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57話 発酵と腐敗は人類に有利か否で決まる

ども、坊丸です。愛知郡は中村の鍛冶師、加藤さんのところに相談に行ったところ、桶職人の福島さんに木工を頼むことになりました。柴田家に出入りの大工さんとかに頼もうと思っていたんですが、伝手があるならそっちを使います。

それはさておき、たい肥作りのほうも気になるところ。

なので、中村文荷斎さんと一緒に石田村に行ってみることに。


石田村につくと、とりあえず名主の仁左衛門さんのところに行ってみます。

お宅にお邪魔したんですが、大豆の収穫に行ったとのことで大豆の畑に行ってみます。

三月末、青々と茂っている麦畑を抜けて、大豆の収穫をしている仁左衛門さんたちに近づいていきます。

大豆の畑の向こうには菜の花でしょうか黄色い花が目に鮮やかです。

そんな感じで村の様子を見ながら近づいていくと、こちらに気が付いた村人がいたらしく、仁左衛門さんに声をかけているのが見えます。


「これはこれは、坊丸様、中村様」


文荷斎さんが、先に馬から降り、馬の背から降りるのを手伝ってくれます。飛び降りてもいいんですが、なんか、大切に扱ってくるので、ちょっと嬉しい。


「無沙汰してしまいました。今日は大豆の収穫ですか」


「そうですね、祖父の代で切り開いた村ですから、まだまだ何が土地にあっているかわかりませんで、主食になりそうなものは、なんでも作ってみているところですよ」


「それで、どうです?なにかあっている作物は見つかりましたか?」


「どれもそこそこの収穫ですが、これが土にあっているってものはないのですよ。どの作物もほかの村々に比べると収穫量は少し少ないですし、いきなり収穫が下がることもありますから…」


「そういえば、干鰯はどうですか?麦畑やほかの作物に撒いてみました?」


「撒いてもいいといったうちの畑には撒きましたと。まだ二十日くらいしかたっていないからどうですかね、撒いてないところに比べるとすこし成長がいい気もしますな」


「まぁ、焦らずに、確認していきましょう。仁左衛門殿。坊丸様もそうせかすものではありませんよ」


「はっはっは、中村様のいうとおりですな。自分も早く結果が出ないものか、何か変化がないものかと、いろいろ見回ってしまいます。草花の育ちは一晩二晩で変わるものではないのですがね」


「それはそうと、おからと酒粕のたい肥はどうですか?」


「では、見に行きましょうか。すまんな、皆の衆、坊丸様と中村様にたい肥の具合を見てもらいに行ってくる。誰かひとり、一緒にきてくれ。そのほかの衆は、大豆の収穫を頼む」


文荷斎さんと仁左衛門さんと一緒に肥溜めの先にあるたい肥作りのための木の枠を組んだところに歩いていきます。

菜の花の周囲で、ミツバチがたくさん羽音を立てています。ブンブンブン、蜂が飛ぶってね。

少しあったかくなった日差しと菜の花の黄色、ミツバチの羽音、牧歌的な雰囲気に鼻歌が出てしまいます。


「坊丸様、大変ご機嫌のようですな」

といきなり文荷斎さんから穏やかな微笑とともに声をかけられました。


「え?そうですか」


「聞いたことのないような鼻歌も出ておりましたし、足取りも軽い様子でしたので」


「ええ、そうですね、いい天気だなと思いまして」


「そうですな、しかしながら、御身は織田の一門なのですから、万一、蜂に刺されたなどということあれば、柴田様にそれがしがしかられまする。お気を付けください」


「はいはい、気を付けますよ」


などと、話していると、目的のたい肥作りの木枠のそばに着きました。


「では、おからたい肥、酒粕たい肥、混合たい肥をすこしづつ持ってきますから、お待ちください」


「え、自分で取りに行きますよ、直接見たいし」


「坊丸様、仁左衛門殿が持ってくると言っておるのです、ここは、大きく構えてお待ちください。信長様もうつけ扱いされていたころは、片方の肩を出して街を練り歩いたと聞いたことがありますが、坊丸様は、たい肥に手を突っ込むおつもりですか?」


う~ん、織田の一門って言っても謀反人の息子だから、そんなたいそうな扱いされても困るんだけどな。

わざわざ、信長伯父さんのうつけ時代のエピソードを出してきたってことは、たい肥に手を突っ込んで調べかねない変わり者扱いされたのは、よくわかりました。

ここは、素直に引くしかあるまい。織田一門の貴公子としては(笑)


「坊丸様、おからたい肥、酒粕たい肥、混合たい肥を少しづつお持ちしました」


さすがに、三種類の確認のためには、臭いをかいだり、触らなくちゃいけないからね。

文荷斎さんのほうを見た後、思いっきり作り笑顔をした後、躊躇なく、三種類を手に取ります。


うん、おからたい肥は、むかし庭仕事を手伝ったときに扱った、腐葉土交じりの発酵たい肥に近くなっている感じ。

酒粕たい肥は…、なんだか、まだ素材がバラバラで湿ってはいるけど、不十分な感じ。

混合たい肥は、おからたい肥と酒粕たい肥の間くらい。


何故だ?

正直、酒粕は麹や酵母が入っているから、一番うまくいくとおもっていたのに…

何が悪かった?何かミスったのか?そう思ったら、酒粕たい肥のところに駆けて行ってました。


「坊丸様!いかがしました!」


「酒粕たい肥が今のところ、失敗作です!そのほかは、まぁまぁです!酒粕たい肥が何でダメだったのか、調べさせてください!」

また、文荷斎さんに止められたくないので、酒粕たい肥の木枠をよじ登って、木枠の上から、酒粕たい肥をすくってみます。

うん、表面は同じ感じ。う~ん、ますます、もって何故だ?


「坊丸様、たい肥の中に頭から落ちたりしないでくださいよ」と、仁左衛門さんが木枠にしがみついた自分を引きはがしました。


「坊丸様、たい肥に落ちたら、馬に一緒に乗せませんよ!」と、文荷斎さんから釘を刺されました。

それはそれは、首元に五寸釘が撃ち込まれたかのようですよ。


「仁左衛門さん、酒粕たい肥が上手くいかなかった理由とかわかります?切り返しの作業の時とかどうでした?」


「いやぁ、天地を返す、えぇっと、切り返しでしたか、その作業については三種類全部同じ感じで行いましたよ。違いと言えば、酒粕たい肥を切り返しの作業のときに、酒の香りが気になったくらいですかね」


ああ、それか!

酒粕の中にまだまだ結構のアルコールが残っていたんだ!だから、発酵を起こす菌類が思った通り動かずに、発酵が走らなかったのか!

発酵熱でアルコール飛ぶと思ってたけど、発酵熱って、発酵が進まないと発生しないから、順番逆じゃん。


でも、それなら、酒粕たい肥を作る前に、酒粕を天日に干してアルコールを飛ばしてから作れば大丈夫!

酒粕たい肥も、徐々にアルコールが飛んでいけば、発酵が進むだろうから、まだ失敗じゃない!きっと、多分。


とりあえず、おからたい肥はもう使えそうだから、仁左衛門さんに徐々に撒いてもらうように説明しておきました。


ちなみに、帰る途中の二人乗りの騎馬の上で、酒粕から、粕取り焼酎作れば、肥料の元にもなるし、酒もできるし、いいんじゃないかと思いついてしまったのですが、それはまた別のお話。

ていうか、蒸留する機械の試作から始めないといけないから、加藤さんに、農機具の後に作ってもらおうっと。

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