478話 金創医坊丸 執刀医頑張ります! 参ノ段
ども、坊丸です。
とりあえず、犬山城での面会と物品の下準備が完了です。長かった、本当に長かった。
でも、執刀医本番はこの後。
人の足にメスを入れるなんて研修医時代の救急でもありませんでしたし。
救急外来では頭皮とかのぱっくり開いた切創をガラス片が無いか確認しながらブラシで洗浄したあと指導医の指示、監督下に縫合したことはありますが…。
自分がやるしかないんだから、ここは腹を括るところだぞ、坊丸!
そんな感じで自分に喝を入れますが、実際の執刀は明日なので今から緊張してても厳しいのが本音のところ。ていうか、本音を言えば緊張が解けて少し眠気が…。
とりあえず、宿泊用としてご準備いただいた部屋に引き上げますかね。
あ、盛次殿の近くにいた小姓の方ですね。そうですか、お部屋まで案内していただけるんですね。宜しくお願い致します。
え?こちらの女性?桃花さんという柴田家の女中さんです。お手つきならば、お二方と家臣の方という部屋の配置にしますがって?
あ、お手つきではないので、自分と加藤さん、もう一部屋に桃花さんという配置でお願い致します。
そこ、『まだ、お手つきではないんです』とか言って顔を赤らめない!
桃花さん、それ、くノ一としてのハニートラップですか?それとも素ですか?いやぁ、もう、わっかんねえ。
なんて、ショートコントをしたあと、六畳が二つ続いたお部屋にご案内&到着致しました。
即、布団を敷いて一眠りしたい。ほんとはね。
が、明日の打ち合わせをせねばなるまいよ!
「さて、加藤さん、桃花さん。お疲れのところですが、明日の打ち合わせなんぞを致します」
と、いうことで、荷物を置いたら二人に集まってもらいました。
「加藤さん。先日のお話ですが、作った品々をどのように使うか見たいとのことでしたよね?」
「はい。そう申し上げました」
「では、少しばかりお手伝いをしてもらいます。傷を開いたり、傷の中の異物を探すのは自分がやります。ですが、ちと、手が足りない。
なので、モスキ…もとい、鉤爪付きで指穴付きの指穴付き火挟みで組し…もとい肉や血管なんぞをつまみますので、『持って』と声をかけたらそれをそのままの位置で持って下さい。
あとは、絹糸で肉や血管を縛りますので、『糸切り』と声をかけたら結び目の…、そうですね、一分ほど上で糸を切ってください。お願いします」
「う、承りました。『持つように』というご下命にて指穴付き火挟みを坊丸より渡された位置で持つことが、壱つ。『糸切り』の命にて結び目の一分上にて糸を切る、が二つ。以上でございますな。初めてのこと故、上手くできるとは言えませぬが、坊丸様のご期待に添えるよう、精一杯あい務めまする」
「加藤さんなら大丈夫だと思いますよ。鍛冶師ができるくらい器用なんだし。明日、期待してます」
そう言ったあと、織田家の貴公子スマイルを浮かべながら、加藤さんのか肩に手を置きます。
まぁ、スマイルは0円ですから、スマイル一つで家臣のやる気をゲットできるとしたら安いもんですよ、ええ。
「さて、桃花さん。桃花さんにもお願いがあります」
「はい、なんなりとご用命を」
「明日は、持ってきた道具や晒し木綿などを手渡ししてほしいのです。宜しくお願いします」
「道具というと…」
「こちらですな、桃花殿」
加藤さんが自作の手術機械を一通り広げて見せてくれます。
「そうだ、坊丸様。鉤と指穴付きの火挟みですが、これは何と呼べは?『もすき』とか『ぺあん』とか坊丸様は呼んでおりましたが?」
うん、加藤の言うとおりだね。モスキート鉗子とペアン鉗子だから、ついついその名前で読んじゃうだけど…。まぁ、今から新しい名前を覚えてもらうのは大変なので…。
「変な名前や長い名前だと大変ですから、この道具は大きさで参寸と四寸と呼びましょうか。あと、先が曲がってるのを曲がり、まっすぐなのを直で。曲がりの参寸とか、直の四寸と呼べば分かりやすいかなぁ、と。」
「直と曲がり、参寸と四寸ですね。わかりました」
「それと針ですが、一つ一つ孔を見て糸を通さずとも、直の四寸で持った上で、こうすれば、このように」
弾機孔に糸をスパッと通としてみせる、俺氏。そして掲げて見せたりします。うん、少し気持ちいい。実際は糸が隙間を滑らかに通って、なおかつ外れない弾機孔を再現した加藤さんがすごいんだけどね。
そして、すっと孔から糸を引き抜いて見せる俺氏。
「な、なんですか、これは。釣り針なのに不思議な糸の通り方を致しましたよ、坊丸様」
「ハッハッハ。これをやって欲しいのですよ。まぁ、物は試しだ。数度、やってみてください」
そして、「あのように使うのか…。聞いてただけだと分からなかったな…」とつぶやく加藤さん。加藤さんのことだから説明だけで分かってくれてたと思っていたけど、実際はあまり分かっていなかったのかな?
「某もやってみても宜しゅうございますか?」
あ、加藤さんもやってみたいですか?どうぞ、どうぞ。
二人が数度糸を糸を針に装着しては外しをしているのを眺めていると、少し眠気が。
いかんいかん。話を進めなければ。パンパンと手を叩いて針糸体験を終了させます。
「桃花さん、とても上手にできましたね。加藤さんも自身の作った物の使用方法が分かって頂いたようだ。で、ですね。『針糸』と言ったら、これを作ってほしいのですよ、桃花さん。ちなみに『糸』と言ったら糸だけを渡してください。ガー…じゃなかった。『布』で四寸くらいに切った晒し木綿を渡してください。あとは、『焼酎』『塩水』を徳利の器に入れて近くに置いてください。時々手を洗うから小さめの盥に湯冷ましを準備して置いてくださいね。うん、とりあえずは、それくらいかな」
「『針糸』で針に糸をつけたものをお渡しする。『糸』の時は糸だけをお渡しする。『布』の時は晒し木綿をお渡しする。ですね。『焼酎』と『塩水』はどのようにお渡しすれば宜しゅうございますか?」
それはですね…。
あれ、これ、真面目に準備すると、このあとすぐには一眠りできなそうだな…。とほとほ。
しゃあない、もう一頑張りしますか…。
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