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48話 後家と扱き箸

ども、坊丸です。農業改革の話をしていたら、千歯扱きにダメ出しされました。

しかし、柴田の親父殿の幼馴染の玄久さんて人に豆腐屋さんの伝手があるとは、びっくりです。

とりあえず、柴田の親父殿から何故、千歯扱きがダメなのか聞いていきましょう。


「親父殿、千歯扱きが何故駄目なんですか?」


「ん、坊丸は知らぬかもしれないが、後家が扱き箸をつかって脱穀をするのが、生活の糧の一つになっているのだ。

半農の足軽どもが戦で命を落とすことは、戦のたびに起こる。

我らが起こした戦のせいで後家となったもの、国を守る戦いのために後家になったもの、そういった者達の生活の糧の一つを、おぬしの考えた千歯扱きは奪うことになるのだぞ。

千歯扱きという道具は、話を聞くに、非常に効率がいい。それは認める。

扱き箸は脱穀の作業を行うには、千歯扱きに比べれば、何倍も効率が悪い。だが、その効率が悪い道具を使うがゆえに、生活の糧を得られ、助かる人間がいる。その点を忘れるな。

千歯扱きを普及させたいのであれば、後家の収入になるような、後家の生活を安定させることができる様な、そのような方策も同時に考えよ。良いな、坊丸」


「はい…、そこまでは、考えがいたりませんでした。効率を重視するあまり、いろいろなことを見落としておりました…」


「坊丸、貴様は、すでに読み書き算盤が出来、齢五つにして、武芸七経も読み始めている。はっきり言って神童や才子と呼んでも差し支えないだろう。

だが、まだ、お主の実際に知りえるところは、狭い身の回りのことと、書物を通して聞きかじったことばかりじゃ。

今回の「石高を上げよ」という殿のご下命を通して、どんどん世界を知ればいい。世間知とでもいうべきものは、実際に様々なものに、そして人々に触れないと身につかんものだからな。

それに、そういったものは、儂や次兵衛も少しは教えられるし、沢彦禅師や虎哉禅師も教えてくれるだろう。

坊丸の独特の考え方とわれら先人から吸収した世間知がうまいこと合わされば、坊丸にとっても織田にとってもきっと実り多いものになるのではないかな」


「はい、親父殿の言葉、胸に刻みます」

なんか、柴田の親父殿の言い方や雰囲気、本当の父親がゆっくり子供を諭してくれているみたいな感じだ。なんだろう、ちょっと胸が熱くなってきた。おかしいな、自分以外は、あのポンコツ天使がこの時間線を演算処理しているだけだからNPCみたいなもののはずなのに。

あ、目から汗が…


「まぁ、なんだ。これくらいで泣くな、坊丸。儂は、そなたに期待しておる。ちと、言い方がきつくなったかもしれんが、これも期待のあらわれと思ってだな…」

突然の泪を見て、柴田の親父殿がなんか微妙に取り乱している様子。


「は、すみません。親父殿の深いお考えと暖かい言葉にふれ、不覚にも…目から汗が…」


「目から汗が、か…。泣いておらぬと強がりが言えるなら、良し、じゃな。ふっふふっ」

目から汗、のフレーズが面白かったのか、強がっているように見えたのか、穏やかに微笑む、親父殿。


「さて、坊丸。末森に出した使いのものも、少し待てば、戻る頃合いだろう。お主に引き合わせたいものがおるでな。本来なら、今日、末森で話をつけてくるつもりだったが、お主の話があるとのことだったのでな。そうだ、先日、お主が沢彦禅師からもらった挽き茶、あれは、どうした。使いのものとともに、あやつもこちらに来るだろうし、それを待つ間、二人で茶でも飲むか」


「はい、もって参ります」


お滝さんのところに、薬籠に入れた挽き茶を持っていきました。屋敷にある器で使えそうなものを選ぶんですが…、当然、この時代まだ抹茶碗等はありませんから、飯碗や塗り椀を見立てて使うことに。

黒の漆器でちょうどいいのが二つあったので、それを抹茶碗に見立てて使うことに。

茶筅が欲しいですが、これまたそんなものはここにはねぇ!ってやつなので、菜箸を何番かまとめて茶筅がわりにしてたててみました。


盆にのせて運ぶんですが…

お千ちゃんだと、ドジっ娘で、抹茶と塗り椀を宙に舞わせる未来が見えたので、お妙さんに頼みました。


お妙さんに給仕してもらい、親父殿と二人で茶をいただきます。


「渋いな。だがその渋さの中にうまみがある」


「そうですね。ところで、親父殿、先ほど末森城にやった使いとともに誰か来られるようなお話でしたが」


「そうだな、坊丸の心配する通り、殿のご下命を果たすために、今後は石田村に行くことや様々な者と交渉することも増えよう。そのすべてに、儂か次兵衛が立ち会うことは難しくなるだろう。それならば、お主の補佐役を決めておき、表面上はそのものが交渉すればよかろうと考えたのだ」


お、やっぱり同じようなことは考えてましたか。さすがは、柴田の親父殿。


「しかし、坊丸。この茶は、少し濃くないか?沢彦禅師のところでいただいたものは、もう少し薄かった気がするぞ。あと、表面に泡がたくさん立っておって、髭にな、こう、泡が付く」

うん、気づいていた。柴田の親父殿の髭が、髭牛乳ならぬ、髭抹茶になっているのは、気づいていた。


「はい、これは、沢彦禅師もおっしゃっていた、茶の湯のときの茶のたて方を真似したものですね」


「茶の湯とな…。どこで、そんなものを…?」

あ、やっちまったかんじだね。これはどう誤魔化すか…


「坊丸、そなたの父の信行様は、鷹狩が趣味であったはず。茶の湯に精通している様子や好んでいる様子はなかったが?」

はい、信行パパのルートつぶされました。


「そうですね。父上様は、鷹狩が好きでしたね…。時々、鷹狩の話を聞かせてくださったのがとても懐かしい思い出です。まぁ、父上様の鷹狩は、柴田の親父殿から聞いた、伯父上が行うまるで戦の演習のような鷹狩ではなかったですけど」


「そうよなぁ。信行様は鷹狩をよう、好まれた。何度かご一緒したこともある。まぁ、信行様の行われる鷹狩のほうが普通のものよな…。して、茶の湯のことはどこで見知った?」


チィッ。信行パパの昔話で誤魔化す方法は失敗かぁ…。もういいや、夢で見たって言っちゃうから。

信じようが信じまいが知らぬ。知らぬ、たら、知らぬ。


「そうですな。遙かなる未来の学び舎で、茶の湯を日ノ本の文化の大切なものとして学ぶような、夢を見ました。そこで、茶の湯を学んでいる方々より簡単な手ほどきを受けたような感じです。夢のことを実際にやってみただけなので、間違っているかもしれませぬ」


「はるかな未来で習った茶の湯、か。また、ふざけたことをいう。だが、しかし、そのふざけた様なことを大真面目に話すがゆえに、坊丸らしい。では、こたび、そなたが茶の湯としてふるまったものは、話半分として考えておこう」


「それで、宜しいかと」


「ふっ、自分は正しいと言い張らぬか。また、それも坊丸らしいものよ」


屋敷の表のほうで、バタバタする音が聞こえます。その直後に、吉田次兵衛殿が、広間に駆け込んできました。

「殿、末森への使いの者が戻りました。何やら中村殿もご一緒の様子。なにかございましたか!」

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