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62話 浮野の戦い 第三段

浮野の地にて向かい合う信長軍2000と岩倉勢3000。


岩倉勢を率いる信賢は、信長の軍勢の二町ほど手前で、一度、進軍を停止し、陣立てを整える。


その様子を信長は睨むようにして見ている。そして、国友や堺から仕入れた鉄砲100丁の半分、50丁を使って試験的に作った鉄砲隊を率いる橋本一巴に振り返って声をかける。

「一巴、岩倉勢がよってきたら鉄砲隊を率いて、一斉に撃ちかけろ。そのあとは乱戦になる。鉄砲隊は、長秀を支援し、浮野城に入れ。そして、浮野城の櫓から後方の岩倉勢を狙い打て。良いな」


「はっ。うけたまわりました」

指示を受けた橋本一巴は、頭を下げたあと、足早に鉄砲隊の方に向かう。


「長秀に伝令を出せ。とっとと浮野城ごとき小城を落として、速やかに信賢を打ち取るのを手伝え、とな」

その言葉を伝えに馬廻り衆が走る。


「森可成を先鋒に、佐久間信盛、盛次、林秀貞は、予定通り本陣を固めよ。佐久間盛重は、後方から回り込むようして、可成の隣に並ぶように申し付けよ」


その言葉を聞いて、また、馬廻衆が各々の将の元に走る。


「物見の者共、信賢の軍勢は、どうだ」


「まだ、動きはありません」


「で、あるか」

そういった信長はニヤリと笑う。

「信賢は、戦がわかっておらん。伊勢守家も大和守家も、奉行や家老に戦を押し付け、現場に出てこないからこうなる。さて、犬山勢と前野に早く来いと伝令を送れ、奴らはここから北側、木曽川までの間に必ずいるはずだ、急げよ」


そうこうしている間に信長軍は、信長からの伝令を受けて、陣形を組み直す。これで、信賢軍は、信長軍の後方を襲い、城にいる軍勢と挟撃という戦術的メリットを失った。

悠々と陣形を組み、信長軍に対峙する自軍の様子を見る信賢は、そんなことには気づかない。

ただ、自軍の方が数が多いことに満足し、勝利を確信しているのだ。


「清須の奉行職ごときが、大和守家の領地ばかりか、我が伊勢守家の上四郡まで奪い取ろうとしておる。これは許しがたきことぞ。良いか、皆のもの、信長の軍勢は2000足らず、我が軍は、3000だ。増長する信長と、その配下をこの浮野の地にて打ち破り、目にもの見せてくれようぞ!いくぞ!えいえいおー!」


信賢の檄に応え、信長軍に向かう岩倉の兵たち。数が1000多いという言葉に安心し、勝利を確信して悠々と進軍していく。

信長軍と信賢軍の距離が一町、約110メートルを切った時、森可成隊、佐久間盛重隊の間で装填済みの鉄砲隊50が、文字通り火蓋を切った。

浮野城の城下、開けた野原に響き渡る銃声の轟音と白煙。

信賢軍の先鋒を務める30から40人が倒れる。

そのなかには、岩倉勢の家老職、山内盛豊の姿もあった。前線指揮官の一人が撃たれ、混乱する信賢軍。

幸いにも、山内盛豊は左肩を負傷したのみで、起き上がって、周りの兵を落ち着かせ、鼓舞する。

「これは、たぶん、信長が買い集めた鉄砲という武器だ。数は多くない、者共、恐れずに進め!吾は捨て置け、進んで、敵兵を打ち取り、武功を上げよ!」


恐慌に陥りかけた前線を必死に立て直す家老とは違い、ここしばらくは家督のこととその後の岩倉場内の掌握で忙殺された信賢は、鉄砲のことを知らず、混乱してしまう。


「なんだ、あの煙と音は!弓隊の林弥七郎らは、何をしている!とっとと射かけて、信長軍の先鋒を早く崩せ!」


火縄銃の殺傷射程は、50-100メートル、有効射程は200メートルほど、それに対して、弓の殺傷射程は、30-40メートル、有効射程は100メートルほど。

曲射を利用した最大射程は500メートルと鉄砲よりも長い弓であるが、直射ではやはり鉄砲の方が勝る。

当然、そんな知識は、信賢には、無い。また、岩倉城一の弓の名手、林弥七郎にとっても、火縄銃は、まだ見ぬ謎の兵器だった。

しかしながら、恐怖心よりも自尊心が勝った彼は、謎の兵器よりも自分の弓の方が勝ると考えた。主君の信賢の指示を受け、ここが武功の立てどころと、弓隊を率いて先鋒の後ろに移動し、信長軍に向けて射撃を開始する。

だが、橋本一巴率いる鉄砲隊は、既に信長の指示通りに本陣まで下がり、再装填にかかっていたのだった。


序盤戦は、鉄砲隊と充分に迎え撃つ体制を整えた陣形で、有利を取った信長軍であったが、やはり多勢に無勢。

「戦いは数だよ、兄貴」と言った宇宙世紀の武人の言葉は、それが戦争の全てではないが一面の真理を突いている。

各武将や精鋭である信長の馬廻り、そして、信長自身までもが奮戦しようとも、信長軍のすべてが一騎当千というわけではない。時間経過とともにランチェスターの第一法則が冷徹に戦力格差を突きつけつつあった。


「皆のもの、ここが辛抱のしどころぞ、目の前の敵兵に集中せよ!」

尾張の弱兵とは、いったものである。信長自身が前線で奮戦するその姿と大声での叱咤激励でかろうじて持ちこたえているのが信長軍の現状であった。


そこへ、木曽川方向に出した物見や織田信清、前野宗康に出した伝令が次々に戻り、信長に報告しつつ、信長を守るようにして、参戦していく。


「信清様、前野殿、もう少しで到着いたします」

「2~3町のところに犬山勢の旗指物見えてござります」


「聞いたか者共、援軍が来る。いますこしで援軍が来るぞ。者共、援軍が来るまでに、奮戦せよ!援軍が来て、敵勢が崩れたあとは追い首ぞ!今こそ、気張れよ!」


そして、手近の馬廻りに犬山勢に伝令をさせる。


陣を整えることなく、岩倉勢の側面を突くようにと。

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