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458話 盛次殿の診察

ども、坊丸です。

自分、いらない子じゃんって思った途端に仕事が降ってくる罠。

やっぱり、自分のこと意味もなく連れてくるわけねぇですよね〜。


はい、そんなわけで、私室に移動とあいなります。

犬山城表御殿から渡り廊下を通ってすぐそこ。

徒歩、二分くらいですかね。足の悪い盛次殿がご案内&ペースメーカーなので、通常速度よりも牛歩戦術に近いゆったりペースでの時間です。普通に歩いたら半分未満の時間で到着できるとは思いますが。

でも、まぁ、城主様を追い抜いて行くわけにもいかないし、ねぇ。


典型的な書院造りで、シンプルながらも品の良い構成の室内にこれまた落ち着いた調度。掛け軸は滝の絵で、違い棚には蛙があしらわれた香炉と筆に硯箱。季節感も感じさせつつ実用性も抑えた盛次殿らしい取り揃えですね~。


そんなところを拝見しながら、盛次殿の勧めで各々着座。


「さて、どうする。坊丸殿が医師薬師の真似事をするとのことだが。とりあえず、右脚の袴をたくし上げて傷が見えるようにすれば良いか?」


盛次殿の言葉を聞きながら、チラッと親父殿、次兵衛さんを見ると、小さく頷かれたので、その流れに乗る感じで。


「それでお願い致しまする。では、失礼して」


「足は先程同様投げ出す形になるでな。それで、一つ頼む、坊丸殿」


「承りました」


って、どれどれ。まずは視診だな。大腿の外側、大腿骨外側上顆から拾センチくらい上からさらに上方に六、七センチ上まで創部があると。ええっと、戦国時代風に言うと二寸強の傷が膝上参寸くらいのところにあるって感じになるかな。


「少し触らせていただきます。押して痛いところがあれば、教えてくだされ」


そう声をかけた後に触診。傷のうち、膝近くに微妙に硬いところが。その周りだけ発赤腫脹もある感じですな。


「つっ!そこが痛いな。今、坊丸が触っているあたりが、何度も腫れては膿が出るのだ」


やはり、このあたりか。

たぶん、たぶんだけど、創部に異物が隠れている感じがする。大腿四頭筋の大腿直筋か外側のやつに損傷がある感じなんだけど、創の一部に筋肉とは明らかに違う硬さを触れるし。


「そうでござりましたか。この傷は先の観音寺城の戦いにて負ったと、親父殿達から聞き及んでおりまするが」


「うむ、そうだな。息子と並んで槍働きできるとあって、な。張り切ったのは良いが、雑兵に槍で突かれてな。槍は一刀のもとに打ち払い、その雑兵の腕も斬り捨てたが、勢い余って転んでしまってな。盛政が、周りの敵兵を突き殺してから起き上がらせてくれたのよ」


「親父。俺を庇ってくれたおかげでその傷を負ったのだから、救うのは当然だ」


そうは言うものの、自分を庇って親が傷を負ったのを悔いるのか、強く唇を噛み俯くのは致し方ないものがあります。


「なぁに、親子で同じ戦場に立ち、お互いを助けあえたのだ。轡を並べて戦えた歓びこそあれ、悔いたり恥じたりすることはないぞ、盛政」


そう言って理…盛政殿の方に朗らかな笑顔を見せる盛次殿。盛政殿の心を軽くするためにあえてそうしている様子が見て取れます。

親子で同じ戦場に立つ、か。自分には絶対できないことだから、ね。預かり親の柴田の親父殿となら、可能だけど。

柴田の親父殿と同じ戦場で槍を振るう、そんな未来がいつか来るんだろうか。天下泰平はまだまだ先のようだから、たぶん、来るんだろうな。


一人の武士としては、親父殿とともに戦う未来が来てほしいと願う心がある一方、転生前の自分の心は自分が槍働きしなくても良い未来がすぐにでも来てほしいと言っているわけで。

この心のあり様は、本来の津田信澄という人物に由来するものなのか、それなりに戦国時代を生きて来たことによる教育によるものなのか、戦後日本の平和主義を重んじる教育の残り香がまだまだ色濃く残っているのか、もう、それは、分からないわけです。


「ん?どうした?坊丸殿。手が止まっておるが、しまいか?」


「あ、いや。盛次殿と盛政殿のやりとりをみて、色々と思うことがありまして」


そう言って誤魔化すようにまた、触診を開始していると、病ですこし細くなった佐久間盛次殿の手が肩に優しく置かれました。


「坊丸。生きよ。信行様の分までな。織田家は、信長様はまだまだ、強く大きくなられる。信行様の分まで生きて、信長様の作られる天下を信行様とそなたの二人分の忠義で支えよ。それが信行様の冥福を祈ることになる。

そして、子をなし、奇妙丸様の時代をそなたとそなたの子で支えよ。戦でも良い、奉行仕事でも良い。信行様はそなたの元服する姿を見れなんだ。そなたは、そなたの子が元服する姿を見るまで生きよ。儂が盛政の槍働きする姿を見れたように、な」


今まで、父信行は謀反人として触れることが禁忌(タブー)というか、自分の中での汚点として周りの人々から語られることばかりだったので、佐久間盛次殿が、そんな風に優しい雰囲気で語ってくれることが本当に意外で。そして気がつくと、うっすら涙を浮かべている自分がいました。


あぁ、この人はこのまま、こんな怪我で城に引きこもっていてはいけない人なんだ。

柴田の親父のお父さんが、娘を嫁に出す時、同じ佐久間一族の佐久間信盛殿でも、佐久間盛重殿でもなく、盛次殿を選んだ理由がなんとなくわかりました。


この人にしっかりと生きて、生き抜いてほしい。本当の時間線で佐久間盛次殿がいつまで生きたかは知らないけれどこの時間線では長生きしてほしい、そう思いました。


そのために、自分の知識を、手技を全部使う。たとえやらかしたとしても。

そう、決めた瞬間でした。

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