450話 バテレンが来た! 什弐話
ども、坊丸です。
昨日の帰宅後はなかなかに大変でした。和田殿の岐阜屋敷の衆から冷遇されていることを愚痴りながら酒を呑むロレンソ了斎さんとルイス・ナカイさん。ひたすらプリンを所望してくるルイス・フロイスさん。それを肴に酒を嗜まれる柴田の親父殿。グダグダになり始めたので、こちらに目配せしたあと、そっと退室して行く文荷斎さん。なんかバテレン衆と宴会やってる、酒が飲めると聞きつけてやって来やがった玄久さん。玄久さんが来たから飲み直し始まる勝定さん。
あ、駄目だこりゃ!と思ったので、そっと婆上様にご報告に。婆上様が広間に向かったのを見て自分、自室に逃げました。ええ。逃げましたとも。巻き込まれたくないし。
遠くで聞こえる婆上様の声。いや、離れにいる自分に婆上様の声が聞こえているって段階でおかしな話なんですがね。それなりに大きな声でしたが、それ以上に静かな怒気を含んだような冷たく響く声色でしたよ。
たぶん、近くにいたら「なんだ、このプレッシャーは!」って感じていたことでしょう、ウンウン。
それと、バテレンの皆さん、明日、二日酔いになってないと良いんだけどね。
で、本日も奇妙丸様の小姓衆としてのお仕事を務めて、帰宅。帰宅後、すぐに柴田の親父殿に本日の顛末を確認です。またまた毛受弟が歩いていたので、親父殿の居場所を、確認。自室の書院に居るはずなんですね、わかりました。
「親父殿。坊丸、ただいま戻りました。こちらにおられるときに及びましたので、参りました」
「おお、どうした。坊丸」
どうしたじゃありませんよ、まったく。今日の首尾&バテレンの方々が登城する際に二日酔いになってないかとか心配だったんですよ!ルイス・フロイスさんは酒あんまり呑んでなさそうだったけど。他の二人がねぇ…。
「本日の伯父上とバテレンの方々との面会、どうなったのかと思いまして」
「おおそれか!殿はルイス・フロイス殿に都でのキリスト教の布教を許可なされた。それどころか、『内裏がバテレン衆を追放する綸旨を出されたことは甚だ遺憾である』とまで仰せられた。それに、取次でないのにもかかわらず、バテレンが岐阜にやって来ていることを知らせた儂にもお褒めの言葉をくださった。上首尾と言ってよかろうぞ!」
「いやはや、良うございました。伯父上がバテレンのことを気にかけていると親父殿にきいておりましたので。親父殿にも新領地からわざわざお戻りいただいておりましたので、これで何も無いとなると、親父殿に本当に申し訳無かったところですが…。坊丸の読みが当たりました。いやはや、本当にホッとしておりまする」
「うむうむ。そなたの機転でバテレン達も助かったし、儂も褒められ、和田殿にも面目がたった。今回は万々歳よ!当家もルイス・フロイス殿もこれから上げ潮じゃ!」
満面の笑みを浮かべる髭面の親父殿。こういう少しお茶目なところがあるから家臣の方々に愛されるんでしょうな。信長伯父さんにも、ね。
「げにげに、よき流れかと。ルイス・フロイス殿は岐阜城でもそれなりに歓待を受けておりましたか?親父殿に伝え聞く伯父上の様子であれば、問題ないかとは、思いまするが」
「それなりどころか、破格の扱いよ!岐阜に来ておった昵懇公家衆の日野輝資卿、先代信秀殿の頃から付き合いのある山科言継卿らと同じ様な扱いであったわ。ただ、日乗と同じ様にバテレンを目の敵にしている竹内三位こと真滴上人も来ておってな。ルイス・フロイス殿のことを睨みつけておったわ」
「伯父上の前でバテレンに悪意ある行動をとるなど…。大事無かったのですか?」
「まぁ、大事無いな。ロレンソの奴が、京におった時に朝山日乗と宗論をした事を持ち出してな。伝え聞くところによると、朝山日乗は宗論に負けて刃物を抜いて殿の小姓衆に取り押さえられたことがあるらしい。まぁ、バテレン追放の綸旨を出すように働きかけたのもその時の逆恨みであろうよ。竹内殿もここはバテレンよりも日乗を下げる流れと見て、途中からは日乗の過去の行いなどを信長様に言上し始める始末であったわ」
「日乗殿は御所造営の補佐役をなさっているとか。過去の行いがあまりに悪ければ、さすがに伯父上といえども用いますまい」
「嘘か真か知らんが、竹内三位殿が言うには、大したことがない端切れを後奈良帝のお召しになった衣だの名物裂だのと言って売りさばいておるらしい。後奈良帝と昵懇で上人号を賜ったのも本当のことか怪しいとまで言っておった。
まぁ、日乗殿も竹内三位殿も他を貶して自分を上げて見せるような癖があるからな。話半分でちょうどよ。ただ、その話を聞いた信長様の様子がな。日乗の奴め、と呟いた時の怒気を含んだ声色はそれはそれは恐ろしいものであったわ。」
「それは…。日乗殿も気をつけねば斬首、追放となりそうですね」
「まぁ、そうなるかはわからんがな。ちなみにその後、信長様は表の大広間で面会するだけでなく、貴人を歓待する為に作った中御殿までルイス・フロイス殿一行を連れて行ってな。展望の良い浮き舞台や二階の金屏風の間、三階の茶室までご案内なされた。先日の名物刈りで集まった茶器も並べられてな、ついでについていった儂まで名物の茶器を拝見することできたぞ。殿がわざわざ集められた茶器であるからのぉ、素晴らしい、物なのであろうな、うむうむ」
親父殿?素直に茶器の良し悪しが分かって無いと言っていいんですよ?
「そうそう、最後に塗盆に菓子が出てきたのであるがな。ルイス・フロイス殿はありがたくいただくと言いながら、微妙な面で食べておったわ。ハハハ」
え?それって、プリンと比べて信長伯父さんの出した菓子が微妙ってこと?
ルイス・フロイスさん、プリン、本当に美味しかったんだねぇ。
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