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59話 三又鍬と曲がり鋤

ども、坊丸です。千歯扱きを勝手に試作したことを柴田の親父殿にみんなの前でやんわり怒られたうえに、夕食後に説教タイム一刻ほどいただいた坊丸です。

ちなみに、三又鍬と曲がり鍬の試作品を試し終わった後、中村文荷斎さんに慰められ、加藤清忠さんと福島正信さんには謝られられました。

くっ、これが責任者の重圧か。チームの絆がこの一件で増したと信じて、あきらめよう。


で、石田村に追加で頼んだ三又鍬と通常型の持ち手の曲がり鋤10本づつを持っていきました。ちなみに現代だと一般的なシャベルこと、孔状の持ち手の曲がり鋤は試作品の一本のみ持ち込みです。



「仁左衛門さん、新作の農機具を持ってきたので、村の人を集めてもらってもいいですか」


「これはこれは、坊丸様、中村様。新作の農機具ですか。あまり変わったものだと、村のものも使いたがらないと思いますが、大丈夫ですか?」


「鍬と鋤の形を少し変えただけのものですから、使い勝手はそうは変わらない思いますよ」


「ふむ、これですか。確かに、鍬の先が少し変わっているのと、鋤の先が少し曲がっているだけですから、皆の衆の手にもなじむやもしれませぬな。おい、権蔵、稲荷様のお社のあたりに皆を呼び集めてくれぬか。では、こちらは私が持ちますゆえ、行きましょうか」


石田村の北のはずれ近くにある稲荷神社の近くで文荷斎さん、仁左衛門さんと待っていると、三々五々村人が集まってきました。


「皆の衆、様集まってくれた。忙しいとこ済まぬな。坊丸様と中村様から、鍬と鋤の改良品を試して欲しいとの依頼を受けた。とりあえず、皆の衆、一度手に取ってほしい」


名主の仁左衛門さんの呼びかけに集まった村人は、目の前に置かれた少し変わった形をした鍬と鋤を手に取っている。


「この鍬は妙な形をしておるな、名主殿よ」

「こちらの鋤も変に曲がっておるが大丈夫か」


やはり、見慣れぬ形の鋤と鍬に一様に不信の声が聞かれます。


「こちらの三又になった鍬は少しの力で土の深いところまで刺さるのだ、そしてこちらの曲がった鋤は、曲がったところに土を乗せて、脇に除けたり、遠くに運んだりできるすぐれものよ。村の衆、まぁ、物は試しと思って、一度その当たりの土を耕す真似をしてみてもらえないか」

流石、文荷斎さん、不信の声が強くなる前に、実用してみろとうまく誘導してくれます。

所詮、外見は幼子、自分だけでは、こういう時うまくあしらえないでしょうから、有り難いことです。


「まあ、お侍さんや名主さんがそういうなら…」

等とまだ不満がある感じですが、三又鍬こと備中鍬やどうみてもシャベルな曲がり鋤を土に突き立て、掘り返したり、土を運んだりしてもらいます。


三又鍬は、基本的に村人ほぼ全員から高評価をいただきました。

ただ、畝だてするときは、従来型の鍬の方が良いと言われてしまいました。

曲がり鋤も、先が尖っていて、刺さりやすい点や足をのせて踏む場所が大きい点などは評価されましたが、そんなに土をのせて運ぶ用には使わないとのことで、曲がりを緩やかにしてほしいとのこと。


文荷斎さんが、村人の意見を記録ながら、加藤さんと福島さんにも伝えていきます。

文荷斎さん、文官として優秀やぁ~。


ちなみに、持ち手が孔状の自分が慣れ親しんだシャベルの評価は微妙でした。

高齢な方や非力なら人用なら良いかもね…って程度。トホホ。


その後、苗代を見せてもらいました。今年は、塩水選をしたのでとても発芽の状況が良いとのこと。


「いやぁ、坊丸様、塩水選で選抜された苗はいずれもよい状態です。コメ作りは苗づくりにかかっているところもありますからな、私の祖父などは、コメ作りの半分は苗づくりで決まるとも言っておりました。いい苗ができるのを見た村の衆も、今年はうまく収穫が増えるのではないかと喜んでおります」


「いい苗、いい土、いい肥料は人の手でどうにかできますからね。あとはお天道様次第ですね。と、田植えはいつ頃になりそうです?」


「5月の中旬には麦が収穫できますから、その後、大急ぎで土を起こして、坊丸様に考えていただいた肥料をいれて、水を張ってですな」


「麦と米の二毛作ですか、収穫後にまたすぐに植え付けをするので、大変ではないですか?それに土地が痩せてしまうでしょう?例えば、一年目の春から秋に米、その後、秋から初夏で麦、夏場から冬に大豆としたらどうです?そうすれば、収穫と植え付けの期間に間が取れるでしょう?土地も違うものを作るし、大豆の後少し休められるので、いいのではありませんか?二年で三種類を作ったほうが。」


「坊丸様、それでは、年貢の米が収穫できない年ができてしまうではありませんか!年貢は米ですから、そのほかの食べられる穀物の収穫は我らにとって、生き死にがかかった大切な問題なのです!」


そうか、年貢が米メインである限り、二年三作は現実的ではないのか…。総合学習で農業を取り上げた社会の先生から教わった知識、まったくの不発です。つかえねぇな、総合学習。

ジャガイモやサツマイモはまだ、日本伝来してないだろうし、これも、米でないから駄目って話になるしな…。為政者が、米本位制の年貢から脱却するくらいの意識改革されないと無理だな…。

米で納められない分は代替作物で比率を決めて納めるとか、金で納めて良いとかね。特産物で納めていいシステムはこの時代にもあるから、それを拡大解釈していけば行けるんじゃないのかな?

ま、それは自分が領地をもらった後くらいじゃないと無理だろうな。信長伯父さんの場合、重商主義の傾向があるから、説明すれば部分的には受け入れてくれるかもしれないけど。


あとは、手間暇と年貢のかからない雑穀を田んぼ以外で育ててみる方法か…

領主サイドなのに領民が年貢のかからない脱税的な抜け道教えるみたいで不本意だけどね。


「麦を育てるのが、大切なのはよくわかりました。年貢米で持っていかれないもので主食になるものを育てておかないといけないってことですもんね。米と麦を連作しすぎると土地が痩せるので、時々は違うものを作るか休ませたほうが、いいと思いますよ。一部分は冬野菜とか菜の花を育ててみてはどうです?」


「ですから、それだと米が不作の時、食べるものが…」


「コメの収穫の後、冬場にアブラナを育てて、油を売ってお金にするのはどうですか?油をとった後のものは油粕として肥料にできるでしょうし。ほかには、あまり作柄が良くないやせた耕作にむかない土地に蕎麦を植え付けて放置して、取れるだけ取ってみるとか。粉にして小麦粉のかさ増しにしてみてはいかがです」


「蕎麦ですか…。やせた土地や荒地でも育つと聞いたことがあります。石田村に向いた作物かもしれませんな」

すこし考えた後、仁左衛門さんはうなずきながら、答えてくれました。

あ、蕎麦が年貢で採られたら大変!一応、文荷斎さんに確認しておこう。


「文荷斎殿、荒地でたまたま採れた蕎麦には年貢はかかりませんよね?森で採ったキノコみたいなもんでしょうからね?」

ここは、かわいらしく小首をかしげながら、文荷斎に聞いてみます。

鏡で見たことないけど、細面で美形が多い織田家の系譜に属する稚児さんの坊丸の体と顔面だから、きっと効果があるはず。


「坊丸様、つまり、今の蕎麦を育てる話は聞かなかったことにしろと?年貢を増やすのが、今回の仕事でしょうに、少し甘すぎませんか?」

甘いって言われたけど、石田村の方々も豊かになってほしいしね。


「村のはずれの荒地にたまたま生えてきた蕎麦をたまたまとっただけってことですよ、きっと」


「都合がいいたまたまがたくさんあったものですな。まぁ、田畑として代官が認識してないような荒地から採れたものは年貢にはならないかと存じますよ。あ、いまのは独り言です。坊丸様と仁左衛門殿が蕎麦の話をしてたのは聞こえませんでしたよ、ええ」

って、文荷斎さんも十分甘いじゃんよ。


「坊丸様、文荷斎様、何から何までありがとうございます。今年の石田村は、きっといい作柄になりますよ。見ていてください!」

仁左衛門さんは、力強くうなずき、そしてとてもいい笑顔でこちらを見てきます。

自分もうれしくて笑顔になってしまいます。


「いい作柄で年貢が増えてもらわないと、伯父上様に怒られたり、干されたりすることになりますから、本当によろしくお願いしますね」


「あとはお天道様次第ですがね!」

「違いない」

「はっはっは、そうですね」

そして、三人で笑い合いました。きっと、うまくいくよ、きっと。


農業改革編はこれくらいで一段落です。

まだまだ農業関連で書きたいことはありますが、そのうち幕間くらいの感じでボチボチ書いていきます。


次回から、しばらくの間、坊丸は脇役程度で、三人称のお話が続く予定です。

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