442話 バテレンが来た! 四の段
ども、坊丸です。
ロレンソさんというキリスト教の日本人修道士に会いました。なかなかに道理の分かる方で、話の内容も理路整然としており、交渉はスムーズに終了。本来は預かりの自分が交渉の場に呼ばれて、何か起こったら大変と思っていたんですが、いやぁ~、良かった、本当に良かった。
で、婆上様に交渉の内容を勝定さんと二人で説明。
柴田家には和田惟政殿と柴田の親父殿の個人的な友誼をもとに「何かあったら、よろしく!」的な内容であることを説明したら、婆上様、ホッとしておりました。
まぁ、いきなり南蛮服着た日本人修道士が押しかけてきたら何事かと思うよね、ウンウン。
婆上様のお部屋から出た後、自分たちの自室のある離れにつながる渡り廊下の手前、濡れ縁に出るたところで立ち止まって誰もいない方に向けて呟いてみた。
「桃花さん、ロレンソさんと我々の話、聞いてました?」
駄目もとで、声に出したわけですが…。
「坊丸様、いつから近くに忍んで居るのに気がついておりましたのでしょうか?」
静かに姿を顕す桃花さん。
声をした方を見ると無表情の桃花さんが柱の陰から出てきました。
いやいやいや、忍んで居たのには気付いて無いから。
多分、柴田屋敷に派遣された「忍び」としては、仕事するだろうな、という予想から、声かけしてみただから。ま、誤解してくれているようなので、誤解させておきましょうか。
「そんなに前からではありませんよ。ロレンソ殿と話した後、婆上様の部屋に移動するところあたりから、でしょうか」
「坊丸様の勘が良いのか、自分の隠形の腕が悪いのか…。いずれにしても、気付かれておられたとは…」
「ま、それは良いですから。甲賀衆に今の話を伝えると思いますので、その時に、大津長昌殿、佐久間信盛殿が今どちらで何をしておられるか、交換に聞いてきてください。
聞いていたとは思いますが、正式の取次のお二方がすぐに戻られるなら、それで良し。戻られないなら、ルイス・フロイス殿の取次を親父殿にしてもらうため、岐阜に戻ってきて頂くかを考えねばなりませぬ故。情報の対価として交換に少しばかり情報を集めていただきたいのです。よろしくお願いしますね」
「承りました。それくらいなら問題ないかと」
「まぁ、自分の方でも明日、伯父上の小姓衆や牛助殿に聞いてはみますが…。情報の裏をとるのに色々な経路で確認するのは大事ですから」
「では、明日、坊丸様のお帰りまでにできる限り情報を集めておきまする。では」
そう言うと、柱の陰にスッと身を隠すしたかと思うと、桃花さんの姿が消えていました。
いやいや、隠形の技、十分上手だと思いますよ。鎌をかけるのに乗らなければ、完璧なくノ一さんなんですけどね。
そしてその日の夕刻。
柴田の屋敷に文荷斎さんが遅れてやって来ました。と言うか、到着したらしく遠くで声がしました。
遅いよ、文荷斎さん。もう、ロレンソさんとの面会終わっちゃったから。
あ、今後の対応の協議は必要だから、婆上様、勝定さんと四人で話したほうが良いかな。
と、立ち上がって我々の私室のある離れから短い渡り廊下を経て本邸の濡れ縁に差し掛かった時、若衆の一人が声をかけてきました。
「坊丸さまぁ。こちらでしたか。中村殿が参られました。バテレン達はどんな様子であったか話を伺いたいそうです」
「承りました。どちらへ伺えばよいのですかな」
「吉田殿の仕事部屋にてお待ちとのことです。ご案内します」
その声に導かれて吉田次兵衛さんの執務室に向かいます。桃花さんも屋敷に戻っていれば隠形で近くにいるんでしょうね、きっと。
「坊丸です。文荷斎さん。入りますよ」
「おお、坊丸様、無沙汰しておりまする。そして、遅くなりました。して、首尾は?」
「勝定殿とどうにか対応した、としか。文荷斎さんが間に合えば、自分、今日はゆったり休めたんですけどね」
「いやいや、尾張から馬を飛ばしましたが、すぐに到着致しませぬ故、それはご勘弁を」
「まぁ、それは冗談ですよ。で、バテレンの訪問ですが、今回は日の本人が一人での訪問でした。名をロレンソ了斎と名乗っておりました。どうやら、京にてキリスト教が禁教となりそうなので、伯父上に京でのキリスト教布教の許可をもらいに来た様子でしたね」
「ロレンソ了斎…?」
「あぁ、キリスト教徒は、本名とキリスト教に入信した時につける洗礼名があるらしいのですよ。本名は了斎で、洗礼名がロレンソ。修道士らしいですよ」
「ふむ。しかし、何故、柴田様を訪問したのですかな」
「和田惟政殿からの親父殿に宜しく頼むという感じの書状を持って来ましたね。どうやら、和田殿の取次の大津殿、佐久間殿が不在なので、やむなく当家を頼った様子」
「そういうことでしたか…。状況は理解しました。して、柴田様には連絡いたしますか?」
「それがしとしては、親父殿に連絡を入れ、伯父上に取次をした方が良いかと存じまする」
「わざわざ、和田殿の取次でない当方がそこまでする必要がありますかねぇ…」
いやいやいや、織田信長のキャラを考えれば、バテレンに、ルイス・フロイスにきっと会うから!
信長の南蛮趣味を知ってる現代なら普通の感覚なんだけどなぁ。
戦国時代に生きる人にはそれがわからんのですよ!きっと、たぶん。
柴田勝定さんは柴田家家臣なので、当家といえは、柴田家。
中村文荷斎さんは織田の直臣で柴田勝家の寄騎なだけなので、当家といえば織田家。なので、柴田家、柴田勝家の事は当方という微妙な表現になります。
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