495話 金瘡医坊丸 限界
今回も、食事中に読むのは非推奨。
言ったよ!言ったからね?
ども、坊丸です。
佐久間盛次殿の体調急変を受けて大急ぎで犬山城にやってきたら、創部に馬糞がついている様を見せられる羽目になった坊丸です。
いやいやいや、どうしてこうなった?
「盛次殿?何故、傷にこのようなものを塗りたくり遊ばれた!」
怒っちゃ駄目だ!怒っちゃダメだ!怒っちゃダメダァ!
そう、努めて冷静に。冷静さを心に、壱、弐と数えて…。
「そ、それは…。傷に馬糞が良いと…。盛政から…」
ハカハカと浅い呼吸をしながら、更に弱々しい感じで答えてくれる盛次殿。
盛政ってことは、理助、ね。大方、理助からの手紙に傷に馬糞とか馬鹿なこと書いてあったんでしょうかね。
「だいたい、わかりました。ですが、これは、悪手。取り除かせていただきまする。鷲見殿。傷を洗います。できれば湯冷ましをたくさん。なければ綺麗な水を運んでいただきたく。それと、馬糞を捨てるのに古い桶などを持ってきてください。加藤さん。手元にあるサラシなどの布で可能な限りぬぐい取ります。手伝ってください」
「はっ」
手にサラシを巻いて直接馬糞が手につかないようにしてっと。それを見て、加藤さんもすぐに真似をする。以心伝心。さすがは加藤さん。
「坊丸。盛次殿のこと、頼みます」
「はっ。婆上様には、この臭い、耐えていただく必要ないかと。ほかのお部屋にてお休みください」
「では、それがしも…」
だが、文荷斎さん、あなたはダメだ!一緒に馬糞の処理を手伝いやがれ!
「ダメです。文荷斎さんは手伝ってください」
顔の下半分は布口面で覆われてるのはわかってますが、ここは織田家の貴公子顔を利用した全力スマイルでニッゴリと。ニッコリではないのかって?
少しばかりの怒気と強制力を発生させるような笑みなので、ニッゴリで正解です。ええ。
鷲見殿が若衆を従えて、桶と水を持ってきてくれたので、作業効率がアップ。創部にコンモリと盛られた馬糞も綺麗に除去できましたよ、ええ。
で、創部を観察っと。
創部に残った縫合糸は、浸出液や膿汁、馬糞のなかの何かを吸って茶褐色を越えて黒茶色とも赤墨色になっております。そして、縫合糸が創部に入る場所には、明らかに膿汁がついている。
うん、完全にこれが感染源だ。
「加藤さん。鋏を。抜糸します」
「はっ」
糞!くそ!クソっ!
馬糞が塗りたくられる前に抜糸が完遂できていれば、こんなことにはなっていなかった!
傷の回復が遅いからって慎重になりすぎた!
そう思いながら、残りの糸を一針一針抜糸。
傷は…。抜糸したところを中心に傷がゆっくりと離開。そしてそこから臭う鼻を突く悪臭。外科ローテーターの時、消化管穿孔に対して開腹手術のオペに入った時に嗅いだあの臭いに似ている悪臭だ。
「傷を洗います。鷲見殿。追加の水を!それと、布を。手持ちのガ…、サラシの布がもう少しで切れます。できるだけ木綿や麻の未使用の物があれば、それを!文荷斎さん、布が来たら診療箪笥の二段目に入っている布と同じくらいの大きさに切って、我々の側にどんどん置いてください。あ、馬糞で汚れた手を水でよくすすいでからお願いします」
「承った」
「加藤さん、膿の洗浄と色の悪いところを削ります。助手、宜しくお願いします」
「もとより、承知!」
そして、四半刻後、創部からの悪臭がしなくなるまで手を動かしました。グズグズの皮膚の縫合はあきらめて少しばかり皮膚を寄せる程度に縫合。半分開放創です。これが正解かはわからなちけど、これ以上は、自分にはできない…。今、できることをやりきった。
「盛次殿。お疲れ様でした。傷は…。大変言いにくいのですが、馬糞の雑…、毒が染み込んでおりました。やれることはやり申したが…。馬糞の毒が盛次殿の身体に如何ほど回っているか…。まだ、予断は許しません」
「そ、そうか。ば、馬糞を塗ってからき、急に熱が出た。ば、馬糞は毒、だったか。わ、わかった。頭が重い。靄がかかったようだ。す、すこし、休む」
「はっ」
無念さ、口惜しさだけが胸に溜まる。ただ、「はっ」と盛次殿に答えることしかできず、知らず知らずに唇をかんでいる自分がいた。
「加藤さん。片付けましょう」
「はっ」
文荷斎さんが切ってくれた布と鷲見殿と若衆が持ってきてくれた水で、手術器具や周囲を清めていると、佐久間家の若衆数名もそれを手伝ってくれました。
無言で黙々と片付けを続けながら、気がつくとため息、一つ。
「坊丸様。坊丸様は何も悪くはありませぬ。馬糞の毒。傷に塗られた馬糞の毒が悪いのです。坊丸様は全力を尽くされました」
「坊丸様。我が主を救うための尽力、ありがとうございました」
「そう、ですね」
ため息をついた自分の顔を、しっかりと見ながら言葉をかけてくれる加藤さんと若衆の人たちの言葉が、本当にありがたかった。
その言葉で自分を責める気持ちは半分くらいになりましたよ。まだ、全部は昇華できないけど、ね。
「怒っちゃ駄目だ!怒っちゃダメだ!怒っちゃダメダァ!」
エヴァンゲリオ▷の第一話のアレ。
もはや、古典ですね。
「冷静さを心に、壱、弐と数えて」
コードウェイナー・スミスの「青をこころに、一、二と数えよ」より。
題名だけを借りてきたもので、前後の文面と作品との因果関係は無し。
ハーラン・エリスンの「世界の中心で愛を叫んだけもの」を元ネタに庵野秀明監督がエヴァンゲリオ▷最終話サブタイトルを「世界の中心でアイを叫んだけもの」にしたのと同じようなものです。
「だいたい、わかりました」
仮面ライダーデヰケイドの主人公の口癖。
機動警察パト✓イバー漫画版一巻に出てくるの地球防衛軍の人のセリフ。
などなど、元ネタは枚挙にいとまがない。どれが本当の元ネタと考えるかは貴方次第。
「だがあ、文荷斎さん、あなたはダメだ!」
漫画「ボボボーボ・ボーボ本゛」の第一話、つけものに向かって言ったあのセリフを改変。
後半が後半なので、前半に小ネタをぶち込みまくったわけですよ。ええ。
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