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473話 南伊勢攻略戦 阿坂城攻め 参

八月二十八日 辰の刻 阿坂城内


「いやはや、朝から織田家の面々は騒がしいことだ。先日の夕刻の降伏の使者を蹴り飛ばして、降伏を蹴ったのがよほど気に食わんと見える」


阿坂城の大手門、いわゆる櫓門の上から麓を見おろしながら大宮含仁斎が薄ら笑いを浮かべてのたまう。


「親父殿、降伏を蹴るとは聞いていたが、まさか使者の肩を蹴って吹き飛ばすとは思わなかっぞ」


「そうか?我らの決意を示すにはあれくらいが丁度いいと思ったのだが」


大宮父子の剣呑な会話も阿坂城内では士気を高めるのに役立つらしく周囲の兵も大笑いしている。


「含仁斎様!吉行殿!敵の様子は如何様でございますか!」


「おお、遠藤!敵は怒っているわ!貴様が調べてきた通り、敵の大将は百姓あがりのぽっと出なのは本当の様子ぞ!それに浄眼寺もまだ我ら北畠家の旗が一角に残っておる。高城も取り囲まれてはおるが、健在の様子。昨日の降伏の使者の話では間もなく高城も浄眼寺も落ちると言っていたが、やはり偽りであったか!」


「夕刻に降伏の使者が来たのは、浄眼寺や高城の様子が分からぬようにするためであろうと親父が言っていたが、当たりだったな!」


一益の手のものに織田軍の動きの一部を知らされている遠藤は大山父子の読みが外れていることを知っているのだが、疑われぬ様にすかさず大宮父子に話を合わせに行く。


「さすがは、大宮殿!昨日の降伏の使者を蹴り飛ばした時には大丈夫かヒヤヒヤしましたが、こういうことでありましたか!いやいや、ご慧眼、感服つかまつった!」


「ハッハッハ!この大宮含仁斎、この阿坂城を任されているだけのことはあろう!」


「さすがは親父だ!お、昨日、源六郎から聞いた敵大将の馬印が動き出した!親父、もう少しあの馬印が近づいたら、城を出て攻めかかりたい。なぁに、百姓あがりの似非侍が大将の軍だ。大したことあるまい。軍勢の数に頼って城を囲み、降伏の使者に嘘を吐かせて城を落としてきただけなのであろうよ。我が弓にて本物の侍の武の冴えを見せてくれん!」


「その意気や良し!城の三分の一の兵を預ける!()って来い」


「そうでござるか!吉行殿の弓ならば必ずや敵将の首をあげましゃう!では、それがし、城内の見回りの任がございますれば、敵が搦め手から迫っていないかも含めてぐるりと見回ってまいりまする!敵は小細工を好むようですからな!然らば、ごめん!」


櫓門の上の二人に一礼すると、サッと身を翻してそこを離れる遠藤源六郎。敵が仕掛けた最大の細工はこの自分なのだがな、と内心で苦笑しながら既に内応の話をした信の厚い配下や気の置けない面々のもとに歩いていくのだった。


同刻、秀吉の陣。


「兄者。やはり兄者が最前線に立たずともよいのではないか?木下の一党は兄者あってこそなのだぞ。

何かあっては困るのだ。自分や蜂須賀殿を先駆けの大将にしてもよいのではないか?兄者?」


「殿が儂に軍功をあげる機会としてこの阿坂城攻めを任せてくれたのだ。やるしかあるまいよ。それに囮は大きい方が良い。だろ?で、手筈は全員に伝えたか?」


「ああ。敵将が釣り出せたら、前線に数本立てた馬印をわざと高く掲げた後に、偽装の撤退をすると兵の端々まで伝えてある。大丈夫だ、と、思う」


「まぁ、偽装の撤退なんぞやり慣れておる者はおらんからな。敵将が釣れたならあとは一気に麓の伏兵の位置まで逃げ降りるのみよ」


そう言うと、兜の緒を締める秀吉。その顔には強い決意が見て取れる。陣幕を弟小一郎とともに出た秀吉は兵の前に出る。


「良し、皆の衆!これからあの城を落とす!策は聞いておろう!良いか、敵将が釣れたならわざわざと慌てふためいて麓の寺の先まで逃げよ!できるだけ大袈裟に滑稽にな!」


秀吉の軽妙な弁舌は兵から笑いを引き出し、気負いすぎた兵の緊張をほぐす。


「皆の者、囮とは言え、死ぬなよ!生きて、皆であの城の上で勝鬨をあげるのだ!万に一つ、釣りだした敵将敵兵が弱ければ、そのまま、ガツンと攻め上るぞ!では、皆の衆、行くぞ!えいえい!」


「「「「おう!」」」」


かくして、秀吉を囮とした阿坂城攻めが始まるのであった。


そして四半刻後。

「よぉし!敵将は大宮の息子のようだ!敵兵もそれなりに下ってきたぞ!一当てした後、手筈通りに行くぞ!」


秀吉の号令で偽装撤退が開始される。

敵が撤退し始めるのを見て、傘にかかって攻め立てる阿坂城の城兵と大宮吉行。

普通であれば城攻めの寄手が引けば、兵の損害を出さぬ様に早目に見切りをつけて城内に戻るのだが、遠藤源六郎よりもたらされた秀吉についての偽情報と秀吉を侮る心が大宮吉行の判断力を曇らせる。


「敵は引いたぞ!もう一あててして蹴散らしてやれ!南北朝の頃より足利の大軍すら押し返してきた北畠の力を見せてやるのだ!」


そう言うと、前線近くで秀吉の馬印目掛けて弓を射掛けては、山を下り、また弓を射掛ける大宮吉行。兵たちとともに山を下り始めるとその勢いは石が坂を転がるが如くであり、止めようがなくなっていくのだった。

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