403話 坊丸の師走 永禄十年十二月 後段
ども、坊丸です。
構想四ヶ月、試作二か月をかけてついに完成しました!味噌ラーメン!
味噌ラーメンて言ったけど、本当は沖縄そば風の麺と味噌ラーメン風のスープで作った、何か!だけどね。
一杯は自分用に確保したので、もう一杯を小さい器や味噌汁椀に取り分ける三人。それを横目に、丼から一口いただきます。
「うっまぁ!もうちょっと、な気もするけど、これはこれでうっまぁ!ほぼ味噌ラーメンと言って良いのではないか!これは!」
「ふぅ~ん、ほぼ味噌羅麺というのかい、これは。鶏出汁味噌汁に灰汁で捏ねたうどんねぇ~。試作から付き合ってるあたしとしては鶏出汁も鶏出汁味噌汁も美味かったから、まぁ、間違いないんだろうけど…。ん?この微妙に黄色いうどん、いつものうどんとは違うコシ、食感だね!揉んであるからかね、汁にもよく絡む。うん、美味いよ!」
お滝さん、さすがです。完璧な食リポ、ありがたいです!ラーメンじゃなくてラメンって言った気もするけど。あ、「ほぼ」は固有名詞ではありませんよ、お滝さん!
「でも、少しクセが有るからね…。殿様は喜びそうだけど、大奥様にはどうかねぇ。膳としても出しづらいし、宴会の時に、蕎麦を出すような感じでは出せるけどもねぇ…」
なぬ!メインとしてこれ一杯でいただくことは柴田の屋敷では叶わぬと!叶わぬと言われるのか!お滝さん!
「時々作ってくれたりは…」
「作り方は見てたからね、出来なくはないけど、宴会の時に中締めや〆の蕎麦がわりに出すくらいさぁね。膳として出せないから、食べたいときは、自分で作りなよ、坊丸様!前日に言っておいてくれれば、鶏ガラの出汁と灰汁くらいはしこんでおいてあげるよ。それに、あの鶏ガラ出汁は隠し味なんかに色々使えそうだしね。」
くっ!そ、それで手を打ちます!むしろ、鶏ガラ出汁を作った時に教えてもらって、それにあわせて、なんちゃって味噌ラーメン制作の予定組むから。
「何やら、坊丸様が近頃台所にこもって居られると思ったら、これを作って居られたのですね。時々、良い香りがしていたのは、鶏出汁を作った薫りだったのでしょうか…。まぁ、坊丸様の作られるものは、概ね美味しゅうございますから、お妙もいただきますね」
「あ、お妙さん、この小口に切った葱も少し浮かせてください」
「はいはい」
汁をゴクリと飲んだお妙さん!目をカッと見開いたかと思うと、すごい勢いで麺をすすります。一気に食べ終わると、頬に手を当てて、ため息一つ。
「至福でございましたぁ。この、ええっと、ほぼ味噌乱麺とやら、大変美味しゅうございました」
ん?ラーメンでなくてランメンっていった?微妙にみんな聞き間違えている?そして「ほぼ」は固有名詞にはふくまれていねぇって。まぁ、いいんですけど。
それはそうと、その様子をじっと見ていた桃花さん。生駒吉乃殿の療養食の時に自分の創作料理作るのににつきあったから、だいたい流れはわかってるはずでしょう?食べないの?
「あのぉ、私もいただいて宜しいのでしょうか…」
あ、生駒屋敷でかなり怒ったり詰めたから、大丈夫なのか不安なのですかね?ハッハッハ、あのときは、やり過ぎましたね。許してね。
「大丈夫ですよ。桃花さんも手伝ってくれましたから、是非食べてくだい。ただ、他所でコイツを食べたことを話すのは、年明けしばらくしてからにしてほしいですかね。どっかの偉い人が聞きつけて、年末年始休暇のクソ忙しい時に作りに来いとか言われるとめちゃくちゃ面倒ですから、ハッハッハ」
少しだけ遠回しに、『食べてもいいけど、新作料理ができたって、お桂殿や滝川さんに報告すんのは年明けすこししたらにしろよ!今から報告したら、年末年始の仕事を増やすようなことになるんだからな!わかっているよな!』と伝えてみました。伝わったかなぁ。
「い、いただきます」
すこし硬い表情で頷いた後、椀から一口スープを啜る桃花さん。
「お、美味しゅうございます。ずっとこの汁を飲んでいたいと思うくらい美味しゅうございます」
「麺も啜ってください。汁を絡める様にしたほうがより美味しく頂けますよ」
「は、はい。この麺がモチっとしてコシがあって美味しゅうございます」
フッフッフ。みんなから『美味しい』いただきました!
「でも、ねぇ~。せっかく美味しい汁なのに、麺以外は葱だけだと寂しくないかい?」
そうなんですよね〜。せっかくだからチャーシューを作りたいけど、煮込むとなるとそれなりに準備や時間が必要だからなぁ…。それ以前に、なんでかしらんけど、戦国時代がなのか、この時間線がなのか知らんけど、豚、居ないし。猪肉に頼るのは無理だしなぁ。牛や馬もちょくちょく潰す訳にはいかんしのぉ…。
やっぱり、蒸し鶏か茹で鶏を作って、そこから出た鶏ガラでなんちゃって味噌ラーメン作るのが良いかなぁ…。
後は、野菜だよね〜。まぁ、これは季節のお野菜を使うしかないし。冬場は春菊や水菜だよね。冬場は根菜メインだから…。牛蒡とかをささがきにしてさっと油通しすると良いかな。葱は、薬味として取れる季節は常々欲しいよね。あ、白髪ネギなら具扱いになるかな?
と、いうのをお滝さんに提案。
「う〜ん、油通しした牛蒡のささがきねぇ~。よし、やろう」
ええっと、今から?今から?
そして、ささっと作るお滝さん!最高です!そして、さっと湯がかれる春菊。
わずかに残った試作ラーメンの上に、追加のアツアツスープと油通しした牛蒡ささがきと春菊のおひたしがONしました!
って、これ!うまぁ!油通しした牛蒡がコクと旨味が半端ねぇ~。そして、春菊の爽やかさ。ちょっと主張強めの二者がお互いを牽制している感じ。それも、鶏出汁味噌ラーメンのスープの土台の強さがあってこそ!鶏出汁味噌ラーメンスープという土俵の上で、両者が相撲を取らされているこの感じで不思議と纏まっている!
お滝さんも手応えありなんでしょうね、ニヤリと笑っています。お妙さん、桃花さんはモクモクと食べております。
うんうん、これはこれでありだね!
「あ、そうそう。明日からは年末年始に向けてお節作るから、しばらく竈門を使うのは控えてもらうよ、坊丸様。年末年始はくそ忙しいんだろぅ?料理なんぞしてないで、きちんとお勤めしなよ!」
な、なにィ!ここまで試作しておいて、次は年明けまで作れないですとぉ!お預け期間長すぎじゃあ、ありませんかね!お滝さん!
この時代は、養豚は行われておりません。
養豚は平安期に「仏教」の不殺の思想と「日本古来のケガレ」の思想が結び付いて強化された時期以降に豚を食べる文化がなくなり、消滅しました。
次に養豚が行われるのは1600年代の後半にほそぼそとおこなれるようになり、明治以降に西洋文化の流入、食肉文化の普及で畜産業が振興されるようになり、養豚が産業として定着しました。
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