411話 火縄銃の試射、準備中
ども、坊丸です。
信長伯父さんの気まぐれで細川藤孝殿と明智光秀殿に引き合わされた上に明日、明智光秀殿の鉄砲の腕前を確認する場に呼び出される事になりくさりました。
あれ?そういえば、織田筒や早合って見せて良いのか?
足利義昭様の奉公衆とはいえ、明智さんは現在は朝倉家所属っぽい話もしていたしなぁ。
奇妙丸様の下に戻る前に一応、確認しておくか…。
広間から下がった後、よく信長伯父さんの小姓衆が控えているお部屋に寄っておくか。
「失礼致します。津田坊丸にございます」
お、小姓衆控え部屋に長谷川橋介さんと山口飛騨さんがいたぞ。この二人なら話が早そうだ。信長伯父さんにも話通してくれそうだし。
「殿からの呼び出しは終わったのか?」
「橋介、先程、坊丸は小広間に向かっていたぞ。その用件は終わったのだろうよ。で、どうした、坊丸。奇妙丸様のところに戻るのではないのか?」
「はっ。明日、明智光秀殿の鉄砲の腕前を見る場に参加せよと言うのが、殿に呼ばれた用件でございました。で、なのですが、明智殿にどこまで当家の鉄砲を見せるべきか、殿に確認していただきたく、お願い申し上げまする」
「明智殿の鉄砲の腕前が見たいと言う事は殿より聞き及んでいるが…。どういうことだ?」
しょうがないので、明日の鉄砲の腕前披露の際に明智殿もさすがに自分の鉄砲を持ってきていないだろうからたぶん火縄銃を貸し出す事になるだろうこと、明智殿や細川殿に当家の火縄銃、なんちゃってライフリング前装式火縄銃こと織田筒を見せるのか?早合は見せるのか?工夫した蜜蝋を潜らせた特製火縄はどうするか?等々当家の火縄銃関連は他家には見せたくないものの塊である事を説明しましたよ。
「どうする、橋介。明日だぞ」
「坊丸の言う通り、当家の火縄銃は秘密の塊であったな…。今すぐ行ってくる。坊丸はそこで待て。山口、一緒に行くぞ」
「お待ちしております」
小姓衆のお部屋で待ってるわけですが、こうやって見ると、みんな最近信長伯父さんの小姓衆になった人が多いなぁ。
桶狭間の早駆け五人小姓衆も岩室長門さんが亡くなって四人衆だし。今、この部屋に控えているのは、四人衆よりも若輩なうえに、自分が奇妙丸様の小姓衆になった後からの人も多い感じ。
ちなみに、同時期に信長伯父さんの小姓衆になった人は奇妙丸様の小姓衆よりも格上扱い。その後からの人達は例え年齢が上でも格下扱い。家格も一年分くらいの差しか影響ないみたいだし。
厳密な経験年数による縦社会が基本。他に補正がかかる最大のポイントはどれだけ信長伯父さんに気に入られてるか、どれだけ伯父さんから振られた仕事が的確にできるかのみ。しかも基本、信長伯父さんて仕事ができる人を気に入るから、ほぼ有能か否か以外には経験年数のみ。激、能力主義なのですよ、怖いなぁ。
なので、仕事ができない子や家格を鼻にかけるような子はハブられる感じらしいです、信長伯父さんの小姓衆は。
え?奇妙丸様の方はどうかって?だって、うちは四人しか居ないから。トップは虎丸君だし。牛助は愛され弟ポジションだし。理助は脳筋お馬鹿ポジション、自分はみんなの補佐役、黒子に徹する感じ。まぁ、信長伯父さんからいきなり呼び出し受けることがあるから他の三人とは微妙に立ち位置が違う感じですかね。ウンウン。そんなわけで、各々、キャラ的にも仕事的にも立ち位置も決まってるし、それに四人しか居ないから仲違いなんかしてる隙なんか無いし。
小姓衆の詰めるお部屋で、信長伯父さんに仕える小姓衆の人達の働きを見ながら、そんなことをぼんやり考えていたわけです。すると、長谷川さんと山口さんが戻ってきましたよ。
「坊丸。おったか。殿がお呼びだ。ついて参れ」
「は?はっ!」
明日に向けて何かしらの指示を口頭でもらえると思ってたら、また、呼び出しかよ…。まぁ、軍事技術を他国の者にどこまで見せるのかっていう大切な判断だから、しゃあないか。って、広間じゃなくて私室の書院に連れてかれてますよ。って、マジか…。
「殿、坊丸を連れてまいりました」
「入れ」
「「「はっ」」」
信頼されている二人の小姓衆はすぐに信長伯父さんの側に。既に私室に滞在して警護役を兼ねていると思われる佐脇さんとあわせて、信長伯父さんの傍に控えます。
自分は入口近くですぐに平伏。
「津田坊丸、お呼びにより参上致しました」
「来たか。で、明日の鉄砲の披露のことであるな」
「はっ。明智殿に貸し出す火縄銃、弾薬は如何様に致しましょうか?」
「坊丸は如何考える?」
って、こっちを試すような質問返しが来ちゃったよ。
「はっ。信長様の指示に従いまする」
無難に答えると、信長伯父さんの目がすっと一瞬細くなりました。ヤバ。怒らせたか?
「で、あるか。坊丸。ここは、私室である。伯父として特に差し許す。かつて儂が天下人になると言い放った、あの末森の時の如く答えよ」
くっ。これは本当に逃げ場がないヤツだ。私室と伯父っていうワードを入れてきたってことは、織田の一門衆として答えろってことだ!つまり、しっかり自分の考えを言わないと怒られるならまだしも、最悪、見放されるヤツだぞ。気合入れろ!坊丸!
「はっ。では、恐れながら。まだ明智殿は朝倉家に所属のご様子。ならば、当家の火縄銃に関する技術は見せぬほうが良いでしょう。ですが…」
すこし言い淀んでから、チラッと信長伯父さんを見る。さきほどより穏やかな表情に見える。
「続けよ。坊丸」
「明智殿の心は既に朝倉を離れ、義昭様の下にあるご様子。伯父上が義昭様と共にある限り、明智殿も敵となることはないかと。ならば、当家の火縄銃の技術を見せて、織田が義昭様の最強の支援者たり得ることを示すのも、良いかと。それと、当家に鞍替えすれば、織田筒を使える様になると言って、引き抜きをかけても良いかと。まぁ、明智殿の鉄砲の腕が、本当に優れたものであれば、でございますが」
まぁ、信長公記の知識と歴史の流れを知ってるからね。明智光秀が足利義昭を見限って織田信長につくのは、間違いないはず。
「うむ。儂の義昭様を支える心に迷いはない。そして、坊丸は、明智は既に朝倉を離れたと見るか。そうよな、儂も何度か会って、その様にうすうす感じておった。
で、あれば、明智に当家の火縄銃を見せても問題無しということになる。それに、火縄銃の技術を以て、明智引き抜きの種にしようとは、坊丸も存外人誑しよな。クックック」
「はっ。お褒めの言葉と受け取っておきまする。では、明日は織田筒を明智殿に使っていただけるよう準備しておきまする」
「ん。まずは、堺から仕入れた旧式を使わせ、その後、織田筒を扱わせてみせよ。明智の火縄銃の腕が本物ならば、いずれ当家に引き抜く事とする。長谷川、山口、明日の火縄銃の試射の準備、坊丸と仔細を詰めておけ。決まったら、細川、明智両名に報せよ」
そう言うと、いたずらっ子の様な笑みをこちらに見せる信長伯父さん。
どうやら、及第点は頂けたようです。はぁ~、疲れた。
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