402話 坊丸の師走 永禄十年十二月 前段
ども、坊丸です。
いやぁ、師走です。後、十日とちょっとで大晦日。そして、開ければ永禄十一年になる今日この頃。皆さん、如何お過ごしでしょうか。
坊丸はと言いますと、味噌ラーメン風の食べ物の完成に向けてラストスパートをかけております。
だって、お滝さんがお節料理的なものを作り始めるから、十二月二十日以降は、竈門を全部使いたいと言うので。
あ、でも、稲葉山城城下…じゃなかった岐阜城城下に引っ越すにあたり、小牧山城の時とは違いかなり広めの区画が柴田勝家邸用に提供されましたので、厨は広めに、竈門は多目にしてもらっております。
濃尾二カ国を治める織田家の重臣として、色々人が訪問したり、接待したりすることも増えるだろうから、台所は広めに竈門は多目に取ったほうが良いと、柴田の親父殿とお滝さんに吹き込み続けた甲斐がありました。
が、それでも、大晦日に向けて竈門の使用許可はおりないと言う有様。
そして、新年の儀に向けて小姓衆としてのお仕事、確認事項も増えると言う業務量増加も予想されるわけで。
そんなわけで、隣の竈門ではお滝さんがお節料理の仕込みをしております。
「お滝さん、味見してもらって良いですか?」
鶏ガラスープにお滝さんが毎日仕込む和風出汁を混ぜて、現在お味噌で味を調整中。
「このところ作っていた鶏の出汁汁と鰹出汁だろ?なんだ、結局味噌汁にしちまったのかい。しかも、具なしと来た。鶏の出汁汁を作る時に入れてた葱の端屑でも残しときゃ良かったんじゃないかい。味噌を入れる前の奴は何度か頂いているからね、あのまま塩で味を調えて澄まし汁でも良いと思うけどね、あたしゃ」
くっ。何度か試食してもらっているとはいえ、自然に塩ラーメンのスープに発想が行くお滝さん。
料理人としてのスキルや勘の良さが凄い。凄いよぉ〜。お滝さん、あんた、凄すぎるよ。自分もそれは考えたけど、試作したら塩が尖った感じの味になったから諦めたんだけどね。
でも、味噌汁はないよな〜。そう言いたい気持ちをぐっと堪えて、ニッコリ笑って味見を再度ご依頼。
「お、味噌汁と思ったけど、鶏出汁の香りが強いね。うん、美味いよ。味噌汁と違って、鶏出汁が主で、味噌はあくまで塩味と旨味を足すだけなんだね。味噌汁にするならもう少し味噌が多いほうがいいけど…。このままでも美味いから、この汁でなにかを炊いても良いね」
あくまで、ラーメンスープですからね。味噌汁のバランスとは違いますよ、お滝さん。
お滝さんから「美味しい」をいただきましたので、竈門から一度下げます。本当はそのまま温めときたいけど、現状、お滝さんの作っている夕食とお節料理の方が優先権が強いので…。麺が茹で上がる前に、少しだけもう一つ竈門をお借りして、温め直させてもらおう。
そして、柴田の親父殿の地獄の朝稽古に耐え、次兵衛さんの書類仕事のお手伝いを巻きで終わらせ、鶏ガラを炊いている間に作り上げた「沖縄そばに限りなく近い麺」の元である麺体をお湯が沸くまでにできるだけ細く麺として切り出し。そして軽く手揉み。うん、二、三人前はできたかな。そして、もう少しでお湯が沸くので、この隙に葱を小口に刻んでおきます。
そして、沸騰したお湯に、「沖縄そば風の麺」をイン。
前回、麺の試作した時に茹で加減も確認しておいたので、うまくいくはず。でも、小心者なので、一本とりあえず引き上げて確認。うん、まだだね。心のなかで二十を数え、再度引き上げ。よし、この感じ。いい茹で加減。
あ!麺を一気にあげる奴が無い!茹であげの平ザルとかてぼとか言うやつ!くっそ、竹笊でできるだけ掬ってそのまま湯切りするか!
「お滝さん!竹ザル下さい!何枚か!早く!」
「あ、あぁ。わかったよ」
伸びる前に一回竈門から下ろそう!そして慌てた様子でザルを三枚渡してくれるお滝さん。
よし、一枚は下において皿がわりに。ほかでどんどん掬って、そこにおいておこう。あ、スープ温めなきゃ!丼も準備しなきゃ!
「坊丸様、何をやらかしてるんですか?お滝さんに向かってそんな大声をあげてはなりませんよ」
よし、いいタイミングで登場だ!お妙さん!そして、桃花さん!
「お妙さん!丼を二、三個出して!桃花さん!そこに置いてある味噌汁みたいな奴、そう、それ!竈門にかけて!お滝さん!ごめん!お玉を貸して!あ、いや、お玉でさっきの鳥出汁味噌汁をかき混ぜながら温めて!」
よし、麺がだいたい掬えた。せっかく竹笊が何個かあるんだから、麺が落ちない用に挟んで湯切りだ!ジャンピング湯切りとかツバメ返しとか湯切りも技みたいのがあった気がするけど、今はそんなことができる感じではないので、何度か上下に振るのみ!よし!湯切りも完了!
お妙さんが近くに準備してくれた丼の中に麺を分けて入れてっと。
「お滝さん。かき混ぜているスー…、鳥出汁の味噌汁っぽいやつ、温まったら丼の麺の上になみなみ注いじゃってください」
で、自分は小口切りの葱をその上に散らしてっと。
「お滝さん、お妙さん、桃花さん。手伝ってくれてありがとうございました。味噌ラーメン。ついに完成です!そちらの丼、どうぞ」
まずは、自分の丼を確保しつつ、お手伝いしていただいた三人にお裾分け。試食してもらって感想欲しいしね。
というわけで、構想四ヶ月、試作二か月をかけてついに完成。ラーメンて言ったけど、本当は沖縄そば風の麺と味噌ラーメン風のスープで作った、何か!だけどね。




