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信孝なんかに『本能寺の変』のとばっちりで殺されていられません~信澄公転生記~   作者: 柳庵


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447話 バテレンが来た! 九の段

ルイス・フロイス一行の岐阜での現状を聞いた柴田勝家は、思った。

キリスト教布教禁止令、バテレン追放令の影響があまりに強いことを。


バテレンに理解のあるはずの和田殿の家中でもそれらの発布によってバテレン達に厳しい対応をしいるという過酷な現状を聞き及んで、彼らをしっかり饗さねばと思うのだった。


「庄助、台所に行け。バテレンの衆、三名を饗応するとな。柴田家からは、儂、文荷斎、勝定の三名。あわせて六人分じゃ。昨日、坊丸にも饗応の予定は伝えてある故、大丈夫とは思うが…。今、屋敷にあるものでできるだけ良いものを、と伝えよ」


「はっ」


そう言うと小姓の毛受庄助が台所に走る。


「さて、殿への目通りの手配もした。膳が出るまで、しばらくはかかろうので、少し話をいたそうか」


そういうと、京から岐阜に向かう今回の旅の事をルイス・フロイスとロレンソ了斎に丁寧に聞いて行く勝家。柴田勝家からすれば、岐阜から京に向かう、あるいは逆の道のりは、常に戦絡みか仕事絡みの道のりである。鎧兜を身に着けての行軍か、馬を飛ばしての早駆けばかりしていたのだった。


先日、新たな領地となる蒲生郡を見て回った時以外は風景をゆっくり見ている余裕など無かった勝家とすれば、徒歩で京岐阜間の旅行きの話を聞くことはそれなりに楽しかった。

そして、今後自分が治める蒲生郡近辺の話は、旅人の率直な意見や感想が含まれていて、これから先の統治に参考になる話もチラホラ含まれていたのだった。


旅の話が佐和山を過ぎたあたりで文荷斎らが戻って来た。そして旅程が関ヶ原を過ぎたあたりで饗応膳の準備ができたと毛受庄助が知らせてきた。


「おぉ、早いな。もう少しかかるかと思ったが…。とりあえず、膳を出してもらおう」


その声を待っていたかの様に運び込まれる饗応膳。

運び込まれる前から、大蒜油の香りが漂ってくる有様である。

一の膳は、鮎の塩焼き、坊丸考案の戦国アヒージョとでもいうべきもの、茄子と芋茎の炊合せの三皿である。


「む?この匂いは、蛸と貝が入っているのは、生駒屋敷でも出た大蒜油か?しかし、大蒜の臭いが強いな。バテレン殿は大蒜は大事ないか?僧侶達はあまり臭いの強いものは不浄だとか言って口にせぬが」


「我々、キリスト教徒は食べ物については制限がございませぬ」


ロレンソ了斎の言葉に大きく頷くルイス・フロイス。

だがその目は、大蒜油で炊いた蛸と浅蜊の小鉢にずっと注がれている。


そして、杯に注がれるは、これも坊丸考案ということになっている澄酒。ロレンソ了斎、ルイス・ナカイは濁り酒しか知らなかったので、酒の香りはするのに水のように濁りの無いそれを見て、水盃を思い浮かべ、顔を見合わせる有様である。


「では、皆の衆、酒と膳の準備はよろしいか。ルイス・フロイス殿、遠路はるばる岐阜までのお越し、痛み入る。再会の喜びと我が殿との面会の成功を祈念して。弥栄に」


「「弥栄に」」


弥栄の掛け声とともに杯をあおる柴田家の三名。

それを見て、恐る恐る口をつけるロレンソ了斎とルイス・ナカイ。

ルイス・フロイスは色を見て水だと思ったのか、それなりの量を口に含む。口に含んでアルコールだと気づいたが、一瞬目を見開くも失礼にならないようにと一気に飲み込んだ。


「ささ、鮎と…油に浸かった魚介、茄子の炊いたものではあるが、召し上れ」


そういうと柴田家の面々と日本人キリスト教徒の二名は鮎に箸をつける。が、ルイス・フロイスは躊躇なく大蒜油の中の蛸を口に含んだ。


その瞬間、口の中に広がるガーリックオイルの芳香。オリーブオイルではないが、間違いなくそれは異国で出会ったアヒージョであった。口の中から鼻腔に抜けるガーリックの含み香が、ルイス・フロイスに故郷ポルトガルを思い起こさせる。

そして、気がつくと蛸だけでなく浅蜊の身を貝から外し、貝についた油もしゃぶる有り様であった。

あと少しで食べきるという直前、ルイス・フロイスの口から称賛の声が自然と漏れた。


「アヒーリョ、デリシオーゾ」


「師よ、なんと?」


ロレンソ了斎が問いかけると、ルイス・フロイスは通事のルイス・ナカイに耳打ちする。


「『とても美味しい。故郷の料理によく似たものがある。懐かしい。この国に来て一番美味しい』と師が申しております」


「そ、そうであるか。これは当家預りの坊丸が考えたものであろう。ルイス・フロイス殿の口にあって何よりじゃ」


「権六。この大蒜油に浸かった蛸、坊丸の考えた奴なのか?」


「勝定。客人の前で権六はやめてくれ。同族とは言え一応、主人ぞ。この料理、生駒屋敷での料理によく似ておる。十中八九、坊丸の作だな」


「ほぉ、坊丸様の。ならば、味の方は間違いないですな」

「だな」


文荷斎と勝定の言葉には、坊丸が作った料理への篤い信頼があった。文荷斎は以前から坊丸と一緒に居ることも多いから分かるが、年末年始でしか坊丸の料理を口にしたことがないはずの勝定が何故にそこまで信頼できるのかは不思議だった。が、思い返せば、坊丸の作ったものは概ね美味なのは間違いがない。


鮎をつつく箸を止めて戦国アヒージョを口に運び始める三人。

その様子を見て、大きく頷き、先程よりも大きな声と身振り手振りをするルイス・フロイス。


「『この様な料理がこの国にもあるとは驚いた』と師が申しております」


「いや、これは普段から食べることはないな。当家預りの坊丸と当家包丁人のお滝以外には作れはしまいよ」


その翻訳を聞くと露骨にがっかりするルイス・フロイス。


「『それは残念です。坊丸という人に会ってみたい』と師が、申しております」


「すまんな。その者は今日は城で勤めがある。ゆえにすぐに会わせることができないのじゃ」


「『それは残念です。いつか会いたいです。』と、師が、申しております」


その後、鮎をつつきながら、関ヶ原から岐阜までの話、堺や京の話をしていると、二の膳が運ばれてきた。


二の膳は、鴨の焼き物、なんちゃってスペインオムレツ、韮味噌を塗って焼いた筍である。

それに飯と蛤の潮汁がついてくる。


またしても日の本人の五名は鴨の焼き鳥から箸をつけるが、ルイス・フロイスだけは厚焼の卵焼きに目が釘付けである。そして口に含むと、厚焼のオムレツの中には具だくさんの野菜が。特に細かく刻まれた大蒜の芽の風味がまたしても、ルイス・フロイスの郷愁を刺激する。


「パシュテラォン!デリシオーゾ!」


「『これもパシュテラォンという故郷の料理に似ている、とても美味しい』と師が、申しております」


「お、おう。それはよかった」


「『この貝の汁もとても美味しい。茶色くなくて、塩辛すぎないのが良い』とのことです」


「ルイス・フロイス殿は味噌汁よりも澄まし汁や潮汁がお好みか。それは良かった」


最後の菓子膳。しっかりと卵黄多めで硬めに仕上げたプリンは、現代人であれば昭和を感じさせるプリンであった。


「プヂン!ドォッシィ!デリシオーゾ!」


ルイス・フロイスは、その甘みに知らず知らずに泪がこぼれた。


「『これも坊丸殿が作ったのですか』と師が問うております」


「うむ。うちの坊丸は大の甘味好きであるからな。なんのかんのと作っている。これもプリンだかと言っておった」


「プヂン!ボウマルドノ、オブリガード!」


日本人修道士たちもプリンに興味があるものの、常と異なるルイス・フロイスのあまりの食べっぷりにそっとプリンをフロイスの膳の上に差し出してきた。。

そして、そのプリンに木のスプーンを入れては口に運ぶを繰り返しながらルイス・フロイスは坊丸に思わず感謝の言葉を述べたのだった。

アヒーリョはアヒージョのポルトガル語

デリシオーゾは感動するくらい美味しい時のポルトガル語

パシュテラォンはスパニッシュオムレツに似たポルトガルの料理。

プヂンはまんまプリンのポルトガル語。

ドォッシィはポルトガル語で甘いです。


ポルトガル語は色々検索かけて確認してますが、間違っていたら、誤字脱字指摘機能を利用してご指摘ください。


ルイス・フロイスは味噌汁がどうしても駄目だったようで、塩辛くて美味しくない茶色の汁という感じで記しています。ちなみに単なる潮汁ではなくて、鴨のガラから取ったスープも加えているので、実は蛤と鴨のダブルスープです。


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宜しくお願いします。



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