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99話 柑橘の酸味っていいよね!

ども、坊丸です。

信長伯父さんに粕取り焼酎と柳蔭を献上してみました。

やっぱり、焼酎は、アルコール濃度が高いから、お好みではなかった様子。

少し、噎せてたし。

柳蔭は、概ね好評のようだけど、スダチを使って味変を仕掛けますか。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「恐れながら、伯父上。今お飲みの柳蔭、今一段の変化をさせていただきたく存じますが、よろしいですか?」


「許す。坊丸、今一段の変化とはなんじゃ?」


よし、食いついた!

やっぱり、織田信長、好奇心、強めっすね。


「はっ、これを使いたく」


おもむろに懐からスダチを取り出して、広間の皆に見えるように掲げます。


「スダチではないか、坊丸」


「はっ、スダチでございます。この絞り汁を数滴、柳蔭に加えていただきたく。

清酒の酸味とは違った爽やかな柑橘の酸味をわずかに加えると、より美味しく呑めるのでは、と思った次第」


「で、あるか。面白そうじゃ、やってみよ」


「では、さっそく。井上殿、お手数ですが、配下のかたに、これを」


そう言うと、井上殿の部下の包丁方の人がスダチを回収し、下がります。

そして、間をおかず、半分に切ったスダチと絞り汁が入った小皿が三方にのせて運ばれてきます。


なんか、手回しがよすぎるんですが?

料理番組の「こちらにできあがったものがっ!」っていう差し替えみたいな感じか?

井上殿、そんな感じで準備してたんか?


井上殿の前にスダチの三方が置かれると、井上殿は、小皿の絞り汁を一舐め。

酸っぱさに一瞬顔をしかめますが、何事もなかったかのようにしています。

その様子を見て、ニヤッとした信長伯父さん。

絶対悪戯思い付いたやつだ。

誰か家臣の人にスダチの汁を全部飲めとか、そういうのは、無しですよ?信長伯父さん?


「殿、毒見いたしてございます。こちらをお使いいただきたく存じます」


そして、スダチの三方を信長伯父さんの前に置く、井上殿。

信長伯父さんはスダチのしぼり汁を入れた小皿を取り上げると柳蔭の上に持っていきました。

はい、そのまま、少しだけ、スダチのしぼり汁を柳蔭に注ぎ入れてください、伯父上様。


と、そのまま、柳蔭にスダチのしぼり汁を入れるのかと思ったら、小皿を三方に戻してしまう、信長伯父さん。

え?なんで?


「坊丸、近こう寄れ。スダチのしぼり汁を入れる量、良い塩梅を知るのは、そなたであろう。そなたが適切な量を入れよ」


え?えぇ?

饗応の時は、麦芽水飴をかけるために無造作に信長伯父さんに近づいて、色々トラブル起こしたから、今回はそうならないように工夫したのに!

まさか、信長伯父さんのほうから近くに来るよう命が下るとは…

予想外ですよ。困った。


こういう時は、柴田の親父殿にどうすればいいか聞きたいんだけど…

柴田の親父殿のほうを見ると、視線が交わり、ただ頷いて、信長伯父さんのほうに顎をしゃくりました。

えぇっと、これは、素直に行って来いってことですね。


中村文荷斎さんに至っては、眼も合わせてくれませんし。はい、いろいろ諦めつつ、腹をくくりますか。


「どうした、坊丸、早くいたせ」


うん、信長伯父さんに催促されたから行くしかないよね。

起こっている感じじゃないけど、いたずらっ子の顔になっていますよ、信長伯父さん…


「はっ、では失礼して」


信長伯父さんの傍まで膝行して、今一度、頭を下げ、スダチのしぼり汁が入った小皿を持つと、信長伯父さんから声がかかりました。


「坊丸、こちらの半分に切ったスダチを絞って、酒に入れよ」


「はっ、承りましてございます」


今回は、信長伯父さんの命令ですからね、小姓の人たちも、こちらを一瞥しますが、前回のように長谷川殿に手をつかまれたり、警護の太田牛一さんに殺気を向けられたりしません。

今から思い返すと、前回はよくあんなことで来たよなぁ。


スダチのしぼり汁の小皿を置いて、半分に切ったスダチを持ちますが、子供の力でこれを絞るのはなかなか難儀なんですが…。

片手じゃ絶対無理だしな、両手で行きますか。信長伯父さんの前だし、少し緊張するなぁ…。

信長伯父さんにしぼり汁飛ばしたら、絶対怒られる奴だろうしな…。


柳蔭の上で、スダチを絞ろうと力を入れていると、信長伯父さんが、すこし身を乗り出してきました。

顔が、顔が近いよ、信長伯父さん。


「坊丸、そのまま聞け。お主、柳蔭の手柄、井上に譲ったな?」


うっ!できるだけ自然な流れで功績を譲ったつもりだったけど、信長伯父さんにはお見通しだったか


「ふっ、その様子だと、図星よな。井上は、あのように新しいものを考え出すような質の人間ではない。坊丸、功を譲るのは悪くないが、小細工はするな。むしろ、功を誇るようにせよ、良いな」


「は、申し訳ございませんでした」


「謝らずともよい、次からは、気をつけよ。井上は井上で実直に職務をこなすのを評価しておるゆえ、余計な気を回すな」


「以後、気を付けます」


小声で信長伯父さんとのやり取りをしていると、言いたいことは言い終わったのか、信長伯父さんは姿勢を元に戻しました。


「坊丸、まだ、スダチが絞れておらんぞ!そう、緊張するな」


「はっ」


うん、まったく別の話の流れになったのは、さっきの話は、ここだけの話としておけってことですね。

坊丸もそれくらいは、空気が読めるようになりました。

もう少し、スダチを持つ両手に力を入れると、2,3滴スダチのしぼり汁が、柳蔭を入れた盃に落ちて行きました。


「伯父上、スダチを絞られていただきました。どうぞ、ご賞味ください」


「で、あるか」

そういうと、信長伯父さんはおもむろにスダチ入り柳蔭の盃を手に取り、グビッと行きました。


「ほぉ、スダチのすっきりした酸味が良いな。柳蔭がさらにうまくなった。坊丸、お主は、饗応の時に柚子皮を使ったように柑橘を使うのが上手いものよな。井上、儂が柳蔭を求めた時は、柑橘のしぼり汁を数滴入れたものせよ、良いな」


「承りましてございます」


元の座り位置に、戻りましたが、なんかどっと疲れた。

柴田の親父殿と中村文荷斎さんが、なんか優しいまなざしでこちらを見ているから、今回はやらかしちまった!ってほどではない感じかな。きっと多分。

はぁ、でも疲れた。


今回は、粕取り焼酎と味醂で柳蔭を作ったけど、何時かは、ウィルキンソン炭酸の発祥の地である宝塚の山の中から天然炭酸水を見つけ出して、酎ハイを作り出してやるんだ!

そのためにも、信長伯父さん、近畿一帯を領有する天下人に絶対なってくださいね!

花粉症の治療としてゾレアの注射、やることになりそうです。

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