462話 金創医坊丸 準備奔走中 壱ノ段
ども、坊丸です。
手術用の糸と針の調達の為、現在裁縫中のお妙さんのもとに赴いております坊丸です。
縁側にいると聞いていたんですが、っと。
お、いましたいました。
「お妙さん。今、いいですか?」
「どうなさいました、坊丸様。お妙は今、この幟旗を繕っておりますので、このままでよければ、お話は伺えますが」
「あ、そのままそのまま。お手は止めずに、耳だけお貸しいただければ。で、なんですが。ちなみに、今、お使いの針糸ですが、どのようなもので?」
「どのようなもので、とは?」
「針はどこから仕入れたのかな、と。それと、糸は何を使っておられるかな、と」
「針は以前に買いそろえましたものですね。京は姉小路針だと針売りのものは申しておりましたが。糸は木綿にございますね」
木綿か…。まぁ、絹糸を軍旗には使わんわな。陣羽織とか、女性物の良い打ち掛けとかならば使うかもしれないけど。
「で、ございますか。ちなみに、針は余分にございまするか?」
「おや、坊丸様。裁縫仕事でもなさるのですか?些少であれば予備をお貸しできますが」
「裁縫とは、ちと違うのですが…。この度、金創医の真似事をする羽目になりまして。書物にて読んだのですが、唐の国には傷を糸針にて縫い合わせて治す技があるとか。それに必要になりそうですので…。針を分けていただければ、と」
「傷を!糸針で縫う、と。何と、野蛮な…。さすがにそのように使われるのであれば、新たにお買い求めてはいかがでしょうか?坊丸様」
一瞬、目を見開いた後、眉をひそめるようにしてこちらを見るお妙さん。その信じられないようなものを見る目はやめてください。
そして、そんな表情にもかかわらず、手元の針は的確に綻びを直しております。手元見ないで縫うなんて名人芸かよ、お妙さん。
「あ、いや。縫針をそのまま使うわけではなく、色々と工夫が必要なのですが、さすがに針から作るとなると、加藤さんにも迷惑がかかるかと思いまして。既にある縫針を加工できないかなぁ、と思っておりまする。で、縫針がどのようなものか確認したいところなんでございまする」
「お見せするだけならば、こちらに予備がありますれば。一、二本お手にとってご覧くださいませ」
そう言うと、お妙さんは、縫い物の手を止め、小綺麗な裁縫箱をすっとこちらに押し出して来ました。
「では、失礼して」
ふむ、予想どおり、直針で普通に針頭に穴があいていると。平成令和の家庭科の授業で使った物と同じですな。
さてさて、これをどう手術用の縫合用の針に仕立て直すか、だな。
「ありがとうございました。これらの針は針売りから買われたとか。急ぎで手に入れるにはどうすれば良いかお知恵を拝借したく」
「坊丸様は、いかほど所望ですのかしら?」
「少なくとも五、六本。できれば十から二十となりまするな」
「ならば、加納宿の楽市に行けば針売りが商っているかと。岐阜の城下にも行商している者は来ておるとは思いますが、運良く見つかるかは、時の運になりますので。あとは…。呉服屋、反物屋などから分けてもらうか、でしょうか」
ふむふむ。加納宿ね。確かあそこには少し前に楽市楽座の制札を出してたからね、信長伯父さん。あそこなら、針売が商っている確率高そうですな。
「それと、絹糸がほしいのですが…。まだ反物になっておらず、生糸の状態のものが」
「生糸、でございますか?木綿や麻なら白布売りのところで手に入りましょうが…。絹の生糸となると、反物に仕立てる前のものですから…。反物屋にて聞いてみるしかないかと」
「反物屋、ですか…」
生糸を手に入れようとしたけど、反物屋に当たることになるのか…。正直、どうアプローチすれば良いか分からんのですよ。
「坊丸様。そう、難しいお顔をなさらずに。大奥様ならば、清須や岐阜の城下に昵懇にしている反物屋など、おありでございましょう。なので、大奥様に贔屓にしている大店へご依頼の便りをしたためてもらえば宜しいかと思いますよ」
それだ!そのアイデア、採用!
よし、善は急げだ。婆上様のところに早速行ってみよう!
はい、そんなわけで、婆上様のお部屋の前にやってまいりました。お妙さんの引率で。
先触れ程は必要ないとは思いましたが、お妙さんがそれは、やめておいたほうが良いというので婆上様にご一報入れてからの訪問です。
「坊丸、入ります。婆上様には、突然のご訪問、あいすみませぬ」
「ふむ。坊丸殿。そのような気を使った挨拶もできるようになられたのですね」
いやいやいや、一応、奇妙丸様の小姓役とかやってきたのでね。これくらいはできるくらいには世慣れたわけですよ。
ってか、婆上様からの評価がまだまだ残念で暴走気味の小僧の時のままなわけですな。ハッハッハ。自業自得だからぐうの音も出ねぇ。
それはさておき。
「はっ。本日、わざわざ訪問させていただいたのは、婆上様に一筆手紙など、いただきたくお願いにあがりました。婆上様が懇意にしている反物問屋などございますれば、反物になる前絹の生糸を分けてもられるようお願いしたく考えております」
「生糸を?何故ですか?坊丸」
生糸だけ欲しいという話に、婆上様は眉をハの字にして困り顔になってしまわれましたよ。
いやはや、少し話を端折りすぎたかね。
少しでも「面白い!」「続きが気になる」と思った方は、下の★でご評価いただけると、作品継続のモチベーションになります。
宜しくお願いします。




