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475話 南伊勢攻略戦 阿坂城攻め 伍

「小一郎、小六殿。わ、儂の、かわりに城を落としてきてくれ!」


秀吉は弱気になってそう二人に頼み込んだ。


「馬鹿野郎!攻め手の大将で囮までやったお前が城の本丸で勝鬨をあげなくてどうする!おぶってでも連れて行くぞ!だが、お前が動けぬとあれば儂や小一郎が兵を指揮せねばならぬし⋯」


それを一喝する蜂須賀正勝も傷で動けない秀吉の様子に正直困惑の色を隠せない。そこに意を決した様子で福島正信が声をかけた。


「は、蜂須賀殿!わ、儂が藤吉郎殿をおぶっていく!誰ぞ護衛をつけてくれれば、儂が藤吉郎殿を城まで連れて行く!」


「福島殿か!そなた、初陣のようなものだが、大丈夫か?しかし…、よし。お主、頼めるか!」


蜂須賀正勝は一瞬迷ったが、福島正信に秀吉の身を預けることにをした。


「そうだな。小六は知らんだろうが、福島殿は、()()墨俣城改修の際に大工衆を率いて城に入っておったのだぞ。肝は据わったお方じゃあ。なあに、儂が兄貴から教わった棒術で藤吉郎と福島殿を護りながら山頂まで連れて行く。それよりもお主ら、儂らが到着するまでに城を落としておけよ!」


前野長康が少しおどけた様な口調ながらも、二人の話を聞いて、秀吉と福島正信の護衛を買って出る。


「福島殿、いいのかぁ?すまんが、頼む」


秀吉は拝むようにして福島正信を見るのだった。


「なぁに、せっかく秀吉殿に一門衆として声をかけてもらったんだ。これくらいは仕事をするさ!それに元は大工だ、木材担いで運ぶのは基本の基本。なぁに、小柄な秀吉殿をおぶって運ぶくらいの力はあるぞ!」


「良し、藤吉郎!長康!福島殿!しっかり露払いしておくから、遅れずついてきてくれ!皆の衆!今こそ阿坂城の連中に目の物見せるぞ!うちの藤吉郎に怪我ぁさせたんだ!さっきの偽装撤退した時の屈辱、被害、その他もろもろ、倍返しだ!」


「「「「「おぉ~!」」」」」


蜂須賀正勝の大音声による秀吉麾下への鼓舞は軍の士気を一気に高める。その勢いのままに反転攻勢を開始する秀吉軍。


「さすがは小六殿だ。儂も見習わなんとな。さてさて、では、藤吉郎、福島殿。阿坂城本丸まで彼らの後ろをゆるりと着いて参ろうか」


走り出す足軽達の様子を穏やかに眺め、戦場だというのにニコリと微笑み二人を先導して歩き出す前野長康であった。


その頃、阿坂城内。

搦め手からの敵襲と軍備の確認をすると言う名目で遠藤源六郎は配下や内応に賛同した者数名で城内を歩き回っていた。そこに急報が入る。

浄眼寺の味方は敵の偽装で出撃した大宮吉行の隊が敵に逆襲されていると。


「それはまずいな。一回りしたら、大手門の守備に回る。搦め手を守る者たちにも持ち場が大事ないなら人手を大手門に回すよう儂から伝えておこう」


困った顔をしつつ伝令の兵にそう答える遠藤。


「どうする?源六郎?」


内応の同志がどう動くか探るように遠藤の顔を見る。


「時は来たようじゃ。滝川殿の手のものから託されたこれを使う」


遠藤源六郎は懐から二寸ほどの玉を数個取り出す。


「なんじゃ、これは?」


「滝川殿の手のものが言うには煙玉とのこと。狼煙を上げるのに使うそうじゃ。これを弓矢、火薬の倉庫にて使う。火薬の倉庫から煙が上がれば、消火するしかないからな」


「はっ。そんな事をしたら火薬が湿気って使い物にならんな。だが、それ、大丈夫か?もし、織田が我らをたばかって焙烙玉でも渡してきたら…」


「なら、予備の火縄を繋げて導火線を延ばそうか。それに弓矢や鎧を上に軽く被せておこう。さすれば、火をつけたあとに我らが逃げる時間も稼げよう」


「さすがは源六郎。知恵が回る。焙烙玉でも鎧や弓矢が吹き飛ばせる。煙玉なら火薬が湿気って火薬が使えぬ、か」


「おうよ!もっとほめろ!と、まぁ、馬鹿はこれくらいにして、手筈通りにいくぞ」

 

そして、武器庫の見回りの名目でそこに入り込み煙玉を仕掛ける遠藤源六郎一党。見張りの者に無事を告げると何食わぬ顔でそこを出ていく。


少し後、武器庫から上がる煙。

武器庫の見張りの者たちが火事だと叫ぶ。

そこに一番乗りするのは遠藤源六郎一党。


「火事だと!早く火を消すぞ!水じゃ!水をありったけ持って来い!吹き飛びたいのか!敵の乱破による細工に違いない!はよう消さねば!」


遠藤源六郎の声にハッとなる武器庫の見張り達。火薬に引火すれば自分達は吹き飛ぶ事に気がついた。

そう思った時には遠藤源六郎一党が桶や水瓶を運んできては武器庫にぶっかけていく。


が、煙玉は狼煙にも使われる品。多少の水では煙は収まらない。どんどん消費される貴重な飲み水。

滝川一益が仕掛けた策は火薬を無効化するだけでなく、城内の水も浪費させるというものであったのだ。


当然、この騒ぎは搦め手や周囲にも伝播する。火薬の引火を恐れその場を離れ逃げ出す者が居れば、遠藤一党の消火を手伝う者も居る。

煙が弱くなったところで武器庫に飛び込む遠藤源六郎。手に水桶を持ち、積極的に火縄銃や火薬に水をかけ、煙玉を仕掛けたあたりに置いた弓や矢を踏み潰していのだった。


そしてそこから一刻後、蜂須賀小六に支えられながら木下秀吉は阿坂城の本丸にて勝鬨をあげるのだった。


読者諸賢は覚えていると思いますが、前野長康さんは墨俣城の改修作戦で福島正信さんと同行・同陣しています。覚えてない人は墨俣城改修作戦の210話くらいから220話くらいを再チェックしてください。


ちなみに、長兄の前野宗吉さんは今回は美濃で地元に残った川並衆のとりまとめをしたり、運送業をしたりしてます。棒術の達人のくせに。

末弟の勝長さんはまだ普通の川並衆してます。将来は佐々成政さんの家来になるんですが…。書籍化されたら前野勝長さんと佐々成政さんの話もSSとして書きたいところ。書籍化の予定は現在のところ全くありませんが。


秀吉を冷遇しすぎたので、ちょっと活躍させてみました。阿坂城攻めでについては信長公記の記載内容と阿坂城についてのWEBに出てた内容を踏まえて脚色再構成した感じです。


少しでも「面白い!」「続きが気になる」と思った方は、下の★でご評価いただけると、作品継続のモチベーションになります。

宜しくお願いします。

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