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452話 バテレンが来た!什四話

ども、坊丸です。

現在、稲葉山頂上の殿主、饗応の間傍の控えの間に控えている坊丸です。


そして信長伯父さんが、いつものようにわざと足音を立てて饗応の間に入ったようです。少しした後、柴田の親父殿の声がしました。なんと、今日も柴田の親父殿はルイス・フロイス一行を案内しているんですね。連日の飛び込み仕事、お疲れ様です、親父殿。

さて、これで、饗応開始ですね。今のところ問題は無し。まぁ、饗応自体始まっていないからね。


しばらく信長伯父さんとルイス・フロイスさん、ロレンソ了斎さんの話す声が漏れ聞こえてくる感じです。

と、包丁人頭の井上殿とその配下の方々が挟み箱や長櫃を持って頂上殿主に現れました。

それを見た佐脇さん達古参の小姓衆が風炉を出して茶釜をかけました。


どうやら、この頂上殿主で風景でも観ながら本格的に食事などを饗するようですよ。信長伯父さん、やることが派手ですなぁ。それを準備する方(井上さん以下包丁人の方々)はたまったものではないようですが。

そして、佐脇さん達古参の小姓衆にとっては、通常運転のようです。その対応力、見習いたいものです。


「茶筅。ルイス・フロイス殿に茶を一服饗する。支度いたせ」


「はっ、はい。父上。今、お持ち致しまする」


いつもより大きめの声で信長伯父さんが茶筅丸くんに声をかけております。

これって、控えている小姓衆にもわかるようにしたんだよね。

って、茶筅丸くんの担当小姓衆って、自分じゃねぇかよ。佐脇さん達が準備してたから、急いでお願いしに行かないと。


「佐脇殿。茶筅丸様が茶の饗応をするよう信長様より声が上がった様子。茶の支度が必要かと」


「坊丸。安心せい。こんなこともあろうかと既に茶釜に湯を沸かしてある。それと、今朝のうちに信長様からどの茶碗を使うかは聞いておる」


そう言って出されたのは、枇杷色でよく手に馴染みそうな茶碗。一部が黒いのは漆で継いでいるのでしょうか。もう一つはそれよりも開き気味で轆轤や箆の跡が少し印象的な釉の青白い部分が見て取れるやや白みのある枇杷色の茶碗。もう一つはその中間と言った風合いの茶碗。きっと素晴らしい名物なんでしょうが、今の自分にそれをゆっくり見ている余裕なんぞ無いわけで。


「茶の方は宜しくお頼み申しまする。それがしは茶筅丸様のもとに参りますれば」


そう言って茶筅丸様が殿主饗応の間から下がってくる前に襖の脇に待機。いやいや、忙しくなってまいりましたよ。

お、茶筅丸様が襖を開けてこちらに。


「茶筅丸様。坊丸でございまする。茶の準備は始まっておりますれば、ご安心を。とりあえず、一礼の後、襖を閉めてお下がりを」


小声で声をかけましたが、茶筅丸様を驚かせてしまったようで、最初ビクっとしてました。


「坊兄ぃ。そうですかぁ。良かったぁ」


「まずは、一礼の後お下がりを」


「ん。わかった」


安心したのから、茶筅丸様から部屋から出てくる時のぎこちなさは消えました。良かった良かった。


「では、こちらに」


茶筅丸様を小姓衆達の居る控えの間の方にご案内です。


「茶筅丸様。佐脇にございます。お父上からの突然のご下命、驚いたかと存じますが、ご安心を。今、茶の湯の心得がある者たちが、陰点てをしておりまする」


「うむ。良かった。茶の支度を父上に命じられてどうすればよいか分からなかったのだ」


と言うやり取りをしていると、黒漆塗りの長角盆のうえに濃緑の薫り高い抹茶が入った茶碗が三つ、正三角形に置かれてでてきました。


「茶筅丸様、説明を致しまする。坊丸もよく聞いておけ。三角の頂点の位置に置いてあるのが、信長様のお好みの茶碗にございます。まずはこれを信長様の座られる畳の傍に置いて下さいますよう。開いた方の茶碗をルイス・フロイス殿の前に。最後の一つをロレンソ殿の前に置いてくださいますよう、宜しくお願い致します。坊丸。饗応の間の襖の前まではそなたが運ぶように。よいな」


「はっ」


そして、参碗を載せたお盆を持ってもとの饗応の間側に着座。

いやぁ、緊張した。この茶碗を載せたお盆を持った状態でコケたら、マジでヤバかったからね。飛び散る抹茶、割れる名物茶碗、それらを浴びる茶筅丸様と自分。うん、少なく見積もって蟄居。普通に考えると、切腹(ダイ)or斬首(ダイ)ですね。茶碗を落として転生の時間線、演算終了〜!とかなる可能性があったわけですよ。いやはや、まったく。


で、茶筅丸様と一緒に襖近くに着座。

さて、これで一安心。このわずかな時間、茶器を鑑賞させていただきましょう。

黒漆の盆の上には、枇杷色の茶器参碗。そして、そこに濃緑の抹茶。黒、枇杷色、緑のコントラストが目に鮮やか。決して派手な色合いのものはないのに、鮮やかさを感じさせる取りそろえです。

特に信長伯父さんの好みという抹茶碗は、黒漆で一部が欠け継ぎしてあるので、塗盆との黒漆かぶりで、目の錯覚でもあるのか、遠近感に歪みが生じて不思議な感じ。そして、当然ですが、抹茶の良き薫り。

信長伯父さんは名物刈りしたせいで、成金が金にあかせて茶器を集めた感じに思われているらしいのですが、この取り合わせをみるに独自の審美眼があるのではないかと思われますな。ウムウム。


さて、この後茶筅丸様にお部屋に入ってもらえばミッションコンプリートだな、と思っていたら、茶筅丸様からこんな一言が。


「どれを父上に渡せばいいんだっけ?坊兄ぃ」


「茶筅丸様、三角の頂点、こちらでございまする」


と、信長伯父の好みらしい茶碗を指さして教授。緊張して、ど忘れしたんだろうね。


「坊兄ぃ。これ、襖を、開けたあとはどうすればいいの?」


オーマイガー!それを今から全部教えるのは無理です。自分だってこっちの時間線では茶の湯の勉強とかこういう時の作法の勉強細かくしているわけではないし!自分の中にある知識は転生前、高校時代に日本文化を学ぼう的な授業で弐、参回、茶道の先生が来て体験しただけだし!


今、求められてるのは襖開けて、盆を送って、膝行して襖閉めて、立ち上がってお客様にお尻を向けないようにクルリと回って、着座して盆を持って立ち上がるって感じの一連の動作でしょう。

無理やぁ。今からそれ全部を茶筅丸様に教えるのは、無理の無理無理やぁ。例えできても、茶が冷めちまうって話ですよ。


よし、立った状態でお盆を茶筅丸様に持たせて合図と共に襖を自分が開ける&閉める方法でいくしか無い!


「茶筅丸様。お立ちください。そこで、盆をお渡し致しまする。茶筅丸様が立ったまま、茶が載った盆を持っていただきます。それがしが合図をしましたら、襖を開けますので、中に数歩お入りを。『父上、茶をお持ち致しました』とご挨拶いただくのを合図にそれがしが襖を閉めまする。これで、如何でございましょうや?」


「うん。それなら、大丈夫。坊兄ぃ、宜しく頼んだ」


「茶筅丸様、おまかせを」


そして、襖オープン!茶筅丸様、お部屋にイン!


「父上。茶をお持ち致しました」


よし、合図来た!ゆっくりと襖をクローズ。

よぉぉぉし、やりきった。ひとまず、茶筅丸様の茶の運搬の補佐、やりきったよ、自分!

後は何も無いと良いなぁ…。


今回出てきた茶碗は、

壱 大井戸茶碗 銘 信長 

弐 青井戸茶碗 銘 柴田

参 大井戸茶碗 銘 三芳野

をイメージしております。壱と弐は実際に信長が所属したことのある井戸茶碗ですな。


陰点て 水屋などお客様の見えないところで略式に茶を立てること


上洛してしばらく京都にいた事で、信長とその近辺は茶の湯をそれなりに嗜むようになっております。なので、お茶が碾茶ではなくて抹茶に変わっているわけです。


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