序章:昔話
「ねえねえお母さん。あのお話ししてー」
「あのお話?」
「お母さんが、おばあちゃんから小さい時に聞いたお話!」
ぬいぐるみを抱いた女の子がベッドに入りながらそう言うと、お母さんは本当に好きねと微笑み話し始める。
昔々あるところに働き者の小作人の男がいました。
男は村では働き者と評判で、その評判の通り男は朝早くから起き、夕暮れ時まで一生懸命に働いておりました。
そんな男には病気のお母さんがおり、仕事が終わった男はそのお母さんの事も看病ていました。
おっかさん。いつかお金貯めて医者さ診て貰うからな。と、心に決めて床に伏しているお母さんに世間話をしつつ元気づけたりしていました。
そんなある日の夜。
男がそろそろ寝ようかと思った時、家の外でふと物音が聞こえまたタヌキとかが干している食べ物を食いに来たのかと思い追い払うために外に出ました。
すると、男の目に止まったのはタヌキでは無く、可愛らしい顔の青い着物を着た男の子が家の前にある切り株の上に座っている姿でした。
けれど村でこの様な子供は村では見た事がない男は問いかけます。
「お前さんはどこから来たんだ」と。
すると男の子は男に満面の笑みで楽しそうに男に返しました。
ここで待ってるのと
それを聞いた男は、親が迎えに来るのだろうと思い、それまでの間にこの子供が獣や化物に襲われてしまえば悲しむと考え、見ず知らずのその子供を家に上げる事にしました。
そうして、男は子供を家に上げると迎えが来た時に分かるようにと家の前に石で目印を作りそ、そこにお子さんは私の家にいますと書いた紙を置いておきました。
男がその作業を終えて家に入ると、その子は病気で寝ている男の母親の前に座っていました。
不思議そうに覗き込む男の子に男はそこで寝ているのは自分の母親で病気である事を説明します。
それを聞いた男の子はそうなんだと答えるとまた視線を男の母親に向けます。
男はそんな男の子の傍に座り同じ様に母親を見やります。
その時、ふと隣でお腹の虫の音が聞こえました。
男が見ると男の子がお腹を押さえています。
どうやらお腹が減った様子の男の子。
男はそんな男の子にちょっと待ってろと言うと家の奥にあった食べ物を一つ男の子に渡しました。
それを受け取った男の子は男にありがとうとお礼を言うともぐもぐとその貰った食べ物を食べ始めます。
そうしてその子が食べ終わった後、家の戸口を叩く音がしました。
すると、来たと嬉しそうな声を出し男の子は立ち上がります。
それに男は気を付けて帰るんだぞと声をかけつつ子供の両親に挨拶をしようと立ち上がります。
そんな男に子供はうんと頷いて戸口を開けました。
開かれた戸口の先を見た男は、抜かしてしまいました。
そこにいたのは、子供の親。―――ではなく、様々な物の怪達が月明かりに照らされて立っている姿でした。
と、腰を抜かしている男に男の子は笑顔で言います。
大丈夫だよと。
するとその物の怪の中にいる一匹の河童がその男の子に何かを言うと男の子はこくりと頷き、振り向き男にバイバイと言うと男の子を先頭に物の怪達が動き出しました。するとその行列は淡く光り出し、輝く百鬼夜行となり村を去って行きました。
一部始終を見終え、しばらく呆然としていた男でしたが、気付いたら布団の中におり朝になっていました。
男は夢を見たのだと思い気持ちを切り替えて村の外に出ると、家の前に石が置かれているのを見つけました。
それは、紛れもない昨日夢で自分が置いた石でそこには家で預かってますという文字が。
それを見た男は夢の事だと思っていた事が現実だったのだと震えます。
そんな男の耳にふと声がかかり、男は飛び退いてしまいました。
飛び退いた男が見やると、そこには数人の護衛をつけたお爺さんのお医者さんの姿が。
そのお医者さんは男に医者である事と長旅で疲れているから休ませて欲しいという事を告げ、男はその医者に母親の事を見て貰いたいという思いもありましたがそれよりも疲れて困っていると言う事を優先して、その護衛を家に上げる事に。
そこで医者は男の母親が床に伏せているのを見つけ男に問いかけます。
男は藁にもすがりたい思いでしたが、疲れている客に頼むのは気が引け、医者にはいずれ診て貰う事とと今はお金が足りず診て貰えない旨を伝えると、医者はお礼に診ると言い男の母親を診てくれました。
そして医者は自分の住む町に行かないと薬や治療が出来ないと言い、休憩の後、護衛と男に説明し、母を連れ村を出発する事に。
しばらく歩き男と母親は医者の住む町につきちゃんと男の母親は診て貰える事になりました。
しかし、薬代はとても高く、医者がどうしようかと悩んでいるのを知り、男は頑張ってお金を稼ぐと仕事を探しました。
元から働き者であった男であるため、最初は簡単な仕事だけしか貰えなかった男だが、評判を聞いた人達から仕事が舞い込み、更には町の一番偉いお侍さんのところで働ける事になったのです。
そうして男は母親の薬代を得て、更には一生懸命働くその姿に感動したお侍さんに気に入られてお侍さんの娘を妻にもらい受け、子宝にも恵まれて、母親と妻と子供達と共に幸せに暮らしましたとさ。
語り終えたお母さんが娘を見ると、彼女はぬいぐるみをギュッと抱いて眠りについていた。
お母さんはそれを見て微笑むと、お休みなさいと静かに言い彼女の部屋から出て行く。
さて、これはどこにでもあるような語り継がれる昔話。寓話ともとれるその話。
だがもし、これが昔の事実だとしたら―――
物の怪達はどこに行ったのだろうか? そしてどこに住んでいるのだろうか?