466話 金創医坊丸 準備奔走中 伍ノ段
ども、坊丸です。
現在、加藤さんと加藤さんの弟弟子の片岡さんが直進針をバネ孔付きの釣り針の様な曲針に変更するため、試作作業中です。
一応、最初の数個は確認しようかなぁという気持ちで自分も鍛冶場に入り作業を見守っております。
「良し、炉に火が入った。庄右衛門、一番小さい火挟みをくれ」
「おうよ、一番小さいやっとこだな」
へぇ、ペンチみたいな形のあの器具、名前を『火鋏み』とか『やっとこ』っていうんだぁ…。
って、待て待て待て。ペンチみたいな形?ものをつかめるようになっている器具?鋏みたいな形状の?
って、この時期の日本にもあるじゃん、西洋鋏と同じ機構の器具!ってことはこれを少し形を変えてさらに小さく作ってもらえばモスキートやペアンができるやんけ!
というか、今使ってる火鋏み自体が一回りゴツいけど大きさ自体は長ペアンかケリー鉗子くらいなサイズなんですけど。む、これらならモスキートやペアンを作ってもらえそうじゃん!よし、あとで頼もう。
で、火鋏みに針を一本上手に挟み込んで持たせた二人は一気に針を炎の中に。
「正左衛門様、針穴の工夫はいいとして、針の曲げはどうするおつもりで?」
「きれいな丸い棒や筒に沿わせて叩く。この針の大きさなら、そうだな。カルカを軸に叩けば行けると思うのだが。どう思う庄右衛門?」
「よろしいのではないかと。まずは試してみましょう。では、カルカを持ってきます」
「頼んだ。それと、鏨の一番小さいやつも頼む」
「合点だ」
そんなやり取りの間にも加藤さんは炎の中の針をじっと睨んだまま。鍛冶職人として自分のオーダーに全力で応えようとしている加藤さんの真剣さがうかがえる瞬間です。
「正左衛門様。準備は整っておりますぞ」
「では」
火鋏みを持つのを交代した後、金床に移動した二人は一気に作業を進めます。
カルカのあたりでカンカンと金槌が音を立てる度に小さい火花が飛びます。
「いい曲り方だ。針先をつぶさぬように曲がってないところを持ってくれ!針孔に鏨をあてる。そのあと、すこしだけ針孔のあたりを持って締めてくれ」
おお、バネ孔も試すんですね。何個かただ曲がりの針を作った後に試すのかと思ってた。
「水へ」
「おうよ」
ジュワッと小さく上がる湯気。できたんか!
「くっ。最後に締めすぎたか。針穴に打った鏨もあまりよくなった」
「清忠、真ん中でなく片側から真ん中に向けて鏨を打ってはどうだ?それに鏨で切った溝を狭めるのまで一気にやる必要はなかろう。狭める具合は後でもいいのでは無いか?」
「それもそうだな。よし、それでいこう」
あれ?兄弟子と弟弟子で雇用主と被雇用者なんですよね?
針を叩き始める前はキチンと身分の差がある感じの話し方だったのに、作業が始まった途端ほとんど同格の職人さんの話し合いみたいになってますが?
まぁ、良いものができるなら、そこらへんは、この坊丸、気には致しませんが。
で、繰り返すこと五度。二人が納得できるレベルの針孔から針頭への溝がほれたようで満面の笑みの二人を見ることができました。そこから万力でわずかに溝を狭めるように締めたようです。
「坊丸様、ご確認ください」
「では、検めさせていただきます」
加藤さんから差しだされる針。
きれいな湾曲、針穴の真ん中ではなく片側から真ん中に向けての細い溝。わずかに力を加えて鏨で彫られた溝をより細くするようにした工夫。
自分の知っているバネ穴とは違いますが、かなり近いものを生み出してくれました。
控えめに言って最高です。コレが加藤さんの技術が生み出した戦国時代式の手術用の針です。
「コレは…。自分の書き付けに限りなく近いものです。問題ありません。いや、むしろ問題ないどころか、予想を上回る品です」
「お褒めに預かり、光栄至極。では、残りもすべてこの形に加工いたします」
そう言うと、一礼して鍛冶場に戻る。加藤さん。その後は、ドンドン技術が上がりまして、成功率が最初、五本に一本だったものが、次の十本では二本に一本、最後の頃は失敗作の方が少ない有様。最終的に十七本の手術用の針が出来上がりました。
「さすが、加藤さん。予想以上の歩留まりです。これだけあれば、針は問題ありますまい。それと…。先程の火鋏み、あれを元に少し改良した器具を数個作ってほしいのですが…」
次から次にお願いして大変申し訳ない。
片岡さんは、まだ何かあるのか!って顔になってますが、加藤さんはいたって普通の表情。
片岡さんも速やかにこの坊丸くんの次から次と湧いてくるお願いに慣れていただきところ。
「で、如何様に作るので?」
「火鋏みの先を鶴の嘴の如く細く長めにしていただいて…、あ、また、完成予想図を書きますね」
モスキートは12センチくらい、ペアンはそれより一回り大きくて15センチくらいだったかな?へガール持針
器も欲しいけど、細かい違いがわからないからペアンで代用だな。あと、先が閉じた状態を維持するカチカチっていう奴。確かラチェット機構って名前の固定する部分。あれは…、指の孔の側にあったよね。
サラサラサラっと。現代の手術用器械を筆で描写するのってすごくシュールだなぁ。あ、直と曲がりの両方描いとかなきゃ。
「ふむ。火鋏みに似たもので先が細くなったものなのですな。この孔に指がかけられると。大きさは四寸と五寸。で、この指孔の側にある出っ張りはなんですかな?」
で、す、よ、ねぇ〜。
さて、頑張ってラチェット機構を説明だ。
読者諸賢は覚えているとは思いますが、「カルカ」は火縄銃の弾込め用の細い金属の棒のこと。
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