437話 南近江、差配 其の四
ども、坊丸です。
翌日、小姓業務を終えて帰宅すると親父殿は次兵衛さんと何やら話し込んでおりました。
帰り際の次兵衛さんに挨拶して少し話をすると、近日中に柴田家の一同を集めて近江蒲生郡と末森の差配について話すとのこと。今日は差配の案を二人で練っていたらしいです。それ、焚き付けたの婆上様と自分なんですけどね。なにはともあれ、お疲れ様です。
あ、そうだ。ついでに南近江から北伊勢に抜ける道のことも聞いとかなきゃ。
「次兵衛殿。先程の南近江の差配のこととも絡むのですが、南近江から北伊勢まで通じる道について、親父殿はなにか仰っておられましたか?」
「ああ、そういえば、そんなことも、仰られておられましたな。今年行われるかもしれない伊勢攻めに向けて、琵琶湖周りの道だけでなく、南近江から伊勢に至る道も整備したいとか。新しい領地と尾張の末森城と連絡をとるのに、岐阜、関ヶ原を抜ける道以外も確保しておきたいのだそうです」
お!おぉ!自分の話した理由以外に一日で新しい理由が付け加えられている!
柴田の親父殿が内政官としてスキルアップしているということでしょうか。
戦を繰り返しながら岐阜から京まで行った上洛戦と本国寺の変のせいでやる羽目になった冬の雪道強行軍を経て道の重要性に気がついたのか!親父殿!三日と言わず一日しか経って無いのに刮目ものですよ!
「佐和山から柏原の間は、浅井殿の領地ですからね。お市の方様がおられますので、問題はないかと思いまするが、一応は他国。浅井の領内で変事でもあらば、関所で止められるやもしれませぬ」
あくまで、浅井家内部の問題で、と言っておきます。本当は金ヶ崎の戦いの後、浅井長政が信長伯父さんを裏切るはずで、その後、通行止めになる可能性が高いからなんだけど。
「ふむ。織田の領内は関所を順次廃止しておりますが、浅井の領内は違いますからな。末森から津島、北伊勢を経て南近江なら全て織田の領内。関所に止められずに行き来できまするな。合点がいきもうした。
しかし、そうなると滝川殿に一報を入れて協力を仰がねばなりませぬな。
それと、そのようなところに良い道があるか、でござりまするな…。しかも、甲賀の山中には六角義賢、鯰江には六角義治が立て籠もっておりますれば、そのあたりは使えぬとなると…。難儀ですなぁ。それがしもさすがに甲賀や北伊勢の山道までは知りませぬからな…」
「やはり、蒲生郡の国人衆に問い合わせてから、となりますかね」
「それが、確実かと。後は滝川殿が近江の国は甲賀郡の出だったはずですので、協力を仰ぎつつ、整備する道の選定にも携わっていただくしかありますまい。まぁ、急ぎではなく、蒲生郡に勝家様が入ってからになりまするなぁ」
ん?甲賀の人ならそのあたりの道に詳しいってこと?
じゃあ、うちにも居るやん、甲賀の人。あと、奇妙丸の側にも。
「滝川殿の協力次第、ですかね。奇妙丸様の乳母役が滝川一益殿の縁者だったはずですので、それがしからもそれとなく話しておきまする」
お桂さんは滝川一益殿の縁者ですからね。そっちからも話を通しておいてもらうと少し楽かな。それと、あの人も甲賀の人だったしね。話は聞いておこう。
「おぉ!それはありがたい!是非、お願い致しまする。では、それがしはこれで」
「さようならば、さらにお引き止めも致さぬ方が良いでしょう。次兵衛殿も宜しくお願い致します」
二人で軽く頭を下げあって、次兵衛さんはご帰宅。
よし、それじゃあ、柴田の屋敷に居る甲賀のくノ一さんに話を聞いてみますか。
はい、そんな理由で桃花さんを探しながら屋敷を歩いていると、最近親父殿の小姓になった毛受さんところの庄助くんが居たので、桃花さんを見かけなかったか聞いてみました。
すると、桃花さんを少し前に台所にて見かけたとのこと。毛受庄助くんに感謝の言葉を伝えて、台所へ。
お、居た居た、居ましたよ、桃花さん。
甲賀のくノ一さんなんですがね、訳あって今は柴田の御屋敷にてお仕事をしております。まぁ、自分の監視役というか、自分がなにか作ったり工夫したことの情報収集と滝川一益殿への報告、それと一応、防諜活動もしてくれてるみたいです。
「桃花さん。ちょっと良いですか?この後、少しお話が。できれば二人っきりで。仏間にてお待ちします」
一瞬、こちらをみる顔が深淵を覗き込む様な感じになりましたが、すぐに表情を戻した桃花さん。
「坊丸様、わかりました。この作業が終わりましたら向かいますね」
桃花さん、年相応の娘さんの朗らかさを含んだ笑顔で答えてくれました。でも、あれは絶対に作った表情やね。張り付いた感が微かに、ごく微かにだけど感じられたし。
台所を出て、仏間にて待つこと少し。
「お待たせしました、坊丸様。して、御用とは?」
いつもとちょっと表情の違う桃花さん。こちらに目線を合わせず斜め下を見て身をよじる感じはどういうことでしょうか?
いやいや、無理難題ふっかけたりしないから。
そして、取って食うわけじゃないから。謀略的な意味でも、性的な意味でも!
「安心してください。少し話を聞くだけですよ。甲賀のことを」
あれ?今度は真顔でめちゃくちゃ硬い表情になっちゃったぞ?
何か変なこと言ったかな?
急に二人で話したいと言われたので、甲賀のくノ一らしく少し女を出してきた桃花さん。残念、坊丸にそんなことは無駄でしたw
少しでも「面白い!」「続きが気になる」と思った方は、下の★でご評価いただけると、作品継続のモチベーションになります。
宜しくお願いします。




