404話 永禄十一年 新年の儀 前段
ども、坊丸です。
本日は、正月二日。本年の初登城です。
とは言っても、大晦日には奇妙丸様に年末のご挨拶をしてましたから、中一日なんですがね。
そうそう、昨日は、加藤さんと夜叉若くんと坊丸一家の新年の挨拶をいたしました。まぁ、人数少ないから一瞬で終了ですが。
今年は、お市の方様の婚礼調度の第一弾の納品でそれなりの金子をいただきましたので、加藤さん、夜叉若くんにしっかりお年玉。加藤さんには、婚礼調度の制作でもかなり頑張ってもらったしね。年末のボーナスを新年に支給のイメージです。
そして、何故か我々の新年の挨拶の場で、普通に座っている弟たち。しょうがないので、些少の金子を下げ渡しました。その後は、坊丸歌留多で四人で遊びましたよ。それが、坊丸の元旦。
それはそうと、いつものように、奇妙丸様の小姓衆として新年の儀に参加です。
信長伯父さんの新年の挨拶から始まります。
「新年にあたり、皆々の顔を見ることができ、恙つつが無く新年を迎えられたこと、誠に目出度い」
うん、いつものごとくシンプル。これぞ、信長伯父さんスタイル。
「新年にあたり、殿のご尊顔を拝することができ、誠に嬉しく存じ上げたてつかまつりまする。家臣一同を代表し、ご挨拶させていただきまする。明けましておめでとうございまする」
重臣筆頭の森可成殿がそう言うと、一斉に明けましておめでとうございますの発声です。うん、いつものごとく。これぞ、様式美。
「皆の挨拶を受けられ、誠に目出度い。昨年は、ついに怨敵斎藤義龍が子、斎藤龍興とその一党を討ち、美濃より追い出すことができた。これで、義父斎藤道三殿も冥府にて安らかに眠れることであろう。我が宿願はなり、美濃の大部分を手に入れることもできた。そなたら家臣の奮戦努力、深甚なること、まことに誇らしく思う。まことに大儀であった」
その一言に合わせて平伏する家臣一同。真新しい岐阜城城下の御殿、奇妙丸様の斜め後ろ、一段高いところから見るその光景は本当に感慨深いものがあります。
「度重なる美濃攻めに参加した諸将、そして斎藤家より当家のもとに参った西美濃三人衆、留守居にて尾張を守りし者共、いずれが欠けてもこの勝利は無かった。この信長、そなたらを誇りに思う」
くっ。さすが織田信長!アジテーションだけでなく、家臣のモチベーションを上げるようなカリスマ溢れる言葉もかっこいいじゃねぇか!
「義弟、斎藤新伍利治よ。今後の美濃の統治にそなたの力を貸してくれ。そして、未だ我に従わぬ美濃の国人衆を帰服せしめよ。頼んだ」
「は、はぁ。父斎藤道三に成り代わり、斎藤義龍龍興父子を打倒していただいたこと、御礼申し上げまする。不肖、斎藤新伍、今後も義兄上のお力となれるよう精進してまいります」
特別に声をかけられた斎藤利治さんがすこし涙を浮かべて、やや湿った鼻声でそう答えました。あれは、後で感涙してまうやろなぁ。
「それと、滝川一益。我らが美濃斎藤の討伐を行いし間、伊勢の抑え、ご苦労。昨年は調略、力攻め、そして、斎藤攻めの後、儂が出馬しての火攻めの下準備と陰日向の努力、大儀。おかげで、伊勢北方四郡に割拠する北勢四十八家のほとんどを配下に収めることができた。特に褒めてとらす」
「はっ。これも信長様の御威光あってのことにござりまする」
「で、あるか。なれど、そなたの功にはしかと報いねばなるまい。桑名城城主に任じる。また、桑名、員弁、朝明、三重の四郡の差配を命じる。励め!」
「は、ははぁ!ありがたき幸せ。この一益。更に励みまする!」
おおっと!滝川一益殿、いきなりの大出世!
北伊勢の大都市で交通の要所、桑名城城主に北伊勢四郡の実質的な主ですよ。今までも実績の割に褒賞が少なめで、母衣衆筆頭に長らく留め置かれていたわけですが、さらなる実績を積んで一気に部将格筆頭か家老格にクラスチェンジですよ。まぁ、美濃攻めの裏、戦力も少ない中でこれだけの功績を叩き出されたら、誰も文句は言えないですね〜。
「さて、宿願である美濃攻略もなり、三河徳川、北近江の浅井、甲信の武田とは婚儀を結んでおる。そして、足利義秋様のおわす越前の朝倉とは矛を交えるわけにはいかん。
当面は、伊勢攻略をすすめる。そして、三好三人衆の口車に乗り、義秋様を裏切った六角はいずれは、これを誅さねばならん。伊勢を手に入れること、そしてその後には六角を攻めること、これが今年の目標である!皆のもの、励めよ!」
励めよの言葉に合わせて、一斉に平伏する家臣一同。
うん、いつもながら、さすがの様式美。
それにしても伊勢攻めからの六角攻めねぇ…。
『信長公記』のデータだと今年の秋には、話にて出てきたその義昭様を奉じて上洛することになるんですけどね、信長伯父さんは。その時、六角は攻めることにはなるんですが…。同じ六角攻めでも、今の話の感じとは随分様相が違う気もしますが。
まぁ、自分しか知らんから黙っておくけどね。
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