く紅白。

 そうしていつも通りに進みつつも、匁と銭は道の脇を流れる小川を見たり、道に落ちてる変な形の石を見つけてなにに似てるなどの会話をしつつ、寄り道しながら村の中心へとやってくる。


 村を進みながら、声をかけてくる者に返事をしつつ、三人は目的の服屋の前に着く。

 と、匁は戸口を二回叩いて開ける。


「梅いるー?」


 匁が中に声をかけると、


「いるよー!」

「ぽぽぽぽー!」


 すぐにそんな声と共に、(うめ)八千代(やちよ)の二人が必死の形相で奥からやって来る。

 匁は梅だけを呼んだはずなのにである。


「それで、今日はどうしたんだい匁ちゃん!? もしかしてうちの子になる気に!?」

「ぽぽぽぽぽぽぽ!?」

「ううん」


 ウキウキで話しかけてきた二人だが、匁の首が横に振られた事に肩を落とす。

 それはもう見て分かるとおりの『残念』という気持ちが強く表れた落ち方で。


「あのね、今日はね。銭の服作って貰おうと思って来たの」


 肩を落とした二人に、匁はいつも通りな様子でそう言うと急に鬼気迫る勢いで急いでやって来た二人に驚いて背後に隠れた銭を見せる。

 そんな銭を見て、ふうんという様に「ぽぽー」と声を出した八千代。

 対して、梅は震えている。そう銭を見て震えている。怯えながら匁の袖につかまり見てくる彼女の様子に。

挿絵(By みてみん)

 そうして、震えながらにして梅は、更に震える指先で銭を指す。


「な、ななな、なんだいこの子は!? うちの子になるかい!?」

「い、嫌でしゅもん」


 恐怖におののいた銭の匁の服を掴んだままの拒否に、梅は可愛さと拒否された事実のダブルパンチで一発ノックアウトを決められてしまった。

 壁に寄りかかりながら、真っ白に、しかし安らかに床に崩れ落ちている梅。

 それを揺する八千代。


「ぽぽぽー、ぽぽぽ、ぽぽぽ」

「はっ! あ、ああ、そうだねぇ」


 八千代の言葉に我に返った梅は気合いを入れ直し、仕事モードへと切り替える。


「それで、今日はその銭ちゃんの服だね?」

「うん!」


 匁のそんな元気な返答を聞くと、梅はまず採寸するからと匁と銭、紅白の三人を店の中へと招き入れる。

 入って良いものかと少し思う銭だったが、匁が普通に進んだために後をついて行く事に。

 だが、中に入れば採寸する場所に着く間、銭は初めて入る服屋に辺りをキョロキョロ見ながら、廊下から見える開いてる部屋に置いてある着物や服に興味を引かれ匁にあれは何かと質問する。

 当然匁はお洋服と着物とくらいしか言えないのだが、それに付け足すような形でほぼ全部、梅が説明し、最終的には普通に梅に問う銭。

 その時の答えている梅の表情は凄く生き生きしていたと八千代は後日語ったそう。


 そうして五人は店の奥へと着く。

 初めて紅白が来た、服を作る為の作業部屋。

 そこではいつものように壱面(いつも)が止まり木から首を伸ばして皆を見やる。

 いつものようにニタニタしたような笑顔を向けながら。そんな壱面の後ろでは咲子がミシンで作業を行っているのが見える。のだが、真剣に作業をしているようで匁達が来たのに気がついていない様子。


「じゃ、銭ちゃんはこっちの方に来てね。って言っても一人だと心細いだろうし、そうだね。匁ちゃん達も一緒に来なね」

「ぽぽぽ」

「うん!」

「分かりました」


 五人は更に奥の部屋へと向かい、中へ入る。

 そこは六畳半くらいの部屋。そして、前に来た時に紅白が連れられて着付けやらを教えられた部屋である。


「じゃあ、銭ちゃん、降りて立ってね」

「分かったでしゅもん」


 梅の言葉に従い、畳の上に立つ銭。

 それじゃあちょっと失礼するよと銭の着ている服に触れる梅。


「銭ちゃん、この服、自分で(つく)ったのかい?」

「そうでしゅもん」

「凄いねぇー。ここまで立派に創れるのは」

「そ、そうでしゅもん?」

「当たり前じゃないか。ここまで立派に創れるなんてなかなか出来る事じゃないよ」

「じゃあ、銭は凄いでしゅもん?」

「凄いよ。銭ちゃんは天才だねぇ」

「ぽぽ? ぽぽぽぽ、ぽぽぽぽぽぽボッ!」


 銭を褒めちぎる梅の横から口を挟んできた八千代だが、梅に脇腹を小突かれ地に伏した。

 その時の梅の様子は笑顔のまま余計な事を言うなと言わんばかりのオーラが漏れ出していたと後に八千代は語った。

 それから気を取り直して、着物を脱いでと銭にお願いし、採寸を始めていく梅。


「そういえば銭ちゃんは見ない顔だけどもどこに住んでるんだい?」

「りょ? 銭は迷家に住む事になったでしゅもん」

「へぇ、そうなのかい」

「でしゅもん。それで匁とお風呂入って、一緒におねんねしたでしゅもん」


 銭のその発言にハッとする二人。


「ぽぽ―――」

「ちょっともう!」

「ぽぽ!?」


 銭に対して羨ましさから文句を言うために迫る八千代だったが、テンションが上がった梅に思い切り背中を叩かれて、勢いそのままに壁に激突する。


「一緒にお風呂入って、一緒におねんねって、良いねぇ良いねぇ。それはつまり、匁ちゃんがお兄ちゃんとして頑張ったんだろうねぇ」


 いやんいやんと梅は口から漏れ出す程の勝手な妄想で一人盛り上がっていた。

 そんなこんなで採寸が終わり、梅が銭にどの様なデザインの服が良いのか問い、それを元に紙に書き記していく。

 デザイン的に言えば銭の着ている服とほぼ同じものであるのだが。


 そうして着物の図案が完成すると、部屋から出て、出来たら知らせるからと梅が三人に伝える。

 その後ろでは壱面が器用に片足で止まり木に吊してある古い紙質のノートを開き、咥えたペンで何やら書いていく。


 呉服屋(ここ)での用事を済ませ三人が店を出ると、丁度夕日が沈んだ頃合い。村は提灯の明かりが照らす村へと変わっている。

 そんな村の中を神社に行くために進むと、三人の目に頭から立派な角を生やした女性が映った。


「あ! 東雲(しののめ)だー!」


 匁の声にその女性。東雲が振り返る。


「おお、これは家主殿と紅白殿。久しぶりだな。珍しくこのような所で会うとは。それと、そちらは?」


 見知らぬ者が匁の隣で浮いてるために東雲が問いかけると、匁達が何か言う前に銭が口を開く。


「銭は銭でしゅもん。昨日から迷家に住んでるんでしゅもん」

「ほう、貴女がそうなのか。私はこの村にある鬼の里にて侍女を務めている東雲という。以後、よろしくな」

「よろしくでしゅもん」


 そうしてお互いに自己紹介を終えた二人。

 と、そこへ気の抜けたような「お待たせ-」という言葉が。


 皆の視線が向いた先には東雲とは違う、もう一人の鬼。鬼の里長にして東雲の妹。千苑(ゆきぞの)が布連をくぐりお店から出て来た所だった。


「あれ? 匁さんに紅白さんだ。こんな時間に珍しいね? どうしたのー? というか、隣にいるの誰?」

「またお前は。挨拶の一つでもしろ」

「い、今言おうとしたけど、お姉様のせいでタイミング逃しちゃっただけだし」


 言い訳をする千苑。明らかにそのつもりが無いのが分かる千苑は呆れ顔になるのだが、その表情から小言を言われそうだと感じた千苑は慌てて話題を逸らす。


「それよりもっ! この子、誰なの?」

「昨日から村で噂になっている新しい住人の銭殿だ」

「ふーん? そうなんだ。で、なんの妖怪なの?」


 見た事がない妖怪であるために千苑は問いかける。

 そのどうでも良いけど気になるから聞いたというような態度に眉間にシワを寄せ、指を当てる東雲。


「銭は金霊(かねだま)でしゅもん」

「へー、金霊ねぇー。……金霊ぁ!?」


 東雲を押しのける勢いで身を乗り出す千苑。

 それにビクリとする銭。

 と、流れるような動きで勢いよく千苑は頭を下げる。


「銭! いや、銭様! お願いがあります!」

「な、なんでしゅもん?」

「私にお金頂戴!」

「馬鹿者!」

「あだっ!」


 丁度良い位置に下がっていた頭にげんこつを振り降ろす東雲。

 そして次は東雲が銭に頭を下げた。


「すまない銭殿。いきなり妹が失礼な事を。お前も、みっともない事をするな!」

「だってだって! 皆にはお金渡してるのに、私にはお小遣い無いじゃん!」


 千苑が頭を擦りながら涙目で訴える。

 対して東雲は呆れたように溜息をつく。


「皆はちゃんと働いてるから給金として払ってるんだ。毎日ぐうたらしてる千苑に渡しても仕方無いだろ」

「わ、私、里長なんだけどー! それにちゃんと仕事はしてますけどー!?」

「里長なのは関係ない。それに、勤蔵丸に丸投げするのを仕事してるとは言わない」

「え? な、なんでそれを知って―――……はっ! まさか!」

「そんなの書類の文字で分かる。あんなに綺麗な字、千苑は書けないからな。というか、普通に城で働いてる奴等なら皆知ってるぞ?」

「え? それ、本当?」

「ああ。本当だ。それでも代わりに勤蔵丸がしっかりと千苑()の仕事や、皆の困り事とか解決してくれるから文句が起きてないだけだ」

「じゃあ、良いじゃん。これも私の采配のお陰でしょ! ほら、働いてるじゃん!」

「ああ、そうか。そう言うのであれば、改心したら渡そうと思っていたこのお金は全部勤蔵丸に渡しておく事にしよう」

「え?」


 固まる千苑を余所に、「では失礼したな」と匁達に頭を下げ東雲は鬼の里への方へと歩いて行く。

 その後、しばらくしてハッとした千苑は追いかけながら「今度から頑張るから! それ下さい! お願いします! お姉様!」と遠ざかりながら懇願するそんな声を聞きながら紅白は、あっちも別の意味で大変そうと心の中で思った。


 そうして千苑と東雲と別れた三人は再度神社に向けて進む。


 村を離れ、進む道。次第に背後から道を照らしていた村の光も消え、月明かりしか無い薄暗い獣道へと変わる。

 明るい昼間と違い、何かが出そうな雰囲気に、辺りを警戒しながら進む。と言うわけでは無く、なんかよく分からない数え歌を元気に歌いながら匁と銭はるんるんとその道を進む。

 その後ろを付いていく紅白。


 風も無い静かな夜。


 道も半ばくらいまで進んだろうか。ふと何かの視線を感じ、紅白は振り返る。が、特に何も居ない。

 少し辺りを見るものの、隠れられるような場所は無く、気のせいかと再び匁達の後をついて行く。


 しばらく進み、また気配。

 それどころか今度は小さくではあるが軽快なタッタッタ……という獣の様な足音も聞こえてくる。

 チラリ、足音の主に気付かれないように見やる紅白だがやはり何もいない。

 だが、明らかに足音以外にも見られている気配も最初に感じた時より多く感じる。

 故に警戒し、立ち止まり精神を集中させる。すると、


「紅白ー、どうしたのー?」


 突然かけられた主の声にビクリとしてしまった。


「申し訳ありません。今、何者かの気配がしたもので」

「気配ー? ……あ! それね刻郎(こくろう)のわんわんだよー。用事がある時とか、お祭りの時とか僕達が無事に神社に行けるようにいつもいるんだよ」


 匁の元気な説明に「そうなのですか」と答える紅白だが、正直最初に話して欲しかったとも思う。

 そうして匁達は再び歩き出し、神社に行くための山道へと入る。

 そこでは灯籠が点いており、暗くても道が分かるようになっている。そんな道を進み、階段が先へと伸びる鳥居の前に着く。

 鳥居を見てこれからあの神社に行かなければ行けないのかと少し気が重くなる紅白だが、しっかりしないとと思い、気持ちを入れ替える。


「じゃあ、紅白。はい」


 隣で聞こえたそんな声に、紅白が見やると、両手を前に出す匁の姿。

 その行為に首を傾げる紅白。


「家主様、どうかなさいましたか?」

「え? だってこの前来た時疲れてたから、ここから僕がだっこするー!」


 そう笑顔で言う匁だが、紅白は一瞬考えた後、あの時の事が脳裏に蘇り赤面する。


「いえ、その、お気持ちは嬉しいですが毎度家主様の手を煩わせるわけにはいきません。それに、今は飛んでいく事が出来ますし、今度は私が上までお連れさせて頂きます」

「う?」


 そんな紅白の言葉に小首を傾げる匁だが、次第に目を輝かせ始める。


「それってお空飛べるって事!?」

「そう、ですね」

「やってやってー!」


 目を輝かせ興奮した様子で答える匁。対して、では失礼しますと紅白は普段通りの様子で匁を抱きかかえるとバサリと翼をはためかせ、木々の隙間を通り空へと舞い出る。


「わあー! 凄ーい!」


 紅白に抱かれ、眼下に広がる景色。灯籠に照らされた山と灯りにより照らされた山の頂にある社に目を輝かせる匁。

 そんな匁の様子に何故か温かい気持ちになる紅白。


「では、参りましょうか。家主様」

「待ってでしゅもん!」


 匁に提案した紅白の耳に聞こえた声に向くと、少し遅れて銭が二人の元へふよふよと。


「紅白、早いでしゅもん」

「申し訳御座いません。銭様」


 うっかり横に居いるものだと思っていたために気付かなかった事に謝罪する紅白。

 そんなこんなでとりあえずはと、三人は神社前の鳥居へと向かう。

 銭の飛行速度に紅白が合わせる形で。

 三人が鳥居の前に立つと、一つの影が。


「ようこそ。家主様方。よくおいでくださいました」


 頭を下げる刻郎。

 対して匁達が返答する。と、彼はついて来てくださいと皆を社の方へと案内し、三人はその後をついて行く。

 ついて行きつつ、銭は初めて訪れる神社の様子に興味津々に辺りを見渡す。


「では、こちらでお待ちください」


 そうして三人が通されたのは、初めて白面と対面した社。

 その戸を開けると中には既に、数名が揃っている。


「あ! 河兵衛と山爺!」

「おお、匁来たか」

「ほっほっほ。紅白も一緒か」

「お久しぶりで御座います。翁様」

「りょー、このお爺さん誰でしゅもん?」


 銭の何気ない言葉に、ビクッとする紅白。

 と、そんな紅白に代わり翁が口を開くき、答える。


「ほっほっほ。(ワシ)は紅白の叔父じゃ」

「そうなんでしゅもん?」

「そうじゃよ」

「りょー」


 その言葉に気の抜けるような声を漏らしながら紅白と翁を交互に見やる銭。

 と、そんな銭の声を聞いていた皆の耳に別の二つの声が聞こえる。


「あの古賀子さん、歩きづらいんで離れて欲しいんすけど」

「えー、良いじゃん別にぃ」


 見れば困った表情の雷造と、腕を絡ませ身を寄せながら一緒に歩いてくる古賀子の姿。

 そうしてそのまま社の傍まで来ると、古賀子はまたねと腕から離れてどこかへ。

 雷造はそれにまたと返答すると社の開いている戸から中へ入り、皆へ視線を向ける。


「皆早いっすね。もしかして俺で最後っすか?」

「おう、雷造で最後だ」

「では、皆揃ったようじゃの」


 不意に聞こえた声に皆が社の奥へと視線を向けると、そこにはいつの間に来ていたのか、白面が不敵な笑みを浮かべて皆を見ている姿がある。

 と、そんな白面に対して口を開く者が一人。


「んで、山神さんよ。今日は何の用だ?」

「河兵衛よ、この面々じゃ。お主ならば何故(なにゆえ)呼ばれたのか薄々気付いておるじゃろ?」


 問いかける河兵衛に対し怪しい笑みを浮かべ逆に問う白面。

 そんな白面の横ではいつの間にいたのかアンネルが寄り添うように横座りにて()している。

 白面の問いかけに顔を顰める河兵衛。

 と、そんな河兵衛の後ろからひょこっと顔を出す匁。


「ねえねえ、白面。なんで呼んだのか教えてー!」

「うむ。実はな、匁達に礼と謝罪をしたいと申す者がおっての」


 素直に答える白面。その様子に呆れているもののいつも通りだなと思う河兵衛と山風の翁、雷造の面々。


「そういう事で、出てくるが良い」


 白面の呼ぶ声。それに反応する様に音が皆の元に近付いてくる。

 それは固い物が床に当たるような音。

 だが、その音に河兵衛の隣に座る流香が身を強ばらせる。

 河兵衛はそんな娘の様子に「どうした」と声をかけようと思うのに少し遅れて音の正体にまさかと再度音のする方を見やる。


 そして、音の主が蝋燭の光の届いていない暗闇から姿を表す。

 その見姿に河兵衛と雷造、山風の翁は表情を強ばらせる。それもそのはず、


 ―――あの時の逆神(あれ)が、そこにいた。


「な、なんでこいつがここに」


 驚愕に声を漏らす河兵衛だが、その横を通る者が一人。いや、二人。


「あの時、突き飛ばしちゃったけど大丈夫ー?」


 皆と違い、恐れるような様子はなく化け物の傍に寄り添い問いかける匁と、それに追従する形でやって来た銭。

 その様子に固まる一部とそんな皆の様子に、詳細を知らない紅白はマズいのだろうと思いつつどうして良いのかと内心困惑している。


「「大丈夫だ。むしろ飛ばしてくれて助かった。この村の主よ」」


 と、まるで男女の二人が同時に話すような声で答えるこの者。

 すると突然、この者が光り輝き、眩い光が社内を照らす。その光にほとんどの者が目を覆い、光が収まった辺りで皆が目を開けると、そこには先程の者の面影が残るような感じの頭巾を被った匁よりは少し大きい男女二人の子供がいた。


挿絵(By みてみん)


「「怪我をさせたり、迷惑をかけてごめんなさい。そして、助けてくれてありがとう」」


 二人は同時に言うと頭を下げる。

 その言葉、その様子に緊張が解れたようでそれぞれの様相を見せる。

 と、その二人は流香の元へとやって来る。

 そんな二人に少し身構えてしまう流香と河兵衛だが。


「「ずっと、封じてくれてありがとうね」」


 二人は流香にそう言うとまた頭を下げた。

 その様子に「うん」と頷く流香。

 そんな流香の表情に顔を上げてありがとうと再度言う二人。


「「それじゃあ、そろそろ行くよ」」

「うむ。それが良いじゃろう」


 白面がそう言うと、二人は皆の横を通り社の外へ。

 その後を追い、皆も社の外へ。

 すると二人は皆の方へと振り返る。


「「五十刈村の妖怪の皆、そして山神白面。ありがとう」」


 言葉を言った二人は手を繋ぎ、宙へと浮かぶ。

 そんな二人へ歩み出た白面が口を開く。


「今度、出雲の集会で会おうぞ。それまで、また騙さて逆神にならぬようにな」

「「うん。今度は騙されないようにするよ。それじゃあね」」

「うむ、またの」


 白面の言葉を聞き終え、二人は強く光り輝く。

 と、次の瞬間には光は消え、灯籠の明かりだけで照らされた薄暗い神社の庭があるだけ。


 ―――ま、借りは返したぞ。


 そう思いながら二人が消えた空を見やる白面。

 と、そんな白面の横から声がかかる。


「逆神の呪いってなんでしゅもん?」

「む? ああ、逆神の呪いとはな、妾達、神が司るものを反転させる呪いじゃ。彼奴(あやつ)であれば家を、一族を没落に衰退に追い込むようになるのじゃ。それでその力を使う際には神、自らの身を削る事になる故、そんな呪いをする様な人間には他の神々であっても今後手を貸さなくなる故に人間達側では禁忌とされておる呪いじゃ。誰しもたかだか一人の人間如きの為に消えたいとは思わんしな。そもそもそんな不敬な事をする輩。すでに他の神々の恩恵は受けられぬじゃろうし、もうその家は無いかもしれぬしな」

「りょー、そうなんでしゅもんね」

「うむ。……というか、お主、誰じゃ?」

「りょ? 銭は銭でしゅもん」

「銭?」


 聞き慣れない名前に首を傾げる白面だが、そういえばそんな名前の奴が村にすむ事になったと聞いた事を思い出す。


「そうかお主が銭か」

「そうでしゅもん」

「それで、お主は何をしに来たんじゃ? 妾に挨拶か?」

「りょ? 違うでしゅもん。匁がお出かけするって言ってたからついて来ただけでしゅもん」


 そんな事を言う銭に肩透かしを食らう白面。

 だが、見た目と言動から子供のような思考しかしないのだろうと考え「まあ良い」と気持ちを入れ替える。


「まあ、帰りは気を付けて帰るんじゃな」

「そこは大丈夫でしゅもん。匁と一緒に帰るでしゅもん」

「む?」


 その言葉に一瞬眉を顰める白面だが、どちらにしろここから帰るとしたら河兵衛や流香、山風の翁と違い、他の面々は一旦村を経由するためそこまで一緒に行くのだろうと考え納得する白面。

 と、そこでふと疑問が。


「そういえば、銭よ。お主はどこに住んでおるんじゃ?」

「りょ? 銭は、迷家に住んでるでしゅもん」

「ふむ、そうなのか?」

「そうでしゅもん」

「ふむふむ、そうかそうか」


 銭の言葉にただ流れで反応して答える白面だが、言ってる事を頭で理解した瞬間、白面の驚愕の声が夜に響いたのは言うまでもない。

 あと、そんな銭の発言に紅白が後ろでおろおろしていたのも言うまでもない。

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